第5話
声をかけようとしたところで、私は気がついた。
その女の子の目に光が宿っていなくて、生きる希望を持っていないということを。
……あの魂たちに触れる前だったら絶対気が付かなかった……と言うか、そもそも知識として生きる希望を持っていない人の感じなんて知らなかったから分からなかったけど、あの魂たちに触れて、私は生きる希望を持っていない人がどんな感じになるのかを知ってしまっている。
だからこそ、分かった。
「あ、あの、大丈夫……?」
それでも、私は恐る恐るそう言って声をかけた。
ここにこの子を置いたまま私がどこかに行ったら、多分、生きる希望の無いこの子は何もせずにそのまま何かに襲われて死んじゃうと思ったから。
「と、取り敢えず、ここを離れよっか。……近づくよ?」
そう言って、私は相手の反応を確かめるようにしながらゆっくり近づいた。
そして、目の前まで近づくことが出来た。
目の前の女の子は私が近づいたことに反応をする様子は無い。
「触るよ」
そう言って私が手に触れても、やっぱりと言うべきか、何も反応する様子は無かった。
そのことをどう思えばいいのかは分からないけど、私はそのままその子の手を引いて音がした方向と街の方向から離れるように歩き出した。
もちろん、魂のことは避けながら。
……そして、多分、安全な場所まで移動できたと思う。……まだまだ全然森の中だし、仮に安全だったとしても少なくとも今はって感じだけど。
「え、えっと、大丈夫?」
そう思いつつ、最初に話しかけた時と同じように、私はそう聞いた。
……やっぱり、返事は返ってこない。
「……どうしたらいいんだろう」
私は呟くようにそう言った。
放っておくって選択肢は無い。
この子には生きる希望が無いんだ。
さっき思った通り、そんな子を放ってどこかに行ったりなんてしたら、直ぐに何かに襲われて死んでしまうと思うから、そんな選択肢が出てくるはずがない。
仮に運良く何にも襲われなかったとしても、この子に何かをする気力が無いんだから、待っているのは餓死って結末だけだ。
やっぱり、放ってはおけない。
「……よ、よしよし、ほ、ほら、大丈夫だよ?」
そう思いつつも、生きる希望を持って無い子に生きる希望を持たせる方法なんてわかるわけが無いし、色々と考えに考えた結果、これが正解なのかは分からないけど、少し背伸びをしながらその子のことを抱きしめ、頭を撫でてあげた。
……背伸びをしている理由は私の方が背が小さいからだ。
……元男としては女の子の頭を撫でるのに背伸びをしないといけないのはちょっと複雑だけど、今はそんなことを気にしている場合じゃないしね。……うん。だから、全然気にしてなんかないよ。ほんと。
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