Part.4 事前準備

「我々はこの広大な都市区画をいくつかのブロックに分け、各々の担当ブロックでを行う。担当ブロックは後々配布するが、SIAと協力者が混合しているので、顔合わせ等は各自でやる様に」


翌々日、俺はSIAの招待を受け取り学校を抜けてブリーフィングに参加していた

SAIの基地の一角にある暗い大部屋の中で、青い光を放つプロジェクターに眩しさを覚えながら手元の資料に目を向ける


(...ふーん、外苑は細かくしながら中央に向かって担当ブロックが大きくなるか。外に逃げたりするバカ共を逃がさない工夫って奴か?)


変に考えると頭が痛くなるので資料から目を上げると、プロジェクターの前に立つ鴉間と目が合った


「あぁそうだ、今回の作戦に参加する協力者の内、何人かには1人で目標集団を殲滅してもらう」


余談の様に軽く放り込まれた言葉に、ブリーフィングに参加した数十名がざわめく


「今回招待された協力者は皆そうだ、相応の力を持つと私が判断し招集した者だ。死んでくれるなよ」


明らかにこちらを見て言っているのがわかり、溜息が出る

しかし彼は内心高揚していた

これは事実上、現場を好きにしていいというお達しでもあるからだ


(ちっと情報が手に入れば儲けもんってところ...それよりもここまでの大規模作戦か...!)


その後も続く会議を聞く中で、東雲の期待値は頂点に達していた

それはもう、どう戦おうかと考えて身体が少し動く程に高揚したほどだ

そして来た「解散」の言葉と共に、資料をまとめて独り言ちる


「勝ち戦程楽しい戦いは無い。一対多なんざどうとでもなる。雑魚の集団なんぞ...!」


「ははっ、今からでも興奮するな...!」

「あの...」


久々の大規模作戦の具体案を聞いて盛りに盛った彼の耳に、穏やかな声色が入ってきた


「あ、こりゃ失礼。なんでしょう?」


視線を向けた先には160cm弱程度の、前髪で片目を隠し、なんとも陰寄りの雰囲気を漂わせる女性が立つ

そして一瞬で情緒を安定させた彼に、話しかけて来た人物は奇怪な物を見る目をしていた


「ウワヤバイヒトダ....あ、私は貴方のサポートを任されました。SIAの咲上崎さかみさき 彩乃あやのです」


「...まぁ見逃すとして、サポート役?俺は個人で敵陣に突っ込むのが仕事だ」


とりあえず立ったまま話すのはなんなので座るように促すと、彼女はちょこんとパイプ椅子に腰を下ろした


「分かっています。私は主に貴方の武器弾薬、そのコピーと治癒を行ないます」


「ほーん、オリジンはコピーか。そのクチだと俺のも知ってるな?」


「はい、鴉間さんから聞きました」


「だろうな。で、コピー能力はどんなもんだ?」


とりあえず聞きたいことだけ口に出すと、彼女は妙に答えあぐねた


「...あれか、コピー対象によって効果が全然変わるヤツだな?」


「あー...はい、そうですね」


申し訳なさそうにする彼女に対し、彼は着いてくる様に言って席を立つ

向かう先は地下のオリジン訓練場

百聞は一見にしかず、互いにオリジンを見せ合い理解を深めようと言う魂胆だった



━━━━━━━━━━━━━━━┫


コツコツと階段を降りて冷ややかなコンクリートの壁に囲まれた無機質な空間に足を踏み入れると、早速オリジンを発動する


「んじゃ、俺から見せるか」


そう言って彼は袖をめくると、淀んだ水色の粒子が前腕に脛、肩甲骨に腰と身体の至る所に現れる

まるで炭酸の様に上へ湧き上がり、着々と彼の身体が変化する


「んっと、これがフル装備の状態だな」


彼は模擬戦の時よりも武装の多い状態に変化した

2つのラックには太刀が備わり、両手にはブルパップ式の突撃銃アサルトライフル


両腕のブレードの手首側は、何か出そうな雰囲気がするハッチが着いていた


「服を突き破ったりはしないんですね」


「あぁ、服とかバッグには干渉しない。理由を聞いたら.....服との接触面は別次元ある?とかいわれたな。よく分からん」


「なるほど、それで当日もその装備で?」


「あぁ、コピーして欲しいのは太刀とライフル、そのマガジンと弾薬だな」


「分かりました。このコピー能力は対象を詳細に知れば知るほど短時間でコピーできるので、もうちょっと近くで見せてください」


「ん、いいぞ」


そう言うと彼はライフルを近くの机に置き、太刀もその横に置く


「弾薬の詳細は分かりますか?」


「7.62×51mm M80A1弾だな。1マガジン100発だ」


「なるほど、それなら...そうですね、100発コピーで2分程度です」


「早い...のか?まぁいいか」


ざっとマガジンの説明も終えると、まとめて2分半程度で1つ作れるとの事

次に太刀の説明に移るが、これがどうにも分からない


「これ材質はなんです?」


「刃は炭素鋼だが詳細はわからん。胸は確かステンレス鋼だったか」


「なんで使っている本人が分からないんですか」


「だってよく切れるなぁ程度にしか思ってないし使い捨ててたから...」


「えぇ...まぁ、これならうーん...10?いや8分位で一本作れます」


「なら十分だ、そんで俺が気になるのはな」


そこで一息溜めると、咲上崎から疑問の声が飛んでくる


「えっと...なんですか?」


「お前、戦えるのか?」


そう聞いた途端、彼女はムスッとした表情になった

東雲はやっべとおもったが、まぁなんとかなると思い諦めた


「私はこれでもSAIで最前線張れる位の実力はあるんです!舐めないでください!固有オリジン持ちでも無ければ一対多も平気です!」


この時、東雲は決意した


(この女は絶対前にださねぇからな!俺の取り分を横取りされちゃ叶わん!)


なまじ他の欲求がない分、金欲と戦闘欲が突出して見えてしまうせいで彼はたまに「仁義なき極道」と呼ばれる事がある

そんな事は露知らず、右目に$、左目に戦を浮かばせながら彼らは訓練場を後にした


━━━━━━━━━━━━━━━┫


そしてその夜、研究都市の南区画

雑居ビルの上に2つの人影があった

パーカーを被った東雲と、SIAの市街戦装備をした咲上崎である

彼らは5つある襲撃予定地点の内の1つ、廃ビルブロックを見下ろしている


「東雲さん、なんで来たんです?作戦まで2週間ありますよ」


「いや2週間しかない。戦いにおいて戦場を自らの有利な状況にするのは必要不可欠だ。それまでに俺達は襲撃ルートを決め、その上で更に作戦を練る」


長い銀髪をデジタル都市迷彩のパーカーに隠し、橙の双眼は目立たない為に黒子の様な蚊帳の下にある

赤外線と紫外線を切り替えつつ、周辺の情報を収集していくと、嫌な匂いのする物が見えた


「咲上崎、あれ見えるか」


「あれ...ああ、あのコンテナですか」


「あぁ、あれなんだと思う?」


双眼鏡を構えた咲上崎が件のコンテナを確認する

空き地の隅に放置されてはいるが、異質さがある

赤く錆びた、一般的な共通規格コンテナではあるが

入口は固く閉ざされ、南京錠に鎖まで掛かっている


「...まぁ、中を見られたくない...それか外に出したくないヤツが入っているんでしょうね」


「ありゃ見られたくない方だな、カメラつけるか」


「はい?」


「動体センサー付きカメラを付けて今から24時間監視する。明日の今頃に回収して動きがないか確かめる」


「...あ、そのバッグってもしかしてそんなのがいっぱい?」


「あぁ、カメラ4に赤外線ストロボ6。あとは仕事道具として爆発物なんかもある」


「え...大丈夫なんですか?捕まったりは....」


そう心配げに聞く咲上崎に対し、東雲は身分証を取り出す


「SIA発行の最強免罪符があるからな、まぁ一応爆発物の取扱い座学と実地訓練も受けたし、幾らか使った事もある」


「...この都市、思ったより物騒ですね」


「犯罪者の『殲滅』が主目標な時点で気付くべきだったな」


「...あれは犯罪者をまとめて逮捕するという意味では?」


「だったら実弾兵装なんか許可されねぇよ。あんたのそれM4カービンだってM995《高性能弾》だろ?」


ビルの看板に立てかけてあるM4カービンライフルは市街戦用にカスタムされている

ハンドガード上のIRレーザーサイトにレシーバーのホロサイトに加えサプレッサーを備えた上でフォアグリップも装備し完全にCQBに対応した仕様だ


「能力者相手でも、実弾兵装は有効...ただそれもいつまで続くか」


「さぁな......ここはもういいだろう、次の地点を目指すぞ」


「ここだけで1時間半使いましたけど....」


「あぁ、残り4ヶ所も1時間半くらい使うぞ」


咲上崎の静かな叫びは、誰にも聞き取られなかった

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