第2話 第1の部下
次の日、父上の了承を得た俺は都市を出歩いていた。
城郭都市であるここ、トーカには様々なものがある。
護衛を探している俺が向かっているのは、もちろん兵士の訓練所である。
トーカには3つの訓練所があるが、あえて城から一番離れている訓練所に向かっていた。
「優秀な兵士は城に仕える兵士として排出されるだろうし、まだ強さが周囲にバレていない兵士を探し当てたいものだが……」
俺は念のため顔をフードで隠して訓練所に向かった。
◇ ◇ ◇
「――失礼するぞ」
訓練所に着いた俺は、絶賛訓練中の兵士たちの中にフードを取りながら入っていった。
「――ん? 誰だ?」
「――馬鹿っ。あれは第2王子のミゼル様だ!」
訓練中の兵士が手を止め、ざわざわとしている。
いきなりお偉いさんが来たらざわつくのも無理はない。
「これはこれはミゼル様。お城から遠いこの訓練所まで足を運んできてくださるとは。一体何の用でしょうか?」
教官と思われる男が近づいてきた。
「突然で悪いな。今日は俺だけで来たんだ」
「ミゼル様だけ? つまり個人のようで?」
「ああ。何人か俺直属の部下として採用しようかと思ったんだ。父上からも了承を得ているから問題はない」
この一言で、より一層ざわつきが大きくなった。
いくら遊び惚けている俺が主人といえど、王族に仕える兵士になれるのだ。
兵士たちにとってこれ以上の出世はない。
「ほぉそれはそれは! ミゼル様にお仕えになれるとは大変光栄です。気になる者がいれば直接話しかけてください」
教官も声のトーンを上げて受け入れてくれた。
「俺は端で見学しているから、いつも通り訓練をしてくれ」
「分かりました。お前ら! 訓練を再開するぞ!」
「「「はっ!!!」」」
教官の一声で、兵士たちは訓練に戻った。
俺が来る前以上のやる気で――。
◇ ◇ ◇
「うーん……」
今は2人1組で木剣を使った模擬戦をしている。
見た感じみんな凄いのか?
もっと早くゲームのことを思い出せてたら俺も訓練して多少は分かったかもしれないのに。
「まあでも……」
「ハァッ…………チラッ」
「オラッ! ……チラッ」
みんな俺を意識してるなぁ。
俺の反応を気にしてるんだろうが……。
目の前の敵に集中しない奴ってことで候補から除外だな。
こちらに目もくれないぐらい集中している奴はいないかな……。
「おっ」
俺は隅の方で模擬戦をしている兵士が気になった。
その2人は一切こちらに目をくれずに剣を振り合っている。
いや、奥の兵士は手前の兵士の猛攻に手を焼いているから目を離せないと言ったところか?
となると……。
「アイツだな……」
俺は歩いて、その2人の元に向かっていった。
兵士は俺の動きを目で追っていた。
「……ちょっといいか?」
「……?」
俺は気になった兵士に話しかけた。
すると兵士は剣を下ろし、ゆっくりと振り返った。
「……なにか?」
その兵士はもちろん男で、右頬の火傷跡のようなものが特徴的だった。
「名前は?」
名前を聞いた兵士は模擬戦で猛攻していたというのに、息切れをしていなかった。
「……ラカン・アフェリ」
「ラカンか。何か夢とか目指していることはあるか?」
ラカンに1つ質問してみた。
すっかり周りの兵士は手を止めてその様子を見守っている。
「……ありません」
「そうか……」
俺はラカンの目を見て少し黙った。
そして――。
「よし。今日から俺の元につけ」
「は?」
ラカンは唖然としていた。
周囲の兵士はもっと驚愕していた。
まさかこのような形で採用されると思っていなかったからだろう。
「いいな教官!」
教官に確認を取ると、小走りで近づいてきた。
「は、はいっ。しかしいいのですか?」
「ああ。俺はラカンがいい。上には俺から伝えるから大丈夫だ。っと、ラカンの了承を得ていなかったな」
「……私は問題ないです。よろしくお願いします」
一瞬戸惑っていたラカンだったが、すぐに落ち着きを取り戻して了承した。
「じゃあ行くぞ。城に移る準備をしてこい」
「……はっ」
ラカンはすぐに荷物をまとめて、一度家に帰っていった。
正直無表情で怖いが、初めての部下が手に入った。
まさかこんなあっさり了承してくれるとは思わなかったが。
きっといい兵士になってくれるはずだ。
敵に対する集中力、息切れしないほどの体力。
とんだ掘り出しものだ。
よく城に送り出されていなかったな。
「さて、次にやることは……」
俺は昨夜書いた計画書を取り出して、次にやるべきことを確認した――。
◇ ◇ ◇
「――よし。今日からここで暮らしてくれ」
準備ができたラカンを連れて城に戻った俺は、すぐに兵舎の空いている部屋に案内した。
「個人の部屋……」
「ああ。今日からお前だけの部屋だ」
俺は少し埃っぽい部屋に入り、窓を開けた。
対してラカンは部屋には入らずに、俺に質問してきた。
「……1つよろしいでしょうか」
「なんだ? 言ってみろ」
「第2王子であるミゼル様が、なぜ一兵士である私を雇ったのでしょうか?」
確かに国が滅ばないようにするためにしたのが、1人と言えど武力の補充だ。
第2王子として考えても、直属の部下の護衛なんてわざわざ自分で雇う必要がないから、ラカンは不思議に思っているのだろう。
「ラカンには今以上に強くなってもらい、俺の剣術の師匠になってほしい」
「師匠……? ミゼル様が剣を?」
「この国だけで採れる貴重な鉱石。このおかげでこの国は平和でいるが、この鉱石のせいで戦いが起こることだってありえる。そうなった時に俺も共に戦いたいんだ」
「あり得るのでしょうか? 大きな戦いは数十年も起きていません」
「備えておいて損はないだろ? どっちにしよ、この数年でたくさん戦う予定だけどな。小さい戦いだけど」
「小さい戦い?」
「まあそれはおいおい話す。ラカン、文字の読み書きは?」
「……いえ。できません」
「分かった。明後日から文字の読み書き、俺への剣術の指導をしてもらう。ラカン自身の訓練は相手がいないから、できる限り早く用意する」
この城の兵士といきなり一緒に訓練するのは気まずいだろうからな。
「分かりました」
「今日明日は掃除なり隣室と挨拶するなり自由にやってくれ。俺に用があったら執事やメイドに話しかけてくれ」
「はい」
俺は部屋にラカンを押し込み、次の計画を進めるために自室に向かった――。
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