第2話 思わぬ再会
一孝が持つ日傘の陰に入って、陽炎がメラメラと揺らめくアスファルトの歩道を歩いていく。
「一孝さん、まるでアイアイ傘ですね」
彼女は、一孝をソワソワと見上げている。
「アイアイ傘ってなぁ」
「だって、そうでしょ。傘の下に2人並んでいているんですから」
美鳥は、その姿が想像できるのだろう、胸の動悸が止まらずドキドキとしている。
「確かに、そうは見えるけどなあ」
「あぁ、誰か写メ撮ってくれないかな。スマホの待ち受け画面にするのに」
美鳥はキョロキョロと周りを見渡し、本当に頼めそうな人がいないか探してしまう。
「美鳥、他の人に画面見られたら恥ずかしいよ」
「背中から写してもらえば、誰かわかりませんよ」
のらりくらりとはぐらかす一孝に美鳥は口を尖らせて、
「そんなグズグズしている、一孝さん、嫌いです」
とうとう、美鳥はポカポカと一孝の胸を拳を作って叩き始めてしまった。
「ごめん、ごめん。ウジウジした態度をしてしまったね」
謝ってはいるのだがプンプンと頬を膨らます美鳥は一孝に背中を見せた。
「まあまあ、機嫌を直してくれよ。頼むから」
「知りません」
一孝が背中を手のひらでボンボンと叩いて宥めているのだが、ツンケンしている美鳥は、なかなか機嫌をなおしてくれない。肩を怒らせてサッサっと一孝を置いて、先を歩いていく。
ああいえば、こう言うと言った具合に臍を曲げてしまった美鳥に一孝はトボトボと後ろを歩いていくしかなかった。
暫く、そのまま2人でテクテクと歩いていくと、見知った風景にとうとう辿り着いた。交差点の辻の角から2軒目、軒下で風にヒラヒラとひらめく暖簾には''甘味タカハシ’’の絵文字が楚々と描かれていた。
一孝は自分たちの向かう目的地にいつの間にか到着していたことに気づいた。
我を忘れてプリプリと怒っている美鳥の肩をトントンと叩き、偶然にも目的地に到着したことを嬉々として伝える。
「美鳥、上を見てみろよ。いつの間にか俺たちは目的地についたよ。まあ、タマタマだけどね」
「えっ、いつの間に! 私、ぜんぜん気が付きませんでしたよ」
あまりの偶然に美鳥は仰天している。
「これも神様の思し召し、美鳥の普段の行いがいいからだよ」
と一孝は、美鳥ををヨイショヨイショと煽てていく。
「そうですか? なら良いのですけど」
と怒り顔を笑い顔にクルクルと表情を変えていく。
「じゃあ一孝さん、早速行きましょう」
ニコニコと笑って、一孝の手を握り、店へグイグイと引っ張っていった。目的の店は街の人気店なのであろう。暖簾の下、開戸の玄関から一人一人が思い思いに並んでいる。
「ほーんと、久しぶりに来ました。いつもいつも混んでて並ぶの大変なのですね」
美鳥はブツブツと不平を漏らした。すると一孝たちの前に立っていた人物がくるりと振り返る。持っていた白いレースの日傘をクルクル回して、
「聞いた声だと思ったら、美鳥じゃない。一孝もいるし」
2人を見知った女性がニコニコと話しかけてきた。
美鳥と同じ亜麻色の髪をショートヘアにして、美鳥の瞳のヘイゼルカラーより少し濃いめの瞳を持つ、美鳥の顔立ちとそっくり、そして美鳥の背格好のそっくりの女性。
「「美華姉」」
2人の声が重なる。余りにもの偶然に美鳥も一孝も目を白黒させていた。
白いノースリーブのホルターネックブラウスに黒いショートパンツの出立ちの女性は、美鳥の姉の美華であった。彼女は、大学に進学した事を期に他県の学生マンションを借りて家を出でいた。
「どうして、ここにいるの美華姉」
いきなりの再会の驚きから覚めて美鳥は尋ねる。しかし、美華はどこか不満気で、
「どうしてって。私がここに居ちゃいけない?」
唇を尖らせて、美華の問いに反発する。
「いけなくはないよ。でも和也さんどうしたの。彼氏でしょ?」
雲行きが怪しく暗雲が垂れ込むよう事になりそうなので美鳥は話の矛先を転じる。
「あゝ。彼奴はゼミの合宿。私ひとりを置き去りにしてリゾートに行ってるわ」
気分が落ち込ませて、美華はブー垂れている。
「1人で下宿先にいても、しょうがないからね。あんたやママの顔を見に帰ってきたのよ」
「そうなんだ。彼氏、休みでも忙しいんだね。ご愁傷様」
美鳥は、一孝に振り向き、微笑むと強く彼の手を握った。それに気づいた美華は、
「あんたたちこそ、どうしたの? さてはデートの途中かな」
2人に疑念を抱き探りを入れてみる。
「私がママに頼まれてお使いに行ったの。そこでねえ………一孝さんについて来てもらっちゃた」
よくぞ聞いていただいたと、歓喜に胸を躍らせて、
「デート? そう、デート。デートですね。美華姉、私たちデートに見えるますよね。ふふ」
美鳥は彼女が余りにも的を得た話をしてくるので心を踊らせた。そして美華へスマインパンチと揶揄される眩しい笑顔を見せ付けた。
「けっ、1人で悦に入りやがった。和也のヴァカ。可愛い彼女を見捨てて合宿なんて行くなんて。おざなりな事をする。どうしてくれるんだよ。この、ひとり寂しい気持ちを」
美華は美鳥の眩い笑顔を手で遮りなが不平を漏らす。しかし、ピクッと眉を動かすと冷ややかに笑い、
「そうだ」
一計を案じたようで、手持ちのポシェットからスマホを取り出すと、
「こうなったら、我が家の金庫番を呼んで金づるにしてやる。贅沢なものを頼んでやるんだからぁ」
ある番号をタップしていった。すぐに相手に繋がり、
『えっ、かき氷! 行く。すぐ行く。飛んでいくから。暑くて茹っていたの。助かるわあ。みんなで食べましょ。代金も私が払うから。もちろん食べ終わってからはウチによるんでしょ。車で迎えに行くわよ」
スマホのスピーカーから、そんなことが漏れ聞こえてくる。
美華は、ちゃっかり、かき氷のスポンサーと、実家までの足をチャーターできたようだった。
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