第3話
「ぐぁっ」
そうして、色々と考えが纏まってきたところで、私の肩に矢が刺さった。
どこかから誰かに打たれたんだ。
どうせ治る。そう分かっていても、痛みは当然ある。
矢が肩に刺さった痛みで反射的に私は足を一歩前に進めてしまい、その場に前のめりに倒れ込んでしまった。
その時、また魂みたいなものに触れてしまった。
【なんで俺が……死にたくない……こんなクソみたいで理不尽な世界、ぶっ壊れてしまえばいいのに……!】
「うっ、頭が……」
その瞬間、さっきのより強い負の感情が私の中に入ってきた。
言動だけを見たらただの厨二病患者みたいだけど、さっきより私の中に流れ込んでくる負の感情が強いからか、本当に頭が痛い。
「お、おい、近づいても大丈夫なのか?」
そうして私が苦しんでいると、そんな声と共に私に近づいてくる足音が二つ聞こえてきた。
……いくら私でもさっき矢を打たれたばかりのこの状況で助けに来てくれた人だなんて思えるわけが無い。
だから逃げたいんだけど、矢が刺さった肩の痛さと頭の痛さで上手く動くことが出来ない。
……それどころか、今すぐにでも近づいてきている人間たちを……いや、違う。何を考えようとしてるんだ、私は。
「大丈夫だよ。何故か僕が打った矢以上に苦しんでる様子だからね」
【誰か、助けてくれよ。もう、嫌だ……みんな、死んじまえ】
……まだ、流れ込んでくる……!
このままだったら、私の感情じゃない……はずなのに、私の感情だと錯覚してしまいそうになる。
「で、でも、そいつ、絶対強いぞ。苦しんでる振りとかだったりするんじゃないのかよ」
「だから、大丈夫だって」
そんな声が聞こえてくると共に、今度はお腹を蹴り上げられた。
痛い……なんで、私が……このクソ野郎……絶対、殺してやる。……違う!殺したりなんかしちゃダメだ。
……あれ、なんで殺しちゃダメなんだっけ。何もしてないのに、私を傷つけてくるような相手だ。別に殺したって問題なんて無いよね。
そう思った瞬間、私の左手から黒いモヤのようなものが現れ始めた。
頭のどこかではダメだと分かってるのに。
そのはずなのに、私は左手を私を蹴り飛ばしてきた男に向かって振り払った。
「あ、あぁぁぁぁぁァァァァァ!」
すると、その瞬間、黒いモヤが男を飲み込んだかと思うと、さっきと私と同じ……いや、それ以上に男が苦しみ出した。
いい気味だ。
「ち、違う! だ、大丈夫、ですか?」
そんなことを考えてしまったことに直ぐに首を振った私は、直ぐに苦しんでいる男に向かってそう言った。
でも、私の言葉に反応する様子はなく、男は苦しみ続けていた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
そんな様子を見ていたもう一人の男はそんな絶叫をしながら私から逃げるように走り去っていった。
それと同時に、苦しんでいた私のことを蹴り飛ばしてきた男は何も声を発しなくなった。
恐る恐るそんな男に近づいて、私はゆっくりと体を触った。
すると、さっきまで本当に生きていたのかが疑わしいほどその体は冷たかった。
「ぇ、ぁ……し、死んでる……」
……私が、殺したん、だよね。
ど、どうしよう……私、取り返しのつかないことをしちゃった。
いくら向こうがいきなり手を出してきたとはいえ、殺すのは絶対やりすぎだと思う。
……もうやってしまったものは仕方ない……ことは本当は全然無いけど、取り敢えず、仕方ない。
それよりも、今はこれからのことを考えよう。
……少なくとも今はこうやって冷静に考えられてるけど、あの魂はもう触っちゃダメだ。
さっきまであの男の人が苦しんでいるのを見て私はこれまで感じたことの無いくらい気分が良くなってしまっていた。
あんなの、絶対おかしい。
私の体なのに、今の私からしたら私の体じゃないみたいだった。
魂に触れれば確かに強くはなれるみたいだけど、あんな感じになってしまうという代償があるんだと思う。
魂に触るのは封印しよう。
別に私は強くなる必要なんてないし。
「……ごめんなさい」
頭の中でそう結論づけた私は、私が殺めてしまった男の人に向かってそう言って謝った。
「多分、さっき一緒にいた男の人がちゃんと家に帰してくれると思いますから」
そして、そのままその場を後にすることにした。
色々な感情が私の中で渦を巻くように回ってるけど、街にも行けない私にはどうすることも出来ないから。
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