パスワード再設定のご案内
@sodecaxtuku
こちらから再設定ができます
それを見つけたのは必然だった。
9月17日土曜の朝。
私はいつものように軽い朝食を摂りつつ、パソコンを起動してメールを開く。
そうして私は新卒からやり続けているモーニングルーティンである、朝のメールチェックとそれの返信を始める。
目に映るのはいつもと変わらない、似た内容のメール群。
やるのも変わらない、定型分に定型分を返すだけの作業。
いつもと変わらない、日常。
だからだろうか、『パスワード再設定のご案内』という、見慣れない一通のメールが目に留まったのは。
そういった物を申し出た記憶は最近にはなく、そもそもそういった事にはすぐに手を着けるタイプの私は疑問と違和感を覚える。
しかし、近頃物忘れの多い私はそんな事を忘れ、またやってしまったかと多少の自己嫌悪を挟みつつ、メールをクリックした。
すると、次のような文章が画面いっぱいに広がる。
-------------------------------------------------------------------------
@ dpatglbp791
宛先:私
いつもご利用ありがとうございます、パスワード再設定の手続きのため、お客様が設定なされた以下の質問にお答え下さい。
リンクはこちらから〜〜〜〜〜〜
このメールに心当たりの無い場合は、お手数ですがメールを破棄してください。
-------------------------------------------------------------------------
はぁーと溜め息を吐く、昔から溜め息は幸運が逃げてくからと避けていたが、そんな事も気にすることなく項垂れる。
(やっぱりか、最近多いんだよなぁ)
と、これまた自己嫌悪に陥る。
若い頃はできていた事ができなくなってくるとどこか喪失感というか、敗北感がある。
そしてため息、そのため息したという事実にまたため息を吐く。
ため息に次ぐため息、エンドレスである。
だが、こんな事は時間の無駄だ。
そう、こんな事やっている暇があるなら早く再設定をした方がいいと心の中の俺に叱咤され、マウスカーソルをリンクへと合わせ、クリックした。
すると次のサイトへと飛ばされた。
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これからお客様には以下の、10個の質問にお答えしてもらいます。
それでは早速、一つ目の質問とさせていただきます。
『あなたが高校生の頃通っていた高校はどこ?』
[ ]
(確定)
-------------------------------------------------------------------------
白い背景に黒文字で、そう書いてあった。
質問の内容は簡単だ、しかし数が多い、普通こういうのって2、3個とかじゃないのか?
もしかして重要な契約とかのパスワードだったりするのか?
私はそう思いつつも、母校である私立真中田高等学校へと思いを馳せる。
私立真中田高等学校はいわゆるバカ高という所だが、かつては剣道の名門として有名で、体育の授業で勝手に剣道を始めだしても止めるどころか寧ろ推奨する程だったらしい。
しかし最盛期を過ぎると、かつての栄光を取り戻すためにと殴打ですら生温い部類に入るほどの厳しい指導を行い、遂に死亡者を出したことで剣道部は廃部になってしまった。
その影響か年々入学者が減っていき、私が卒業して5年後、あっけなく廃校となってしまった。
そんな我が母校での思い出はかけがえのない大切な思い出で、忘れるはずがない。
そこら辺は割愛するが、いまでも心の支えである。
思い出を振り返りつつ、私立真中田高等学校と入力して確定ボタンを押す。
次の質問へと移った。
-------------------------------------------------------------------------
二つ目の質問をいきます。
『あなたが子供の頃、飼っていた犬の名前は?』
[ ]
(確定)
-------------------------------------------------------------------------
これまた簡単だ、二つ目ではあるがもうすでに飽きが来ているぞ?
しかしこれまた懐かしくて、思い出深いものだな。
そう、私が昔飼っていた犬の名前はダイフク。
サモエドのメスで、真っ白い毛並みをしていた。
小さい頃、友達の居なかった私の良き遊び相手にして人生の先生だ、
よく女の子の方が気が強いとは聞くが、あれは本人?本犬?どちらでもいいかもしれないがあれはそういった気が強い犬であった。
有事の際は誰よりも素早く、そして果敢に挑み、家族を助けてくれた。
そんなダイフクは老衰で死んだ、大往生だった。
どんな難事に挑んでも、絶対に家族を悲しませなかった。
17年間生きた、大事な家族。
しかし、久しぶりに思い出したな。
久々に、本当に久々にダイフクの事を思い出した。
高校卒業してから。一度も碌に墓参りへと行ってないのも思い出した。
高校を卒業して、大学に入って、そして社会人になって。
都会の喧騒にいつからか呑まれてしまっていたのかもしれない。
「...」
今日、墓参りに行こうかな。
どうせ明日も休みだ、折角だから一度実家に顔を出そう。
二年ぶりに、家族に会おう。
そうと決まればタイピングの速度も速くなる。
括弧に[ダイフク]と書き、確定を押す。
次の質問へと移った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
二つ目の質問へと答えてから20分が経過して、ついに九つ目も答えた。
あれからの質問もどこか、懐かしい質問ばかりでそれに答えるのがどんどんと楽しくなっていった。
例えば大学生時代に所属していたサークルだとか、初めて買ってもらったゲームなど。
答える度に古い自分が、もしかしたら新しいとも言える自分が発掘されていく。
これがなかなか癖になる。
しかし、そんな時間もついには終わり。
私は十つ目の質問へと移った。
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これで最後の質問です、心の準備をして下さい。
それではいきます。
『もし、過去に戻れるなら戻る?』
(はい) (いいえ)
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なんだこれ?
突然、サイトの背景が一面の黒となり、そこに白文字で『もし、過去に戻れるなら戻る?』と書いてあった。
今までとは明らかに、違う。
まるでこれが"本命"であるかのように。
しかし、ここまできたのだやり切るしかない。
それに、この質問は今までのどの質問よりも簡単だ。
「そんなの、決まってる」
カチ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それを見つけたのは必然だった。
9月17日土曜の朝。
私はいつものように軽い朝食を摂りつつ、パソコンを起動してメールを開く。
そうして私は新卒からやり続けているモーニングルーティンである、朝のメールチェックとそれの返信を始める。
目に映るのはいつもと変わらない、似た内容のメール群。
やるのも変わらない、定型分に定型分を返すだけの作業。
いつもと変わらない、日常。
だからだろうか、『パスワード再設定のご案内』という、見慣れない一通のメールが目に留まったのは。
そういった物を申し出た記憶は最近にはなく、そもそもそういった事にはすぐに手を着けるタイプの私は疑問と違和感を覚える。
しかし、近頃物忘れの激しい私はそんな事を忘れ、またやってしまったかと多少の自己嫌悪を挟みつつ、メールをクリックした。
すると、次のような文章が画面いっぱいに広がる。
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@ dpatglbp792
宛先:私
いつもご利用ありがとうございます、パスワード再設定の手続きのため、お客様が設定なされた以下の質問にお答え下さい。
リンクはこちらから〜〜〜〜〜〜
このメールに心当たりの無い場合は、お手数ですがメールを破棄してください。
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はぁーと溜め息を吐く、昔から溜め息は幸運が逃げてくからと避けていたが、そんな事も気にすることなく項垂れる。
(やっぱりか、最近多いんだよなぁ)
と、これまた自己嫌悪に陥る。
若い頃はできていた事ができなくなってくるとどこか喪失感というか、敗北感がある。
そしてため息、そのため息したという事実にまたため息を吐く。
ため息に次ぐため息、エンドレスである。
だが、こんな事は時間の無駄だ。
そう、こんな事やっている暇があるなら早く再設定をした方がいいと心の中の俺に叱咤され、マウスカーソルをリンクへと合わせ、クリックした。
すると次のサイトへと飛ばされた。
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これからお客様には以下の、10個の質問にお答えしてもらいます。
それでは早速、一つ目の質問とさせていただきます。
『あなたが高校生の頃通っていた高校はどこ?』
[ ]
(確定)
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パスワード再設定のご案内 @sodecaxtuku
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