第21話 個体名:イヴ
12/13の午後に朔は戦闘を避ける様にパルクールで移動する。家の屋根を伝い超人的な跳躍力で駆ける。その日の夜は屋上に行く方法のない建物の上によじ登り眠った。そして12/14の朝9時過ぎにまた進もうと思うが今更な疑問を抱く。
「ん......こうして闇雲に動くと下手すれば離れて行っているかもしれないわね............ただ生存者がどこで固まっているのか見当がつかない......それにそもそもいるのか......」
建物の屋根で腕を組んで悩む朔。遠くで叫び声を聞く、またゾンビかと思うが明確に言葉を発しているのを聞きそちらに向かう。
「なんだなんだ!?......居たッ!生存者か、ゾンビはトロいのが10人、アクティブに襲っているのが3人か。この距離の狙撃は可能だが、あの人が返り血を浴びてしまうからこちらに寄せるかっ」
そういうと狙撃銃を5発全て空に撃ち叫ぶ。
「こっちに来いっ!!私が相手だぁああ!!!」
そう叫びながらリロードし前進、そしてゾンビ3人がこちらに走ってくる。
「良し、あの人への意識が13人全員こちらに向いたっ」
そして強化された腕力と視力で、片手撃ちで約100メートル先の走るゾンビの頭を容易くぶち抜く。動きが遅い10人も簡単に倒す朔は男に近寄る。
「マガジンに弾込め直さないと......貴方、大丈夫ですか?ここで何をされていたのです?」
210センチ越えの両目が多瞳孔で銀髪の女が近寄ってくる恐怖を理解していない朔は気軽に話しかける。
「ヒッ......あ、あ......ああ!!?」
男は恐怖により腰が抜ける。
「......ああ!忘れていました、こんな見た目ですが人間ですよ!記憶喪失ですが......なので名乗る名も無いです。それより本当に大丈夫ですか?」
朔は中腰で手を差し伸べる。男は朔の上から下を何度もなぞる様に見る。朔が全然襲って来ない事にやっと安心したのか何度か深呼吸をして口を開く。
「ふぅ......し、失礼しました。命の恩人なのにこんな対応で。こんな世界になって以来、家族以外の人と話すのも初めてでして......すみません」
男は手を取り会話する。
「いえ、お気になさらず。こんなところで1人で鉄パイプ一つで何をしていたのですか?」
「娘が喘息で薬を探しに出まして......あ、申し遅れました。私は佐田と言います」
「佐田さんですか、よろしくお願いしますね!薬ですか......目処はあるのですか?」
「えぇ......ただ先程死にかけた通り武器が貧相なモノで、固まって動いていたり隠れているのに会うと危なくて............」
「......そうですか。では貴方に協力しますので、この人達を知りませんか?」
そう言うとスマホの待ち受けの写真を見せる。
「............すみません全くわからないです。それよりこの巨人は一体......?」
「そうですか......それが私もよくわからないんですよね............まあ取り敢えずこれをお貸しします。マガジンは5発。撃つ時は必ず止まってください、私はその鉄パイプを使って殴り殺します......この白い服を汚したく無いので綺麗に片付けないとなぁ......」
そう言うと狙撃銃とマガジン何個かを渡す。
「えっ......手伝って頂ける上に銃を貸してくださるのですか......?」
(記憶喪失だからなのか?こんな世界で他人に、それも会ったばかりの人間に銃を貸して手伝ってくれるのか?ありえない......)
「えぇ、今喘息の辛さを思い出しましたよ。子供だと危ないですからね、見返りは要らないので早く行きましょうか。急ぐに越した事は無いでしょう」
「あ、ありがとうございます!!家に戻れば食料はあるので差し上げます!」
「食料ですか、確かに私は最後に食事したのはそこそこ前ですね。申し訳ないですが、少し頂きます」
そう言いながら鉄パイプを借りる。2人は道の真ん中を歩きながら朔は事情を聞く。
「ほう......クリスマス............プレゼント......」
「そうなんです、不甲斐ない事に用意出来なくてサンタさんは気まぐれと誤魔化していまして......」
「サンタさん?......あー赤いおっさんですか、何故クリスマスにはプレゼントを?」
「えっ......私も知らないですね、西洋の文化を真似しているだけですから......それなのかイヴの日の方が日本ではメイン扱いですね」
「???......ダメだ、記憶がゴチャゴチャして理解が............申し訳ないです。確か......天井裏からサンタが入って手袋にプレゼントを入れるのがイヴ?」
「すみません違いますね......い、いえ、こちらこそ記憶喪失の方に配慮が足りなかったかなと......そう言えば貴女をなんとお呼びすれば良いのでしょうか?」
「えーっと......うーん、まあじゃあ響きが良いしイヴで良いかなぁ。イヴって呼んでください」
やっぱり朔は適当で音の響だけで自分の通名を決める。
「そんな適当で良いのですか?ではイヴさんよろしくお願いします、本当にありがとうございます......」
急に立ち止まって深く頭を下げる佐田に朔は止める様に言う。
「そんな、そこまで頭を下げないでください。覚えている言葉?があります、お互い様って奴ですよ。困っている人を助けるってのは人間であれば普通な筈です!行きましょう!」
そう笑顔でサムズアップする朔。それを見上げながらこの人は悪い人に騙されるんじゃ無いかと心配になる佐田。道中では彼が発砲する必要も無く鉄パイプを血で染めて片付けて行くと薬局に着く。
「武器を戻しましょうか、私が外で見張るのと内部にゾンビがいないか見てきます。佐田さんは敢えて見通しの良いところに居てゾンビが来るか見ていてください。大体は私1人で大体は対応できるのでっ」
そう言うと自動ドアをこじ開けて狙撃銃を持ち中に入る朔。
「本当にすみませんっお願いします!こちらに向かって来たら伝えます」
「こちらこそお願いします」
そうして広めの薬局をライト無しで索敵する朔。この目で出来る事を他人が出来ないとはまだ自覚していない。現時点で発覚しているのは超視力と暗視である。
「固定椅子の下には何も無い、臭いも酷く無いな。トイレも大丈夫。ここは薬がある部屋かな?鍵か......えいっ」
拳を振り下ろすとドアノブが吹っ飛んで扉が開く。
「へー......箱なんだ。これなんの道具だ?もしかして薬局ってのは薬の調整とかもすんのか!............よし、血も無く清潔で問題ない」
そうして出ようとするとこじ開けたドアから佐田が走って入って来る。
「た、助けてくださ、さ......で、でかかかいのがっ!!」
何を見たのかとんでもなくテンパって何を伝えたいかわからない佐田。
「落ち着いてください!私が出ます」
「ダ、ダメだっ......デカ過ぎっ......る。はぁはぁ......隠れてやり過ごすし、しか......」
そう朔に促すがドシンドシンとこちらに明らかに向かってくる足音がする。
「もしかして写真の巨人か?もうバレてますっ!早く薬を集めてください!私が処理するわ、もう貴方はタイミングを見て家に帰ってしまって良いので」
「イ、イヴさんっ!!!......ビビっている場合じゃない娘の薬とついでに妻の胃腸薬もついでに探さないと............」
「おらあ!怪物!どこだっ!!......なっ!??」
飛び出て、たった数十メートル、そこには人とはかけ離れた肉塊に大量の目玉と腕がある化け物が居た。
「ぐぼっぐぼっぐばあっ!」
「えっ、どこに口あんだよ......こっちだ!ほら来いよミートボール!」
(体長私2人分あるか?あとこいつ見て食べ物を思い出しちまった......とにかく彼が娘と再会させる為に距離を取らねば)
「うばっうばぅうばあ!」
バタバタと丸い巨大で走ってくる化け物。朔は建物に登り狙撃をする。
「えーっと......目と腕どちらが良い......とにかく腕の強度を確かめないと」
そうして1発撃つがバタバタ速く動かす為に外すが2発3発4発5発とマガジン残り全てを連続で腕に当てたが一才遅くならず止まらない。そうしていると朔の立っている建物に体当たりをして一階部分が半壊。
「うおおおっ......危なかった......倒壊しちまったか............あの腕は頑丈、見た目の筋肉は伊達じゃない、ならば奴の死角ができる様に眼球を潰してやる」
そう言うとマガジン交換し再度発射し3発当てるのに成功し、目玉を3つ潰した。
「うがぁぼ!!ぐぎぎゃああ!!!うああああああああ!!!!!!!」
「あ゛っ。チッ......耳が............」
どこが口か目視出来ないのに叫び声の大きさで耳にダメージを負いキーンとなり続け、聴覚はしばらく当てにならなくなった。
「あーあー......自分の声も少ししか聞こえない......っ!??この声でゾンビ共が集まって来やがった、それになんか異形な奴もいる............逃げるしかないっ」
四方八方からまだ走れる元気なゾンビと変異体IIが襲いかかる。朔はデカブツ目掛けてスモークグレネードを2個投げると、奴は困惑してその場で暴れるだけになった。朔は薬局に入ろうとしているゾンビをデザートイーグルに持ち替えて即座に始末し、中に入ると佐田が鉄パイプを持って立っていた。
「薬はっ!??」
「だ、大丈夫です、ですがこの人数は............」
絶望している佐田を持ち脇に抱える朔。
「えっ!え?イヴさんそんなに力持ちなんですか!?」
「何でか知らないけど普通の人より力が強いみたいです。少し荒く逃げますよっ」
そう言うとドア付近に固まっているゾンビを蹴り上げて突っ切り、建物のパイプに片手と両足を使って登り屋根を走り抜ける。
「うわっわあああ!??」
「佐田さんっ!家はどこですかっ!......あ!娘さんのプレゼントが済んでいない!何が欲しいんですか?このまま逃げながら、それがある場所まで行きますっ!!遠慮せずに早くっ!!」
「家はここから数キロ離れていると思うので一旦無しで、娘のプレゼントはゲーム機なんです!BOTANって奴です!このまま暫く進んで右の方向におもちゃ屋がある筈です。お願いしますっ!」
それを聞いたゲーム好きだった朔は過去の記憶がフラッシュバックした。
「はいっ!」
(BOTAN......あれ?知ってるなぁ......車の中で女の人と一緒にした気がする......うーん)
そう悩みながらも人力ナビで到着する頃には化け物達は完全に追って来ていなかった。
「ふぅ......ちょっと雑に持ってすみません。探しますか」
「い、いえ。これは本当にイヴさんがいなければ確実に終わっていたので感謝しかないです......」
恐怖と安堵で30半ばに見える佐田が泣きそうになっている。
「お気になさらず、家に帰るまではこの命に変えてもお守りしますので!それと貴方もなんか奪って行ったらどうです?こういう時はストレス緩和が大切ですから......あれ?あってるかな?」
「多分あってますよ、私プラモデル好きなので何万もする手が出せなかったのがあれば拝借しちゃおうかなぁ......」
「取り敢えず、あんな意味不明な化け物が現れない限りはゆっくり進めるので大荷物でも良いでしょう!ただ最悪捨てるので絶対に持ち帰らないといけないのはそのリュックに入れた方が良いですね」
そうして2人は色々物色して外に出て行く。
「いやー限定品がこんな店にあるとは......なんかそろそろアンラッキーな事が起こりそうで嫌ですね......」
「そう言うのは口に出すとダメな気がします......ではお家に行きましょう!」
(死亡フラグ?そんな感じな気がする......)
と思っていたが普通に家に着くと佐田がドアの前に立ち独特なリズムでノックすると女性が出てくる。
「おかえりなさいあなた!本当に良かっ......あ、ああ......!!」
背後の2メーター超えの朔を見て悲鳴を上げれないほど恐怖し絶句する女性。
「あ!違うんだ!この人は命の恩人で容姿は不思議だが優しい人なんだ。早く家に入れさせてくれ、この方もだ。それと、こちらは妻の美緒です、あちらの方は記憶喪失で本名がわからないんだが一応イヴと名乗っている方だ」
「ど、どうも〜イヴです、佐田さんと今日行動を共にしていた者です。数日前に記憶喪失になり何もわからないので変な事をしたらすみません......」
「は、はぁ......ではお入りください......」
困惑する妻は取り敢えず中に入れる事にした。そうして佐田が全てを説明した。
「夫が大変お世話になりました......こんな世界なのにわざわざ本当にありがとうございます............」
話を聞いて涙目で土下座をしそうになる妻、だが朔は頭を地につけない様に手で止めた。これは無意識な行為であった。
「なんだか......その、それはよしてください。気軽にやるモノでは無い気がします......私は通りすがりに己が手助け出来る範囲の事をしたまでなので......」
それに対して夫婦は更に礼を言い、食事を用意し始めると娘らしき女の子が朔に近づく。
「だぁれ?ゴホッ......髪の毛キラキラでお目目が不思議〜それにおっきいね!」
「私?私は......ここだけの秘密だよ。サンタさんの友達なんだ。君が良い子にしているか見に来たんだよ、でも大丈夫そうだね。君の元にはきっと大切なプレゼントが届くよ!それとお名前は?」
微笑みながら思い出したサンタという存在を使って接する朔。不思議な朔の容姿に即座に信用する女の子。
「わたしはまーちゃん!ゲホッゲホッ......ゴホッお姉ちゃんほんと!?嬉し〜!!」
はしゃぐ子供に朔はニコニコ。実は子供にプレゼントをと佐田との雑談で知った女の子の好きなアニメのグッズを用意していた。それをバックパックから取り出して見せる。
「これなーんだ?私はサンタさんの仲間だけど25日には来れないから先にね!はい!プレゼント!」
そう言うと魔法の杖の様なおもちゃを見せる。
「わあわあ!!嬉しい!ごほっ......ほんとに!ありがと!!ねー!ママー!パパー!サンタさんのお友達がプレゼントくれたぁー!」
そう言いながらキッチンの方に走って行く。
「ふぅ......それ持ってなくて良かった............にしてもこの家は防音か?音が響かないなぁ......広いし良い家だな」
そうして床で正座していると家族全員戻って来る。と夫婦が近寄って小声で話しかけてくる来る。
「すみません、何から何まで本当に......娘も喜んでいます」
「本当に何度頭を下げても足りないくらいです......最初に不審がってすみません......」
「いや、私の見た目は不審だから大丈夫ですよ、美緒さん」
と笑いながら言うと目の前のテーブルに備蓄食を調理した物を出された。
「こんな物でしか返せませんが......どうぞ、遠慮せず食べてください」
「いやぁー久しぶりの食事なのでありがたいです!しかも温かいなんて!ご馳走になります!......すみません、甘い飲み物って余っていたりしませんか?ちょっと糖分が欲しくて、すみません」
「ありますあります!外気で冷やしているコーラがあるのでどうぞ全部飲んでください!」
そう言うと紙コップと2Lコーラを出されたので喜ぶ朔。
「助かります!頂きます!」
そうして早食いな為に5分も経たず食べ終わりコーラも半分飲んでしまった。
「ご馳走様でした!餓死しなくて済んで本当に助かりました!」
そう言うと立ち上がる朔。
「どうされたのですか?トイレですか?」
「あ、いえ。これ以上滞在するとご迷惑かと、私はそろそろ出て行きます。ありがとうございました!」
そう言うとバックパックを持ち上げようとするが佐田が言う。
「全然迷惑じゃないですよ!まだ休んでいかれた方が良いですよ。あんなに私を持って走られたのですから暫くは休んでいってください。それにそろそろ夜にもなりますから」
「本当に大丈夫ですか?......ならば今夜はお言葉に甘えて寝させて頂きましょうかな......」
「是非是非!」
そうして佐田一家の家に泊まる事になり雑談などしたりシートで体を拭いて寝る準備をしている朔。
「ふぅ......わざわざ布団も用意してくれるなんてなぁ............ん。嫌な気配がするッ!これはミートボールと会った時の様な感覚っ......でもなんでだ?」
そう言うと下着姿でマガジンなどを収納するベストと銃2つとナイフを持って、パンツに手榴弾を入れて立ち上がり2階に駆けると佐田に声をかけられる。
「なっ......どうされたのですか?」
(胸やばっ!?ん?ちんこある?)
「私の勘違いだと良いのだけど外を見て来ます、絶対に何があっても外には出ないでください」
出会いからほぼずっと笑顔の朔の真顔に淡々と言う姿に佐田は只事では無いと理解してリビングで3人で固まる様に言いに行こうとするところで朔がある物を渡す。
「これ、狙撃銃を預けます。何かあればこれを持って逃げてください弾はバックパックと今着ているベストに」
「貴女は!?」
「最悪、この愛銃があるので」
ホロサイトカスタムのデザートイーグルを見せると靴を持って2階の部屋のベランダに出た。
「速く早くっ............はっ!!防音の家が祟ったか」
右の道路から百鬼夜行の如くミートボールがゾンビを引き連れて歩いていた。距離100メートルも無い、もし朔の謎の勘が無ければ全員潰れて終わっていたかもしれない。朔は躊躇いなく飛び降りヒーロー着地すると、道路の放置された車の影に隠れて数を数える。
「ひーふーみーよーひーふーみーよー............ダメだ最悪50人いるか?私はこんな世界を生き延びていたのか?これは正常な悪夢か、異常な悪夢か............」
デザートイーグルを握り締めエロい下着と靴姿の朔は車の上に立つと空に1発撃った。開戦の合図だ。
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