転生腹黒皇子の国づくり〜皇族に転生したけど国は滅びそうだから殺しに来た暗殺者を配下にしてゼロから新しい国を作りたいと思う〜

岡 あこ

アルフェルト=ロイの策謀

第1話 プロローグ

第7皇子のロイは、前世の記憶を取り戻した。しかし、今この状況でそれは,あまりプラスでは無かった。前世の魔法使いとしての記憶が戻り6歳の知能が多少上がった所で、多少魔法が使えるだけで、この状況を打開するのは難しい話であった。


彼は、今暗殺されかけていた。深夜。彼が住む小さな離れの屋敷に侵入者が入ったらしい。それによって、屋敷にいた人々はロイを見捨ててすぐに皆逃げてしまったのだろう。あるいは、最初から知っていて皆逃げたのか。それは誰にも分からないが、少なくとも母親の身分が低かったロイには、味方がいなかった。それでも、普通の国であれば皇族を見捨てることが罪になる、少なくとも全くの無罪というわけにはいかないが、それがまかり通る状況からも国が崩壊していることが見て取れた。


アルフェルト朝センカ帝国は、滅びかけていた。官僚と宦官と外戚の長期にわたる権力争い、暗君により皇帝の権威は落ち、諸侯は半ば独立状態。いつ反乱が起こってもおかしくないほどの状況であった。


そんなセンカ帝国の皇族として生まれた第7皇子のロイは、第7皇子であったが皇位継承2位であった。理由は簡単で、彼より年上の兄弟姉妹はほとんど殺されたのだ。第3皇子の勢力によって。


そんな状況でロイの番が回ってきた。 

「終わった……まあ、こんなものか。」

ロイは笑った。それから、起き上がると息をゆっくり吸った。


前世の記憶を思い出しながら、ロイは、前世の罪に気が付いて、その為に、死んでその責任を償うために自分が皇族に生まれ変わったと思った。

「……皇族になって、殺されて終わりか、何か出来るかもなのに。前世が諦めて罪を生んだのなら、今回は、せめて醜く足掻こう。」


ロイは、ベットから出て、部屋の中央に椅子を持ってきて腰を掛けた。

何処から敵が来るか分からないので全方位警戒しながら、深呼吸をしてその時を待った。前世で魔法使いであった彼であったが、この肉体では、襲撃者を倒すほどの魔法は使えないだろうと判断して違う選択肢に賭ける事にした。


しばらくして、足音が部屋に近づきドアが開いた。

ロイを殺しに遣ってきた人物は正面から堂々と部屋に入ってきた。

全身黒ずくめで、顔を布で隠した小柄な人物は、ロイが落ち着いて座っている様子を見て、少し動きを止めた。


「……1人ですか。まあ、ラッキーですかね。」

ロイは必死にポーカーフェイスをして、6歳らしからぬ言動でそう全身黒ずくめで、顔を布で隠した暗殺者の方を指さした。


「……誰だお前。」

暗殺者は6歳には見えない言動に少し高い声で呟いた。暗殺者は、動揺していた。少なくともさっきまでは、前世の記憶が戻るまでのロイは、大人しい人物だったが、もう少し子供らしかった。


「センカ帝国、アルフェルト朝、第7皇子、アルフェルト=ロイ」

ロイは、ポーカーフェイスで堂々と宣言した。


「おかしい、聞いていた人物像と違う。まあ、良い、金が貰えるなら同じか。」

暗殺者は動揺を抑えて武器を構えてロイとの距離を詰めた。


(金か)

「まあ、待ってください。話し合いませんか?」

ロイは、そう言って暗殺者を制止した。


「はぁ?」


「いくらで雇われましたか?」


「……それを聞いてどうする?買収するつもりか?この屋敷を見る限り足りない。」

暗殺者は、そう言うとロイの首元に剣を突き付けた。


「……暗殺者の割に口が軽いんですね。」


ロイは、その状況の中でも笑って見せた。その様子に暗殺者の手が思わず止まっていた。すぐにでもロイを殺せる距離にあったが、暗殺者は、ロイの言葉の続きを聞こうとしていた。

「殺せば口は封じれるからな、口は堅い。」


「怖いですね。確かに、今の僕には、お金も地位も名誉も大してありません。だから、まあ今すぐに買収するのは不可能です。」

今のロイには何も無かった。


「……そうか、死ね」

暗殺者は、小さくため息をつくとロイの首元の剣で、ロイの首を刎ねようと手に力を入れた。それによって、首元に傷がつき血が流れた。ロイはその痛みを堪えながら言葉を続けた。


「待ってください。話は最後まで聞いてください」


「……」


「僕を今殺さなければ、私はこの国の皇帝になれます。」


「やはり、子供か。滅ぶ国で何を言っている」

暗殺者は笑った。目の前の人物がやはりただの子供であったと嘲笑した。


ロイは、暗殺者の嘲笑や首元の剣に意にも介さず堂々と言葉を続けた。

「違います。新しい国の皇帝です。」

彼は、今この瞬間に思いついたことを、前世の罪を償うための方法をあたかも前々から考えていたかのように堂々と言葉にした。


「……この状況で何を言っている。味方もいない、財力もない、力もない、今殺されかけているお前が、何を言っている出来るわけがない。」


(まあ、これで死ぬなら仕方ない)

ロイは、覚悟を決めて最後になるかもしれない言葉を放った。

「それは、分からないじゃないですか。人生はやってみないと分からないんですよ、何もしないのは、最悪ですから。それに味方はいます。」

そう言ってロイは暗殺者を指さした。


「……私を取り込もうと?」


「ええ、今貰えたお金以上のものが将来手に入ります。地位も名誉も、まあ皇帝の身分以外は与えると約束しましょう。どうですか?僕の味方になりませんか?」

ロイは、自身の可能性を与えることが出来た。国が滅びそうな今でも皇族の血筋という正当性はそれなりの強さを持っていた。


「……私は、異民族だぞ。それも奴隷身分の子。母が死に暗殺者として生きてきた。」

暗殺者は、動揺したのかロイの首元から剣を離した。


「少なくとも、官僚や宦官、諸侯とかよりも信用できますけどね。それに、僕を殺した後で、本当に報酬は出ますか?貴方の命は安全ですか?」


「……」

暗殺者は黙った。


(こういう時に、何を言えばいいかは前世の記憶で見たことがあるから知っている)

「僕の首を刎ねるか、それとも建国の功臣になるか、選ぶのはあなたです。」

ロイは、そう言って暗殺者を見た。


「はは、なるほど。いや、暗殺者として死ぬよりもそっちのギャンブルのほうが良いか。」


「……では」


「私は貴方を皇帝にして、皇后になることにしました。」

暗殺者は、そう言いながら顔を隠している布を外した。すると黒色の髪の美しい女性の顔が現れた。


「……女の人……」

(想定外。年齢は15歳程度、でも……)


「……なるほど、クソガキ話がある。」

ロイの視線に気が付き、暗殺者は、ロイを睨みつけた。


「いや、その、一応皇族ですよ、僕。」


「私は今すぐに貴方様を殺せる。それと成長期はこれからです。ではこれからは貴方にお仕えします。」

暗殺者は、そう言うと剣をしまった。


「……」

(さて、これからどうしようか。何も考えていなかった。少なくともここにいるのは危ないし……それに、襲撃に失敗したことがバレたら、他の刺客がくるだけだろう。)


「では、これからどういたしますか?」


「……ひとまず、偽装工作をしましょう。それと名前を聞きたいです。」


「メイです。よろしくお願いします。ロイ様。」

そう言ってメイは膝まづいた。


この二人の出会いが全ての始まりだった。

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