第2話 サークル仲間と高校生と

 小顔で細く華奢な首。明るめのブラウン髪なロングヘアをサイドテールで纏めている。身長は成人女性の平均よりやや短めぐらい。


 出るところは少しだけ出ていて引っ込むところはこれでもかと引っ込んでいる。胸以外は完璧なプロポーションの子とカフェへ来ていた。


「そうかぁ、〇〇大学に……つまり俺の後輩?」


「そうなりますね。推薦だったので受験も比較的楽に済みました」


 先程の興奮した顔はどこへやら。済ました顔で五十嵐五月と名乗った彼女は、俺が通っている大学に来年から通うらしい。偶然も偶然だ。

 

 年齢的に俺の一つ下で、妹の一つ上か。服装的に高校生だとは思っていたが。案外、妹とはどっかで会っているのかもしれない。


「それにしても、王子様という初恋を探していたって」


 まごうことなき少女漫画脳。いつか初恋の人が現れると思っている少女漫画脳。もしかしたらこの人もめんどくさい性格かもしれない。


「愛読書きららだったりする?」


「BL系です」


「ああ、イケメンがたくさん登場してそいつらのイチャイチャを楽しむあれか。固定概念に囚われていない、精神的な真の恋愛って感じでいいよなぁ」


 咄嗟に話を合わせたら、彼女が目を輝かせながらグイグイと語り始めた。うんうん、食いついてきた。多分だけどこの子、好きなんだなぁこれ系が。


「そうなんです! 特に美少年と年上男性の組み合わせが好きだから目の保養になるんですよ! 貴方、分かる人ですね?」


 自分が誘った手前なんだけど、初対面なのにやけにグイグイ来るなぁ。まあこちらとしても好都合だけど。もうこの際、乗っかってみようか。


 そんな感じでBL談義が捗って数十分。注文していた飲み物が運ばれてきた。


 すりと彼女は飲み物をいろんな角度で写真に収め始めた。写真好きなのだろうか。あとで趣味とか色々聞いておこう。


 ここのカフェは新感覚。ロボットとコーヒー豆がアカミミガメと融合したキメラが店長をやっている。特におすすめなのはコーヒー。店長の口から直接コップに注がれるだけあって美味しいらしい。


「フーフー!」


 アッツアッツなコーヒーをフーフーして冷まそうと悪戦苦闘してる仕草もかわいい~。絶対彼女にしよう。うん、そうしよう。


 しかし、大学生と高校生が付き合うってアリだろうか。何か問題になりそうな気がする。いやでも、俺は大学1年生で彼女が高校3年生。大丈夫だろう多分。師匠も肯定してくれるはずだ。


◇まだ付き合うどころかほぼ初対面なのに体裁を気にする小坂一樹なのだった。



 うるせえよナレーション。妄想するのは勝手だろうが。まあいい。今日は、連絡先を交換するのを目標にしよう。当面はじっくり攻略していく。



◇一樹は密かに決心した。そんな時だった。彼にとって馴染みが深い人物らが入店してきたのは。



 おいナレーション。なんだその不穏な……って、アイツらは!


「心身震える花弁雪が舞う今日。フフッ、口上が決まったでござる!」


「姉妹丼食いたい犯したい」


 モヒカンサングラスのチンピラ雑魚風な奴と、女性でクラスの委員長的なビジュアルで緑髪のショートヘアー。奴らは間違いない。アイツらは大学生サークル仲間の『男女問わず寝取り魔モヒカン田中』と『カップルクラッシャー鈴木』要約するとめんどくさい奴ら。


 ていうか、何故よりにもよってこのカフェ内に来るんだよ。お前らの居場所は同人誌だろ。


「今日はどのカップルを寝取るっすかね?」


「先にカップルを潰すのが順序が先でござる。それより唐突に二俣先輩に呼び出しくらったけどなんでござるかね? また純愛ものでござるかね?」


 我が親友、二俣ぁぁぁ! 心の中で絶叫。やりやがったなこのやろう。よりにもよってこの2人をカフェに呼び出すのか!


 にしてもなんて間の悪さだ。彼女にしたい人がいる時ってのに。アイツらと邂逅したら厄介だ。カップルと疑われたらカップルクラッシュされて寝取られる。


 この時間を邪魔されたくない。潰すか(決心)


 幼稚園児の頃から習っている拳法を駆使すれば簡単に制圧できるだろう。でも、それやったら店や彼女に迷惑がかかる。ならばここは穏便な方法で終わらせる!


「んお。田中殿見てください。我が同胞小坂殿がまた新しい娘連れてますゾッ!」


「犯す? 寝取る?」


「「キャハハハハッ!」」


 二人は俺たちを指差したあと、何かを喋っている。会話の内容は容易に想像できるが。


「チッ、気づかれたか」


「あの……あそこの人達は貴方のお知り合いですか?」


 彼女がどうでもよさそうな表情であの2人を見ながら聞いてきた。アイツらのこと、なんて説明すればいいだろうか。とりあえずさらりとぼかしながら説明した。


「そうだなぁ一応。アイツら大学のサークル仲間でさ。多分野次馬に来てるんだと思うんだ。うるさくてごめんな」


「は、はぁ」


「少しだけ待ってて。ちょっと穏便に黙らせてくるわ」


 彼女との会話を中断せざるを得ない状況に腹を立てながらも、作り笑いをしながら奴等に近づいていった。



          ◇



「よう、寝とり野郎とカップル破壊魔。数日ぶりだなぁ。さっさと帰れ」


 軽く苛立ちながらも穏便に帰ってくれるよう2人に話しかけた俺。しかし2人はそう簡単に引き下がってくれなかった。彼等は彼等で寝とりとカップルクラッシャーを生きがいとしているからだ。


「あれは誰でござるか! リア充撲滅! リア充反対!」


「うわぁ、ハスキー声で叫ぶのやめろ鈴木。偏頭痛に響く」


 こうなったら仕方がない。あまり使いたくはなかったが、この手段を取るしかない。


「お前ら、コレを」


 俺は懐の中から、一枚のチケットと本を取り出した。途端に食いつく2人。興味を持ってくれてよかったと思いつつ、これらを2人の目の前でヒラヒラさせた。


「小坂殿、こ、これは……!」


「そうだ。一夜限りの夢を体験できる店の半額クーポンだ。さらにお前らのドチャシコタイプな同人誌をくれてやる」


 2人は眼を充血させてゴクリと喉を鳴らした。ほらほら食いついてきたぁ。あともう一押しだ。



◇子供にはまだ早い可愛い子達が集まる店の割引券である。ちなみに小坂一樹も愛用している。同人誌はNTR系。


「何故お主がこのようなものを」


「ああ、それに手を出すきっかけは前の彼女に三股された時だった」


「それで目覚めたと?」


「NTRされたのはショックだったし、怒りに震えた。でも、それは置いといてNTRに興奮する俺がいたのも事実だったからな」


「小坂殿も業が深いんでござるなぁ。人類の敵だと思ってたけど訂正しますブヒ」


「今日邪魔しないんだったら、後日コレをくれてやる。要らないとは言わせねえぞ。コレでダメなら俺の発勁をここでくらわすことになる」


 今ここに居ない二俣には悪いが、コイツらが居ても邪魔される未来しか見えない。二俣には悪いが、今日のカフェは使用禁止だ。


「おっと、今は渡さねえぞ。受け取った上で裏切る可能性が高いからな。特にカップルクラッシャー鈴木。お前は世に蔓延るカップルを妬む心を原動力にして関係破壊工作するような奴だからな。危険だ」



 こうして危険な2人追い出し大作戦は彼女の知らぬそこで密かに成功に終わった。



◇その後



「せっかくだし、連絡先交換しようか」


「そうですね。しましょう」


 そんなこんなで割とあっさりと連絡先を交換。次に会う日を決めてから俺たちは解散した。偉大な第一歩を踏み出したそんな日だった。


 ただ、気がかりなのは彼女がカフェに入ってから終始テンション低め。よく言えばクールな表情だったこと。王子様候補と言っておきながら。


 いいじゃないか。その可愛いクールな顔を直ぐに赤くしてやる。数人の彼女と付き合ってきた男を舐めるなよ!


 帰ったら早速、色んな奴ら呼び出して作戦会議をしよう。頑張るぞ!

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