第15話 しつこい男は嫌われるぞ⭐︎
翌日の11/25の朝7時半頃に若い隊員が起こしに来る。
トントンっ
「失礼します。おはようございます、朔さん。煙草2等陸尉と博士がお呼びで............本当に失礼しました......てっきり朔さんお一人かと......」
自衛官が見たのは薬で熟睡している朔に抱きついて眺めて微笑んだり、頬にキスしたりしている下着姿の女子2人を見てしまった。朔は自分で食事を問題無く摂れるという事で点滴が外された為一緒に寝る事が許された為の悲劇。まあ常識的に考えて相手は民間人なのだからノックしたら隊員は返事を待つべきだが。
「あ......ああ!??」 「い、いえ......」 バサッ
2人は狼狽える。ノックされる事はあっても返事を待つだろうと思い完全に油断して、低俗な朔好みのかなりセクシーな下着で寝ていた為に急いで布団を上げる。そしてブランが答える。
「その......まあこう言う事もありますから............お気になさらず......それと朔は重度の不眠症なので必ず睡眠薬で寝ていて、本当に顔を引っ叩いたり無理矢理ベッドから落とすなりして起こさない限り、就寝時間から考えてあと数時間は眠っているかと......」
「朔はちょっと心の病気もあって............急ぎですか?昨日の疲労がだいぶきているんじゃないかなと......だから眠らせてあげたいんですが......」
「そ、そうでしたか......で、では一応今聞いて来ますので......」
そう言うと動揺した自衛官は部屋にも入らずUターンした様だ。
「......あの焦り方童貞だね」 「いや、普通に誰でもああなるって......にしても油断しちゃったね......」
「まあ、隠すところは隠れているし......このカルバン何ちゃらの際どいパンツさえ見られなければ......」
「でも私たちの胸の谷間ガン見していたよ......」
ブランは恥ずかしそうに言う。
「それはどのブラ着けても大体回避は無理でしょ......」
なんて事を小声で話しているとノックされたので返事をする。今度はドア越しで話しかけられる。
「先程は失礼しました。無線で確認したところ2等陸尉も博士も全く急いでいないのでゆっくり朝食でも昼食でも済ませて、遅くとも夜になる前に準備して来てくれとの事です。内容は面談などです、ここの地下の部屋から出て一階の出入り口にいる自衛官に話しかけてください。彼らが案内と準備をします。それでは失礼しました......あ!朝食、昼食はこちらが支給しますので待機していてください、それと民間人様の駐屯地の地図をドアの下から差し込みます。改めて、本当に失礼しました」
コツコツと足音が離れていく。
「はぁ......疲れた......朔は相変わらず死んだ様に眠るねぇ」
「呼吸音もあまりないから、胸の動きや鼻に指当てないと呼吸しているかもわからないのだから怖いよね......そういえばご飯の支給時間教えてくれなかったね......」
「死ぬほど眠いのに2度寝出来ないじゃん〜しゃーねーエナドリ飲むかぁヌルいからマズいんだよなぁ......なんで冷蔵庫はないんだよ〜電気はあるってのに......」
そう言いながら未奈は自分達のボストンバックを漁る。
「いいよ、寝てなよ。私は眠くないからさ」
そう言いながら未奈の後ろからボストンバックを閉めるブラン。
「サーシャすまんね......なんか落ち着かなくて今日は熟睡出来なかったから......じゃあ、また寝させてもらうね」
と言いながらブランの肩を軽く叩き布団に入った。
「気にしないで、睡眠は大切だからね。美容にも効果的だし、多分」
そう言いながら昨日洗って貰った服を着て、お菓子とそれを開ける為のハサミを持って椅子に座る。前にパクったゲーム機で遊び始めながら疑問を抱き始めたブラン。
(そういえば......この部屋は元々なんだったの?土足じゃなく小さい下駄箱があるから寮だったのかな?それとも監禁部屋?でもコンセントもあるし棚、テーブル、椅子や今はほぼ意味がないテレビも少し埃が被りながら置いてある......でもさっき未奈が言っていた通り冷蔵庫とかは無いね?それに、この医療器具達だけ後付けで置いたっぽいからやっぱり寮かなぁ......これで実験施設の被験者を閉じ込める場所だったりしないよね......?いや、ならもっと汚いかな?それよりそもそも監視カメラや盗聴器が............)
1人でやる事もそんなに無い為に頭を抱えながら悪いことばかり色々考えてしまうブラン。そもそも、両親と兄2人を亡くした18歳の子供を放置するべきではなかった、2人は彼女がしっかりしている為にたまに忘れてしまう、彼女が1番酷い目に遭っている事を。ブランは何が理由かわからない、不安、悲しみ、朔の両親が生きていた事に対する羨ましさ、それを抱く自分に対する酷い嫌悪感。彼女はパンクしてしまい部屋で涙を流す。2人を起こさない様に静かに泣き呟いていた。
「......お母さん、お父さん。私は他人の幸せを無意識に妬みました......口では貴方の幸せは私の幸せなんて言っておいて............最低な人間です......私はお母さん達と違って神を信仰してなかったけど地獄行きかな、一緒の場所には......」
大した罪では無い、誰かを羨む事など生きていれば何度だって数えたらキリもない程の事。だが地獄と化した日本で足掻き生き抜こうとする少女の負の感情を受け止める器を壊すには十分だった。何度朔達に励まされては元に戻る事を繰り返していた。だが、補修されたはひび割れは広がりを繰り返し、彼女も精神が病んでいるだろう。そんな彼女は虚な目から涙を流し続け、無意識にハサミを首の動脈に向けていた。危ないというほど首に刃が当たる瞬間だった。
「......ここまで......思い詰めている事に気が付かなくて悪かった」
そう言いながら朔がブランの手首を握りハサミを取り上げた。ブランは自分で手一杯だったので朔が近づいている事にも気づけなかった。
「......貴方のね、家族が生きていた事が羨ましかったの、なんで私だけ皆んな死んじゃったのか、喪失感を共感してくれる人がいなくなった事で恨めしかったの。そんな自分が嫌で嫌で許せない......外見は褒められるけど内面はこんなだからイジメられてきたんだって理解したわ。......でも、なんでッ!なんでっ私なんかを守って皆んな死んじゃうの!!目の前で両親は確実に死んだ!お兄ちゃん達は目の前で発症した、貴方も見たでしょ!だから貴方の様に運が良ければまた家族に会えるなんて無いの、会えてももう人間じゃない!..................ははっ......こんな私が嫌だって、許せないって言ったのに、またこんな事を言っちゃったよ......自己中クソ女ね......ああ、死んでみんなに会いたいよ......」
朔は睡眠薬の副作用でまだ意識が朦朧としているがしっかりと聞いていた。
「……俺は聖人君子でもない人間だから......君に伝えるべき最適な慰めの言葉が思い浮かばない。ごめんな、でも我儘だが生きて......自殺なんかしないで俺の隣にいてほしい。まだ......いやずっと君が俺には必要だ。俺のクソッタレな人生に差し込む光だ、新月の様に暗い俺の人生のとても大切な白い光......」
そう言いながらブランの涙を拭い抱きしめる。
「............何度もこんな事を繰り返してごめんなさい。しっかり、愛は伝わったわ。互いに幸せになれる日が来る事を祈って頑張る......」
「俺は君に愛されるだけで幸せさ......」
くさいセリフを吐く朔。だが本心だ。
「ありがとう......私も同じよ。もう、その幸せを見失ってしまう事は無いように生きる」
「ああ............ちょっと悪いが、まだ薬が残っているみたいだ......不安だからサーシャもベッドに居てもらう」
そう言うと持ち上げベッドに寝かせ、先に二度寝している未奈と共にブランは朔に抱きしめられ眠る。
「きゃっ!」
(ちょっと......苦しい......けど温かい......)
ブランは温もりを思い出し眠る。3人は8時半過ぎに起き、レトルトや缶詰じゃないまともな食事を食べ着替えると部屋を出る。
「はー超久しぶりのまともなお風呂に食事で嬉しいなぁ〜」
「昨日はサッパリしたね、ただあんな仮設のお風呂があるなんてね。技術すごいよね〜」
「風呂の日じゃないのにわざわざ用意してくれて助かったよな。それに衣類や靴も全部サイズが合うのをくれてラッキーだよ、アメリカの軍人が残した物だから軍人みたい......じゃなくてモロ米兵な服装だね、イカしていて好きだけど階級のワッペン無いし、なんか......身長伸びたの実感湧かないなぁ。それに、ただこんなにもてなされると裏があるんじゃないかと思うね............あー?あの人かな?すみません?」
話しながら地上に上がり出入り口の自衛官に話しかけた所で出入り口の扉の上に頭をぶつける朔は速攻でここで実感する。そうしてまだ入ったことのない建物に案内され、数階上り部屋に入ると博士と隊長が既にいた。
「おはよう、君の健康状態を把握していなくてすまないな血と尿を検査する時に健康状態を聞いておけば良かったな」
「いえ、お気になさらず。チビだった頃から見た目に不眠症とかなんてはほほ出ないので自分から言わない限り勘付かれる事もあまりせんでしたから」
「そうだ!変異前の君の事をまだあまり聞いてない身長や体重やら色々聞かせてくれ......あと持病とかもな」
そう博士が言うので全て話した。
「躁鬱、解離性障害、不眠症......身長約160の体重約65か。身体にはアトピー性皮膚炎、過敏性腸症候群、喘息............あまりにも......その、なんだ......よく発狂せず生き残って来たな......」
博士も引き気味に朔の変異前の健康状態を復唱する。
「まあ......こいつら2人がいれば頑張るなんて事は嫌いでしたが努力できましたよ」
少し照れる女子。
「それで変異後は?便通は?皮膚炎は?」
また色々と説明する。
「そうか......君は本当にラッキーだなぁ。ただ精神はどうしようもない、ここには精神科医や心療内科医らいないからな。薬の在庫も君に合う物があるかどうか......」
「一応あと数ヶ月無いくらいは持っているので自分で外に出て探していきます、それに物資も限られるここにずっとお世話になるわけにはいかないので」
「いや、それは困る。君の身体を研究しなければならない、今の君は保護対象だ。無茶な事はさせれない......と言いつつ戦闘には出てもらうつもりだがね先頭で......うへへっ」
サイモンはそう言うところはバカなので今のふざけた態度に女子2人は睨むが気づかない。煙草は気づき話題を少し戻す。
「博士〜?今日一番最初に決めるのは朔君の個体名ですよねー??」
「あ、あー!そうだった、そうだった。他の個体は神話関連で名付けたから君も神話関連で名付けようかなと、君の名を知らぬ人が常に理性的変異体第4号と呼ぶのも長いからな」
なら朔って名前を広めろよと思う彼女達、それに対して朔は喜んでいる。
「じゃあ、なんかカッコいい感じがいいっすね!......うーん、アイギスとか?ギリシャ神話最高神ゼウスの邪悪を払う最強の盾の名前の。邪悪なウイルスを払い、家族を守る......ピッタリじゃないですか!??」
「盾というより攻撃性が強い変異だがねぇ......」
「でも銃弾にも耐えましたよ?」
煙草は気まずそうにする。
「うーん、他3人の耐久性も似たような物だからなぁ......君と違って普通の人の形をしていないが............あ!なら最初の人類アダムなんてどうだ?君と出会った時裸だったのもあって、私としてはピッタリとしか思えない」
「まあ......アイギスの方がカッコいいけどそれっぽくはありますね......それに俺の好きなゲームにアイギスっているしなぁ......」
(でもアイギスにしろアダムにしろ、変に一丁前な名前つけられると噛ませとして殺されそうで嫌だなぁ......)
とゲーム脳な朔は思う。
「いや、アダムよりアイギスの方がカッコいいっしょ」
「そうだねぇ」
「うーむ......正直、番号で呼ぶよりコードネーム的なのをつけた方が人権ある感じで良いかな程度にしか思っていないから好きにしたまえ」
急に放り投げるサイモン。めんどくさそうな煙草。
「じゃあアイギスで............と言うか他の変異した方はどこのいらっしゃるんです?」
「よしよし、それで書類を進める事にするぞ。......他の変異体は別の駐屯地にいる。私も第二号と
「博士......結局第二号って呼んじゃっているじゃないですか......ヤマタノオロチって決めたじゃないです......」
「えっそんなに頭があるんですか??」
びっくりする未奈。
「いや、流石に頭の数じゃ無い。体長は4m近い肉塊になっていて、そこから大量の手が生えているんだ。足はない、だから無数の手で歩行する」
「いやぁ......彼は顔は普通なのがギャップで恐ろしかったねぇ。場所にも関連した名前だから彼は喜んでいたが」
「どこぉ?」
アホそうに言う未奈。
「えーっと場所は......八岐大蛇は......!? 出雲って言ったら鳥取ですよね??そこまで行ったんですか?」
「まじ!?」
「そうだ、出雲駐屯地に研究と人員交換の為にな。犠牲も大きかったが変異体2人目のサンプルを得たことは大きな進歩だ。それに身近に3人目の朔君が来てくれて助かった」
「ひぇ〜......やっぱり人間同士の殺し合いも......?」
「......不本意ながら、相手がやる気ならば抵抗しなくてはならないからな」
俯く煙草。
「でも、まあここは発電機が生きている上に外科医も内科医もいる。ちまちまと医療器具を奪い、ここを拠点として日本を再建したいなぁ!」
日本国籍じゃないのに博士はやる気に満ちて楽観的に言う。
「それよりやはり長く見るならばコンクリートの壁を並べて一番近くの病院までの道を安全に確保、その後に病院を復旧するのが一番かと......」
「私もそれが出来るなら構わないが、ここのトップは危険だからやらないと言っていたじゃないか、それともなんだ?反乱を起こすのか?」
「いえ、それは無いですが......」
そう言う煙草を遮る様に驚く未奈。
「えっ!?隊長さんが隊長だからリーダーじゃないの??」
「煙草さんは2等陸尉、つまり中尉だから上の階級はいるよ......こんな世界で階級制度使っているのか知らないけど」
とオタクの朔が言う。
「そうだ、一応使っているぞ。米軍などと合わせるなら1等が大、2等中、3等小になっている。つまり、1等陸佐が陸軍の大佐って事だ」
「ほへー......そうなんですね〜その数字何なんだろうって思っていましたよー」
「まあ、知ろうとせねば知らぬさ。私が隊長と周りから呼ばれているのは外の作戦で高頻度で......隊長を任されるからだ。そしてここのトップは1等陸佐......つまり大佐だ、ここまでになると上にいる階級は3つしかいない。それを抜きで自衛隊のトップは内閣総理大臣なんだ、そいつがクソみたいな命令をしたからっ......この今ッまともな自衛隊諸共信頼はガタ落ちで、己の保身の為に民間人を先に殺す外道だっ!!俺は......俺達は............す、すまない、取り乱した......」
拳を握り怒りを露わにする煙草。
「......心中お察しします............それで今首相はどこにいるんです?」
「多分、北海道だ......北海道と沖縄には感染報告が無い。だからあいつは安全圏で自衛官を唆し人殺しの命令を下した」
感染が報告されていない場所がある事に驚く一同。
「な、なんと......では海外はどうなっているかは分かりますか?」
「もうめちゃくちゃだよ、アメリカが慌てて帰ったからアメリカ経由で感染は広がり続けている......なんせ映画の様に10秒で発症しないからな。そしてこのウイルスをばら撒いたのが何なのか見当がついているんだ」
そう煙草が言うと朔が反応する。
「道歩くヤバい方の自衛官が中国だとか言ってましたけど......」
「いや、恐らく違う......本来なら一般人には報告していけないのだが......もう変異体になった君とその家族にならなら部外者では無いから構わないな犯人は......」
そう言い放つ瞬間、サイモンと煙草以外が固唾を呑む。だが言葉は轟音に遮られてしまう。
「な、何事かね!??またゾンビ共が集団行動しているのか!?血肉だけを求めるアンデッドめッ」
「えっ!?そんな事が??」
「君達と出会った時のゾンビの量に違和感を抱かなかったのかね?奴らは個体によっては共に動く......うぅ......この声は......」
煙草はあまりの煩さに耳を塞ぐ。そう声の主は変異小谷の雄叫びであった。
「またか!まだ1日もギリ経ってないってのに復讐は早すぎるんじゃ無いか?俺はお前と友人のままで居たかったぞっ」
「ねぇ!私の89式に銃弾くれません?あのクソ野郎の目玉吹っ飛ばしたいので」
しつこ過ぎてかなり怒っている未奈。
「本来ダメなんだが......君達はここまでそれで生き抜いたから信用しよう、そもそももう法律など無いのだからな。君らは私と来たまえ!後方支援だ」
そう言うと未奈とブランを連れて行く。
「えっ朔はっ?ねぇ!ちょっと!」
不安定なブランは子供の様に叫ぶ
「朔君には悪いが博士の指示に従って最前線で戦ってもらう......あの巨人一匹では無い様だからな」
そう言うと朔と離れる事を拒絶する2人を無理やり連れて行こうとするが、2人とも力が強いので入り口の自衛官も加わって無理やり運ばれて行った。
「やっぱ2人力強いなぁ......で?博士?私に何をくれるんです?」
呑気な朔。
「これだ、早く食べたまえ。武器は......君?あの時のハンマーはどうした?」
そう言いながらサイモンは冷えた肉の脂身の塊とエナドリを机に置く。
「えっ!?あ!カロリー摂取!武器は折れちゃったので使えないです」
ポンと手を置き分かりやすいくらい理解する動きをする朔。
「............困ったなぁ。また爆弾食べさせて撃退してもらうか......とにかく塩胡椒や調味料を混ぜ、食べやすくしたから食べてくれ、ここに冷えているが普通の牛肉一枚もあるから吐かない様にな」
「冷えていた方が好きで食いやすいんで大丈夫です!」
そう言うと本当に一瞬で食べ切る。
「......君の不健康さはこの早食いもあるだろうな......まあ良い!ここの司令官は保身で表に出てこないから好きに暴れろ!!」
(混ぜた変異を進める試薬はバレていない様だな......死ぬ様なモノでは無いがアレルギーなどは把握していない為知らないからなー死なれるとこちらも損でしか無い......その前に、私があの馬鹿でかい白人の女に殺されるかもしれん......)
サイモンはブランの184センチという男でもデカい身長に腕や脚から見える筋肉から、何かしら格闘技をしていると察している為に怯えている。一方で小谷は駐屯地の朔から数十メートルの所で何故か止まって叫び続けている。それを迎え討とうとする自衛官達。
「あ、あれは......話に聞いていたが、こんなに直ぐに出会うとは......」
「昨日のやべー奴じゃないすか......」
自衛官らは狼狽えていると中年の自衛官1人が気づく。
「あのうるさい咆哮を止めないとどんどん集まってきている!ここばかりを見ていたら他の塀を超え普通のゾンビが侵入してしまうっ!!そうすれば安全な地がまた一つ失われるぞ!隊長を待つな!各自バラけて侵入に備えるんだっ!!」
そう男が指示を始め、無線を通じて隅から隅まで広がり始める中正門の方に朔が到着。
「おお!その目!君が例の変異体か!」
「はい!そして......あいつは俺を裏切った......けど
パンツとタイマー以外を脱ぎ筋肉を膨張させ第二形態になる朔。周りの自衛官は歓声を上げる。
「私ごと撃って、どんどん集まってくる雑魚の処理をお願いします、この身体は博士によると5分持続するかどうかなので......戦車とかあれば出してください、あいつは口と内臓に手榴弾を入れられても死にませんでしたからっ」
そう言うと走り出し、道路標識を引っこ抜きそれを武器とする。
「オラァッ!!ふぅ......なんか漫画やゲームのキャラになった気がして高揚してきたぁ!!」
そう言うと引っこ抜いた物を振り回してゾンビの頭を連続で砕いて行く。
「1分経過......小谷ィ!!シャバい事をやめてタイマンしようじゃあないか!俺も不意打ちでお前を殺したし変異体だから人の事言えないが、お前はもう人では無い!」
そう叫ぶが援護射撃の音で変異小谷には届いていないが朔の存在には気づく。
「うばあああああ!!!!ざくぅぅう!!!」
そう言いながら凝視だけをしてくる。全く動かなくなる。
「俺の事を認識している?もしかして......俺が誰だかわかるのか?なら何故裏切った!なんで綺麗な思い出のまま終わらせてくれなかったんだっ!!テメェも理性取り戻して正気になれよッ!!山程話す事があるぞっ!」
(映画ならば......小谷は正気になる可能性があるぞ............)
そう叫びながら標識をとんでもない速度で小谷の顔面に投げるが容易く弾かれてしまう。だが、その先にいたゾンビ達はまとめてぐちゃぐちゃになる。どれほど変異体同士の戦いが危険かわかる。
「うう゛ぅ゛......あ゛!さ゛か゛!ぁざかぁ............」
周りの雑魚を呼んでおいて一瞬で自分で処理した小谷は意味のある様な単語を発する。
「......あさか、朝霞か!?お前と浮気相手を連れて行ったのは朝霞駐屯地という事か?なあ?」
小谷が頷きながら周りの雑魚を処理した事により朔は第1形態になり、自衛官は目標が無くなり援護射撃をやめ静寂が訪れる。
「おぉ〜......おま......えら......う゛ら゛ぎぃぃい〜!!」
頭を抱えて苦しそうにジタバタする小谷。
「安心しろっ!俺はお前の話は聞いてやるからゆっくり脳みそを使え!人間に戻れっ!!」
「あ゛あ゛......おればう゛ら゛ぎるふり......した......かったぁいあああ!!」
「う、裏切る......フリ?ど、どういう事だよ、小谷......?も、もしかして......」
声を震わせながら朔は巨大な変異小谷に近づく。
「あの......あのあのあのあのぉ〜!あのばをいさぁ〜める............には俺がぁああ゛い......とこの和田とうわぁあきぃ〜っしてぇいいたぁ!うそでぇえ......わるものに゛ぃ゛っ゛......だがら゛、さぐばわるくぅないイ!」
そう言いながら朔に右手を伸ばす小谷。
「そ、そんな......そんなぁ......変だとさ思ったよ......脈絡の無い裏切り、爆発させるのは壁面で両親を殺す時間はあったのに避難できるくらい放置してさ......俺を殺すフリは上官に見られているかもしれないからだろ?お前は隙を見計らっていたのに......俺は!俺は......
「ぎに゛ぃ〜〜スルナぁ!!」
そう歪な顔は笑顔に見える表情で右手を差し出し続ける、朔は手を取る為に駆け寄りながら言う。
「すまねぇ......俺があの時首を刺さなければヨォ............でもよぉ!テメェも言葉が足りねぇよ!ああ......そうだ橋本なんだが......」
大泣きしながらも笑い顔の朔は小谷の巨大な手を取ろうとした瞬間、爆音と共に後ろから戦車の弾が音速を遥かに超え小谷の頭を貫く。ズシンっと思い音を立てて倒れる。
「やった!命中!いつも
「流石、博士が最強かもしれないと言うだけあったぜ!!」
自衛官らは歓声を上げている中、朔は魂が抜けた様にフラフラしながら小谷の身体に近づく。
「嘘だ......うそだろ?なあ?まだテメェは沈むタマじゃねぇだろっ!!!」
小谷は血の涙を大量に流しながら口から喉奥が貫通した小谷の顔を身体で揺さぶる。
「なぁッ!!そんなズルい事実だけど置いて、この世から去らないでくれよ......
朔の慟哭は駐屯地内の全員にハッキリと聞こえる程の大きさで放たれる。朔の正常な目も多瞳孔症になり片目と色が反転した見た目になり筋肉は第二形態よりも破綻しない程度に膨張する。それを見て聞いた人達は何故そうなるか理解できない為狼狽している。
「凄まじい叫び声だっ......一体な、なんだっ?も、もしかしてあれが第三形態か?何故?まさかトドメが足りていない?」
「私が混ぜた薬の量が多かったか......効果は彼の感情で増減するからなぁ............あ」
うっかり呟いてしまう博士、隣にいた未奈は89式を無言で博士に向けるがブランが銃を掴み撃てないようにする。
「ひっひぃ〜......た、助けて〜」
「サーシャ......なんでサーシャは我慢できんだ?あいつはちゃを頼めば飲んでくれるほどのお人好しの、私達の愛しい甘ちゃんを騙したんだよ?」
殺意に満ちた目をした未奈。
「これが解決にならないから!殺したら何もわからない!それに朔はそんな事を望んでいない!......でも、テメェ......第一声が助けてって何様だよ、Этот ублюдок」
そう低い声を荒げながら博士の腹を殴った、その気迫を見て未奈は落ち着きを取り戻す。近くにいた煙草や他の隊員は博士の方が酷すぎるので殺されないなら良いやと見て見ぬフリをした。
「ぐぶっ......わ、悪かった!だが他の理性的変異体は例外なく何があっても理性は保っている!私にも薬を試したが外見が若返る以外は更に何かとかは無かった......それに彼の姿を見るに第三形態というよりは完全に変異しただけの可能性が高い!」
そう言われて2人は朔の方に目を向けると小谷の遺体の上から動かない。
「もう我慢できないっ行くよサーシャ!」
未奈はブランの手を掴んで走り出しやっと朔の所に着く。朔は巨体の小谷の顔付近で両目から血涙を流しながら小谷の頬に触れていた。
「ちょっと......何があったの?そいつもう死んでるじゃないの?」
「死んでないっ!しんでない!しんでない............ここで小谷はくたばるタマじゃねぇっ!!!」
鼻が詰まりながらも泣き叫び続ける朔。戦う前との態度が正反対な事に嫌な事が脳裏に過ぎる未奈。
「............ねぇ、もしかして......小た............
その問いに泣きながら頷く事しか出来ない朔。血涙は小谷の広い顔面や口内に入っていく程の量である。
「......わ、私が、恋人の私が一番信じてあげるべきだった............どんな気持ちでいればいいのよ......クソがっ。あんたっ!いつも言葉足らずなのよっ!!」
そう言いながら小谷の身体を蹴り飛ばす未奈。だがその顔、メイクがぐちゃぐちゃになる程の号泣であった。
「ぶぐっ......」
蹴られた事に対して反応を示す小谷。
「「「!!??」」」
「お、お前......!サーシャ!こいつは敵じゃ無い事を伝えに行ってくれっ!未奈!博士を呼んでウイルスをばら撒かない理性変異体か調べさせろッ!早くッ!!」
2人は頷くと凄まじい速さで走り駐屯地に戻って行くと防護服を着た医療班と博士が到着する。
「おい!起きろっ!ただの反射反応じゃないだろ??」
そう話していると自衛官らが到着。
「朔君......私が喉奥を貫いてしまったから......流石にダメかと............本当に悪い事をした......」
「仕事をしただけです、誰も悪くありませんっ!おい目開けろ!」
その誰も悪くないと言う言葉に全員が博士を見る。
「わ、私は今後の為を思ってだな......」
そう言い訳をしていると朔が叫ぶ。
「さっきあったぶち抜かれた穴が無い!治っている!小谷は眠っているだけだ!」
殆どの自衛官は朔の心が壊れてしまったのだと思い何も声をかける事が出来なかった。だが彼が起き上がる。
「うぐぅう......あ、のよ?」
そう言いながら座る小谷、脚の間には号泣していた朔が尻餅着いていた。
「違ぇよ......俺の罪滅ぼしをさせてくれる為にお前に第二の生が与えられたんだ............変異前から変異後までずっとすまなかった......」
「きに゛する......な!」
そういうとサムズアップする小谷。周りは血を抜いて検査したり、洗浄したりと忙しなく動く。
「ありがとよ......でも話さないといけない事があってだな............」
そういう途中で未奈とブランもこちらに到着し、小谷が離脱後に何があったか全てを話した。
「............」
理解するのが難しいのか腕を組んで無言になってしまった。少しすると口を開く。
「み......な、しあわせ?す.ならいい、スジをとおぅうせぇ!お、お、おれはししゃだ......た、じがにくびを......き、られてやけぇてしぃんだ。いまま......でぜぇえんぶっぶわる゛いかったぁ。あ......とはさく......た、のんだ」
「幸せよ......朔ともあんたとも一緒にいた日々が......DV紛いの事さえ無ければもっと良かったけど、私も身勝手に生き過ぎたわね。謝罪するなら良いわ......でも、私はどうすればいいの......」
「おれぇ......は先がながぁくないっ!さくといき、いきろ。ぶら......んがゆ、ゆるすならぁ」
「私はもう3人で生きると決めたから......大丈夫です。でも貴方は!貴方ばかり酷い目に!」
そうブランが心配そうに言うが小谷は笑うだけだった。
「はっ!はっ!おま......まえらのそのぉごがししれぇてよがっだぁ!」
「お前〜............」
そうしていると検査結果が出る。
「彼は理性的変異体では無い......まだ他者を感染させる可能性がある。だがどう見ても今は理性的......変異途中なのか?それに何故戦車でぶち抜かれたのに生きているっ??」
博士は疑問を小谷に言うが本人も知らんと答える。
「......!私の涙が小谷の口の中に大量に入ったんですけどもしかしてそれが原因?」
「いや......君の涙の成分はただの血液だったが......今は両目が多瞳孔だから変異が完了したとするなら、ならば涙に変化が......泣いてくれないか?成分を調べる」
「えっ......ど、どうしろと......」
「じゃあ、私が貴方の前で助けれそうなのにぐちゃぐちゃに殺されて更に屍姦されても何もできなかったら泣く?」
かなりエグい状況をブランが朔に言うと号泣し始める。
「いや、本当に涙脆いな!?」
驚く未奈。
「よし、もう泣かなくて良いぞ......もう良いって!」
「止めれるもんじゃないですって......」
容器に入れた血液を持って博士は研究室に戻って行った。
「我々もこのまま外にいるのは危険だ、戻りましょう」
「小谷はどうするのです?」
「......申し訳ないが感染リスクがある状態では中に入れられない......綺麗に洗浄しましたが......」
「い゛い゛!ぞどでみは......る!ざぐ!肩にのぉれ!はな゛じあ゛いてぇ!」
「ああ!いいぜ!俺らはもう感染者だからな!2人で話しながら見張っていよう!」
全ての後悔や不安要素が無くなった朔は生き生きとしていた。
「少し待ってください......これを小谷さんに」
隊員が注射器とアンプルを渡す。
「これは?」
「他の理性的変異体も呂律が悪かったり、知能低下が見られたのでそれを改善する為に作られた薬です。あの博士は身勝手ですが腕は確かです、申し訳ないのですが感染リスクがある為に朔さん頼みです。柔らかい箇所に注射してください、筋肉注射なので血管を探さなくて大丈夫です。それでは私達は撤収します、用事があればこの無線を使ってください」
そう言いながら敬礼してきたので真似た朔。そして2人にも話しかける。
「こいつが駐屯地に入れる様になるまで2人で仲良くしてくれー!仲良くだぞー!」
「大丈夫よー」 「問題ないわ!」
そう言いながら自衛官に挟まれながら駐屯地に戻って行った。
「あいつら逞しくなっただろ?小谷?」
「あ゛あ!......はや゛くうってぐれ゛」
「ああ、ちょっと待て......てか俺ら全裸とパンツ一枚って馬鹿みたいな姿だな!」
「だな゛!」
薬は効いて呂律や知能が徐々に回復。2人は笑顔で別々になった後の行動について話しながら駐屯地付近のゾンビを殺して回った。朔はハッピーエンドを望む、ゲームや漫画ではゾンビモノは悲劇的な結末を辿るが、それと逆の事をしたり臨機応変に動けばクソみたいな世界でのハッピーエンドに辿り着けると。これからも信じて生き抜く。
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