第7話 ヤバい奴らと五月と変態と 雪まつりパート3
「どうりで今日は混雑してたのですね」
看板にデカデカと雪まつりと書かれてある。もちろんここもリサーチ済みだ。この場所はちょっとした恋愛スポット。そこで上手いこと雰囲気持ってってあわよくば……
ゲフンッ、いかんいかん。欲を出しすぎたら変に勘付かれる。女のセンサーは敏感なのだ。
「ゲッカビジンが道に沿って咲いてます! 綺麗ですねぇ……!」
雪に重なる様にゲッカビジンが咲き乱れている。昨年、地域の人達が花壇にカレンダーのフィギュアを植えたらニョキニョキと生えてきたらしい。これも温暖化のせいだろうか?
「おっ、なんか屋台やってるなぁ。覗いてみるか」
「この屋台は、焼きそばですね! うわぁいい匂い……!」パシャパシャ
「焼きそばかぁ。自分はチョコソースかけて食べるのが好きだなぁ」
「さっきから味覚狂ってるんですか?」
本人に聞いてみたが、やたらと食べ物の写真を撮る理由、それはウィンスタに載せるためらしい。
「美味しそうですねぇ、フーフー!」
初対面の時から思ってたけど、猫舌なんかな。フーフーして冷まさないと食べれない的なやつ。可愛い。
「五月ちゃん可愛いよハァハァ」コソコソ
「五月ちゃんに寄り付く害虫(男)を排除せねば」コソコソ
それはそれとして後ろの茂みでコソコソしている五月のストーカー。なんとかならないだろうか。
あとで五月連れて警察連れてった方がいいのかもしれない。ストーカー排除は出来ないにしろ、相談は出来るだろう。
「すみません。お手洗いに行きます」
「ん? ああ、それじゃ俺も」
◇
軽い用を足しただけだったので早めに出られた。女子トイレには行列が出来ている。これは長くなりそうだ。
とりあえず適当に辺りを散策してみよう。絶好のデートスポットとかありそうだし。とは思ったが、背後が穏やかじゃあない。誰か来るな?
「やはり最初のカフェで様子見せず、潰せばよかったのだ」ブツブツ
「俺達の五月ちゃんを返せ!」ガサッ
「少し容姿がいいからって身の程知らずな髪型ツーブロ細マッチョよ。生きては返さぬ」ブツブツ
「我ら五月親衛隊が成敗してくれる!」
左から参謀風な格好の男と目がラリってる男と侍風の木刀を持ったオカマが茂みからゾロゾロと出てくる。
自ら出てくるとは手間が省けた。自らの手でストーカーをぶちのめせしてやる。
「はっ。五月のストーカーの癖に大層な組織名だな。いいよ、こいよ。はっ倒してやる」
◇五月親衛隊三名が小坂一樹に勝負を挑んできた!
最初に飛びかかってきたやつに発勁をみぞおちへぶつけて意識ごと吹っ飛ばし、次に二人同時で来た奴らをラリアットで蹴散らして撃退した。
最初に発勁して吹っ飛ばした奴は気絶してるだけで命に別状は無いだろう。しかし、五月親衛隊と名乗ったコイツらが何故俺に襲いかかってきたのか……?
もしかして五月じゃあなく俺が狙われてる? いや、無い。絶対無い。そんな恨まれるようなことしてないし。
とりあえず動けないだけでまだ意識がある二人に尋問してみた。
「おい五月のストーカー。どうしてこんな酷いことをするんだ?」
「ストーカーではない!」
「なに?」
「私達は五月ちゃんを24時間見守っているのだ」
「ストーカーじゃねえか!」
「五月ちゃんのうなじをスースーするまで死ねないのだ!」
「五月ちゃんにはまだ認知されてないけど、いずれ五月親衛隊は結婚するっ!」
ああだめだコイツらまるで何も聞いていない。
もういい。話してたらこっちまでおかしくなりそうだ。俺の手に負えない。襲いかかってきた奴らはおとなしく警察に引き渡した方がいいだろう。
彼女に何かあっては遅いのだ。実際襲ってきたわけだし。ひとまずスマホに手をかけた、その時。
俺の右腕に何かが刺さってきた。ほぼ同時に血がポタポタと落ちていく。それを認識したら今度は……
痛ったぁ!?
「アギャぁぁぁぁぁぁぁ!?」
なんだ!? 矢、不意打ちか!?
あまりの激痛に耐え切れず、地面に座り込む。そのあとなんとか矢尻を抜いたが、痛みで冷や汗が止まらない。
矢って腕に刺さっただけでもこの激痛なのか。そりゃ戦国時代とかで採用されるわけだわ。
一体誰がこんな事を……周りを見渡してみると、大木がある場所に一つの人影と弓が見えた。朧げだが遠くからでも独り言が聞こえてくる。
「ちっ、この程度のかすり傷で騒ぐなよ。情けねぇ」
よーしわかった。今からそんな事ほざいた奴に直接矢をぶっ刺しに行こ。お前にも俺と同じ目に合わせてやる。他人の痛みを知りやがれ。
◇
「ごめん。遅くなった……」
「どうしたんですか!? 傷だらけじゃないですか!?」
「ああ、大丈夫。ちょっと暴漢に集団で襲われてただけだ」
「ええっ……? 治安悪いですねここ」
あれからクナイを避けたり、爆弾に引っかかったりしながら数十人を撃退してなんとか帰ってこれた。全身傷だらけだが……死ぬかと思った。五月のストーカーこんなに居るとは聞いてない。
五月は困惑しながらオロオロして俺のことを心配していた。彼女のカバンからいつも持ち歩いているという緊急用の医療キットを使って、さっきあちこちに出来た傷の消毒や絆創膏も貼ってくれた。
「なんであんな奴が五月ちゃんの施しを受けてるのだ」コソコソ
「処す? 処す?」コソコソ
五月のストーカーは大分排除したはずなのに、ウジのように湧くな。それと今更だけど、茂みに隠れてるのバレバレだよ?
◇
あれからなんとか動けるようになったが、逆に言えば動くだけで精一杯。もはや周りを気にする余裕すらない。
「本当に大丈夫ですよね?」
「ああ、大丈夫だ。少し頭が痛いだけ……って、ゲッ!?」
雪まつりで同人誌を売り捌いている奴が見えた。ていうか知り合いで今、一番会いたくない筆頭に当たる外見的には緑髪のショートヘアーでメガネの学級委員長。中身は数多なカップルを怨恨で粉砕してきた女性であった。
もうほんと。今日だけで色々あるのに、なんでコイツとも出くわすのか。カップルクラッシャー鈴木。胡散臭い顔でNTR本を宣伝している。公道で。
「我が同士のNTR本も入ってるでござる!」
もう嫌だ。今日何回変なのと遭遇しなければいけないのか。偏頭痛がするから休ませてほしい。
せめてもの救いなのは寝取り魔田中がここにいない事か。昨日別の場所で受け子として同人誌売り捌いていた時、本人が『風邪気味っす』とか言ってたし今日来てないのはそれかもしれない。
カップルクラッシャーだけなら大したことはない。なんてったってまだ五月とは付き合ってないから。つまりクラッシュする対象が居ないのだ。
寝取り魔だったらヤバかったが、カップルクラッシャーは最低限の線引きがされてある。まだなんとかなる。
「これはこれは、奇遇でござるな一樹殿! 随分とボロボロな服装してますな。我は女性でありながら服装に疎いものですが、これももしかしてファッションでござるか?」
「これはこれで野生的だろ?」
「そちらの綺麗なお方は彼女ですかな? ふむふむ、どこかで……」
「違う。断じて違う。神にも誓って違う」
鈴木の問いに断腸の思いでこう返した。本音と建前の建前を使った。本音は『可愛いし今すぐ付き合いたい』
「すみません。話についていけてないのですけど、そちらの女性はあなたの知り合いですか? というかあなたどこかで会いました?」
ああ、そうだった。今は五月もいるんだった。どうする俺。コイツの本性というか変態性を暴露したら絶対引かれる。なんとか誤魔化さねば。
「知り合いだけど、君は関わらない方がいい。カップルクラッシュされて寝取られるぞ」
「何を言ってるんですか?」
怪訝な表情でカップルクラッシャー鈴木を見つめている五月を見て、俺は思わず頭を抱えた。隠し通せる自信がないどうしよう!?
よしここは、奴の痛い所を突こう。
「それより、お前絶対ここの使用許可取ってないだろ。だってこんな公共の場で、子供が絶対見ちゃダメな本売るの行政が許可するわけないし」
◇ アンティーク雑貨や中古本、古着を扱う場合は、『古物商許可申請』が必要です。新品未開封品であっても、一回取引が行われたものは『古物』になります。この部分を知らずに『アンティーク雑貨ではないから』と、未申請で販売をはじめてしまうと違法となるため注意が必要です。古物商許可は各都道府県の公安委員会に申請しますが、実際には所轄の警察の生活安全課に書類を提出することになります。
「すまないでござる。サークル代の足しになればいいかとよかれで……」
「そうか、ありがとう」
サークル代を稼ぐ目的ならば何も言うまい。彼女の根は献身的な性格、嫌いじゃないぜ。
触らぬが仏。何も見てないし、何も無かった。精々、祭に来ている人がアレにお金を落としてもらえばいい。
◇他人には厳しく、身内には優しい。小坂一樹。
黙れナレーション。政治家なら他人にも優しくしなきゃならないけど、俺は別に政治家じゃあないんでいいんだよ。身内贔屓して悪いか?
それに今回は好都合なのだ。カップルクラッシャーがあの店に居座る。つまり、今日デートの邪魔されないということだから。
雪まつりに来てる人達には心苦しいが、NTR本の餌食になってくれ。
「あ、あの……さっきの人はどういう関係ですか?」
「ん? ああ、サークル仲間だよ。大学のね」
危なかったがなんとかなったぞ。これでやっと落ち着け……あれ?
身体が重い。頭痛も酷い。これはまさか……
今は低気圧で天候は雪。それに加えて今までの蓄積ダメージ。悪い条件が整っている。しくった、事前に薬飲んどくべきだった。
クソっ、今ここで倒れるわけには……
バタンッ
そこからの記憶は無い。
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