ゲーミング・プラネタリウム

本庄 照

プラネタリウムは光らない

 それは実質、昼ではないか。


「いや、昼というわけでもないと思うんですよね。だって昼に空が七色に光りますか?」

「光らないけどさ。昼のプラネタリウムって何?」

「さあ?」


 ゲーミング・プラネタリウムを作りたいと言い始めた張本人の茅原かやはらが、困ったように笑って首を傾げる。僕もどう返せばいいか分からない。僕と茅原の間に生ぬるい静寂が流れた。身の置き所がない無言だが、かといって何も言えない。

 プラネタリウムは、夜空に美しく弱い光が浮いているのを楽しむものであって、光の強さを競うものではない。そもそもプラネタリウムは光らない。パチンコ台ではないのだ。


「……バズりたい、ってやつか?」

 根負けしたのは僕だった。

「ゲーミング・プラネタリウムってバズる要素ありますかね? 私はバズらないと思います」

「ただただ、星を光らせたいのか? 狂ってやがる」


 毒づく僕に、茅原はにこにこ笑っていた。彼女が狂っているのは最初からだった。有名な大学と、その大学院を卒業した茅原は、新卒でド田舎の小さなオンボロ科学館に就職してきて、有名な科学館のおさがりを導入したプラネタリウムの担当になった。それまでのプラネタリウムのスタッフは、恐ろしいことに常勤は僕しかいなくて、それ以外はパート事務のお姉さんが客の誘導をしてくれる程度だった。


 茅原は僕にとって初めての後輩だった。僕は人と接するのが好きではない。後輩を受け持つように上司に言われた時には、思わず顔に出たようで、上司に窘められた記憶が残っている。

「よろしくお願いします!」

 配属されてきたのは声のデカい女性だった。そしてよく喋る女性だった。


「プラネタリウムスタッフになりたくて、ここに応募したんです」

「ここ、映せる星の数は少ないよ。もっと大きい科学館に行けばよかったのに。今どき、十億個の星を映せるプラネタリウムだってあるんだから」

「でも大きい科学館だとプラネタリウムを直接選べないんですよね。それはちょっと嫌だなと思って。ここはプラネタリウムのスタッフになりたいと指名できる科学館なのが、いいところだと思います」

「そんなに星が好きなのか」

「たぶん」


 意外にも、茅原は歯切れ悪く答えた。僕はそれ以上突っ込むのが怖くて、また静寂を作った。平日の開館直後で、プラネタリウムの一本目のプログラムの前、そして常設展示には全く人がいなかった。空調の音だけがしていた。


 僕は人と接するのが苦手な割に、茅原に丁寧に仕事を教えた。

「うちは古い光学式プラネタリウムだ。光学式プラネタリウムって分かる?」

「恒星球の中に電球があって、その光がドームに映し出されるやつですよね」

 茅原はプラネタリウムを志望していただけあって、確かに知識があった。飲み込みも早かった。彼女が入職して三か月で、もう教えることはなくなった。


 そのうち、プラネタリウムのプログラム解説アナウンスさえも任せられるかもしれない。なにせよく喋るし、今日の星空案内から、天文史トークまで、何でもこなしそうだった。

 そうなれば、もはや僕と全く同じ存在である。

 ここに入職して四年目の僕に、入職間もない茅原が追い付きそうだとしても、全く嫉妬は湧かなかった。むしろ、頼もしい存在だった。


「ゲーミング・プラネタリウムってのは具体的に何?」


 プラネタリウムでは、定期的に新しいプログラムを作る。大抵はその時の天体に関する時事ネタ、たとえば日食や彗星、超新星爆発といったネタだ。大学を卒業して、二年だけ勤務した前職の科学館のプラネタリウム部門でプログラム作りを学んだので、多少のプログラムは僕が自前で作れる。しかし一人で作るとネタが切れるので、僕は茅原にアイデアを求めた。茅原が出してきたアイデアが、『ゲーミング・プラネタリウム』たる何かだった。本当に何なんだ、それは。


「そのままですよ。ぴかぴか光るんですよ。夜空が。七色に。ハーバード分類上も、色は七種類あるじゃないですか」

「……あれを七種類の色と言ったら詐欺だろ」

 青白ミンタカリゲルシリウス黄白北極星黄色太陽ポルックス橙赤ベテルギウス。七色ではあるが、これを七色と銘打って宣伝をしたくはない。

「存在しない色を表現するわけにもいきませんしね」

「光学式プラネタリウムで可能だと思う?」


 茅原は頷いた。ハロゲンランプの火力を上げればいいとのたまった。まあまあまあ、うーん、まあ理論上不可能ではないのだが、うちでは不可能である。


「しかしだな、ハロゲンランプの火力をちょっと上げた程度で、星はぴかぴかとは光らないよ。ていうか、ハロゲンランプの光度を火力﹅﹅と表現するのもどうなんだ?」

「頑張ればいけますよ」


 茅原は様々な工夫を教えてくれた。ギリギリうちでも不可能ではない、まあかなり機材管理が面倒くさそうになりそうだが、理論上、不可能ではなかった。

 ――つまりほとんど不可能だが、茅原がどうしてもやりたがったということだ。


「ミラーボールを置いてもいいですよ!」

「それだけは、それだけは勘弁してくれ!」

 持っているのか? まさか茅原、お前は自前でミラーボールを持っているのか?


「星が多少光ったところで、ゲーミングというのもいかがなものかという話だし、光らせてどうしたいのかもよく分からん。茅原はなんでゲーミングにそんなにこだわるの?」

「めちゃくちゃ光ってる星って素敵じゃないですか?」


 僕は首を傾げた。それぞれの星はそれぞれの星なりの光度があるから美しいのである。茅原が何を言いたいのかは分からなかったが、好きに喋らせておけば趣旨くらいは分かるだろうと思って、僕はそのまま続きを促した。


「死んだ人って、星になりますよね」

「ならないよ。たいていの場合、地球から見える恒星の光は、ガスの燃焼に伴う光だ。それも可視光が偶然にも地球まで届いているだけだ」

 夢も希望もない答えなのは知っているが、僕にも専門家としての矜持がある。舐めた言い回しはしたくなかった。


「北浦さんっぽい答えでいいと思います」

「思ってないだろ」

 僕がいくら毒づいても、茅原は気にする様子を見せなかった。むしろ僕が毒づくと、いつもに増してニコニコ笑う節があった。僕は気味が悪くて仕方がなかった。


「北浦さんって、父っぽいんですよね。だから、北浦さんと喋るの楽しいんです」

「どこが似てるの?」

 知らない人物と比べられるのは、不愉快ではないのだが、少し怖い。自分の思いがけないところを見られているのではないか。そんな気がするからだ。

「うちの父にも、同じことを聞いたことがあるんです。北浦さんと同じ答えでした」

「……可視光のくだりも?」

 だとしたら、彼女の父は星が好きなのだろう。


「はい」

 茅原は笑顔で頷いた。本日一回目のプログラムは、客がいなかった。驚くべきことではない。何日に一度かはある。念のため、プログラムだけ上映を開始する。解説は入れない。僕はマイクのスイッチを切って、古い丸椅子に座らせた茅原に尋ねた。


「プログラムの原稿、喋ってみる? 誰もいないし、好きに喋ればいい」

 私はプログラムの原稿を渡す。茅原は顔を輝かせて頷いた。初めてプログラムをアナウンスする彼女は、喋るだけで精いっぱいなので、ドームに映すレーザポインタだけは僕が操作した。


 彼女は普段の明るい声ではなく、低い声で話しはじめた。僕には意外だった。少し子供っぽい、彼女の普段の話し方のほうが、恐らく客は寝ないだろうに。


「そんなかしこまらなくても、いつも通りの喋り方でいいよ」

 私が囁くと、彼女は無言で首を横に振った。


 果たして茅原は、一つも間違えずに原稿を読み切った。やはり喋るのが上手い。この道六年目の僕でも、噛むときは噛む。そして僕は、ぼそぼそとしか喋れない。

 彼女の実力はもう、僕よりも上かもしれない。僕は思わず微笑んだ。彼女の成長が嬉しかった。


 次のプログラムまでの時間、僕は立ち上がらずにドームの中でのんびりと過ごしていた。ゲーミング・プラネタリウムとかいう狂った企画の話の続きである。


「どこまで話しましたっけ」

「死んだ人が星になるかどうか、かな」

「そう、そうでした。もし死んだ人が星になるとしたら、それってちょっと可哀想だと思うんです」

「……可哀想?」

「人間は星に意味をつけたがりますよね。太陽は暦にすらなっていますし、ほとんど動かないとされる北極星もそう。そんな大した星じゃないのに、地球に近いだけで全天で最も明るい星に認定されてしまったシリウス。他もそうです。三角が作れるだけで有名になったベガ、アルタイル、デネブ。オリオン座のベテルギウスとリゲルは有名なのに、オリオン座三つ星のミンタカは誰も知らない」


 僕が言おうとして引っ込めた話、そのままだった。

 僕は彼女に、毒のつもりでこう言おうとした。

 —―死んだ人が星になるとしたら、北極星は誰の死なんだ?


 北極星という、かつての地球人から大いに利用されてきた星は、いったいどれほどの偉人の死によって生まれた星なのだろう。たとえ偉人と言っても、しょせんは地球人の中の指標にすぎない。

 死んだ人が星になる。それは純粋な概念のようでいて、恐ろしく地球人にだけ都合のいい、傲慢な指標だ。


 星の全てが、人間の傲慢な指標から成り立っていると言っても過言ではない。黄道十二星座だってそうだ。偶然にも太陽の経路にある星座を十二個並べて一周させているが、その星座の選び方は、明るい星のある星座という、極めて恣意的なものである。

「私もそれ、思ってました。マイナーな星座は、黄道十二星座には加えてくれないんだなぁって。変な星座は占いには入ってこないんですよね。かみのけ座とか」

「……星占いに『かみのけ座』があったら、ハゲの人が可哀想だろ」

 占いに使えるような当たり障りない星座を選んでいるのは確かだろうが。


「でも、私は死んだ人が星になるっていう考え方が好きなんです。だって、空を見上げたら、私だけが辛いんじゃないんだって思えるから」

 嫌な予感がする。どうせ勝手に喋る後輩なので、僕は何も映っていないドームを見上げながら、黙っていた。

「そこでゲーミング・プラネタリウムですよ」

「は?」

 ダメだ。こいつに勝手に喋らせたら、話が飛ぶ。


「つまりですね、全ての星を、平等にぴかっぴかに光らせたいんです。一等星はマイナス三等級くらいに。八等星も、二等星くらいにしたいですよね!」

「はぁ……」

「たくさんの星をいっぱい光らせて、どの星も、どの死んだ人も、みんな平等にしたいんですよ。せっかくだからいろんな色も付けたいですね」

「言いたいことは分かった。納得できないけど、分かりはした」


 それでゲーミング・プラネタリウムの企画が通るとは全く思えないので、何か言い訳を考えなければならないだろうな。それが私の最初の感想だった。

「企画の通し方を教えてあげるから、茅原が通しなよ。いつか、君が一人で企画を立てて通して、プログラムを組んで原稿を書いて読まなきゃいけないんだから」

「それは、いつか北浦さんがいなくなるってことですか?」

「……え?」

 ドームの中は静かで、空気の流れは何もない。しかし確かに、風向きが変わった。


「な、なんで?」

「北浦さんは四年目で、前の科学館の経験も含めると六年目でしょう。この業界の中では、めちゃくちゃ若いですよね。しかも常勤。なのに、すごく急いで私に仕事を教えているように見えます」

「……そりゃ教えるでしょ。後輩なんだから」

「入職して半年も経っていないのに、企画の通し方やプログラム解説までさせようとする」

「……それは、君がよくできるから」

 パワハラとか言われるのだろうか。僕の背中に嫌な冷や汗が流れた。


「できないですよ。私は、何も。ゲーミング・プラネタリウムはやりたいですけど」

「そりゃ一人でゲーミング・プラネタリウムなんて誰にもできないよ。でもアイデアは、めちゃくちゃ狂ってるけどなんとか可能だし、可能にする案も悪くない」

「教えてくれるのは嬉しいですけど、私を置いて辞めるのだけは困ります」

「なんで?」

「星を一人で見るのは嫌だからです」


 彼女はきっぱりと言った。今年の春まで、一人でプラネタリウムを切り盛りしていた僕に向かって、そう言った。

「北浦さんは一人が好きかもしれませんけど」

「偏見だね。当たってるけど」


 僕は星を一人で見るのは嫌いではない。むしろ、星ほどソロで楽しめるものが他にあるだろうか。真夜中に人を誘うのは面倒くさいし、星を見に行ったところで空は曇っているかもしれない。そんなギャンブルに人を呼びつけられるほど、僕は人付き合いが得意ではなかった。


「一人って、寂しいじゃないですか」

「ああ、茅原は喋る相手がいないと辛そうだもんな」

「だいたいそういうことです。星もそう。寒いのに外にわざわざ星を見に行って、プラネタリウムもそうですけど、隣に誰もいないんだと思うと、寂しくて涙が出るじゃないですか。泣いちゃうと星って見えないし」


「誰の話してるの?」

 恐らく、彼女は意図的に触れないようにしているのだろう。でも触れたいのだろう。それは自分の心のために。一人で抱えきれていないのだ。

 彼女はその人のことを思い出したくて、しかし僕の前で思い出すのは良くないと、僕に遠慮しているのだろう。暗い話をしてはならないと思っているのだろう。彼女の言動は何も不愉快ではないが、明るい彼女が僕には不憫に見えた。


 どうせ僕はうまく返事もできない。言葉も上手くない。しかしここは、どのみち暗いプラネタリウムなのだから、暗い話をして何が悪いんだ? 暗い話は我慢するものではない。星の淡い光が、僕らを穏やかに照らしてくれる。いくらでもすればいい。誰しも、抱えきれない暗い話を持っているものだ。


「……父です。四年前に亡くなった」

「君が星を好きなのは、お父さんの影響?」

「たぶん。でも私は、星じゃなくてお父さんが好きだったのかもしれません」


 彼女は幼少期から、父親によく星を見に連れていかれたという。子供に夜更かしさせるとは何事だと僕は思ったが、静かに聞いていた。眠いし、暗いし、寒いし、雲がかかっている時もある。父とは仲の良かった茅原だが、あまり星を見るのは好きではなかった。父の解説を受けて、星には詳しくなった。しかし詳しいだけだった。


 茅原は、突然の病気で、父親を失った。父を思いだそうと、いつもの天体観測スポットに行った。

「寒かったんですよね。夏なのに。寂しかったんです。私は」

 一人で星を見ても楽しくなかった。父と一緒に見ていたあの時間は、一人で星を見ることに比べたら圧倒的に楽しかった。茅原は父と真剣に星を見なかったことを悔やんだ。


「父はね、死んだ人は星にならないって言うんです。でも私は、父に星になっていてほしいんです。絶対に星になっていない人を、私が星にしたいんです。父が死んでから、私は周囲の人が嫌いになりました。私と同じ思いをしたことないくせにって」

「僕も、母が死んでるから分かる」


 彼女の気持ちは痛い程にわかる。どうして自分が親を失わなければならないのだろう。寂しいという感情の他に、せわしない気持ちが永らくあった。誰かを心配したくなる、落ち着かない心持ちだった。心配したくなる相手が誰かは全く分からない。死んだ母かもしれないし、自分かもしれない。


 親がいてずるいと周囲を羨みつつも、周囲の人に同じ気持ちを経験してほしいわけではない。ただ、理解してほしい。でも理解してくれる人は、極めて少ない。親を失うことは悲しいことだ、という概念すら、一般的なものではないからだ。失うのが耐えられないほどの親がいることは、恵まれている。親を失う話は、得てして他人の地雷にもなりうる。


「プラネタリウムは、ハロゲンランプの光を小さくドームに映したものでしょ。だったら本当の星じゃないですから。プラネタリウムの星なら、ぴかぴか明るくしてもいいと思うんです。死んだらみんな一緒。一緒に平等に明るくしたいんです」

 平等、という言葉を茅原は使った。人は平等ではないし、人の死すら平等ではない。人を失った喪失感は、あまりにも平等ではなさすぎる。そして星の光も平等ではない。

 だがプラネタリウムは星の光を平等にできる。逆転の発想だ。笑いがこみ上げてきた。


「それ、プログラムでどう喋るわけ?」

「なんとかします。私が喋りたいので、私が原稿書きます」

「……一応、原稿見せてね」

 僕は途端に不安になった。こいつに勝手に喋らせる恐ろしさは、さっき知った。


「北浦さんの喋り方は、父の喋り方にそっくりなんです。考え方も似てますけどね。私もあんな風にプログラムで話したいんですが、ちょっと難しくて。でも、少しでも近づけていきたいです」

 僕は驚いた。眼鏡が鼻先にずり落ちた。僕のぼそぼそとした喋り方は、自分ではそんなに好きではなかった。他人に認められることがあるなんて、思いもしなかった。


 僕はここを辞めて、地元に帰ろうと思っていた。人と接するのが苦手な僕も、母がいないという孤独になんとなく耐えられなくて、星の美しい地元で家族と過ごそうかと思っていた。人と接するのが苦手な僕は、人を失った喪失感を家族以外では埋められそうになかった。


「北浦さん、絶対に辞めないでください」

「君もね」

「私は辞めません」


 僕がここに来たのは四年前だ。このプラネタリウムの前任の空きが出たのが四年前で、入職時から僕はたった一人だった。星に詳しい茅原の父親が死去したのも四年前だという。その数字の一致に意味があるのか、僕はそれ以上の詮索をしなかった。


 それよりも。


「本当にやるの? ゲーミング・プラネタリウム……」

「やります。この科学館の限界を知りたいので」

 いたずらっぽく茅原は笑った。ならば僕も立ち上がるしかない。僕も科学館職員、そして科学の子だ。僕の手で機材の可能性を広げられるなら、広げたい。好奇心は人並み以上に旺盛である。


 不可能ではない、という僕の見立ては間違いではなかった。生半可ではなかった。しかし、どこかの有名科学館のおさがりの老体プラネタリウムに鞭打って頑張らせた結果、ゲーミングと銘打っても(他所よそのプログラムと比較すれば、少々ゲーミングであるという意味で)ギリギリ石を投げられないプログラムになった。


「つけますね」

 彼女はプログラムのスイッチを入れた。僕はゲーミング・プラネタリウムを初めて目にすることとなった。

 全天の星、まばゆい数の星がぴかぴかと光った。

 デネブ、アルタイル、ベガ。北極星。リゲルにベテルギウス。全天で一番明るいシリウス。二十一の一等星や有名な星々すら、どこにあるか全く見当がつかない。あまりにも他の星が明るすぎるためである。それを見た瞬間、寂しさがすっと消えた。


 星は一つだけではない。死んだ人の数だけ星はある。愛しい人を失ったのは自分だけではない。このプラネタリウムの中だけでも二人いる。地球には星の数だけ、人の死を悼む傲慢な地球人がいる。半ば無理矢理に、納得させられたような気がした。

 こんなに星が明るく輝いていたら、どんなに暗い話をしても明るくなってしまいそうだった。


 —―眩しい。

 

 眼が感光するかと思った。僕の細い目に入る光が、あっという間に限界を超えた。僕は眼鏡を思わず取って、涙を服の袖で拭いて笑った。

「やっぱこれ、昼じゃないか? 昼の亜種だよ、これは」

「そうですか? バズりますかね」

「それは……無理じゃないかな」


 なにせここはド田舎の、小さな科学館である。

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