Part.3 変化の発端
赤色灯に照らされたパトカーが続々と現場に着く中で、俺はある人間を探していた
懐から取り出した別の身分証を手に警官の群れを掻き分けると、車両の側でプレートキャリアーを着用している女性が目に入った
「おーいた!
「お前この
「へへっ、さーせ....いッッた!」
高速で飛んできた拳骨をもろに受けると、あまりの痛みに頭を抑えてうずくまる
開口一番暴力に走ったこの人は
都市独自の特殊犯罪捜査機関、略してSIAと呼ばれる組織の一員であり、東雲に『仕事』を流してくれる人間だ
「ったく、何人やった?」
「四捨五入したら0ってとこすかね」
「ならここでお前が死んでも四捨五入したら0だな」
そう言ってホルスターから拳銃を抜く仕草を見せると、東雲はすぐさま両手を上げる
「さーせん、確実に殺ったのが1人で死にかけが1人、コンクリに叩きつけたのが1人です」
「3人か、そこの女共は?」
「友人とその友人です、事情があって2人で着けてたらそんな事になりやして、へへっ」
へりくだりながらそう答えると、鴉間は呆れた様に溜息を吐く
「ったく、SIAじゃストーカーなんざ捕まえらんねぇってのに...まぁいい、この案件はウチ《SIA》の手柄で処理する。代わりに次の仕事は言い値で受けてもらうぞ」
「まぁ、豚箱行きよかマシってわけですか...まぁいいですけど」
「物分りのいいガキは好きだぞ?ほら、これやる」
手渡しされた封筒を受け取ると、皆目見当もつかない様子で東雲が鴉間を見る
「なんです?これ」
「次の仕事は大掛かりになる、その事前準備と計画書だ。家に帰るまで開けるんじゃないぞ」
漏らしたら豚箱より酷い所にぶち込むからな、と釘を刺されたところで鴉間が現場へと立ち去ったので、東雲は封筒を懐深くしまい込む
そうして辺りを見回すと、同じようにプレートキャリアーを身につけてタバコを吸っている老人が見えた
白髪混じりのオールバックは、何度も見慣れた顔だ
「ノリさん来てたんすね」
「やっぱ坊主か、あの太刀を見た瞬間ピンときた」
「最近はどうです?減ってきました?」
「なわけ、むしろ増えてんな。最近じゃ徒党を組んでるのも少なくない」
2人が話しているのはオリジンを使った犯罪、世間では『オリ犯』なんて呼ばれているが、彼らは専らSCと呼ぶ
「じゃあこれも、大方はちっこい集団の殲滅ってトコすかね」
懐から封筒をチラ見せすると、ノリさんは特段驚いた様子もなく、「だろうな」と零した
そこからしばらく話した後、とある件の話になった
「そういえば、オリジン関連全般を扱う省庁が立ち上がるって話は聞いたか?」
「能力統括省でしたっけ、センスのない名前してますけどそれがなにか?」
「曰く、能力の強さだの汎用性だので...ランク?とかいうヤツで格付けされるんだと」
タバコの吸殻を地面に踏み捨てて、気だるげに愚痴を吐き捨てる
「どこ行っても上下関係だ、今まであやふやだった能力の差が明確になれば、差別も起こる」
「人間、差別しなきゃ生きてけない生物ですから」
そう言ってポッケに手を突っ込むと、東雲はあるものを取り出す
指に挟まれたのは2枚の券ををノリさんに差し出す
「ビールとタバコの引換券です」
「なんだ坊主、気が利くじゃねぇか」
「この俺がタダで渡すと思いました?」
引換券を手に取る直前、ひょいっとそれを横に動かした
「んだよ、頼み事か?」
すこし気だるげな口調で問う彼に、東雲は真剣な表情で返す
「あの二人、きっちり家まで届けてくださいね」
「はん、言われなくてもわかってるっての」
すこし驚きながらも皮肉混じりに返された言葉を聞くと、東雲は人混みから離れてから跳躍の準備動作をする
「おい東雲ぇ!」
その時、後ろからノリさんの声がした
ぱっと振り返ると、人混みから1歩引いた位置に彼が立っている
「悪ぃな!俺達が不甲斐ないばっかりに、お前達まで巻き込んじまって!」
「そう思うなら!きっちり約束は守ってください!」
そう言い残すと、東雲は一気に跳躍した
身体強化を主軸にした単純な跳躍に、ジェットエンジンの推力を少し混ぜるとことで遥かに長い距離を滑空する
眼下に広がる街の夜景は、何処か不気味さを感じさせるものだった
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「はーん、中々に大掛かりな作戦で」
2LDKのマンションで、ソファに浸りながら資料を読むと、中々に大規模だと言うことがわかった
この研究都市は東西南北を4本の幹線道路で綺麗に分割されているが、今回は南側の区画で作戦が行われるらしい
「日付けは9/21(水)、主目的はSC《オリジン犯罪》集団の殲滅で......殲滅対象は10名以上の構成員を有する集団全て...ほーん?」
家帰ってから適当に作った焼きそばを頬張りながら読み続ける
「動員兵力はSIA執行部隊から1000人、協力者200人か」
『人員』じゃ無くて『兵力』か、と思いながら裏面を見る
「10~50人規模の集団が20、60~100が〜?」
暗算で敵の戦力を確かめた所、おおよそ2500人強というところだった
この都市の人口はざっと数十万、研究都市と謳いながらその実態は大都市である
これはおそらく表層に出ている、つまり氷山の一角であると思いながらも相手方の戦力には少し驚いた
「...おっ報酬?協力者には基礎報酬30万、戦果に応じてさらなる報酬...へぇ、こりゃいい」
これは恐く協力者同士の競争を狙い、戦果拡大でも狙っているのだろう
仕事があるとはいえ、最近はちょっと金欠気味だ
「...参加に関しての拒否権は無し、まぁいい。最近は少し退屈だったし、骨のあるヤツでも居るといいな」
叩き付けるように机へ放り投げると、東雲は鴉間とのメールを開いていくつかの質問を書き出す
そしてスマホをソファへ放り投げると、逃げ去る様に風呂場へと走っていった
「へへっ、
自虐的な言葉はまもなく、シャワーの音にかき消された
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