第3話 一夜限りじゃない子と接する方法を教えて欲しい+妹

◇小坂家にて



「一夜限りじゃない子と接する方法を教えて欲しい」


 そんなお願いを友人に頼んだ直後、俺の頭に衝撃が走った。物理的に。


「イッタァァッ!?」


 いきなり丸く纏めた冊子でぶっ叩いてきた。そのあと二俣は怒気を込めた声で言った。


「練って捏ねてしばき回すぞ」


「もちの作り方?」


 なんか怒ってるこの人は二俣愛斗。俺の親友にしてナンパ師の師匠の弟弟子だ。ついでに田中と鈴木も創作しに家に来ている。


「開口一番なんだこのふざけた相談は! ていうか、第一お前彼女いただろ。また鞍替えするつもりなのかよ!」


 ああ、そういえば二俣は自称純愛主義者だったっけな。それならこう言えば納得するだろう。


「うん、だってアイツ三股してたし。もう別れたぞ。元々ノリで付き合った関係だったしなぁ」


(すがっすがしいほどのクズだ。一度付き合ったなら最期まで添い遂げる誠意はコイツには無いんだろうな)


 二俣は暫く考えた後、こんな事を言い出した。


「僕が確認してるだけでも5人目じゃないか。どんだけ取っ替え引っ替えしてるんだよ」


「一夜限りだったらもっといるぞ」


「聞いてえねよ」


 よくよく振り返ってみたが、今まで付き合ってきた子は大体ビッチかアバズレしかいない。それ故に会話は変態エピソード言っとけばなんとかなっていた。


 しかし今回は、今回は……多分彼女の性格的になんとかなりそうにないタイプなんだもの。


 だから相談話を持ちかけているのだ。何か悪いだろうか?


「とにかく、この事を頼めるのはお前しか居ないんだ! 俺の妹も同じタイプだから参考になら無さそうだし!」


「と言われても、僕は恋愛経験無いしなぁ。本当に一樹の妹じゃダメなのか?」


「妹は顔立ちいいしギャルだし、実際人気者らしい。けど俺と同じでアイツ、彼氏を取っ替え引っ替えしてるからこの悩みの相談には合ってないかなって」


 そんな事を話していたら、丁度話題にしていた妹が帰ってきたようだ。なにやら肉の大群を連れながら。


 庭に繋がる窓を開けた瞬間、色んな肉たちがバイクを吹かせて部屋に突っ込んでくる。


 豚ロース、サイコロステーキ、ホルモンを先導に、その中央には磔にされている我が妹、小坂六花がアヘ顔を晒していた。


「はい。コイツが俺の妹、六花だ」


「仮にも主人公の妹の初登場が磔で登場ってどうなんだよ。てか、なんで当たり前のように肉に自我が!?」


 二俣は目ん玉飛び出しながら腰を抜かしていた。余程肉が衝撃だったらしい。



◇関西焼肉連合。焼肉店で野菜ばっかり食べる人を片っ端から磔にする仕事をしているぞ。



「今回はこんなとこで済ませてやるが、二度と焼肉屋で野菜食うんじゃねえぞ!」


「豚、豚、牛、鶏、豚、猪の順で肉を食え!」



 六花は磔を解かれた後、雑に庭へ投げ捨てられた。そして肉たちは新たな異端者を求めて、焼肉店へ向かって去っていった。



        ◇



 小坂六花。我が妹ながら暴力的なたわわを二つ有しているダイナマイトボディである。青色のメッシュなポニーテールを靡かせながら、屈託のない笑顔をしている。正直可愛い。



(コイツ、多分ギャルだ。僕が一番苦手とするタイプじゃん。顔立ちいいし一樹の妹だと言われたら納得するしかないが。関わりたくない)


(まーまーそういわず、ウチとお話しましょ☆)




(なんで心の声聞こえてんの!?)


(実家の秘伝だよ☆)


(怖っ!? もうやらないでくれよ)


 なんか妹と二俣、2人が心で共鳴している気がする。


「それにしてもどうしたんだ我が妹よ。随分と速い帰宅じゃないか」


 今日は焼肉屋に行くということでてっきり遅くなるものだと思っていたのだが。その疑問に六花は照れ笑いをしながらこう答えた。


「あはは☆実はダチがウチの同人誌を見たいと言いだしてね。至急、取りに帰ってきたんだ☆」


「なんですと!」


「ほう? NTR系かい?」


 妹の言葉に爆速で反応する田中と鈴木。今まで創作活動に勤しんで静かだったのに。こういう時はすぐに反応するのがコイツらである。


「このペンネーム『デカパイ撲滅委員会会長』先生って……」


「うむ、ウチがデカパイ撲滅委員会会長だよ☆」


 それを聞いた瞬間、田中と鈴木は滝のような涙を流しながら妹に跪き、感謝の雄叫びをあげた。


「大ファンです……大根に寝取られる本が大好きで……!」


「拙者、今なら満足して死ねるでござる……」


 なんか知らんけど、幸せそうな2人である。妹は割と困惑な表情を浮かべているけど、褒められて満更でも無さそうだ。


 恥ずかしそうにしながら妹が乱雑に置かれている原稿の方に目を向けた。その瞬間、彼女の顔が驚嘆の表情へ変わる。


「まさか、君は……『NTR大好き星人』先生なの!?」


「そりゃあ、そうっすね。一応、寝取り魔として毎晩カップルを襲っている男っす」


 今度は妹が田中に土下座。そして原稿を手にしながら歓喜の咆哮をあげた。


「そんな、頭を上げてください。僕はNTRしかないっすから」


「ウチ、NTR大好き星人先生の大ファンで……! いつもお世話になってる人が目の前に! 神様ありがとう☆」


 妹が滝のようにダラダラと涙を垂れ流している横で、カップルクラッシャー鈴木はいつのまにか倒れていた。



◇鈴木はいつも隣にいた寝とり魔田中の正体を知って感動に打ち震えた。彼はNTR大好き星人の大ファンだったのだ。



「もう見飽きたわこの流れ! おい一樹、お前の妹が来てから話が脱線しすぎている。なんとかしろ!」


「なんとかしろと言われてもなぁ。トイレ行くわ。収拾ついたら教えて」


「自由か!」



◇強制オチ付け落ち弱し

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