第18話 カフカ

12/11の午前8時朔は帯刀した状態で鉄の病室に居た。


「これ食べてください、足の方はどうですか?」

 (俺がささっと描いた絵があるな、そんなに気に入ってくれたか......もう少し良く描けば良かったかな)

 そう言いながら事前に好物と聞いていたカルパスを目の前に置く。


「ありがとうよ。でも朝キツいんだろ?わざわざすまねぇな。そうだ、それと足はもう感覚がある。一度取れてから感覚が戻ると不思議な感じだよ。あと少ししたらリハビリしても良いくらいになるらしい、幸い感染症は今のところ無いからな。早く接合部をまじまじと見てみたいモンだな」

 (刀そんなに気に入ったのか......)


「私は大丈夫です。そうですか、それは良かったです......感染症にはかなり気を遣っているみたいですよ、私もここに入る時に全身に消毒浴びましたから」

 と笑いながら言う。


「今タバコ吸ったら燃えちまうな、だから吸うなって言ってくるのか?服や包帯やら色々すぐ変えて洗濯して、部屋も定期的に消毒しているし、寒いし少し臭えってのに換気の為に窓開けてるしよ。ありがたいけど忙しいな......言えた口じゃあないがね」


「不満が出るのは安心し切った事ですから良いんじゃないですか?本人に言わなければ思うのは自由ですよ。それに貴方が治るのが最優先ですからね。とにかく好転していて良かったです、私はそろそろ失礼しますね。また来ます」


「おうよ、ありがとな。あとこれ、息子が使っていたナイフなんだが受け取ってくれ。その方が嬉しい」

 笑顔で鉄は朔に手を振り見送る。


「いえ......わざわざありがとうございます、大事に使わせて頂きます」

(俺はこんな世界になったら本来すぐ死ぬ様なドジな人間。ゾンビ発生後に感染しちまったのにここまで生き残り、他人を踏み台にして生き残っちまった......俺のオタク知識では今の状況はわからない。作品でつまらない安定期をわざわざ描写する作品なんてない、この2週間は本当に何もなかったからな。これから起こるとすれば誰か死ぬかここを追い出される羽目になるかとかかな............それと指輪は渡せず持ち歩いているしいい加減渡さないとな......)

 そう言い頑張って笑顔にして扉を開けて出ていく朔。そのまま病室から自室になった部屋に戻りベッドで横たわる。


「はぁ......あいつらどこ行ってんだ?今日は起きてる小谷にいつもの報告かな。あいつももう完全にただのデカい人間にまで治ったしな............未奈はともかくサーシャまであいつの元に行ったら......いや、寂しいがあいつの近くの方が安全だな......」

(珍しく眠いし少し昼寝しちゃお......心療内科の先生には寝れる時に寝ろって言われていたしなぁ......あの心療内科のジジイも頑張って生きているといいな。......いや、それより祖父母の安否が気になるなぁ遠方にいるから会えねぇし困ったよ............ねむ......)

 そう思い二度寝してしまう朔。だが騒音と悲鳴で目を覚ます。


「んあ......あぁ?は!人が叫んでいるッ。何があったんだ?今は......20時半!??流石に寝過ぎだ。おかしい、薬を盛られたか?」

 朔は刀とデザートイーグルを装備して外に出た。


「はっ!はっ......はぁ......???な、何が......どうなってんだ?」

 朔の目の前にはムキムキのゾンビの自衛官が暴れ一般市民を殺し、銃を乱射していた。正気の自衛官が応戦しているのが見えた。見えた自衛官急いで駆け寄り質問する。


「これは一体何ですかっ!柵が越えられたんですかっ!??」


「ち、違う。司令と博士のせいだ......あいつらはイカれている......」

 怯えながらも応戦している自衛官の話を聞いた。


――――――――――――――――

 同日昼頃にサイモンは自衛官の半分に注射をした。


「博士......これ本当に朔君みたいに強くなるんです?」


「計算上問題ない、そのまま仕事を続けたまえ」

(司令に命じられて実験として半分に留めたがどうなるかなぁ。動物実験もしていないから未知数だ、だがこんなにも自衛官モルモットが集まっていると実験はしやすいなぁ。同胞が増えるか?)


 そこから数時間後、煙草は博士に注射された自衛官が苦しみ始めた事にサイモンを問い詰め聞き出し、原因の司令の部屋に部下を連れ銃のセーフティーを外して訪れた。


 コンコンッ

「失礼します、煙草2等陸佐です。司令にご質問があり来ました」


「......答えん、自分の仕事に集中しろ」


「いえ、答えてもらいます。我々の仲間に何を注射したのですかっ!サイモンは人体実験どころか動物実験もしていないと言うじゃないですか!何をお考えでッ」


「仲間を増やすのさ、我々変異体のね」

 そう言うと扉突き破り姿を現す。


「なっ......い、いつから......お前は司令じゃない!誰だッ。ご丁寧に声真似して俺らを騙しやがってッ」

 煙草達の前にはカエルの様なからだに顔の上半分だけは人間のままで、手足がムキムキの人間と言う珍妙な姿の化け物が現れた。


「うふふっ私はただの市民さ。感染を隠して此処に保護された。だが博士の言う理性を保ったまま変異と言うのができた、だがある欲求が出た。仲間を増やしたいと、博士はこれに喜んで乗ってくれた。だが新たな変異体が出てこなくて困っていたところに2人の同胞がここに来た。私は喜びのあまり射精したよ、こんな快感はないっ!そこからは地道に研究を重ね行動に移した。もうこのクソ狭い部屋から出れるッ」

 そう言うと口を開き長い舌で煙草部下を突き刺す。


「ぐえっ......がっ、まんまカエルかよ......」


「美味しそうダァ♪」

 そう言うと2人同時に捕食する、この一連の流れをただ見ているわけでもなく煙草は銃を撃ち続けるが全く効かず弾は柔らかい肌に当たると滑り後ろ壁に当たるかぽとぽと落ちていく。


「チッ、化け物が」

 そう言うと閃光手榴弾を投げ、煙草は全速力で走って逃げる。追加お土産を置いて。


「ぐえー......うう、目がぁ............はっ!し、しまっ」

 ばぁぁっんッと音を立てて手榴弾数個が大爆発し吹っ飛んで転がり壁にぶち当たる偽司令。その間に煙草は仲間に無線で連絡を入れて放送で避難指示を出す。この時20時過ぎであった。煙草はもう寝てしまった小谷をトラックで運ぶ準備をし、朔の嫁も保護し撤退の準備をする。


「くそくそくそっ!やっと安心して暮らせると思ったのにッ」

 未奈は89式で人工変異体の関節を撃ち転ばせる。



「ねぇ!朔は!朔を連れて来ないとっ」

 拳銃で頭を何度も撃ちながら煙草達の方を向き言う。


「彼は感染している、ゾンビ共は理性問わず変異体の事を優先的に襲わない!彼を信じろっ」

 (信じろと言っても、言ったこの私も心配だからな......とは言え隙を見せたら、こんな......こんな化け物になってしまった仲間達に殺されてしまう)

 朔をベースにペース配分を考えずにフルパワーで暴れる変異体達の強さは凄まじく、人間達を撲殺していく。


「小谷君を乗せたトラックはもう出せっ!横須賀の元アメ公の基地に向かわせろっ!」


「えっ!?な、何でそこに?遠くないですか?」


「あそこしか受け入れてもらえない。我々はこれでも大規模な集団なんだ、我々の同胞が管理している横須賀に向かうしかないっ朝霞は総理派で敵対しているのもあって面倒だよ、本当にッ!」

 寄ってきたゾンビの足を払い転ばし頭部を吹き飛ばす煙草。


「さ、朔のご両親は生きてますか?藤原さんは?脚が切断されちゃったおじさんは?」


「藤原さんは偽物の司令に喰われたッ。先......おじさんの自衛官は戦おうとしたから無理矢理運び出したっ!そして、ご両親はもう出発しているからわからないが、ここよりはマシさ。それより君達も出ていくトラックに乗り込めっ!」


「今私たちが行ったら煙草さん1人になるでしょ!」


「私達にも援護させてください!ただ拳銃以外に無いですか?」


「これを使えっ!私のサブウェポンだ!」

 そう言いながら9mm機関拳銃とマガジンをまとめた物を投げ渡す。ブランは落とさずキャッチし手に取る。


「ありがとうございます!」

 そう言うと応戦を再開。大体の人を避難させ人工変異体の殆どがスタミナ切れで鈍ったところを殺したタイミングで正門付近で朔と合流。


「朔!よかった!生きていたんだね!」


「死ぬとは思っていなかったけど安心したよ」


「この人達に助けてもらったからね」

 と数人の自衛官の方を見る。


「いや、寧ろ朔君が居なければ死んでいた。逆だ感謝する、我々も撤退する」

 そう言うと車に乗り込んでいく。


「......おかしい、偽司令とクソサイモンはどこだ......ここでケリをつけなければ危険だ」



「ここだよ〜!」 「私は非戦闘員なのだがね」

 建物の側面から飛び降りてくる偽司令。自分に注射を打つサイモン、身体には朔の涙が入った小瓶を巻きつけていた。


「あんたに協力したのが馬鹿だったよ、同情してくれた時は良い人だと思ったのにな」

 そう言いながら抜刀する朔。


「私は本心で君を同情した、これは我ら新しい人類の繁栄と選別の為だ。我々と共に生態系の頂点に君臨しようじゃ無いか」


「そうだ、人間は食い物に過ぎん。我らで王になろうぞ」

 勧誘して来る2人、それに対して朔は笑う


「ふふっ......本当にぃ?......でもな、いくらモブみてぇな人生だったが、そんな王サマなんざ求めて無いんだよッ!!」

 そう吐き捨てる朔の筋肉は膨張、怒りで顔にも血管が浮き出ている。3人は信じていたぞとばかりに頷いていた。


「交渉決裂、危険因子は排除だ」


「そうだなぁ、お前を食えば俺ももっと強くなる。ここの司令は不味かったが」


「何?お前司令じゃないのか?聞いてないぞ?」


「そんなの些細な問題だろう」


「いや、ふざけるな。バディに隠し事をする様な奴に信用できるか」


「バディだと思っていたのか?結構情に深いんだ......」

 言い合いを始めた隙を見て逃げようと車に乗り込む。煙草はエンジンをかけ発進準備完了。


「朔っ!あんなの無視して来て」


「はやくっ!」

 2人が手を伸ばすがバッグを投げつけて言う。


「あの化け物を見てその車で逃げ切れると思うか?俺がやる、後から......追いつくさ。場所はどこだ?」


「映画オタクのあんたならそう言う奴がどうなるか分かってんでしょッ!!やめてよ!」


「騎士様なんでしょ!ずっと守ってよ!」


「今ここが俺の戦場だ。正念場だ。サーシャ、未奈を守る為、小谷や煙草さんにおじさんみたいな仲間を守る為に......それに殺された藤原さんの為にもだっ......許せ、次会った時には2人にプレゼントがある、楽しみに待て!」

 そう言いながら言い合っている2人に切り掛かりに走る。


「もうダメだ、出すぞ!朔ッ!横須賀の米軍基地に必ず来いッ!」

 煙草は朔を置いて発進。


「嫌だ嫌だ嫌だっ私の希望!私の騎士様ナイト............こんな展開は映画で助かったのなんて主役級がやったってほぼ無いのに......オタク知識で生き残るんじゃなかったのっ!!」

 ブランは大泣きしながら喋る。


「あいつは自分のことを直ぐに死ぬモブだの何だの言ってここまで来たんだ。何とかなるさ......」

 2人は悲しみながら車に揺られ、人類が減ったおかげで綺麗に見える夜空を眺めていた。


――――――――――――――――――

 一方でまだ言い合っている2人。


「お前なんで隠す必要があったんだよ!」


「逆に言う必要もないだろ!」


「確かに私はここの所属じゃ無いから良いけど隠し事は......」

 そう話しているサイモンの片腕を一刀両断、刀を下から上げ逆袈裟斬りをしてバラバラにすると偽司令に刀を突き立てるがヌルッと滑り刺さらない。


「ぐわっ!ぐわっ!弾も刃物も効かぬよ!はあ〜っ!」

 何の小細工も無しに朔に拳を振るう、何度か避け壁に追い込まれたが間一髪で避けたが奴の拳が当たった壁は粉々になった。


「ムチムチのブヨブヨのくせに手足はムキムキとか腹立つな............クソ博士は俺の涙でもう復活かよ、本当に腹立つ」


「君の血涙は沢山もらったからねぇ!お人好しで助かるよ、科学の発展はお人好しのモルモットで成り立つからねぇ......もしくは戦争の捕虜を使うか」


「聞いてねぇ事もうだうだ喋りやが......っ!?この汚物を触らせたツケは払ってもらうぞっ!」

 不意打ちの鋼鉄の様に硬く鋭い舌を出して来たが朔はノールックで掴み引っ張りこちらに寄せた。


「うげげぇっ!」 「ば、ばかっ!こちらに投げ......ぐぅわぅ............ぜ、全身の骨が折れた......手が動かせないっ......注射が......私には適性がなかったか......お前私に瓶の涙をかけろ......」

 偽司令の体重と朔の投げた勢いで博士は全身骨折し瓶を開けて回復が出来ずにいた。


「黙れ、マヌケ。勉学以外取り柄の無い社会不適合者が、俺がこいつを始末したら治してやるから痛みを感じながら、他人が痛ぶられるのを見てろっ。他者も痛い目に遭っているのを見ると軽減するらしいぞ?」

 そう言うと口をがぱっと開きながら突進してくる。


「っ......」

 (舌か?突進か?両方か?まさかの蹴りか?......仕方ない、不意打ちに隠していたが)

 そう思いながらデザートイーグルを出して口の中に何発もぶち込む。1発だけ貫通して飛んでいった。


「うぶぶっぼぇ............び、瓶を貸せっ......ふぅ......助かるねぇ。ほらおまけだ」

 そう言いながら残りをサイモンにかけると立ち上がる。


「結局1人では倒せない気がして来たか?」

 ニヤニヤするサイモン。


「2度目の慈悲は無いぞ、黙って手伝え」


「テメェらには一度の慈悲もやらぬっ」

 もう隠すのはやめたのでデザートイーグルで博士の身につけている瓶を撃ち破壊しようする。1瓶は破壊できたが偽司令の肉体に阻まれて逸れる。目視で確認できるのは残り数瓶。


「私は肉体強化を得られなかったので、博士らしく援護をしましょうかね」

 そう言うとよくわからない液が入った瓶を2つ投げつけて来る。避けれたが中身が混ざると化学反応が起き何かマズい事になると、超速で脳みそをフル回転させた朔は敢えてキャッチして間髪入れずに豪速球の如く投げ返しサイモンの身体にぶち当たり砕けた。


「ぐっま、マズい、あああ!!や、焼けるっ......薬品火傷だ......び、瓶を」


「馬鹿、数が少ねえのに火傷如きで使うなっ」

 そう言っている間に焦って2瓶使うサイモン。


「ふぅ......やっぱりサッパリするしいいねぇ。問題は見た目が血まみれになるくらいか」


「じゃねぇよ。もうラストだろうが!テメェは死体から銃を拾って後ろから撃ってろっ!俺がやる」

 そう言うと手足を折りたたみ転がりながら来る。


「どうせ、掴んだら滑って巻き込まれんだろっ......っ!危ねっ!ほらお返しだ!」

 そう言いながらパルクールをする様に建物の壁を掴んで回避するがサイモンに撃たれる。だが余裕で撃ち返すとサイモンの足に当たる。


「ぐわぁ......あ?君の涙はすごいなぁ、残りカスでも回復が少しだが加速しているぞっ」

 そう言いながら89式を連射、朔は壁から降りたタイミングで偽司令に足を掴まれフルスイングで壁に何度も叩きつけられる。


「ふんっ!ふんっ!バッセンならホームランだ......うぼぇっ!??......た、タフなガキが」

 貴音は振り回されて壁に当たってバウンドした時に、自分の力も入れて逸れ流れで顔面を殴りつけて拘束から解かれる。


「はぁ......はぁ......っ!本当に休まらない......」

 (あと何分変異IIを保てる?マズいぞ......)

 息を切らして立ち上がるがサイモンに射撃されてしまう為に落ち着けない。


「人数不利、能力不利の君に勝ち目はないぞ?最後だ、共に王になろうではないか?君の涙は唯一無二の力、殺すには我々も損しか無いのだよ」


「嫌だよ、ここで乗ったら主人公っぽくねぇだろっ!俺はこの世界の主人公になりたいんだっ!最高のハッピーエンドを掴むまで引き下がれぬ、負けれぬ、死ねぬッ!」

 そう言いながら、ハッピーエンドと話している辺りで不意打ちで刀をサイモンに投げると喉元に刺さる。


「うばぇ......っ!............」

 痙攣しながら動かなくなるのを見て絶句する偽司令。


「お、お前......話している途中に攻撃とか......主人公になりたいとか言っている奴がやる事じゃねえだろ」


「うるせぇよ、特撮系の変身待ちがあるヒーローモンの主人公なんて一言も言ってねぇよ。それにこんな目ん玉している奴がヒーローに見えるか?......まあ成りたいし、家族や仲間のヒーローではあるがな、さてデザートイーグルの弾も切れたし殴り合いといこうじゃないか?滑らない様に確実に真正面から貫いてやるッ」


「さあ?どちらにせよ私の力には勝てないっ!」

 そう言うとジリジリと近づき掴みかかってくる。しゃがんで滑り込んで裏に回ると股の間に思い切り蹴りを入れる朔。悶絶し苦しむ偽司令の背中をタックルして前に押し倒して建物のパイプをもぎ取り背中に突き刺したが、偽司令が思い切り立ち上がった勢いで上に乗っていた朔は吹っ飛ばされた。


「ぐぐつ......うぁっ......ふぅふぅ......こんな物を刺しやがって、パイプだから穴も空いているので出血量が多い......お前を殺してその栄養で傷を癒してやるっ」

 そう言うと舌を出しっぱなしにして手で掴みブンブンと振り回している。


「どんだけ長えんだよ、その短小のブツより立派だな」


「お、俺が一番気にしている事を〜!!」

 偽司令はデブで奇形でデカい為に服が着れず全裸だったので全てが丸見えだったので朔は煽った。理性を失った様に振り回して接近して来る偽司令。


 「知ってるか?怒っていると戦いに負けやすいんだぜ」

 そう言うと単調的な動きの下を普通に掴み引きちぎろうとするが舌が独自に繊細に動き、掴んでいた右腕を切断される朔。痛みに堪え急いで距離を取る。


「いってぇ......何だよこんなに自由に動かせるのにブラフで振り回していたのかよ」

 そう言いながら二の腕の真ん中くらいから切れた腕を押さえて言う。自分の腕を眺める事しか出来ない朔は現状を打開する策を考える。


「私は理性的だ、それに必殺技はとっておくモノだからね......う、美味い〜!!君の腕は極上だ、身体の怪我も癒える!!」

 偽司令の傷は無くなり更に巨大になり筋肉が更に増える。


「涙は元々血だからか......変異体の肉を食ったからか......」

 絶望的な状況の朔、気持ちは落ちても諦めはしない。慢心している偽司令はゆっくり歩くと俯く朔の前に立つ。


「ふぉっふぉっ!今終えれればあの馬鹿サイモンも蘇らせれるだろうっ!死ねぇッ!!」

 そう手を振り下ろす瞬間に、朔は腰につけていたベルトを使って腕に巻きつけさせて引っ張り蹌踉めかせる。


「うおっとっ!??」


「地獄で懺悔しろっ」

 貴音は奴の倒れる頭ら辺の位置に鉄から貰ったナイフを胸から引き抜き立てて持ち自重で首から頭の方に深く刺さり、追い討ちに殺意マシマシに横に捻って引き抜く。気分的にズタズタにして死亡確認するのは気が引けた朔は追い討ちはせず、動かなくなったのを見てナイフの血をサイモンの死体の服で拭いしまい、彼に刺さった日本刀を抜き取り見る。


「あー......本当に数回人間を切るとダメなんだなぁ」

 そう言いながら博士の近くに落として捨てて立ち去る準備を始める。自分達のキャンピングカーを見つけエンジンをかけて外に出て、自室にあった荷物を入れる為に中に入ろうとした瞬間に、朔は何故か立ち姿勢を保てず倒れた。目の前には右太腿から下の足、自分の足が落ちていた。


「トドメを刺さずとは慢心したなァ!刀は回収しておくべきだったな、これでお前は右半身まともに動かせぬ!」

 血塗れの偽司令がそう言いながらヨロヨロ近づいて来る。


「......サイモンを食ったか、同胞を増やすだの言う癖に自分勝手な奴だな本当に」


「仲間ってのは助け合いだろぉ?助けてもらったんだよ、これはね。あいつの半身如きでは回復し切れなかったが......。じゃあ、諦めてしんでもらおう、サイモンは食べ切ってないからな、君の血で復活させる」


「ああ......死のう。一緒になっ!!!!」

 (無駄に仲間意識強いのが腹立つな)

 意地で痛みに耐え片足で車に乗り偽司令に向けて発進。


「このイカれ野郎がぁ......ぐぐっ......」

 アクセルベタ踏みではあるが所詮はキャンピングカー。疲労と治りきらない傷があったおかげで拮抗しているがいつ倒されるかわからないところで窓から自前で車内で持ち続けた手榴弾を笑顔で見せつける朔、偽司令は何をするか察して車から手を離し全力で走ろうとするが遅かった。


「自己中のクソ野郎がァッ!!!!」

 貴音はそう叫び偽司令に向けて車を飛ばす。


「う、うわああああ!!!」

 朔はピンを抜いて車のガソリンタンク付近に置いて余裕があったので飛び降り、偽司令と共にキャンピングカーは大爆発。偽司令の身体の一部がその辺に飛んでいた。


「はぁ......やっぱ悪人でも殺したくなかった......はぁはぁ......もう、俺も......わざわざ飛び降りたが長くない...... これが一生か?これが俺の晩年の安らぎか?寒い......いや、季節的に当たり前か......い、いや?暑い暑い......?な、なんだ......?苦し......い......真面目に考えたら出血が多いな、し、死にたくねぇ......情けねぇ、漫画や映画のキャラはこう言う時は守り切って誇らしげに死んでるけどさ、実際の立場になると俺も生きたかったってなるよ............おえぇっ......うげぇええっ......????」

 朔は急に暑がり全裸になったと思うと、気持ち悪くなり濡れた白い繊維の様な物を吐き出しまくる。自身で出した物を理解できずに困惑する朔。


「こ、これが変異体の死?うぇっ......纏わりつく......?き、綺麗にせめて綺麗に死にたかった......おえ......寂し......いみんなあり......がとう。さような............」

 貴音は自分の吐瀉物?の様な物に塗れ動かなくなった。冷たい夜風に晒されて身体は即座に温もりを失っていった。周囲には肉片と車の破片。渡せなかった指輪などが入った小さいバッグと衣服だけが散乱していた。朔は1人寂しく惨めにも足掻き仲間や家族を守る為に命を賭けた戦闘を勝利し終えたのだ。

 

 朔の両親に嫁2人たちは横須賀元米軍基地に到着すると保護された。小谷、朔はVIP待遇される予定だったので広めの個室が用意されており嫁2人はそこに入り荷物置いて身体を拭いたりして就寝の準備をした。小谷は当然入れなくやっと部屋がもらえるのかとぬか喜びし、煙草が珍しく感情的に言い方に問題があっただろうと抗議する。そうすると空いた土地に小谷の家を作る計画が発案され行動に移し始めた。


「......明日戻って来るかな、そもそも道ってわかるのかなぁ......そう言えばプレゼントってなんだったんだろう」


「プレゼントって言っても外から私達の好物とか見つけたんじゃない?それに、あいつの事だからカーナビ生きている車を見つけて無理やり来るよ。そんなにソワソワしないで今日は寝よう............藤原さん達が亡くなったのは悲しいけど......」


「あの人のおかげで何人も助かったからね......寝ましょう、夜は悪い事ばかり考えてしまうから」


「そう......ね......」

 2人は1つのベッドで抱き合いながら眠りについた。そして翌日起床するとここがどう言う場所か説明されるのと共に、未奈とブランの武器のメンテナンスと弾薬補充を特別にしてもらった。サーシャの銃は煙草が返さなくて良いと言う為に持ち続けた。2人は小谷が起きるのは明日なのでやる事もなく旦那の帰りを待った。待てども来る気配は無く翌日になってしまう。


 12/13 大雨の午前10時頃にブランが1人で泣いていたのを起床した未奈が慰めていた。


「も、もう......流石にこんなに時間がかかったら......い、生きてないっ......うう......朔......」


「落ち着いてサーシャ......あいつの事だから慎重に向かっているんだよ。疲れたから初日は休んで動かなかったかもしれないしさ、だって何十キロもあるんだよ?直ぐにこれないよ、睡眠薬だってどうしているかわからないし」


「う......うん」

 ブランが落ち着いたところで小谷に報告しに行くがもう知っていた。


「......俺が珍しく早寝なんてしなければ......俺が......次は......なんて言って............結局守れてないじゃないか............」

 自分が居れば少なくともサイモンは秒殺だったのは明白、朔が1人で戦ったことを悔やんだ。


「......薬を盛られたのかもしれないね。朔もあの感じだとずっと寝ていたみたいだし............」


「嫌な奴らだ......とにかく朔を信じて待とう。あのクズ連中がここに攻め込んで来てないって事は勝ったに違いないからさ」

 そう慰める未奈。無情にも時は流れ12/20になる、ここでの生活も慣れボランティアをして気を紛らわせていた2人だが、もうこんなに時間が経って来る筈が無いとわかっている。もう永眠しているのはわかってはいるが頭とは別に心で信じ続けて日々を生き延びている。小谷は睡眠の日だ。





 




――――――――――――――――

 

 崩壊した大宮駐屯地 日付不明

 

 荒れ果てた駐屯地内の敷地で、純白の巨大な繭の中から異質な人間がパリパリと破りながら出て来る。


「......ふ......うう......わあぁ............??ここは......どこ?んぅ?」

 人間は自分の姿を見て辺りを見回す。


「あそこ燃えてる......どこなの............そしては......一体何?」

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