第4話 いざ! 甘味処へ
美桜と呼ばれた女性の黒色のネイビーカラーストラップドレスからは健康そうな足が綺麗なラインを魅せる。編み上げのピンクとストラップサンダルで地面を踏み締めて、美華と美鳥の行く手を塞ぐ。
それまで睨み合っていた2人は、揃って口を閉じてしまった。互いの顔を見合い頷くと、口を揃えて、
「「マッ…」」
だけれども言葉が出せなかった。彼女が口の前で指を立てていたりする。
氷のような視線を感じた美華が
「美桜姉」
美鳥も冷たい目線に震えを感じ、
「美桜姉さん」
そう二人に呼ばれた彼女の唇が綻ぶ。
「察してくれて、うれしいわぁ」
辺りが凍りつくような雰囲気が霧散して、穏やかなものになっていく。
「美桜さんが来てもらって良かったですよ。俺だけじゃ、どうにもならなかったんで」
一方、陰でそんなやり取りがあったことを知らずに、一孝が頭をカキカキ、美桜の元へ歩いていく。
「一孝君。ごめなさいね。騒がしい子たちで」
彼女は苦笑いをしつつ、
「全く、2人ともお店の軒先で戯れあって何してるの」
ため息をついて呆れている。
「でも美華姉さんが私をだらしない女って、言うんだもん」
美鳥が口を尖らせて抗議をすれば、
「だって美鳥が情けない仕草をしてて見ていられなかったもの」
美華も口角を曲げて、文句を言っている。
「もう、ふたりったら、しょうがないわね」
美桜は苦笑いをしつつ、美鳥へ近づいていき、
「美華も、こういう時は徐に手を貸してあげて、服装の乱れを正してあげるものよ」
襟元に手を伸ばして襟のカラーの崩れを治していく。
「ありがとう。美桜姉さん」
美鳥は、くすぐったさに耐えきれずにくつくつと声を押し殺して笑っている。
「美鳥。あなたも一孝くんがいるんだから、周りに隙を見せちゃダメよ」
「はーい」
美桜は、美鳥の手直しを終えて美華の元に向かうと、彼女に面と向い、
「ところで、美華ちゃん。なんか私にいうことはない?」
と美桜は美華の瞳を見つめていく。
あまりにじっと見続けるものだから、美華がソワソワし始めた。そして真剣な眼差しに耐えられず美華の瞳は泳ぎ出してしまう。
そのうちに気づいたようで、少し顎を引いて上目遣いに見返していく。美桜の心を推しはかるように、
「ただいま」
「お帰りなさい」
美桜はすぐに返事をかえし神妙な表情が綻び微笑み、美華は強張った面持ちが安堵の表情に変わっていく。
「夏休みになれば会いに来てくれるかと、首を長くして待ってたのに、なかなか帰って来てくれないし、連絡もよこさないで寂しかったのよ」
と美桜は気遣わしげた表情をすれば、
「それはね。早く帰って来ても良かったのだけど、和也といるのが楽しくなっちゃって」
言い訳がましい顔を美華は見せる。
「待ちくたびれたわよ。でも会えて嬉しいわ。便りのないのは、貴女が幸せだっていうこと。和也さんと上手くいってるのね」
「うん。和也は頼り甲斐あるし、優しいの」
美華のいじらしい笑顔に美桜は眩しいものを見るように相好を崩す。
「そう、良かったわね。美華が頼もしい彼氏を見つけることができて、私も安心できるわ」
「美桜姉」
「でも」
美桜は鼻根、つまり両目の間の鼻の付け根を揉んでいき、
「美華の口が悪いのが玉に瑕かな。いつも美鳥を泣かしてるものね。いつ彼氏にバレるか冷や汗ものね」
気がかりでしょうがないと、つい愚痴を漏らしてしまう。美華は思わぬところから図星を突かれ、
「ママ」
と思わず抗議してしまうのだけれど、しまったと自分の口を両手で塞ぐ。
「それは言わないっでってお願いしたのにな。お年がばれちゃう」
美桜は自分の若作りが暴露されたと落胆して肩を下ろしてしまう。
「ごめんなさい」
美華は自分の失言を取り繕うために、すぐさま謝った。
「いいのよ。どうせ私みたいなおばさんが化粧を濃くして誤魔化したって笑われるだけだしね」
と悲観してしまう。
「どれだけの人に聞かれたか、考えるのも怖いわね」
と、頭を巡らして辺りを見回していく。
「あら、誰もいない。どうしたのかしら」
それまで美鳥と共に観客と化していた一孝が申し訳なさそうに美桜に伝える。
「お二人が話している間に、お店の方が来まして、席が空いたので、どうぞということで皆さん。中に入りましたよ」
「美桜姉さんも美華姉も、私たちそっちのけで2人の世界入りこんでいたんだよ」
呆れたって顔で、美鳥は2人に話した。
「えっ、まじ!」
美華も周りを見渡すと、
「はじぃー、溜まんないから先に行くね」
と美桜たちを置き去りにして玄関まで小走りに行ってしまい。バサっと暖簾をかき上げて店内に入っていく。
「あらあら、恥ずかしいことしてしまいましたね。さ聞いている人がいなくてよかったわぁ」
と、美華の後をそそくさとついて行く。そして振り返り、
「あなた達もいらっしゃい。暑いでしょう。中に入って涼みましょ」
と、自分たちのことは棚上げして、しれっと呆然としている美鳥と一孝に催促をする。
二人を置いて店の玄関に着くと暖簾をくぐり敷居を跨いで店に入り姿が見えなくなった。
「はっ! 二人とも私たちを置いてけぼりにして、ひどいと思いません」
店に入ってしまった二人を呆然と見ていた美鳥が我に帰り、
「一孝さん。私たちも行きましょう」
一孝の手を引いて暖簾をかき分けて後を追う。
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