第14話 俺は最強......な訳も無く......

 牽引されたキャンピングカー内の3人は朔の喜びを一緒に2人は分かち合っていたが朔に異変が起こる。


「いやーあのカスからどう逃げたのかわからないけど本当に存命で良かったね!」


「朔の苦しみが減って嬉しい」

 少し悲しげな表情を見せるブラン。


「......お前も苦しいだろう............すまないな」


「気にしないで、貴方の幸福は私の幸せでもあるから」



「......本当に優しい嫁だよ。............うぅ......?頭が......」

 朔はふらつき膝をつき倒れそうになるが2人がかりで咄嗟に頭を打たないように受け止めた。


「重っ!?ど、どうしたの??ちょっと!やめてよ!さっき暴れた反動?」


「脈拍は正常......意識も呼吸もある?ねぇ?いきなり不幸にさせないでよ」

 そう言いながら朔の身体を揺らして声をかけ続けるが異変に気づく。


「ん......?身体萎んでない?勘違い??」


「いや......身長は高いままだけど、どう見ても筋肉が減ってるよ!?」

 倒れた朔の筋肉は萎みに萎み筋肉量は、健康な成人男性の平均的な量よりまあ多いかなくらいになってしまった。


「な、なにこれ......このまま闇医者の漫画の話みたいに縮んで死なないよね?起きてよ、朔!」

 2人が慌てふためいていると朔はダブル膝枕状態で呻きながら目と口を開く。


「うぅ......あー......2人か......すまんな。ん......気分が悪い............あれぇ?腕が痩せた?ああ......もしかして、このまま死ぬ?い、いやだぁ......そんな............この力は......前借りだった......か......」

 そう惨めに言うとまた動かなくなってしまう。


「い、嫌だ!もう私に残されたモノは無いのっ!!」

 トラウマ爆発のブランは泣きじゃくり朔に抱きつく。


「落ち着いて!ブラン自身が言った通りまだしっかりと息をしている!脈も変じゃない!駐屯地に着いたら早く診てもらおう......だから、泣かないでサーシャ......」


「......そうだね......ありがとう......あとはよくわからない若い博士とか呼ばれている人に任せるのが1番だね......」

 未奈に対しての好感度がかなり上がるブラン。そして到着すると、すぐに煙草隊長がドアをノックする。


「お疲れ様。到着だ。ここでゆっくり休むと良い、朔君の親御さんに連絡も............ん?......なっ!??君達はそのまま朔君を見ていてくれっ。博士と医師に準備させる」

 萎んだ朔を見て一瞬目を見開き驚き焦った隊長は隊員を呼び担架で運ぼうとするがサイズが合わず複数人で無理やり運ばれていく。そして隊長は2人のところに走って戻って来る。


「一体、朔君に何があった?それと君達の名前はえーっと......」


「私の事はブランと呼んでください。朔は............」

 2人は頑張って異常な状況を言語化し状況を伝えた。


「......他の理性的変異体は一度身体が変わったらそのままならしいのだが............朔君は片方の眼球以外はあまり人間の見た目から逸脱していないからか......?取り敢えず、伝えて来る。報告感謝する、そしてこの車はこちらでメンテナンスする。君たちは朔君のご両親と避難所で待機していてくれ、私の後ろにいる隊員が案内する」

 そう言うとまた走って行った。2人は朔より先に彼の両親と再開する。


「おお!君達は無事だったか!」

 と出会い頭に喜びながら言う朔の父ののぞむ


「あら!メイクもしているところを見ると、それなりに快適に生き延びていたのね、無事で良かったわ〜」

 とニコニコの母のルナ。 この2人は息子が倒れた事を知っているが責める事も無く2人の無事を喜んだ。


「......せん............」


「? どうしたんだ??」


「本当にすみません............私たちの為に朔が......」

 俯き泣き謝罪するブラン。


「......私達の為に率先して戦って感染してしまったから......何とお詫びすれば良いか......」

 泣きはしないが申し訳なさのあまりに声が震え手を握り締めていた。


「......君達をこの様な安全な場所まで守るのは朔にとって悲願であっただろう。君らが抱える事では無い、それにあいつは俺譲りで意外にタフだ。何とかなるさ............それより、本当にあいつと君達は結婚する気なのか......?いや、もう誓ったのか?さっき朔の奥様方をどうたらと君たちの事を自衛官達が言っていたのを聞いてしまったのだが......」


「あなた、それだと言葉が足りないでしょ。相応しくないと責めてるみたいじゃないの、逆なのだから......ブランちゃんに未奈ちゃんは朔で良いの?本当にあの子は2人を平等に愛している?」

 両親の善人さを見て2人は朔が死に恐怖しながらも戦う性格なのは両親由来なのだなと思う。


「逆に私の元彼氏のせいでお二方にご迷惑をかけて、こちらが良いのかなと......」


「......じゃあ、あれは小谷君がやったのか......」

 何も知らない父。


「えっ?知らないんです?え??本当にどうやって逃げ延びたのですか??」

 反応に驚く未奈。


「ただくつろいでいたら最初に爆発と振動が家を襲い、玄関付近が2階ごと吹き飛んで燃えていてね。急いで携帯と避難用リュックを背負い、用意していた靴を履きリビングの窓から庭の方に逃げたんだ。あの時は必死だったよ、その後は柵をよじ登り家の後ろの家の横を通り道路に出て走って逃げたんだ......朔がな、こういう状況はゲームとかの創作物なら家は急襲されたりするから、いつでも逃げれる様にしてとよく言う言葉を忘れずに備えていて良かったよ」


「そうでしたか......それは何よりです......ただどうやってここまで?」

(朔のゾンビ作品好きがとことん活かされてる......)

 

 未奈は50代と40代の夫婦が武器もなく逃げ切り、このまともな自衛隊の駐屯地に辿り着けたか疑問に思った。


「それがな......」

 そう父が話す所で後ろから人が来る。


「私が朔君の抜糸と経過観察をしに行こうと向かっていたからだよ」

 そう彼は一度朔に救われ、恩返しを続けていた藤原であった。


「!? 藤原さん!!」 「それは......ナイスタイミングでしたね......」


「本当に良かったよ、前方に2人が走っているのを見てゾンビだと思って轢こうと思ったが、近づくと梶原さんだったから驚いたよぉ。とにかく急いで乗せてUターンして、暫く私の家に居たのだが食料が尽きて息子達が探している時に、ここの自衛官と会って家を捨てて全員でここに一か八かで避難したんだ......それより朔君は?まさか......」

 ゾンビなら轢くバーサーカー爺の藤原は朔が死んだんじゃないかと思い焦る。


「いや、死んでないですよ。ただ変な事になって身長が伸びて筋肉ムキムキになったと思ったら萎んで今意識が朦朧としているらしいです」

 と父が反応する。


「????............そうでしたかぁ......外科医の私にお呼びがかからないのは納得ですねぇ......何とか変異体でしたっけ?とにかくこのまま助かると良いですね」

 理解を半分くらい放棄した。


「理性的変異体第4号とか博士って呼ばれている人が言ってましたよ」

 と未奈が藤原に言う。


「ああ!それだ!確かここにも1人いるとか聞いたが見た覚えが無いなぁ」


「そうなんですね......話を聞く限りは1〜3の方は人の形からそれなりに逸脱してるっぽいんですよね......」


「だから隠れているんじゃない?」


「あー......てか、朔も戻ってきたら変な形になってる可能性もあるのか......それでも愛は揺らがないので!」


「わ、私も!旦那様には変わらない!」


「ありがとなぁ......朔には勿体無いなぁ............」


「んん?どういう事ですか?」

 困惑する藤原に状況を全て話す。



 


「そうなんですね......」

 (重婚、両手に花......そして変異体......すごい人生だ......)


「「はい!!!」」

 5人は色々話していると自衛官が近づいて来る。


「朔さんのご家族ですか?」

 その質問に両親は答え、2人は躊躇っていたが両親がこの子達は朔のお嫁さんと言い、藤原は邪魔しましたと言い立ち去って避難所の自分のテリトリーに戻っていく。


「それで朔は大丈夫なのですか?」

 母は心配そうに言う。2人に気を遣っていたがやはり息子の安否が気になる母。


「ええ!今は意識がしっかりとあります!私達も彼に大事が無くて本当に良かったです、こちらにどうぞ」

 そう言われ外に出てから敷地内の別の建物に入り、地下の部屋に入るとベッドに寝ながら話している朔とそれに答える博士がいた。だが即座にこちらに気づき手を振る。


「ああ!!!夢じゃあねぇんだよなぁ............本当に親が生きてる......良かった......」

 泣き始める。


「朔君!気持ちはわかるが貴重で清潔なシーツ類が血まみれになってしまう!」

 そう言いながら博士が急いで目を拭く。


「ああ......すみません。お前達も無事で良かった......うぅ......」

 まだ泣く朔。


「ああ!!もう自分で拭きたまえ!......ああ、失礼。私はサイモン・サワタリと言う者で65歳だ。米軍所属だったが日本に残って研究や救護をしている。博士とだけ呼ばれる事が多いが、私以外にも勿論何人も博士はいるので注意してくれ......と言っても博士のリーダー扱いされている為か博士と言ったら私になっているのでまとめ役だ......とにかく研究だけしたいのに!!ノーベル賞受賞レベルの研究もあったのにアメリカは、お前は裏方だとか何とか............」

 サイモンは今関係ない事を大声で言い始めた。朔がそれについて言う。


「この人ずっとこれなんよ......まあ俺も話すの好きだからこうなる事あるし、わかるけど......あのー?私達に話す事が他にあるんでしたよねー?」


「んんっ......そうだった。すまない、朔君の血液検査や血圧やら色々調べた。結論から言うと今は萎んでいるが変異体なのは間違いない、ただ体に変化の見られた1〜3号は元に戻るなんて事は起こっていないが人の形のまま変異体になるのは前例がある」


「ん?1〜3号は身体が変わっているんじゃあ......?」

 ブランが疑問に思い話をぶった斬って言う。


「ああ......そうだ。前例は第0号の......私だ」

 全員が驚く中、話し続けるサイモン。


「私は感染したのだ、だから米軍は私を始末する弾丸も勿体無いとただ私を見捨てて離れて行った。馬鹿め!碌に研究もせずに優秀な私を置いて行くなんてな!私は運良く理性を保ちつつ感染した。それが疑問で私自身を被験体にして色々と実験をした。そこで理性的変異体は他者を感染させない事をハッキリさせた」


「すごい......博士も何か身体に変異が?」

 (アレ?そういえば、さっき65歳って言った?30代前半に見えたけど......)

 未奈が皆が疑問に思う事を言う。


「......困った事に人外の様に外見には何も表れていないが少し若返っただけだ。ただ私の知能は感染後に明らかに増幅した。今までの引っかかる問題を簡単に解決できたからな。流石に脳をスキャンする装置はここに無い為にわからないが、脳には何かしら異変が起きているだろうな、漫画の様に頭部が肥大化するのだけは避けたいモノだな......いや、それはそれで面白いか......?」


「まあ......病院じゃないですからね......それより朔についてもっと詳しく教えてほしいです」


「彼は摂取した食べ物のカロリー......まあエネルギーを使い形態変化の様な事をする変異体だ。今は通常形態、君達と出会った時のムキムキの姿が第二形態、我々に怒りを向け筋肉が膨らんだのが第三形態だ。食事を十分に摂って無い為に力を使い果たし倒れたのだ......危うく餓死するかもしれなかった。だが今点滴をし、食事を準備しているので問題は無い。他に不安な事がある」


「不安?」


「怒りで強くなった事だ。感情に支配され、理性的変異体から本能的変異体にチェンジする前例は無いが0とは言えない。朔君か変異体としての力を使う度に侵蝕される可能性がある。何もかも断言できなくて申し訳ない、先程も言ったが研究環境が悪すぎる為にわからない事だらけなのだ、それに私の専門外の研究をしている人間も少ない事もあるのでな」

 とこの状況に苛立ちを見せながらも謝るサイモン。


「はぁ......備蓄の飯も少ないだろうに人より食べないといけないのか......」


「君を生き延びらせて研究をする事が大切なのだ、気にする必要はない。それに最終兵器にもなる、取り敢えず、今わかった事を印刷したモノだ」

 兵器という言い方に良い気分がしないブランと未奈。全員はサイモンがベッドの横のテーブルに何枚かの紙を置いてみんなが見た。


「うーん?」


「よくわからないね......」


「まあそうだろう。君達が知っておくべき事だけどを簡単に言うと朔君の血液型がO型RH-でただでさえレアなのに、変異体な為に更に輸血するのが困難なので健康になり次第、自分に輸血する為毎日血液をある程度抜く。そして身体能力測定とトレーニングだ、通常形態で筋肉が増えれば第二形態は更に増える......と思う」

 博士の割に断言したりしない弱気なサイモン。


「その宇宙の帝王みたいに形態が変わるのは何回あと残ってるのです?」

 と朔は質問する。


「本能的変異体は基本的に変異度I、II、IIIと区分けしている。勿論、例外はあるがそれに則るなら君はあと一度さらに変異した姿になる可能性がある......が人の形をしていたいのならば下手になろうとするのはよすんだ、それに本来ならば不可逆的に変異するから戻れなくなるぞ」


「残念ですね......そういえば過去に化け物を見たんですけどアレは区分はなんですかね。見た目は......」

 と過去にモールで出会った化け物を説明した。


「それはIIIだね。同じ様なモノはこちらも発見しているが撃退するのも一苦労らしい。君たちはよく逃げ延びたね?」


「あー......それはですね......」

 とブランがそいつをどうしたか説明した、それにより朔が感染した可能性も伝えた。


「それで倒したのか?かなり無茶をする......ただあんなモノに突進された時点で朔君が亡くなっていないとなると、もっと前から実は感染していたなんて可能性もある。なんせ、我々もクソの政府サイドの自衛隊もそいつらに蹂躙されているからな。だから、鹵獲した銃がありスポーツマン2人がいても普通なら勝てない。君の説明にあった彼が投げた手榴弾を食べさせるのが成功して無ければしつこい様だが逃げきれなかっただろう。それくらい私は驚いているぞ!それで遺体はどこにある?回収させて解剖すればわかる事があるはずだ!......と言っても私はそこまで専門ではないが」

 またテンションが上がるサイモン。

 

「いや、もうだいぶ前の話なので冬とは言え腐っていると思いますよ......雨も何度か降っていますし......」

 (この人何が専門なのよ......)


「肉がダメでも異常な成長をした骨の状態も調べられる、臓器もある程度形が保っていれば......と色々腐っていてもわかる事はあるが......それにゾンビ共は群がって捕食しているだろうから無意味か、奴らは骨も噛み砕くからな」

 自問自答するサイモン。


「名前とかあるんですか?変異体達に?」

 と質問する朔。その場合、己も変な名前がつけられたりするのかなとも思っている。


「君らが見たのを私たちはパーサー追跡者と呼ぶ本能的変異体でIIIだ。少し曖昧だが定義としては四足歩行に首と頭が一体化して柱の様に縦長のモノで、足が車より速い上にしつこく追って来るのが特徴だ。他にもウイルスの変異が早すぎるせいで色々といる、君達が何故キャンピングカーで生活できたか不思議なくらい外は地獄だ。刑務所から出てきた犯罪者による集団に自警団ごっこするアホ、ヤクザ、その他小規模な野盗なんかもいるからな」


「......私たちはかなり堂々と行動していたから避けていた......とか?」


「いや、朔の様子見のために後半は殆ど同じ場所にいたからじゃない?」


「確かにー」


「............取り敢えず、早ければ明日にでも彼がどうなると筋肉がムキムキになるのか、どの程度の時間持続するのか、何が安全で危険か調べるので今日はゆっくりしていてくれ。私は退室する。入室禁止の部屋の前には隊員がいるのでそれ以外は常識の範囲で自由にしてくれ。......良かったな、朔君」

(彼達の様な人間が幸福になって良かった、これは本心だ。だが、彼を研究対象にしなくてはならない。彼の筋肉膨張のメカニズムが分かれば他の兵士にも感染させ強靭な兵士が作れる......彼の変異体としての個体名はどうするか......別の場所にいる他3人が神話から取ってきているのでそのまま名付けるとしよう......)

 

 そう言い朔の肩にポンと手を置くと足早に出ていくサイモン、朔も久しぶりの両親との会話したいだろうと思い、もう少し話す予定だったがやめた。

 そして朔は右目をティッシュで押さえて泣き両親を抱きしめて持ち上げて喜んだ。そして荒ぶり過ぎて点滴などが外れた為に、ボランティアの看護師に少し怒られながらもう一度ブッ刺された朔であった。

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