第22話 ミートボールが嫌いになる話
朔が放った銃弾の音で一斉にこちらに走り寄って来る化け物達。
「こっちだァ!ここだ!かかって来いッ!幸せな家族の死亡フラグは私がここで断つッ!!!」
そう言いながら左に走る朔、右から来る化け物は幸い全てが佐田一家の家を無視し朔だけを狙った。
「第一目標完了、第二目標殲滅」
そう言うと拳銃を収めて標識を引き抜く。
標識止まれ。
「おりゃあッ!!」
近づくゾンビ、変異体の頭の高さで大振りに振り一気に6人潰すと、この勢いで回転して八つ裂きにして行く。
「私をナメんなッ!前座は終わりだ」
返り血を大量に浴びても気にせず標識を振り回す。だが剛腕の変異体が受け止めて引っ張られる朔。
「うわぁ......ごふっ!げはぁ......く、クソがテメェとは身体一つで勝負だッ」
思い切り鳩尾を殴られ標識は投げ捨てられてしまい正面から素手で殴りかかる朔。
「オラァ!チッ......ふっ!甘いわ!」
パンチを受け止められたがそのまま変異体の腕を腕力で無理やり破壊して蹴り飛ばし壁にぶち当たると動かなくなった。だがその後ろから次々に異形の化け物が出て来る。
「チッ......地面張ってる奴にジャンプする奴。どこを見りゃあ良いんだッ!」
そう困惑していると少し遠くから発砲音がしたと思うとジャンプしていた個体が地面に落ちた。
「これは......佐田さんっ!」
家の方を見ると窓からスコープ無しの筈の狙撃銃で狙撃をした佐田の上半身が見えた。
「イヴさんっ!援護します!双眼鏡があるので何とかなりますが暗さと、変な持ち方での反動が厳しいです!」
「ありがとうございますっ!......ってテメェ!佐田さんの方行くんじゃねぇ」
Uターンしようとするゾンビの頭を引っ張って倒すと頭を踏みつけ処刑する。その間も射撃音がする。
「標識拾い直したぞオラ!こっちだ!おらおら!!かかって来い!!!!私に負けられろ!」
(ありがたいが佐田さんの家の方に行かない様に叫んだり妨害しなければ......それにミートボールも着実に近づいて来ている......)
叫びながら辺りのゾンビを圧倒的で超人的なフィジカルで砕いていく。そして数が減ってミートボールまで直線に道が出来た瞬間に標識を縦に思い切り投げ飛ばす。
「潰れろォッ!!!」
標識の三角形がめり込み突き刺さり苦悶の叫びを上げるミートボール。その間も佐田は狙撃してゾンビの数を減らしている。
「あ、あの人はとても同じ人類とは思えない............もしかして感染者が理性を保っているというのか?............馬鹿な事を考えるな俺、イヴさんがゾンビだろうと私と娘の命を救ってくれたのは事実ッ!恐らく私の方が年上なんだ、援護を続けなくてはっ」
朔の返り血を全く気にしない姿、異常な姿と怪力に体力から外の情報を知らない一般人でも、映画の様な理性を保った感染者なのでは無いかと疑うが、救ってくれた命の恩人には変わりないのに敵意を抱いてしまった己を恥じて、佐田は必死に弾を無駄にしない様にミートボールの眼球を潰していくが流れ弾が朔の頭に直撃してしまう。
「うぎゃあっ!ああ?流れ弾か?私の身体って本当に頑丈なんだなぁ............うんぎゃあ!!」
朔は擦り傷程度で済んでいたので佐田は誤射した事も気がつかなかった。自分の身体の頑丈さに感心していると化け物の大量の手で掴まれてしまう。
「ばお!ばおばおばおばう!」
そう叫ぶと身体の下に持っていく化け物、朔はどこに口があるか理解する。
「うげっ!ケツの穴かよ、てか本当に酷い痔になった肛門ミテェな口......ってやばいやばいっ!」
アホな事を考えているとその穴に突っ込まれそうになる。幾つもの手が朔の身体を覆っている為に何一つ動かせなかった。
「守る......私はあの家族を守るんだよぉッ!!死んで......堪るかッ......ううう......おりゃあああああ!!!!」
身体を縮こませて隙間を作った瞬間に全身全霊の力で手足を伸ばし、化け物の掌を貫通させそこから引きちぎる様に腕を動かすと痛みに化け物は怯み朔を解放してしまう。ベチャッと地面に落ちた朔は一つパンツの中にしまっていた手榴弾を化け物のケツの口に突っ込んだ。
「食わず嫌いすんなよ、ほら食え!そして死ねッ!!」
そして身体を転がして離れるとボンっと音を立ててミートボールの目玉がびちゃっと全て飛び出て動かなくなる。
「はぁはぁ......巨体な割に内部は脆かったみたいだな............あと数人で終わりッ!蹴り上げだッ!」
残りのゾンビの顎を粉砕し処刑すると辺り一帯死屍累々。女の子が見たらトラウマになるほどの惨状であったが、朔は佐田に向けてサムズアップとピースをする。
「終わりました!もう安全です!」
あまり大声で言えないので佐田には声は届いていないが口の動きで大体何を言っているか分かり、佐田は急いで外に出た。
「大丈夫ですかー!?」
「へーきへーき!大丈夫っす!......あ!近づかないでっ!感染してしまうっ」
血塗れで赤髪の様になっている朔は佐田にゾンビの血の海に近寄るなと警告すると自分はゆっくり歩いて近づく。
「援護ありがとうございました!アレが無ければ危なかったです!」
「い、いえ......自分が出来ることをしただけですよ!......それより貴女は感染しないのです......か?それと失礼ですが性別は本当に女性ですか......?」
「あっ!......何故か大丈夫な気がしてやりましたがどうなんでしょうね......?性別は女性?じゃなくて普通に両性ですね!」
それに対して驚き過ぎて宇宙猫状態の佐田。
「えっ............???感染に関しては噂みたいなモノですが、感染した瞬間から頭痛や吐き気が即座に起こり行動不能になると聞いているので、多分イヴさんは感染しない体質......もしくは理性を保った感染者かもしれませんね............それに普通は両性なんていないです、世界でもあまり例は無いので......やはり、イヴさんは感染して肉体に何かしら変化が起こって、その時に記憶が消えて曖昧になられたのかと............」
「ほお......やはり私は俺か私なのか悩む事になるのか......ぼんやりとした記憶では男だったんですけどね。だからあの待ち受けの若い男が私かもしれないです。それに感染者ならこんな見た目でも納得ですね!あと多分ですが他者には感染させない様ですね、あなた方も大丈夫な様ですし......とは言え私はゾンビという事になりますか............まあ、こんな返り血も浴びてしまった事もありますし出ていきます!短時間ですがお世話になりました!荷物だけは持ってきていただけませんか?代わりにこの遺体達を遠くで火葬しておくので!」
朔はこのミートボールの肉を求めて更なるゾンビが来ることを予想し、開けた場所で燃やす事に決めた。
「大丈夫ですよ!私の家は水の備蓄がとんでもなくあるのでお身体を洗いましょう、アルコールも大量にあるので完全に綺麗に出来ますよ!だから泊まって休んで行ってください、2度も助けてくださった方をこのまま放って帰すなんて......」
「本当ですか......?すみません、助かります。では私は先にこのゾンビ達を弔う為に火葬してきます。荷物からライターと着火剤だけ取ってきてくれませんか?」
こうして結局日が明けるまでミートボールなどをトラックの荷台に乗せて、何トンもする車を引き摺りながら運び公園の真ん中で近くで、腕力で折った公園の木々を薪にして燃料に火をつけた。
「............」
(あんたらも好きでこうなったんじゃ無いもんな、痛い殺し方して悪かったよ)
朔は死者に対する行為を記憶にないが自然と手を合わせていた、無意識に黙祷をしていた。魂に刻まれた所作や常識はほぼ消えないのであった。朔は綺麗に骨になる様に遺体を大木で潰しながら追加で入れたりを何度か繰り返し火葬を終えた。
「......ミートボールの骨......これ背骨と開けた肋骨がいっぱい集まっているみたいだ............病気如きでこんな姿に人間はなってしまうのか......年齢性別も分からなかったしな............埋めてあげたいが流石に無理だ、すまない。............佐田さんの家に戻るか」
そうして戻り爪の間からケツの間までも洗浄し下着は捨てて予備を着て家の中に入った。
「色々とありがとうございました!血塗れの身体をどうしようか迷うところでした」
「いえいえ......わざわざこの家にダメージが入らない様に離れてくださったりと、こちらの方が感謝してもしきれないです......」
「家は大切ですから!......今の時間は7時25分か。そうだ、箱にあったやつ含めて残弾はどのくらいですか?」
「えーっと..................47発と込めているのが5発ですかね。撃ちすぎましたか......?」
「あ、いや!それは気にしないでください、問題はそれなりに残弾があるかですから。失礼かもしれませんが、この家には武器が無さすぎるのでその狙撃銃を差し上げます、名前は確かM24SWSって物で自衛隊の物です。自衛隊の無人の基地や自衛隊員の遺体からは弾を盗めると思うので是非使ってください!」
度が過ぎたお人好しの朔は道端であった人に銃をあげてしまう。佐田は流石に困惑して断ろうとする。
「だ、だめですよ......あなたの武器はどうされるんです?」
「大切なこれがあるんで!
また拳銃をニヤニヤしながら見せびらかす朔だが最後は真剣に言う。
「あなたの様な人間......今後出会う事は無いでしょう。本当に感謝します......本当の名前を知れないのは悲しいです」
荒んだ世界になって初めて出会った人物の優しさに少し泣いてしまう佐田。
「泣かないでくださいよ、泣かない為の武器なんですから!............うぅ、すみません眠気が強くなってきてしまいました......」
急にクラっとした朔。
「夜通し戦ったからですよ......遠慮せず何時間でも寝てください。ひ弱ですが私たちは絶対にあなたの味方です」
エナドリを飲んで狙撃していた佐田は平気だったが不眠症が実質治った朔は強い睡魔に襲われた。だか朔は精神の病は魂に刻まれており、病んでいるが理解がない為に自覚があまり無い。
「お言葉に......甘えて............」
(なんとか......なんとかゾンビ映画の死んでしまう家族の様にならない様に出来たぞ............ゾンビ映画?ああ、そうだ。確かそんな物が私は好きだった......)
朔は眠りにつく。家族を守れた安堵で一気に疲れが来てしまった様だ。
ゾンビ作品の死に役みたいな俺はゾンビ作品の知識で生き残れますか? 月影光貴 @manjusaka
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