領地でいろいろ

 己の領土に到着次第、進矢の動きはすこぶる早かった。

 御者が、あの野郎盛大に汚しやがって。と思っていても、口どころか顔にも出さない。

 遅れて出るセレナの会釈に、人生の不平等差を感じたのか……悲哀の色は表情へ。

 彼はモノを壊す以外の才能は無いが、欲望をチラつかせると……皆も知っての通り人間という生き物は手を抜かなくなる。

 ましてや異性の前で、カッコつけたがらない雄はいないのだから。

「えぇっ!客を全部返すって大問題になりますよ。世が世なら炎上モノですよ……いえ今の時代だとおもっくそリアルな火をつけられますよ。」

 ご再考を!の言葉には、いいからヤれ!という一言。

 それがセレナには嬉しくてたまらない、その表情で好感度は急上昇。

 そうです世間体よりも女神わたしを優先してください。と言わんばかりに!

 親子程、年が離れていようが、実力の世界で……いやキモくて金の無いオッサンに優しくする人間等、治世でも旧文明にもいないであろう。


 が、この場には現人神がいる。

 誰もが期待した。力で止める事ができない領主を止めて欲しい。と神では無く女として。

「シン君、どんな辺鄙で不人気な場所であろうと女神わたしが浸かれば神の湯です。だから人気があるという情報でしか、物事を判断できない下々民から楽しみを奪わないでください。……ところで現人神サタンにリンゴを食してもらうという、絶大なる栄誉を求めている方はいないのですか?一瞬とはいえ女神わたしの記憶に残れますよ?」

 誰もが納得した。基本民草事に口を出さない無能領主が。暴走しているのはコイツのせいだ。と

 そう思わせるほどにトンチキで傲慢な事を、シラフで口にするのだから。

 そして不思議と分かるのは、コイツに悪意もなければ冗談で無いという事実。

 誰かリンゴ持ってきて!倍の値段で買うから。という進矢の言葉に……心清きモノ達は涙を流す。

 あぁ、性欲に負けて頭がおかしくなっておられる。と元々考えの足りない方ではあったが。と悲哀

 一方女の目には余裕。

 パット見で勝てる訳ねぇだろ。と圧倒的なワガママボディに気後れしたが……こんな異常者誰が長く付き合えるかと、女性特有の短所を見て鼻で笑う態度。


 そんな中一人の子供がリンゴを手に前へ。

 もし彼が才能に恵まれ、克己し続ける人生を歩めれば、この時点で役名があったんだろう。

 好きな異性にすら己を合わさない彼女が……見ず知らずの子供に合わせる事等するはずも無く。

 セレナはソレを受け取る際に、大義です褒めてあげましょう。と一言口にし、信仰心の褒美として頭を撫でる。

 美しい女性がすれば、老若関わらず男にとって褒美となる事を知ってか……いや現人神として当然の振る舞いをしているだけであろう。

 事実自分以外の雄が、愛する女に撫でられ嬉しそうにしている姿を……主人公は少し寂しそうに見ているのだから。

 当然ソレに気づけば、後でたくさん撫でてあげますよ。と口にするのは必然。

 女神には、進矢が世間からどう思われるか等気にならないであろう。

 実際恥ずかしそうに、とりあえず屋敷へ行こうか!という強い力に引っ張られる顔は?と世間体も、男の沽券も分かっていない……いや興味が無いようであった。

 この時子供には、頼れる領主様がマルで人の幸せを奪う羅刹に見えた。

 美味しいところは別の人間……即ち強者に掻っ攫われるが真理。

 可食部を食べきり、任せます。と麗しき女性から芯を渡された子供の目は点。

 目の前にいる女神様の姿が傲岸不遜な魔神へと変貌。

 汚れ仕事は下々の人間……即ち弱者に押し付けるのが真理。

 だが、それでももう一度撫でてもらえるかもしれない。という淡い期待が身体を動かすのだろう。

 搾取される側はいつの世もこの程度なのだから。

 事実搾取する側は、それを当然と考えモブに対して興味すら無くしていた。


 時刻を告げるは頂点にある太陽。

 己が住む屋敷の女中は、よく頑張ってくれた。と進矢は評価。

 鶏肉と小松菜……後チーズを使って女神わたしの舌を満足させてください。という急な要望を聞かされた時の憤怒顔を進矢は忘れる事が無いだろう。

「初めての味でした。ええ分かりやすく言えば二度目は不要です。」

 同じ女のに、産まれと見た目が違うだけでここまで差別されるのか……と怒り心頭。

 いくらでも変えが効きしたくもない労働をする女と、絶対強者から子供を望まれ苦役をしない女。

 望みが前者と口にするモノはまずいないであろう。

 これに対して進矢は黙る事しかできない。

 何を言っても爆発炎上する未来が見える故。

「ディナーはサタンが治めるイビルディアの味を模してくだされば……無論出来るとは思っておりませんが、期待はしていますよ。」

 そういって立ち去る強者に弱者は何も言えない。

 じゃあお前がやってみろ!っといったところで……領主の妻にもなれなかった女の分際で、選ばれた私と同じ土俵に立っているつもりか!で完全試合。

 精神世界でマウントポジションを取られ、死ね、死ね。死ね!のラッシュパンチを浴びせられる様なモノ。

 ここで、うるせぇ!!と言って殴りかかったところで、おお何て勇ましいんだ。と評価されるのは男と子を守る母親だけであろう。

 まぁ殴りかかったところで、ストイックの化身たる女神から見れば、時間と集中を垂れ流す雌豚等瞬殺であろうが。


 食事という身体を作るための行為。

 それが醜い脂肪へと変わる、進化の欠陥。

 いや痩せを美徳とする人の意思と美的感覚がおかしいのか?

 そもそも、胸と尻は大きく腹は引っ込んでいる等、一種の特異体質である。

 一度でも痩せた経験がある人なら共感していただけるだろうが……まず胸から削られ腹は最後である事を。

 そんな矛盾を求められるが女体の美しさ。

 維持するにも作るにも……自分自身を相手取り始まるは克己の旅路。

 それは若さという全盛期を過ぎてもつづくであろうか?いや大半はそれまでに決着をつけ安寧に降るであろう。

 これ必要ですか?と完璧なスタイルだけは持って生まれた大根役者の言葉は当然カット。


 脂肪を燃やすために行うは有酸素運動。

 そのための場所は、進矢のとある事情によって人払いされていた。

 絶対に入るな!見たら殺す。とまで愛人が言っているのをセレナは知らない。

 タッタ。と軽やかに走るヒロインが纏うのは露出一切無しのトレーニングウェア、何ならグローブ(野球用にあらず)までつけて万全の体制。

 私服、礼服と同じように女神が肌をさらしていいのは顔だけである。

 故に彼女の体は、露出して体温調節をしている者と比べて燃焼は激しく。

 何なら用意したのに、着てくれなかった事をガッカリするのは人間。

 その克己につきあわされるのも人間。

「セっちゃんこんな遅いペースで運動になるの?俺トレーニングとかしないからよく分からないけど……こんな低レベルじゃ自己満足にしかならなくない?」

 風呂の手伝いをする女官以外で、己の首から下を知っている主人公の言葉に、いや煽りと受け取り、話せる程度が理想ですよ。と告げムキになったのかトップスピードまで加速するセレナ。

 ずっと勝つ事は不可能でも、ホンの一瞬でも抜け出して、進矢の鼻をあかしてやろうと考えたのであろう。

 それは競馬に例えるなら騎手からも、あれだけ完璧な騎乗をした。と言われる程の……これから後は重要な部分が抜けている。

 すなわち詐欺師の理屈。

 徹底的に選抜したサラブレッドですら、牡馬と牝馬には差があるのだ。


 ましてやそこまでやったら叩かれるだろう人間の出生で……そこから生まれる性差等。

 まぁ、やってる一族はいますけど……後から出てきますけど……

 目から脳へ、脳から筋肉へ、五体を繋げ!動かすは純然にして精錬なる神経回路。

 その速度すら最高性能をもった雄が冠する二つ名は麒麟児。

 それは星座を繋ぐかの様に、知らねばできぬ事……否最初に繋いだ者は天性のみでそれをやったのだ。

 才ある人間に、どうして?と聞いたところで求める答えは返ってこない。

「へー、美鶴さんよりも早い女性始めて見たかも……これで全速力じゃないんだから世界は広いな。」

 煽られているにも関わらずヒロインは笑った。

 自分の隣から一瞬、否刹那たりとも遅れなかった雄の優秀さに。

「ハハハこの前は追われてたから、凄く新鮮。とても綺麗だけど、胸に何かしてる?揺れて痛いのは分かるけど……あぁゴメン。俺の事を考えてそこまでしてくれるんだよね?他人に変な事で使わせるのは嫌だし……私生活でもそうしてくれない?ほら独占契約は俺だけ適用ってのもおかしな話だしね。」


 好きになる前は、後など気にせず振り切るために走ったせいで、セレナを見る必要が無かった。

 歯を食いしばり、邪魔な胸が揺れない様に抑えつけても……妄想に浸る進矢から余裕を奪う事すら叶わない。

 雄として優秀な事は分かっていたが……精神面を女神わたし好みにしなければ。と思いたちプラン変更も視野。

 それは言い訳であったのだろう。

 実際は無理をしたせいか?違う!完全に興を削がれたため……女神は走るのをやめた。

 あれ?いつもより目の色が好きかも……抱き心地も最高だしもう少しワガママに付き合ってもいいかな。と進矢は顎を手に思考。

 それらの事柄をセレナはまだ知らない。

 ただ一つ言えることは、私生活でも胸を固める様になった事実だけ。

 神が人に合わせてしまったという事実だけ。

 





 

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