固有能力を持つ俺が戦いの中で恋を夢見た物語

@Kaltzaf

First look. First shot. First kill

Part.1 空薬莢の残響

よくある学校のグラウンドに、土埃が舞う

その中を、数十発の弾丸が通り抜ける

その衝撃波が視界を開いた瞬間、ジェットエンジンの爆音と共に、異形の人型が高速で駆け抜ける


「はぁあッ!」


右手のブルパップ式突撃銃で牽制しながら、左手の近代的な太刀を左後ろから横薙ぎに振りかざす


「がぁッ!!」


それを何の備えもなく腹部に食らった相手は吹き飛ばされ、防御結界の残滓を纏いながら地面を抉る


「東雲!1本!」


土埃が晴れたところに立っていたのは、人に近く、しかし人には見えない者

背中の中程まで延びた銀髪は風になびかせている

腰からは2つ、無人機の様なジェットエンジンが生え

ロボットの様な前腕の手の甲側には肘から外へ向かって湾曲した三角柱ブレードが一体化し、その角は鋭くナイフのように煌めいている

その三角柱は脛にもあり、そこから上に前のめりなり、その角もまた人の肌など容易に切り裂くことができる程に研ぎ澄まされている

両方の肩甲骨には2点で何かを掴む為のラックが生え

黒いはずの目は橙色に染まり、左右の側頭部には外側に向けて僅かに開いた二等辺三角形の金属製の板がいる

そしてこれらの全てが、その境目から一遍して非生物感漂う見た目となっている


「すまん、痛む?」


「実戦だったら真っ二つ、それに比べりゃ屁でもない」


差し伸べた手を掴んで相手を起こすと、左肩甲骨のラックに太刀を噛ませると、ライフルの弾倉を交換する

地面に転がった空の弾倉は端から粒子となりやがて消えた

そうした後にライフルをラックに掛ける

先生の方に歩み寄り、模擬戦用の結界が解かれるのを確認して口を開く


「先生、やれてあと3人です」


同級生が持ってきてくれた水筒を飲みながら会話を続ける


「おう、次は...秋月とだ、オリジンは知ってるな?」


「飛行と斬撃、あとはそれらに付随した身体能力の向上...ですね?」


「あぁ、行ってこい」


「はい」


水筒をまた預けると、再び展開された結界の中で身体の調子をチェックする

エンジンよし、両手両足問題なし

ラックから武器を抜き、戦闘態勢を整える

間は100m、一気に詰めて10秒も無い


「両者一斉に...始めッ!」


先生の掛け声と共に、2人が一気に距離を詰める

東雲はライフルで牽制射撃をしながらエンジン全開で突っ込む

目の前の相手は右前腕に沿うように青く光る刀身の様な物を発現させ、それを盾にしながら突っ込んでくる


「バカ正直に突っ込んでくるか!」


東雲はそう声を荒らげながら、左手の太刀を真っ直ぐに投げつける

秋月は右手の刀身でそれを弾くと、その懐に東雲が潜り込む

返す刀の斬撃を左手のブレードでそれを防ぎ、ライフルの銃身を胸元に押し当てる


「勝ちだ」


1秒もない射撃時間で、防御結界は限界に達し

そして続く前蹴りで相手は地面に突っ込んだ

舞い上がる砂埃に姿が埋もれたが、直感的に終わったと思いライフルをラックに戻す

突き刺さった太刀も拾ってラックに戻して手をパンパンと叩き、砂埃の方に目を向ける


「思ったより早く決着が....」


しかし砂埃の中に、青い光が見える

防御結界の残滓ではなく...


「おーいー、時間ないからパッパ勝たせてくれよ」


東雲は愚痴を零しながらも、ライフルも太刀も構える素振りはない

地面を蹴って、さっきよりも高速で接近する秋月

しかし東雲は1歩も駆けず、その場で態勢を整え...


「甘い!」


突き出された切先の下に潜り込み、刀身の宿主である右手を自らの左手で払った刹那

右手で首根っこを掴み、左足で膝蹴りを叩き込んだ

鳩尾にめり込んだ脛のブレードにより、前のめりになった秋月の体は慣性で下半身がつきでる形になり、地面に伏した


「...撃った方が早かったな」


完全に伸びた秋月を抱えて、先生の所に行く


「...やりすぎました」


「80kmで正対してきた相手の鳩尾にブレードを叩き込むな。防御結界なかったら今頃秋月は下半身と上半身がさよならしてるぞ」


「危うく警察から逃げ回る所でした」


「いや、刑罰は受けろよ」


秋月を下ろし、軽く腹を1発蹴って彼の意識を戻す


「よし、歩けるな?保健室行けるな?よし」


パンッと背中を叩くと、秋月は他の同級生に肩を貸してもらいながら保健室へと向かっていった


「よし、次は...」


「あーっと、ブレードと太刀の刃こぼれが酷いので今日はここで....」


ラックから太刀を引き抜くと、地面に突き立てて刃を見せる

あの斬撃をもろに食らった刀身は所々にヒビが入り、刃はボロボロに崩れ落ちていた


「あー、なら仕方ない。オリジン解いて時間まで休め」


「あい、お疲れ様でした」


━━━━━━━━━━━━━━━┫


国立オリジン研究都市付属、第一西方学園

高等部1年2組に所属する東雲 鶴は、8クラスある1学年に10人しかいない固有オリジナルオリジン持ちの人間である

固有オリジンは普遍的なオリジンを圧倒する力を持ち、そして圧倒的な価値を誇る

彼が固有オリジンを獲得したのは10歳の時

オリジンの発現検査時に発覚した

彼の固有オリジン『変化』は、強い憧れを抱いた一つのものに「変化」する

そして彼が強く憧れたのは、当時はやっていたアニメのロボットだったのだ

主人公のワンオフでも、少数生産のハイスペック機でもない

ただの量産機、主人公の為に死ぬ様な機体でもそれは、彼の『憧れ』となったのだ

それはそうとして、彼らにはそれぞれ生徒間で呼ばれる渾名がある

そして彼は、こう呼ばれる


『異形の戦女神』 と



━━━━━━━━━━━━━━━┫



昼休みの時間、食堂の一角座る東雲は模擬戦訓練で疲れた身体にエナドリを叩き込み、BLTサンドを口にぶち込んで咀嚼する

東雲はここ1ヶ月、あまりにも退屈していた

ここで学ぶのは普通の中高と変わらないが、中等部4年、高等部6年と研究都市付属ならではの違いがある

定期テストは筆記ではなく教官との手合わせ

中等部ではオリジンの能力の引き出し方を主に学び

高等部ではオリジンの実践的な活用方法を学ぶ

模擬戦訓練もその一環だが、彼にとっては全く張り合いが無く、最近はただの作業と化していた

唯一の楽しみと言えば、飯か放課後の自主練だけである


「東雲、お隣失礼します」


死んだ目をしながら食っていた東雲の隣に図々しく座り込んだのは同じく固有オリジンを持つ1年

『不知火 咲樹』である

明るい髪をハイポニーでまとめ、スタイルはいい方

上品な振る舞いを崩す事はなく、どんな人へも温和に接している

固有オリジンは『炎舞』

これは一定条件を満たすと発生することの出来る技で、その効果は不可避の死とも言える

ついたあだ名は『豪炎の姫プリンセス・ナパーム

この他にも浮遊と加速のオリジンを持ち、それに裏打ちされた身体能力の向上はもはや並のオリジンでは太刀打ち出来ないものである


「咲樹か、1組も模擬戦だったらしいな」


「はい、まぁ今回もつまらないものでした」


「1組には八百神やおがみもいるだろ、それでもか?」


「彼もただのオリジン持ちにしては強いと言うだけです、固有オリジン持ちには敵いません」


「そんなもんかね」


エナドリをちびちび飲みながら会話を続ける


「ところで東雲、先月から報道されている連続殺人について、学校から通達があったのはご存知で?」


「あの最低ツーマンセルで帰れって奴か?まぁ犯人の狩場がここ周辺になったらしいし、妥当っちゃ妥当だな」


「ですわね、なので今日から私と帰りますよ」


「......は?」


息を吸うようにそう言ってきた咲樹に対しては、ただそう返すしか無かった


「なにか不満が?」


「いや別にないが、お前1組のヤツと帰れよ。強いんだから」


「問題ありませんよ、彼らは私に敵わないとはいってもそこそこの強さがありますから。ただ気になるのは...」


咲樹は1度そう言い淀むと...


朝霧あさきりという人がいます。彼は...」


「弱いか」


「...弱い?あれななんと言うか...」


咲樹は指先で食器の乗ったプレートをつつきながら、悩む様に目を伏せる


「オリジン自体は十数m半径の空間転移ワープ、ですが何か...裏に何かを隠している様な...」


左手をもどかしく動かし、なにか言い表せない物を無理して口に出そうとしている


「攻撃時に何らかの予備動作をしていたり、行動に何らかの癖がある......普段使いの能力を隠すと、その癖が如実に現れる」


「そうですね、ありそうなのは刺突か斬撃...その辺でしょう...それより恐ろしいのは、彼が孤立している事です」


「クラス内でか?」


頬張った食事を飲み込むと箸を置き、溜息を吐いて視線を滑らせる


「えぇ、彼の達観した様な態度はクラスの人間の気に障る様です。私としては、静かにしている彼の事は気に入っているんですがね」


「ならお前が着いてけばいいだろ、まさか通達に反してソロで帰らせる気か?」


「いえ...というか、家が真逆の方向ですので。帰ろうにも帰れません」


諦めた様に言葉を吐き、しかし言葉を続ける


「なので、貴方と2人で彼を監視し警護します」

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