真の世界平和を目指して

水薦苅しなの

真の世界平和を目指して

とある国立大学の平田教授は、一向に平和にならない国際社会に憤慨していた。そして、自らの研究分野であるバイオ工学を世界平和に応用できないか考えていた。

 彼は特に、核兵器が国同士の緊張状態をもたらしていると確信していた。そこで、核兵器を世界から根絶すれば真の世界平和がもたらされるはずだ、と考えた。

 そして、ついに世界平和を目指せる技術、すなわち核兵器を世界から追い出す技術を確立した。核爆弾の外装に使われる金属元素や、核爆弾の原料となる元素を別の化合物に変化させて不活性化させる細菌達を作り出したのだ。

 しかし開発に成功しても、平田教授はその成果の内密なものとし、世間に公表しなかった。それはひとえに、平田教授が「利権」というものを信じていたためである。

 ――大国の意思に反するものを公表したが最後、殺される

 平田教授は本気でそう信じていたのである。

 世の中に公表する代わりとして、平田教授は世界を平和にするテロ行為を計画することにした。教授とその計画に賛同する人達が全世界に散らばり一斉に各国の核兵器保存施設を急襲する、という計画である。

 早速教授はアナキズム過激派の人々が集まるダークウェブの掲示板にその旨を投稿した。投稿から三日三晩おいて教授が投稿を確認すると、教授の投稿にはアメリカやロシアをはじめとした各国から、およそ百人の賛同者が集まっていた。

 教授は彼らとともに真の世界平和を目指すことにした。

 教授は、綿棒に細菌達をすり込み梱包するなどして、全世界の協力者に細菌と培養マニュアルを届けた。

 教授の見立てによれば、おおよそ一ヶ月で一施設の核兵器を無力化できるほどの細菌が出来上がるはずであった。決行の日付は一月十日。ちょうど国際連盟の結成日であった。

 ところが、さすがの諜報機関、こうした危険な兆候はとっくに感知しており、賛同者として密かに工作員を割り当てていた。

 両国工作員の元に細菌が届けられると、どちらの工作員も、すぐに本国の研究機関にその細菌を持ち込んだ。

 研究機関の分析の結果、平田教授の開発した細菌には、確かに、教授の意図した元素を不活性化させる事がわかった。この細菌が核兵器に到達すると、外壁の金属は、防腐剤が塗られているのにも関わらず強く酸化されてボロボロになり、中のウランやプルトニウムは速やかに化合物となり不活性化した。

 教授の細菌の脅威に両国は気がついた。そうして、この細菌の脅威は、世界各国に速やかに伝達された。

 アメリカはこの細菌の性質について詳しく調査をすることにした。しかし一方でロシアは計画を阻止するために国内にいる人々に対して監視の目を厳しくした。

 そして、決行日の一週間前である一月三日。ついに、アメリカはこの細菌の利用方法について、ある活路を見出した。

一方でロシアはこの細菌株を保持していたアナキスト五名を逮捕したのだった。

――決行の日。一月十日。

ロシアの核施設では、ミグやスホーイが敷地から半径十キロメートルを監視するように飛び交っていた。「怪しいやつを見つけたら誰であろうと即ロケット弾をぶちこめ」という命令が各パイロットに行き届いていた。一方でアメリカは、核施設に対して何の防御もしなかった。

――そして、アメリカは核兵器をすべて失った。ロシアの核兵器が無事であったのにも関わらず。

こうして米露の均衡関係は失われてしまった。

この一報を知ったクレムリンは歓喜して、すぐに世界中に自らの威勢を罵った。「アメリカは愚かにも細菌に対して何の防御をしなかったが我が国は脅威となる細菌を取り除いた。我が国の能力は素晴らしいものである!」と。

核兵器を持っている国は自分たちしかないことを良い事に、横暴に国際社会で振る舞い始めた。石油の価格を釣り上げたり周辺国に侵略をしたりして、クレムリンはソ連の復活を目指した。

しかし、アメリカがすべての核兵器を喪失してから三ヶ月が経った頃、アメリカはロシア領に向けて空飛ぶ国家予算ことステルス爆撃機を密かに送り込んだ。

そうして、ステルス爆撃機を主要な軍事施設の上空に就かせると、ロシアに対して攻撃を始めた。彼らが使った兵器は核ではなく、アナキストの攻撃を免れた爆弾とアナキスト達が使った細菌自体であった。

アメリカはあの時、一つの事実に気がついた。平田教授の発明品は、生物兵器禁止条約の規制対象に該当しないということに。

そこでアメリカは考えた。あえてロシアに覇権を譲り放置することで、緩慢になった軍備体制を破壊できるのではないかと。

アメリカの目論見は成功した。ロシアの戦闘機や戦車、駆逐艦などは悉く破壊された。自動小銃などは辛うじて使える状態にあったものの、もはや主力兵器を失ったロシアに交戦する勇気は起こらなかった。

四月三日、クレムリンは沈黙した。

そしてアメリカが世界を覇権を握ることになった。

記念の演説で大統領はこう述べた。

「世界の皆さん、自由主義が勝利しました。これもすべて、平田教授のおかげです。平田教授の作った兵器が、世界を平和に導いたのです」

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真の世界平和を目指して 水薦苅しなの @Misuzukari_Shinano

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