年下幼馴染は同級生  Have fun ! ☆ かき氷 ☆  

@tumarun

第1話 お出掛け

 アスファルトから陽炎が立ち、茹だるような暑さの中、美鳥と一孝は並んで歩いている。


「一孝さん。ごめんなさい。私の用事に付き合ってもらって」

 

 白いネイビーカラーのストライプドレスを着ている美鳥は隣を歩く一孝に、申し訳なさそうに話しかけた。


「こんなに熱いのに、一緒に来てもらってありがとうございます」

「そんな事ないさ。一緒に、お出掛けできるんだ。良いじゃないか」

「ママから、シェインズの守道夫妻へ鰻の白焼きを届けてって頼まれちゃって、お世話になったんだからって言われたの」


 チャコールのオーブンカラーシャツにワイルドハーフパンツのコーデで一孝は、どこ浮かれた笑顔を彼女へ向ける。


「デートだと思えばいいよ。行き先がどうであれ、俺は美鳥と一緒に行けるのが嬉しいんだよ」


 美鳥は、編み上げの白いストラップサンダルを履いた足を一歩踏み出してくるりと回る。手に持つ黒いレースの日傘も翻る。振り返った顔は満面の笑顔、幸せの色で彩られる。


「嬉しいな。一孝さんにそう言ってもらえて。そうだね、デートだよね!」


   クラッ


 一孝が眩しいものを見てしまったように、片手で目を押さえてふらついてしまう。


「美鳥のスマイルパンチをまともに喰らったよ。捻りも入ってるんじゃないか」

「一孝さん! 大丈夫ですか? いきなりふらつくんだもん」


 美鳥は、心配そうな顔をして、一孝の顔の様子を見てくる。


「日差しが強いのかなあ? 一孝さん、目眩とかしません?」


 不安なのか、彼女は一孝が被っている黒い色のベースボールキャップの隙間に手を入れて熱を測ろうとした。


「しない、しないって、美鳥の笑顔に目が眩んだだけだよ。お前の笑顔は俺の頭の芯まで鷲掴みするんだから」

「一孝さん」


 

 美鳥の眉が目尻も眉尻も下がり困り顔から一転、目尻、眉尻をは、そのまま安心して柔らいだ微笑みを形づく出ていく。


「ほんとにぃ? 一孝さん。ちょっと屈んでもらえますか?」

「大丈夫だって、気持ち悪くなってないし……」

「早くぅ」


 はい、はいと一孝は渋々屈んで美鳥と視線をの高さを合わせて行く。すると彼女は自分の額を一孝の額に近づけて、くっつけてしまう。


「美鳥、何を…」


 慌てて、彼女から距離を取ろうとするが、美鳥は持っていた日傘から手を離し一孝の頭を両手でがっしりと捕まえた。彼女は額をつけたまま、


「えーっと熱はないみたい」


 一孝は自分の顔が紅潮し汗が噴き出すのを感じた。


「俺、汗臭くないか。暑くて結構な量の汗かいてるし」


 心が乱れた一孝は、目の前にある、そっと閉じた二重の瞼にドギッとして動揺する。


「近い、近いよ! 美鳥。キスでもできちゃうぞ」


 一孝は茶化して、美鳥が動揺して離れるのを期待した。

 だが。美鳥は静かに瞼を開く。ヘイゼルの瞳が一孝のブラウンの瞳を見つめる。

 また一度、瞼を閉じると彼女の顔が近づいてゆき、彼の唇に柔らかいものが触れる。暫く、唇をチュッチュッと啄むと、離れていった。

 しかし、2人の唇には名残惜しいと銀色の橋がつながっていた。再び、目を開いた美鳥は言う、


「私を安心させようとして、ママのお使いのお供なのにデートだよなんて言ってくれる、あなたの心遣いにお礼をしたくて」


 そう言う美鳥の頬は赤くなっていた。一孝の頬も同様に染まっている。

 恥ずかしくなってしまったのか、美鳥は彼に背を向ける。 普段、降ろされている髪が結い上げられていて頸が見える、


「美鳥」


 亜麻色の髪に隠されていた頸までが真っ赤になっているのを見てしまい呟いてしまう。

 すると、彼女は振り返り恥じらいで染まった頬を見せて、


「一孝さん、自分で言っておいてなんですが体が熱ってしまって仕様がないんです」


 さらに顔を真っ赤にして一孝に漏らす。そして、


「何か、冷たいもの飲みたくなりました」


 彼女は恥ずかしさを紛らせるつもりなのか、


「そうだ! かき氷なんてどうでしょう」


 はにかみながら一孝に話しかける。


「いいねえ、そうしよう。俺も熱を覚ましたい。丁度だけど昔、夏の度に通った氷屋が近くにあるよ」


 一孝も自分の中で沸き立ってしまった熱を逃がしたいのだろう。すぐに答えた。


「もしかして ''甘味タカハシ'' ですか?  あのお店なら、一緒に行ってましたね。懐かしいな。いいですよ。そこにしましょう」


 美鳥は、落としてしまった日傘を拾い上げると、傘を高くさして影を自分ではなく、一孝の頭の上にかかるようにした。


「美鳥、俺の方に傘を差さなくたっていいよ。帽子を被っているんだから。自分の頭を影の下に入れな」


 一孝は日傘の柄をもって美鳥の方へ押していく。


「ですけどね一孝さん」


 美鳥も負けじと押し返す。


「被っている帽子だと、熱が籠って熱くなるって聞いています。日傘なら傘の下を風が通って涼しくなるそうです」

「だからって俺の方に差さなくてもいいじゃないか」


 日傘が2人の間を行ったり来たり、


「だってえっ。一孝さんの顔が傘に隠れて見えなくなる時があるんですよ。ずっと見ていたいのに…」

「美鳥、お前………」


 それを聞いて、一孝は傘を押し返すことができなくなった。彼は探測すると、傘の柄を持って高く引き上げて、美鳥の手から盗ってしまう。


「あっ、何を………」


 彼女は、手を伸ばして傘を取り戻ろそうとしたのだけれど一孝は、手を挙げて盗られまいと頭上で交わしていく、


「もう、酷いです。一孝さん。折角あなたとことを思ってしたのにぃ」


 美鳥が、頬を膨らますのを横目で見ながら、彼は道路に映る自分たちの影を観察する。

 柄を動かして、自分と美鳥の頭の影を日傘の影で隠れるように動かしていく。


「ははっ、これならいいだろう。俺が持っててやるから美鳥も日傘の影に一緒に入れるようにする。そうすれば俺たち2人の頭に日差しが当たらない」


 ベストポジションがを見つけて、一孝は美鳥に理由を伝える。


「そうですね。これなら良いかも」


 しかし、日傘も、それほど大きくない。2人が寄り添うようにしないと、影に収まらない、はみてでしまう。


「ごめんな。俺が暑苦しくないか?」


 がっくりと消沈してしまう彼に、


「いいえ、私は一孝さんと、くっつくことができて、嬉しいですね」



 美鳥は一孝の腕を掻き抱き、更に寄り添っていく。

 彼は美鳥の柔らかさをワンピース越しに感じて、冷めたはずの熱がぶり返し、顔を赤くしている。もちろん美鳥の頬も染まり直した。


「それに、こうすれば日傘を持たなくて済みますもんね。ありがとうございます、一孝さん」

「もしかして、それが狙いか。チャカリしてる」

「ふふ、バレましたか」


 と美鳥は、その可愛い唇から、ちろっと舌を見せた。


「こいつめ。やりよるわ」

「へへ」


 そして、道路には日傘と彼らの影が重なり合いアスファルトの上を進んで行った。

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