Part.2 異形の夜

夕陽がビル群の向こうに沈む頃、朝霧という人物を追って雑居ビルの上を八艘飛びの様に跳躍で飛び渡る

腰部から生えるジェットエンジンは小型と行っても爆音を響かせるため、身体強化で静かに飛び続ける

橙色に光る眼から見える視界は、普通の物とは違っていた


「赤外線に紫外線暗視装置、いい目をしてますね」


「ちょっと前に20倍率まで可変出来るようになった、着々とサイボーグ化してるな」


「進化すればするほど人間離れした物になる様で」


ビルの看板に隠れて見張るが、ここまで特に問題は無い

観察していてわかったが、朝霧という人間はどうにも男には見なかった

髪は長く、華奢な体にはまるでオリジン持ちという風格がない


「あいつ、ほんとに男なのか?」


「貴方が言えた口ではありませんよ?」


「おい、どういう意味だお前」


「さぁ?まぁ彼の性別は私も分かりません、彼は自分の事を話そうとしませんしね」


仮の呼び方として『彼』を使っているだけだと脳内で理解する

両手でで後ろ髪を結び直しながら来た道を確認してみるが、尾行しているような人間は居ない


「クソ、後ろ髪もうちっと切りゃよかった」


「切って差し上げましょうか?」


「結構だ、どんな髪型になるかわかったもんじゃない」


そう言いながら、東雲は両肩のラックから太刀を抜く

今回の東雲はライフルと太刀ではなく、太刀を2本装備していた

街中でライフルの銃声を起こせばどうなるか分からない

野次に囲まれちゃ、まともに戦闘もできない


「2ブロック進みます」


そう言って限りなく低く建物を飛び移ると、東雲はその後ろを付いて飛ぶ

できる限り衝撃を殺して着地し、抜刀する


「気付いているな?」


「はい?」


「気付かないんだな。路地裏後方80m、3人」


「...着けられていたのは私達でしたか」


「咲樹、お前は朝霧を確保して避難しろ。俺が対処する」


見てみれば、辺りに人はおらず歩いているのは朝霧だけだ

脳内で仮説を組み立てるが、如何せん情報が少ない


(広範囲の洗脳、一般人...というか単純なオリジン以下の人間には効果テキメンって奴だ。まさか複数人の反抗だったとはな)


そう思いながら、2人で建物から降りる

隠れる必要が無くなったので、エンジンを吹かしながら減速して着地すると、轟音に反応した朝霧が咲樹に抱えられ何処かに飛んでいく様子が目に見えた


「よーしッ!出てこいクズ共ッ!」


一声かけて見るが、出てくる様子はない

赤外線の白黒映像の中、確かな人体の反応が建物の陰に見える

右手の太刀を地面に突き刺すと、道端の石ころを拾いそこに人間離れした速さで投げつける


「バレてんだよ」


そう言うと陰に隠れていた3人組が道に出てくる


(男2女1、立ち位置的に女がトップか?)


適当に考え込みながら太刀を引き抜き、刃先を向けながら声を上げる


「ようやく出てきたなチキン共、お前らが世間様を騒がせてる連続殺人...集団?って奴らか」


「そうだって言ったら、どうする?」


真ん中の女が声を上げ、その返答を考える

視界をIRから肉眼に戻し、全員の姿を確認する

女は青の短髪、背丈は170程

男は180と170...無い程か、3者ともに武器はなし


「いやぁ、こわいなぁこわいなぁ」


目を伏せて怖がる演技をとる


「いい歳こいて弱いものいじめを好き好んでするやつがいるのが怖すぎて....」


そう言いって小柄な方の男に左の太刀を投げ飛ばす

小柄な男は唐突な防ぎきれず、辛うじて差し出した左腕と肩甲骨ごと体を貫き、地面に突き刺さる


「世のために殺さないと行けなくなっちまった」


太刀を構えジェットエンジンを吹かし、突撃する


「クソ、殺るぞ花崎」


「わかってますよ!」


なぜ小柄な男を真っ先に殺そうとしたのか

それはアイツが『洗脳』のオリジンを持っている

そう直感的に理解したからだ

そして向かってくる2人を分析する

女の方は両手に炎を溜め、男は上半身を囲うようにナイフを何本も発現させる


「はぁん、『炎』と『投擲』か?オリジンの中じゃあよく見るもんだな」


「ほざけ!1人奇襲でやった程度で図に乗るなよ!」


男の方が先に突っ込んでくると、それに先んじてナイフを放ってくる

跳躍してそれを回避した後、男の背後に着地して首根っこを掴む


「なってめッ!」


右半身を大きく逸らし、刃先を背中に押し当てる

しかし視界の左端から急接近する人影を確認した瞬間、右足を軸に体を回し男を地面へ叩きつける

慣性そのままに刀を横に構え、女の突き出す両手を受け止める


「はん!こいつよか手応えはあるな!」


「戯言を!お前のそれ固有オリジナルオリジンだな!」


鍔迫り合いの勢いで太刀を振り払い、バックブラストで後ろへ跳躍し距離をとる

太刀に付いた血を袖で拭き取り、左片手一本突きの姿勢を執る

女もこちらへ正対し、右手に炎を迸らせる


「来いよ、一振でやってやる」


「はっ、やれるもんならなッ!」


超人的な加速と共に突っ込んでくる女に対して東雲は目を瞑り呼吸を止める

直視した所で動きが見れない、だから見る事は無駄

そうして研ぎ澄まされた五感に従い....


「バカが、その手は散々教えられたよ」


太刀を後ろへ振り被る

突き出された右手の脇を通り過ぎ、右半身の肋骨を叩き折り、臓物を両断する

心臓には届かずとも、もはや死は避けられない程の重症を受け、血を撒きながら女は地面に叩き伏せられる


「んだ、そこそこ強かったんだな」


「皮肉か...てめぇ、名前は...?」


「冥土の土産か?いいぜ、教えてやる」


そう言ってポッケに手を突っ込み、学生手帳を開いて見せる

女は手を差し出し、血濡れた手で手帳を掴む


「東雲か...へっ、名前知ったからにゃ毎晩枕元に立ってやる」


「そいつぁ無理な話だ、俺は抱き枕で寝てるからな」


「そう言うことじゃねぇよ....バカが」


力無く手が落ちると東雲は興味なくその場を立ち去る

血濡れた手帳から大事な部分だけ回収して捨てる

スマホを取り出し通報しようとした時、咲樹と朝霧が路地裏から出てくる

咲樹は惨状に目を背けながら口を開く


「...殺したんですか」


「死んだと思うか?」


「....逆に、あれで生きてるとお思いで?」


「男はともかく女が生きてたらびっくり、近くに別の固有オリジン持ちがいるんじゃねぇのか?」


警察に通報、重軽傷3とだけ伝えてからスマホの電源を落としてからトドメを差し損ねた男の傍に歩み寄る

そして蹴りを1発、それで男は失っていた意識を取り戻す

腹を抑え四つん這いになる男の背を踏みつける


「てめぇ散々人殺したんだ、サツの尋問官が仏さんもびっくりのお人好しな事を祈ってんだな」


初手で行動不能にしたヤツに目を向けると、血は流れているが痛みにもがいているのが目に見える

パトカーのサイレンが赤色灯の輝きに遅れて耳に入って来た頃、咲樹が再び口を開く


「貴方の戦い方、教範に従わない独自の物...」


「教範じゃ多対一は絶対に避けるべきで、その上で相手の攻撃に対して不動は悪手...だったか?」


「えぇ...あの、貴方は一体...?」


女の胸に刺さった太刀を引き抜き、滴る血を振り払う


「まぁちょっと、治安の悪い所に居たからな」


下半身だけ変化を解いて、刃先を地面に着けながら答えた顔は少しばかり、憂いを見せていた

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