第19話 変な希望

 12/21の夕方、小谷の元に女子2人が行き雑談をしていた。


「そうか......わざわざ大宮に戻ったのに見つからなかったのか............」


「腐敗した博士とバラバラの偽物の司令の遺体と爆発したキャンピングカー......その周りに白い繭の様なモノの残骸があっただとか......」

 

 そう暗くブランが言う。


「だからさ......その時は勝ったんだと思うんだ............だから外に出て力尽きたか、人間かゾンビに襲われ殺されたかもって......でも繭は偽司令官が回復する為に使った可能性があるって......だから偽物に関しては倒したって断言し難いらしいよ......それと本物は司令官の部屋に白骨死体で見つかったらしいから食べたんだね......」


「遺品は!遺品はないのか!?」

 

 何も残っていないなんてあんまりだと小谷は思い声を荒げる。


「......朔はキャンピングカーで逃げるつもりだったらしいから一緒に燃えちゃったって......一応近くに身につけていたゴミに近いモノ、あと何故か衣服だけは落ちていたって、何が理由かわからないけど朔は全裸になって行動しているんだよ......」


「その服は?」


「......感染リスクの為に焼却処分しちゃったって......なーんも......朔が生きた証......遺品が無い......無いんだよっ!一緒にいた車も燃えちゃったし......置いてきた荷物は朔が持ち帰る為に載せたから一緒に燃えたし......あ゛あ゛あ゛っ!!ふざけんじゃねぇよッ!!」

 

 未奈は近くに落ちていた石を拾って地面に投げつける。


「落ち着いて......未奈......スマホに写真は......ある......わ............」

 

 自分も虚しさで泣きそうになりつつ他者を気遣うブラン。


「そウだ。逆に考えろ、最小限の荷物を持って今もこちらに向かっている可能性は0じゃない............遺体は見つかっていないのだから......外には自警団や野盗に敵対勢力の自衛隊と人間のグループだけでも多い。友好的なグループの島に滞在して慎重に向かってきているなら......ギリ、ギリだ。本当にギリギリまだ来る可能性はある、あいつはゾンビ作品が好きだからな。急いだら死ぬってのはわかってんだよ......ああ............」

 

 最後の方は涙声になり目頭を抑えている小谷。その3人を遠くから車椅子に押される鉄と煙草が気づかれない様に見ていた。


 


「......チクショウ、なんで俺が生き延びちまったんだ............また......俺がどうにか生き延びればあの子とまた話せると思ったのによォ......はぁ......あの子らに合わせる顔がねえ」

 

 鉄はため息をしながら手を顔に当てている。


「それが朔君の望みです、それに彼ら朔君の友人達は絶対に我々を責めない優しい......子です。だからこちらも辛いのですが。それに先輩や私達を逃したいから......まだ23歳で民間人だと言うのに......自己犠牲で......彼のおかげで私達はいるのです。それと彼の捜索を強めるそうですよ、お上も理性的変異体で人類に友好的なのは逃したく無いと考えているようですね。それにサイモン博士の様に理性があるのにも関わらずゾンビの味方なんて個体も出てしまったので第一号から三号は疑われて大変だそうで......」


「......ああ、わかってるよっ............せめて遺体だけでも見つけてやりテェ......がもう雨も何度か降っているし腐敗は進んでいるだろうな。人知れず散るのが良いのか......どうか......」


「もう亡くなられていたら見つけるのは無理でしょう......彼は変異体、普通の人間では無いのでまだ希望を捨てるのは早いです」


「だからだよ、筋肉が無駄に多いせいで餓死しちまうんじゃないかってさ......まあ朔君は馬鹿じゃねぇ、サバイバル知識だとかゾンビ映画だとか、そう言うのが好きで生き残る術を知っているらしいからな......ゾンビ映画の知識が役に立つかは流石にわからんが............ちょっともう脚が痛むな、悪い戻してくれ......」

 

 鉄は3人をよく見るために無理に立っていた為に傷が痛んだ。


「無理してさっきから立ち上がっているからですよ、行きましょう。それよりも最近暴れている巨体の女の理性的変異体の捜索についての話があるらしいです。先輩は病室にいても大丈夫ですが一応来ますか?」


「......気になるな。どんな奴なんだ?」


「我々の仲間を助けたらしいので、人類に友好的なタイプと見られていますが変異体としての詳しい情報はほぼ正体不明。わかるのは目は朔君と全く同じの多瞳孔症で真っ赤と真っ黒な眼球、対になる色で瞳孔がどちらも色が同じなので、同タイプの系統の変異だと予測されています。容姿は銀髪ロングのポニーテール、真っ白な肌、身長は210センチ前後。腕は細いのにも関わらず朔君を彷彿とさせる怪力です。接触は何度か図れましたがどうやら記憶喪失、もしくは混濁していて会話が成り立たない場合があると聞いてます。私も写真でしか見ていませんが............これを見て頂きたいのです」

 

 そう言うとスマホの写真を鉄に見せた。


「これか?目玉が怖いだけでえらい美人だな............ん?このリュックサックに......腰には俺が朔君にあげたデザートイーグルじゃねえか!??カスタム済みだから間違いないぞ?どう言う事だ?こいつが朔君を殺したのか?」

 

 見覚えのある装備品にあげた武器を見て朔が殺されたと思い強めに話す鉄。


「......私はです。私の推測と言うよりは願望ですが、私は彼女......いや、彼が朔君ではないかかと思っています。唯一わかっている力が怪力と言うのが共通しています」


「んだと?......確かにこの1ヶ月で世界がこうなっちまったから、イカれた事象には少し耐性がついた......だが、あり得ないんじゃないか?どう見ても女だ、それも気味が悪いくらい美人、それも胸もケツもデカいぞ」

 

 エロい目でしか見てないオヤジ。


「実は彼、変異体II止まりなのです。前例だけで考えるならば、絶対に理性的変異体は何かしらの形でⅢになります。キャンピングカー付近の繭は朔君が変異した後に残ったモノではないかと私は考えています。ただ、この見慣れた装備はこの女が朔君を殺した、もしくはたまたま拾った人間の可能性もあります」



「はぁ......そもそも俺ァ変異体のレベル分け自体がわからんねぇ............ん?こいつ指輪めちゃくちゃ付けているな?そう言えば朔君は指輪を余分に持って帰ったって言っていたな......」

 

 謎の女が人と会話している姿を斜め前から撮った写真、その指には薬指以外に指輪が装着されていた。


「うーん......ただそれだけでは朔君とは断言出来ないですね......あ、もう会議の時間です。来ますか?」


「ああ、もちろん。この女が仇なのか朔君自身なのか少しでも知りてぇ......悪いが続けて車椅子押してくれ」


「気にしないでください、では行きましょう」

 そうして会議は問題無く終わり2人は鉄の病室に戻った。鉄はベッドに寝転がると暗そうに話す。


「......個体名はイヴか............それより困ったな」


「......そうですね、生け取り限定から殺害しても大丈夫になったと言うのは......」


「どうせアレだろ?サイモンのクソ野郎がしようとした事を、朔君以外の似た変異体の血からおっ始めたいんだろ............アレのせいで大宮は7割以上の人間が死んだんだぞっ......民間人も含めてだ。あんな危険な事を聞いて再現しようとするなんてどんな頭してんだクソっ!」


「我々、大宮駐屯地の残存兵力で先に見つけないと危険ですね......」


「そう言ってもお前と仲のいい自衛官は俺以外に3人だ、流石に危険すぎる。最近は初期に感染したゾンビの腐敗が進んで走らなくなったとは聞くが、その分時間が経っているから変異体の数も増えた......」


「絶対に断らない仲間がまだ3人いますよ」


「3人?......!いや、危険だ。ブランって子は現役ボクサーだったらしいが、まだ18らしいじゃないか。それに小谷君を動かす許可なんて取れないだろ?」


「そこは抜かりなく受け入れてもらう時に交渉しましたから。小谷君は我々の所有物と......物扱いは不愉快ですね。ただ、あちらがそう言ってきましたから仕方ないですが、我々のグループだけで動かせます。ただ追加の支援はあまり貰えないでしょう。どうします?やる価値はあります」


「答えるまでもねえ、現場では頼りにしていますよ隊長っ」

 

 そう言いながら煙草の背中付近を叩く鉄。


「っ......ええ、任せてもらいましょう。先輩はもう足が繋がったとは言え乱暴に動けませんので機銃の操作を頼みます。私は彼らに相談してきます」


「頼んだ、俺は寝る............ぐがああ......」


(本当にいつも早いな......のび⚪︎レベルだな)

 

 そう思いながら退出し、女子2人を小谷の前に呼び話す。


「......あのー大切な話ってなんですか?」

 

 死んだと聞かされるのではないかと気が気じゃないブラン。


「..................」

 

 もし死んだなんて聞かされたら吐いてしまう程に心臓をバクバクとさせ無言で耐えている未奈。


「2人ともそんなに心配するなよ、亡くなったんならまず両親に連絡が行くだろう」


「そうだ、彼はまだ亡くなっていない。だが彼ではなく彼女になってしまった可能性がある。これを見てくれ」

 そう言いながら3人に例の女の写真を見せる、小谷は至近距離まで顔を下げて見る。


「この銀髪の女の人が??なんか身長が異常に高くないですか?それとも話し相手が小さいだけ?」


「いや、210センチ前後はあると見ている。それよりも眼球を見てくれ、朔君と全く同じだ。それに装備も朔君が使用していた物がある」


「えっ!?変異した朔より少し大きいの......」


「ああ、それにパワーが強い。話では素手で鉄の壁を容易く一撃で破壊したらしい。それにこの女は記憶喪失なんだ、話が曖昧で会話ができない時もあると聞いた。だが善意の塊の様な人間で同胞自衛官や民間人を助けている、それも助けたら直ぐに立ち去ってしまうらしい。だが名前は分かっているイヴと名乗っているらしいが本名では無い。呼び名が無いから自分で仮に決めたとの情報だ............思ったより情報あるな......」


 自分で言っていて頭回らなくなっている過労煙草。


「......これが朔............本当ならハリウッドの女優みたいにクールビューティーだね......」


「私から見たらサーシャも身長バカ高いし死ぬ程可愛い変わらないんだけど......てか、本当に朔ならサーシャとは真逆の銀髪だね」


「未奈、お前も高校生の時に美人さでSNSでバズっただろ。それになんかのコンテストかなんかも一位だった気がする。朔が本当にアレなら美人三銃士だな......未奈だけチビだが」


「うっさい!女の平均身長より高い165センチはチビじゃねぇ!それに元の朔より身長高いわ!」

 そう言いながら近づいていた小谷の顎を蹴飛ばす。


「うげっ......バイオレンスな奴だ」


「DV野郎に言われたくないんだけどね」

 

 気まずい雰囲気になる。


「............色々騒いでいるところ悪いが本題だ。この女を探す為にこの基地から出る。着いて来てくれるか?3人とも」


「お役に立てるならば是非」


「待ってるだけじゃ落ち着かないですから私も行きます」


「えっ俺外に出ていいの?......良いならば行かない理由は無いです」

 

 困惑する小谷に事情を説明した。


「はぁ......そうなんですね。ここの上層部も自由に使えなくとも自分が欲しかったんですね」


「そう言う事だな、取り敢えず、明日の朝9時にここを出発し最後に目撃された、民間人達のグループの住処に行く。田舎によくある本当に密集した住宅を外から高い壁を建ててそこに住んでいるらしい、そこの人間を助けたとの話だ。横須賀の連中とも取引をしているらしいから自衛官不信でいきなり撃たれる事は無い筈だ......小谷君のヘルメットやアーマーには無害だとわかる印か単語を記さないとな。取り敢えず、明日に備えて置いてくれ門の付近に9時前後に集合で頼む。厳守では無いからゆっくりしてくれ。では、こちらも準備とご両親にも報告があるので失礼する」

 

 そう言うと軽く頭を下げ煙草は足早に立ち去った。


「......そうか。もしかしたらこれが朔か............まあ、性別は何でも良いけど記憶が無いのがなぁ......」

 そう言いながら貰った写真を見ている未奈。


「そう言えば、なんでイヴと名乗っているんだろうね?」


「あいつは厨二病だからなぁ、自分の見た目を見てスノーホワイトとかほざいていそうだが............記憶喪失は性格すら変わってしまうらしいしな......イヴの理由は多分、単純にクリスマスイブが近いからだろうな」


「記憶が無くなる、つまり人生経験が無い訳だから記憶喪失の朔は本当に本来の性格って事かな?不眠症の原因も精神を病んだ理由も忘れているのだろうし」


「つまり、純度100%の朔か......というか性別の変化に気づくのだろうか?流石に男だと言う事は忘れていないだろ?トイレに行くとか食事をするとか、言葉や単語を覚えている様にさ?」

 と小谷が言う。


「んーそうなると自分の目ん玉見た時すんごいびっくりするんじゃない?だって瞳孔が三つ△状にあって色が真っ赤と真っ黒。白目も真っ赤と真っ黒......何も知らないで鏡見たら怖すぎでしょ............」


「そ、そうだね......それにそんな眼をしていたらゾンビと思って撃たれちゃいそうだしサングラスとかかけて誤魔化したりしているのかなぁ」


「さあな......にしても記憶喪失しても人助けをして有名になっているなんてな、やっぱり根幹は不変のあいつなんだなぁ」


「ね............あ、夕食の配給らしいわ。......そう言えば一は何食ってんの?」


「余った物全部」


「結局あっちに居た時と変わらないのね......」


「まあ、そう言う事だ俺も明日に備えて......待った、俺今日起きているぞ?つまり、明日は起きないんだが............」


「あ!??煙草さん忘れてんじゃん......23日出発だね......」


「もう目のクマすごかったし疲れているんだろうけ......」

 そんな事を話していると部下に指摘されたのかその事で煙草が走ってこちらに来てドタバタしたが23日出発と決まり1日準備期間が増えたので、煙草が小谷の武具を調整するとの事に。そして当日の朝9時になる。


「来てくれたか、君ら2人は余った装備を渡したから軍人らしいな......いや、当たり前だが」

 

 と疲れた様に言う。


「大丈夫ですか?かなりお疲れの様子ですが......」


「大丈夫だ、もっとひどい時はあったからな。取り敢えず、あまり音を立てず徐行するから到着は少し遅くなる。一応日帰りの予定だ、収穫があると良いのだが......」

 

 そう暗くなっていると鉄が来て言う。


「隊長、あんたが鼓舞しなくてどうすんだ!やるぞ!ほら!」


「分かりましたから......では頑張っていきましょう、ただ1番は私達の命だ。誰か1人でも欠ければ朔君は酷く悲しむだろう。深追いはせず行きましょう」

 

 そう言うと出発し機銃の車が最後尾で小谷は車の列の横を歩いている。彼らは朔に再会できる事を信じて向かう。

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