これは歩み寄りなのか?

 風呂にも浸かり、飯も食い最高の気分で愛する人を見る。数多の人に囲まれる前で

 決着もダメ押しもしていながら……最期の一線はあえて超えず。

 そんな加害者の痛ぶる行為が被害者には辛いものである事は言うに及ばず。

 見えているのに、ソレがこない!というのもまた恐怖。

 最高の肉を前にした料理人ってこんな気分だろうな。と思うは完全有利を手にした進矢。

 まさか彼は過去同性に同じ事を思われていた。とは知る由もない。

 傲慢さの欠片も無くただ自分の動作に、あっているのかな?と心配そうにコチラを伺いながら反応をする女が……進矢には愛しくて仕方ない。

 媚びへつらう男性は両性からみても怖気が走る程に見苦しいモノだが、媚びへつらう女性も同性が見れば同じ……しかし異性から見ればソレは可愛げのある心清くあざとき雌。


 それを手にするために進矢は、屈辱を表に出さず二週間耐えたのだ。

 殴って言うことを聞かすのは簡単であろう。

 実際に体罰以上の教育が存在しない事はあらゆる機関で立証済みである。

 そもそも厳しい上下関係や体罰的な教育を受けていない消防士や警察官を君は信用できるか?

 ただセレナの性質的にソレをすれば、恋や愛といった感情が冷めていくのは確実……いやもうとっくの昔に歪んでいるのだが。

 なんなら進矢も、顔や身体を傷つけるソレは望んでいなかった。

 だからこそひたむきに待ったのだ。

 傲慢に不遜に振る舞う産まれながらの現人神。

 彼女の感情に対して時にへつらい、時に合わせず、ひたすら揺さぶり続け……恋愛と怒りの振れ幅を作り出し、圧倒的な差を見せつけて破壊するタイミングを。

「私は正しいのですか?行動はあっているのですか?シン君どうして何も言ってくれないのですか?本当に凄く怖いんです。」

 神性が抜けた以上!そこにいるのは……現人神を演じるために己を律し磨き続けた哀れな女。 

 その努力が作り維持した肉体を、麒麟児は生涯愛し続けたという史実。


 脳の一番大事な部分を寄生蜂にぶち抜かれた獲物の様に……自分が何をすればいいのか分からない。と言わんばかりにただオドオドしているのは初体験の最中であるからであろう。

 自分が実はただの人間で今までの日々が勘違いだったのか?

 それとも愛人にしよう等と不遜な態度を取ってしまった相手が……自分より上位の神であったのか?

 そんな永遠に答えのでない……出てたまるかと言いたくなる間違った問いかけには未来人しか答えられないであろう。

(本当にセっちゃんは他の女とは比べ物にならないな。まだまだ底が深そうだし……ジックリ味わわないと。)

 そう思うと体質的に全く酔わない。と分かっていながらも酒が進んでしまう異常者。

 空になったグラスに反応した女中が、お注ぎさせていただきます。と一言。

 あっ、と不安そうな顔を向けてくるセレナに、気が利かないね。と言わんばかりに一睨みが返された。

 シュンと悲しそうにする姿を独り占めしたくなった事もあり……何より他の人間に、あっこの人やったな。と思われる事が嫌だった事もあり、進矢は人払いを命じる。

 恋人やカップルは互いに高め合うもの……と考える人間もいるだろう。

 ただセレナはそう思わないタイプであった。

 だから進矢のこういうところだけは未だに愛せずにいた。

 崩壊の時は近づき復讐と憎悪の芽は小さく。

 なればこそ、欲しいモノが手に入ったと思い込む進矢は気付けなかった。

 先に書いておく、麒麟児は自分の意思を捻じ曲げざる程の敗北を!それも後二回も残していることを……

 

 

 女神が壊れるより少し前、東亜皇国の南端にて同盟国の一団が目的の場所を目指し走りだしていた。

 それは後の時代、女神が恋した幻想郷と呼ばれる場所。

 どこからどう見ても素人では無い、練度を感じる動き。

 これ以上の速度を出すためには、担いでいる輿を降ろさねばならぬが……ラスボスがのっている以上それは叶わない。

 それは後の歴史でこれを交渉に使ったは無理があるでしょ。と断言される暴挙。

 だが、彼らの目的地は軍事行動にあらず。……いや代表者の性別状、彼女らの目的地というべきか。

 この物語ではベルゼブブ元帥もベルフェゴール大将も脇役にすぎず。

 鳳凰と暴魔の壮絶な一対一タイマンも、麒麟児にとっての物理的なラスボスとうたうには怪物フェノーメノは……まぁハイ。な結果という事もあり名前すら出ない。


 ただそれらを記録に残した女の名前は出さねばならない。

「さて初めてのワガママをした姪っ子の方はコレで充分でしょうし……死体くらいは故郷に持て帰ってあげなきゃね。何よりも貴方の息子たる混血児にフェネクスの姓を継がせ優遇する事だけが……元女神わたしの身代わりで死んだ貴方に対する文句のつけようがない恩返しになるでしょうし。」

 無き兄の親友に協力を仰ぐ女の姓はベルフェゴール。

 強き夫の力に頼る事すら文句をつけられない女の名はベル。

 乱世の後半を捌ききった支配者たる足無しの義娘にして、開拓史の前半を動かした支配者たる足付きの母。

 優秀な男の血と汗によって積み上げられた金と実績を、笑顔で無駄遣いするは選ばれた女の特権。

 故にこんな暴挙許されなくても……だーれもその事を言って止める事ができない。

 交渉というていの暴力と、人の心を溶かし歪ます大金で……掴みとった切り札を手にベル・ベルフェゴールは輿の中で笑う。

 女の身で史に名を刻んだ傑物の名は、どんな馬鹿でも覚えやすい程に語感が良かった。

 覚えたくも無い勉強……即ち歴史嫌いのクソガキは皆がこのパターンの名前だけにしてくれ。と思う程に。

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