第2話 アルフェルト=ロイ暗殺事件1

 二人の運命的な出会いがあった次の日、帝都は揺れていた。悪政と諸侯の半ば独立した状況で民衆の生活は苦しかったがその民衆の不安を更に煽るような事件が起きたのだ。


第7皇子のアルフェルト=ロイが暗殺されたという話題で帝都は持ちきりだった。


皇位継承者が殺されたことは何度もあった。そのたびに、皇帝陛下は、事故や病気と発表していた。だから民衆の殆どはそれを信じていた。しかし、今回は夜中、宮廷のメイド服を着た血まみれの人物がアルフェルト=ロイが殺されたと泣き叫ぶ姿が目撃されていたのだ。


そのころ宮中では、それを踏まえて、御前会議が行われようとしていた。

この国には、いくつかの勢力があった。半ば独立している諸侯だったが、あからさまに皇帝陛下に反逆するものはおらず、帝都から離れた場所で力を蓄えるものと、宮廷にて、皇帝陛下に取り入り策謀を巡らせるもの、宮中などにおり皇帝陛下の近くで世話をする宦官の勢力などであった。


母の身分が低く宮中から追い出されて他の場所で育ったロイには、その宦官勢力という取り入ってくる存在すらいなかった。


そんなことで策謀の場になっていた宮廷で、臣下は、二つの派閥に分かれていた。

右丞相のオルレ=ライを中心に警務省の人物が集まった警務派。

左丞相のアンドリュー=レフを中心に軍務省の人物が集まった軍務派。

若くは20代、老齢では70代の人々が睨みあっていた。


玉座を中心に右と左にそれぞれ並んで皇帝陛下を待っていた。


コツコツという足音とが聞こえると臣下は全員、顔を下げて、礼を尽くすポーズを取った。


皇帝陛下は、甘ったるい香水のような匂いと共に気弱そうな青年を連れた少し貫禄のある部屋に入ってきて、玉座に腰かけた。

それから、不機嫌そうに

「我の職務を邪魔するとは何事だ。」

そう駄々をこねるように叫んだ。

その状況にお付きの気弱そうな青年が静かに耳打ちをすると皇帝陛下は、ため息をついた。

「我の息子の一人が暗殺されたとは誠か。」

皇帝陛下は爪を触りながらつぶやいた。


それを聞き治安などの事件を扱う警務省を取り仕切っていた右丞相のオルレ=ライが一歩進んで出て、

「恐れながら、ただいま調査をしておりますが、恐らく殺されたものだと思われます。」

そう膝をついて報告した。


皇帝陛下は、あくびをしてから、手招きをしてお付きの気弱そうな青年を呼び出して、しばらく何かを話した後で、皇帝陛下は口を開いた。

「……そうか、犯人を見つけ次第捉えろ。息子の葬式とそのものの処刑を同時に行う。それだけか。」

そう言って立ち上がった。


「……」

その場は静けさに包まれた。


「そうだ、それで、我を皇帝である我を呼び出したのは誰だ?オルレお前か?どうだ?この程度の些細な事で我を呼び出したのは誰かと聞いている。」


その場のヒリヒリとした空気の中で、

「陛下、恐れながら私であります。」

一人の人物が前に出た。左丞相のアンドリュー=レフであった。彼がこの場を作った訳ではなかった。緊急事態であり、多くのものの同意で開かれたものであったので、彼のこの発言は、ただのハッタリであり、そんなことをしてもイカれる皇帝陛下に目を付けられるだけだった。


その意味が分からない行動にその場にいた臣下は混乱した。


案の定、皇帝陛下は立ち上がり、目を見開き顔を赤くして、憤怒の表情を浮かべた。

「……アンドリュー。貴様は左丞相クビだ、いや死刑だ。」

そう叫びその場を立ち去ろうとした。


「お待ちください、陛下。もう一つ、ご報告があるのです。陛下にプレゼントがございます。」

左丞相のアンドリュー=レフはそう言って、手を叩くと部屋の扉が開き、着飾られた美しい子供とそれを連れる兵士がやってきた。


それを見て、皇帝陛下の表情は笑顔に変わった。

「……先にいえ、アンドリュー。褒美は何が良い。」

皇帝陛下は笑い、その子供の方に歩みを進めた。この国に未来がない事など目に見えていた。


アンドリューは、

「恐れながら、ロイ様の兼を軍務省に任せて頂きませんか?」

そう言って頭を深く下げてから、顔が皇帝陛下に見えないように小さく笑った。


「何を言っている、警務の職務に、軍が。」

そのアンドリューの発言に右丞相のオルレ=ライは声を上げた。通常では有り得ない要求であった。殺人事件など治安に関わる内容は、警務省の管轄であり、軍務省の干渉することはあり得ないことであった。


しかし、時既に遅かった。

「黙れ、オルレ、我の御前だぞ。分かったアンドリュー、調査はそなたに任せよう。では、このプレゼントは貰っていくぞ」

皇帝陛下はアンドリューのプレゼントを気に入り上機嫌になって付き人の青年と共に子供を連れて去っていった。


この中にロイとメイの敵が、いや、この場所にいる全てが恐らく二人の敵であった。

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