第6話 揃い踏み
美香が騒ぐのを見て、美鳥は手を離した。
「あっごめん、美華姉」
「あっごめんじゃないよ。このスィーツ星人」
「違うもん! 美華姉があ甘そーに言うもんだから、我を忘れたというか、なんというか」
と美鳥は気恥ずかしそうに口を濁して自分の席に戻っていく。
「全く、ピンスっていうのはねえ、ふわふわって雪みたいかき氷なんだよ。見た目もカラフルだし、トッピングの数も多いんだ。何より量がが多いんだよ。一皿を大勢で食べるんだ」
「それで、それで?」
「ネットで検索したらこの甘味処は最新のスノーパウダーマシンを入れてるって話だ。雪食感のかき氷を体験できる。そんなピンスを味わいたいって、ここに寄ったんだよ。そうしたら偶然、美鳥と会えたんだ」
「巡り合わせが良かったんだね」
「まあな」
そこで美鳥はすかさず、
「で、美華姉は、何を頼むの?」
「内緒、出てくるの、楽しみにしなね」
言い換えされてしまう」
「えぇ、なんで! どうしてなの。私、教えたのに」
美鳥は不満を露わにしているけど、美華はそれを無視して、静かにメニュー表を見ていた残りの二人に声をかけていく。
「一孝は?」
「おれは、ロイヤルミルクティーので」
「紅茶好きな、おまえらしいな」
「じゃあ、マ………、じゃない。美桜姉様はどれに致しましょう」
ピクッ
一瞬、間違えてしまったことに気づいた美華は言い直して、改めて美桜に聞いた。
「私は、黒蜜きな粉にしようかな」
「渋ッ」
ピクっ
「何か?」
「いえ、巷で最近のトレンドになってますよね」
美華は、ぼろっと出た本音を取り繕って隠しつつ、
「さすが美桜姉さん。巷の情報に敏感でいらっしゃる」
と、煙に巻いて美桜のオーダーを聞いた。スポンサーの機嫌を損ねてはいけないと。
そうして、皆んなの注文を聞いて、
「じゃあ、みんなの頼んでくるね」
と、立ち上がった美華に美鳥が声をかける。
「美華姉てばぁ! 美華姉の頼んだの、私にも食べさせてね。絶対だよ」
「はいはい、やっぱりスィーツ星人だな。美鳥。本当に甘いものに目がないでやんの」
「へへ、楽しみにしてるよ」
と言って美華は、店の入り口に向かう。
甘味タカハシは、元来、和菓子を取り扱う店舗で店内で販売しているお菓子を食べられるように席を設けている。店に入って左手にショーケースがあり、中には羊羹や主菓子や干菓子、どら焼きやゼリーも置かれて販売されている。
美華はそこへ歩んでいく。
「いらっしゃいませ」
「かき氷、お願いします」
「店内でですか? テイクアウトですか?」
「店内で」
というやりとりの後、お品書きが出されてくる。美華は、それに目を通していると、
「美華ちゃん! ちょっと良い?」
と 美桜に呼ばれる。戻ってみると、
「はい、これね」
と言って美桜は長財布を美華にわたす。
「これで支払いも済ませてちょうだい。なんか現金だけみたい」
美桜は顎をしゃくって、壁に貼ってある注意書きを美華に示した。
【ご注文はレジにて承ります。お支払いは現金でお願いします】
と書かれていたりする。
美華は財布を両の手のひらで受け取り、捧げ持つとお辞儀をして、
「ははぁ、ありがたき幸せぇ」
と畏む。すぐに顔を上げて、
「本当に良いの。みんなの分払ってもらって」
「良いのよ。久しぶりに美華ちゃんも戻って三人揃ったんだもの」
美桜は目を細めて幸せそうに微笑む。
「マ………、美桜姉様、ありがとう」
思わず、地が出そうになるのを抑え込んで、美華は礼を口にする。
「だから、今日の夕飯を作るのは手伝ってね。美鳥と三人でワイワイやろ!」
「委細承知。美桜姉様。大好き!」
と、笑顔を残して踵を返し、ショーケースにあるレジに向かった。
シャッ、シャッ、シャッ、シャッ
厨房から氷の削れる音が聞けえてくる。
注文と支払いをを終えた美華が戻ると、厨房の中にいる作務衣を着て和帽子を被ったら店主がかき氷器に大きなブロック氷を置いてハンドルを回して削り始めているようだ。
片手で持ったガラスの器にはシロップと黄色に近い色のものが入れられている。器がすりこぎのように動かされ、その上に削れた氷が積もっていく。
「あの、器に入っているのってアイスクリームじゃないですか?」
じっとかき氷器が氷を削る様を見ていた一孝が声をあげる。
「他の店でも結構あるよ。氷を食べ切るとアイスクリームが見えるんだ。それを掬って口に入れると氷以上の冷たさとクリーミな甘さが口に広がるんだょ」
と、美華が唇を綻んでばせて答えている。
「ああ、早く食べたいなあ」
美鳥が待ち遠しくて、デーブルの下で足をブラブラさせている。
器に半分ほど氷が積もると、店主が容器を振ってシロップをかけている。
「あの掛けているシロップも、この店の特製らしいよ」
自慢げに美華が自分の仕入れた情報を披露していた。
そのうちに削れた氷がバレーボールと同じぐらいになると、かき氷器から器が取り出されて、店主が積もった氷を手で削り形を丸く整えていく。綺麗な形になると、別の容器が取り出されてジュっ、ジュッと琥珀色の特製シロップが器をクルクルと回されて満遍なくたっぷりと氷に振り掛けられていった。
「あの色だとコーヒーかな、そうだ紅茶かも。じゃあ、お兄ぃのだね」
美鳥も店主の手元を見ていたのだろう。一孝の方に向いて話しかける。
氷に紅茶シロップが、一通り掛けられると最後にホイップクリームが乗せられて完成したようだ。
次に別の容器にシロップ、アイスクリームが入れられると、その上につぶあんが一塊乗せられて、氷が降り注がれた。先ほどと同じ手順が終わってかけられたシロップは、クリーム色。全体にまぶされると、今度は黒くてトロッとしたものが格子状にかけられていく。格子の目が細かく。びっしりとしたものになっていく。
「あの、黒いのって黒蜜じゃないか? だとしたら美桜姉さんのだね」
美華が、すぐさま黒い液体が何かを当てている。
完成をしたものが二つカウンターへ置かれ、それを店員が四人が座るテーブルに運んできた。
「お待たせしました。黒蜜きな粉と、ロイヤルミルクティです。ごゆっくり、お楽しみください。黒蜜きな粉は、どなた?」
と、美桜と一孝の前に置かれていく。
「いいなぁ。一孝さんと美桜姉さん。私たちの、まだ、来ないよ」
美鳥は、二人の前に置かれたかき氷を羨ましそうに見ている。すると、店員は厨房へ戻り、すぐに残りのかき氷を持って出てきた。
「大変お待たせしましたね。雪花氷ミルクいちごです」
「それ、私のです。こっち、こっち」
と、待ってましたと美鳥が手招きをすると、
「では、こちらですね」
と美鳥の前に杏仁の白と苺の赤が渾然一体となった氷山の如き逸品のかき氷が置かれた。
「来た、来た。来た」
待ち侘びたと美鳥は喜びの声をあげる。
店員は、もうひとつ、一口サイズにカットされたマンゴーがうず高く盛られ、僅かに開いた隙間からマンゴーイエローの氷河の壁が見える極上の品を美香の前に置く。
「マンゴーピンスになります」
「ん〜」
それを見て美鳥が思わず唸ってしまった。
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