第7話 だから国家権力の犬は嫌いだ


 12日の朝9時過ぎ朔以外の人間は起き朝食を済ませて朔の部屋でqs5proというゲーム機で少し前に出たスタファイ6を順番で対戦して遊ぶ3人。


「ああ......私のケンタが......ブランちゃんリアルじゃなくても格闘強いんだね......」


「え、あ!いや、ゲームも暇な時やっていたので!なので一応趣味です、それより色々なゲーム......いや、有名なゲームに関してはほぼ全部ありますね......見た事も無いのも......すごいなぁ。それより朔は全然起きないですねー、自分で言った通り薬が効いている間は余程の事が無い限り副作用で起きれず寝続けると言っていましたが......」

 (この騎士様働けないから無職なのにどこからそんなお金が......)


「まあゲーム大大好き野郎だから......それと、ああ......酷いと昼まで起きないぞ。でも飲まないと、通院前の専門生時代は3〜4日眠れず急に倒れる様に3時間くらい寝るを繰り返し、更に身の丈に合わない量のレポートや宿題で精神を壊したからな。その前に色々あったのもあるが、まさか手帳取れる程に壊れちまうなんて......ダチなのに気づけなかったのが悔やまれるぜ」


「無理だよ、ツッキーの大切な事を隠したりする行為とか本気の嘘は見破れない。心配させない為に......本当に詐欺師に向いているくらい嘘得意だし......それとやっぱり眠る顔も見られたく無いって前に言っていただけあっていつも通り壁の方向いて寝てるね〜」


「本当ですね!メイク落としたままだし抱きついちゃ............あ、メイク用品も集めないとダメですね」

 そう言いながら朔の布団に入り抱きつきながら言う。


「生理用品は今回は足りているから良いけどメイクは......私が使っているのじゃあ絶対合わないだろうし、昨日言っていた通りドラッグストア行かないとだね」


「と言ってもだな、何度も言うが自衛隊が出るなと言っているし、2人とも風呂入る後と前の顔あんまり変わってないからいらないのでは......?」


「世紀末世界でも身嗜みしっかりしていないとカスのスカベンジャーみたいに思われるでしょ」


「私は......あっ起きた!朔?よく寝れたぁ?」


「んん......ああ?あぁ......いや、正直な話いつも通り寝てんのか寝てないのかわからない感じだ。つまり一応寝れてはいたみたい、それになんか......フワフワするよ、気分が」


「ハグにはリラックス効果がありますからね〜」

 そうニコニコ言いながらまたハグをする。


「外国人はスキンシップがすごいってのはほんとうなんだなぁ............待って首絞まってるっしぬっ」


「人によるよぉ〜だって私こんなに他人にくっついたりしないし、そう言うのはアメリカ人なんじゃあ?」

 と日本で外国人と外国人のハーフの国籍日本人が外国人の偏見を言う。


「ブランちゃんが言うと何か余計にややこしい......それより朔ご飯食べて顔洗ってきなよ」


「いや、いい。いつも朝は食べないんだ」

 そう言いなが名残惜しそうにくっつくブランの頭を撫でて驚いたところで抜けて一階に降りていく。


「......朔って結構積極的ですね、何だか意外です。それとご飯は今までの生活とは違うから食べた方が良い気がする......」


「あれは......多分精一杯カッコつけて彼氏になろうと努力しているだけだと思う」

 それを聞いてちょっとアプローチを強めてみようかなと思うブラン。


「わざわざ言うとか人の心とか無いんか?それよりご飯は難しいね......朔は朝ごはん食べると吐き気が起きたり体調不良になるからって数年前から言っていたから強要すると、感じなところで吐いて動けなくなってゾンビにやられちゃう......」

 と橋本が言う。


「それってもしかして精神病と関係が......?」


「わからない、本人もわからないから困ると言っていたよ。あと空気が冷えていると吐き気が酷くなって食べ物が食べれない時期があったなぁ......俺が奢った酒と焼き鳥とかが全部ゲロになった懐かしい思い出だ。行った事無いけどナイアガラの滝を見ているような吐きっぷりだった」


「吐かなくても小便とうんこになるんだから、あんまりかわらないわ」

 そうして文字通りクソみたいな話をしていると朔がする事終えて戻ってくる。


「やっぱり朔は髪の毛上げていた方がいいね。それ含めて髪型は2種類しか見た事無いけど」


「こいつの髪型なんて短髪の時は前髪上げていて、伸びてきたら清潔感保てる限界まで放置するだけだ。ただ髪は染める、この前は若干青色になっていたな」


「今は何にもしていないから地毛の焦茶みたいな奴やな。てかそれより階段の上り下りで気づいたけど筋肉痛やばい、慣れるまで行動不能レベルだ......腿上げすると死ぬ」



「運動不足の人間が走り回って殴って蹴って色々やったからね......ボクサー、筋トレ野郎と健康の為にストレッチやランニングしている人間と比べたらね......」


「......でも、筋肉痛だから仕方ない家にいましょうか、って物語的にどうなんよ?事件が起こるまで待機していろと?」

 メタい。


「物語?またゾンビ映画の話??それに事件は無い方がいいよ......もう学校に行きたくないし」

 物理的にも精神的にも居場所を求めているブランは曇る。


「はぁ......取り敢えず落ち着くとしてニュースはどう?」


「報道機関に医療機関とか警察、自衛隊とかライフライン関係と、そういう所以外は仕事を控えるじゃなくて禁止にして自衛官と警察官が家を巡回して1番近い避難所まで護衛する地域もあるとか......それとこのゾンビになる原因はウイルスだってわかったらしい、逆にそれ以外はまだわからない。そして朔の言った通り海外は冷たい対応ばかりでヤバいな。それと現状政府の予想だと人口の1/4が死んでいるかゾンビ化している可能性があるってさ......俺の親は大丈夫だろうか......」


「俺の祖父母もなぁ......とにかく良い方に考えて気を紛らわせよう」


「それ出来なくて病んだのに?」


「おい」

 と橋本が小谷をどつく。


「気にしてないよ、事実だし!」

 と笑いながらいう朔。


「はぁ......それだからダメになっちゃったんだよ......」


「難しいですね......それと今日1日の行動、結局どうしますか?」


「外にいると問答無用で発砲する自衛官って感じのタイトルでSNSに動画載っている......真偽はわからないけどやっぱり2日目は余裕あるしゆっくりしようよ」

 不安そうにただ恐怖に震えない様に話す橋本。その間に動画を確認する朔は恐怖する。


「この映像............本当なら酷いな......手を上げている人を無視して撃っているじゃないか......避難所とか色々言っていたけどそこはどうなってんだ、そこに連れて行く、もしくは自発的に行く時に見つかったら射殺されるじゃないかっ。」

 そう怒りながら壁を叩くが穴を開けない様に力を抑える程度には理性的。


「矛盾......自衛隊のじの字も無い......」


「まあ待て、AI映像かもしれないから。取り敢えず家にいるのが安牌よ」


「それが......強盗が増えているらしいし、警官や自衛官の見た目で強盗する事例もあったとか......」

 と橋本がまた不安を言う。


「ナイーブになりすぎだ。デマの可能性の方が高いだろ、とにかく落ち着けよ」


「......じゃあ、俺は外人がアップしたハンドメイド銃の作り方とかダウンロードするわ......インチ腹立つわ......センチにしろよな、再設計だるいんだよ......」

 そうブツブツ言いながらPCを操作し、スティック状の外付けSSDに動画、設計図などをダウンロードしていく。小谷、橋本はやる事も無いので携帯を弄っている。そして朔の背後から抱きつきロシア語で話しかけてくるブラン。


「Я благодарен Богу за то, что мы встретились♡」

 と甘ったるくロシア語で言うのに対し朔が返す。


「Oui. Je t'aime, bébé」

 と普通にフランス語で返事をする事に驚き恥ずかしくなるが驚きが勝り質問する。


「な、なんで伝わるの......これでちょっとイジるつもりだったのに......は、恥ずかしいっ」

 と身体をくねらせ言う。


「インターネットとか海外のゲームばっかやってるオタクは定番の外国語の愛を言うフレーズは覚えているんだよ......あと悪口系スラングも......と言ってもこれでカッコつけて間違えていなくてよかった............この言葉でカッコつかないか」

 と自己完結して笑う顔にブランは居場所を感じていた。


「サーシャ、気軽に頼ってよ?これでも俺は5歳上の大人なんだから。と言っても俺はサーシャの高校の偏差値より下の下で50あるかないかの知能だけどね......でもさ、俺は君の心の拠り所にでもなれたら嬉しい......よ」

 と照れながら頭をかきつつ言う。


「!!......うん!するからそう言う卑下もやめてね」

 と心の拠り所と言う発言に嬉しく思うのと同時にいつもネガティブな所を治してあげたいとも思った。


「ちょっと!同じ高校出身2人いるんですけどー!!まあブランちゃんは上から数えた方が圧倒的に早い偏差値の学校だから......格が違うからノーカン!!」


「それにもう学歴何て関係ない世界になりつつあるがな......」


「一もネガティブじゃん......てかこの状態で明るくいられる人なんてあんまりいないか」


「腹が減るとネガティブになるからなぁ、もう昼だ。飯でも食おう、俺の親に何食って良いか聞くよ」

 そう言われて全員空腹に気がつき下に降りた。まだライフラインは生きており災害時の食事では無く、ごく一般的な家庭の昼食を女性組+朔が作りそして食べ始め雑談し、ニュースしか流れていないテレビを見ているとインターホンが鳴る。


「む?私の両親が来たりしたとかか?」

 と父が画面を見ると自衛官が数人立っていた。インターホンの前に2人、後方を警戒していると見られるのが1人がいる事がわかり父は全員に小声で伝えた。


「おかしい、私達は避難しないと昨日俺がドアに書いた紙を貼った、それに自衛する手段はあるとも強盗どもにも脅す為の文も入れたからなぁ......これ本物の自衛隊か?」


「これ海外とかにあるんだけどドア開けた瞬間に真横から拘束されたり、撃たれたりするんだよね。映画でもよくある......2階の窓......まだインターホン押しているよ......取り敢えず窓から見てくる」

 そう言い音を立てない様に窓の隙間から見るとど定番通りインターホンのカメラの死角に1人既に立っていた、それも20式5.56mm小銃という自衛隊が使用する本物と見られる銃を構えている。それに驚いていると声が聞こえてくる。


「隊長!ここに人はいないので避難済み、もしくは死亡済みでは無いでしょうか」

 とハキハキ話すインターホンの前にいた2人の内の1人が横の男に言う。


「そうだな。ここ隣家の応答無しの家はわざわざゾンビ共に気づかれない様に音をあまり立てずにこじ開けたのに誰1人いない上に、今日の行動で死傷者3名を出している......骨折り損のくたびれ儲けだった。我々の第一の目的は粛清もそうだが強制収容も目的だ......はぁ、面倒事ばかりで嫌になるな。どこの国がばら撒いたかわからんJ-ウイルスのワクチンの被験体を集めるノルマもまだ足りていない。行くぞ、それとここには人間がいないとマーキングしておけ......それと試験的にやっている念の為のアレもな」

 そう言うと部下らしき男が表札に何かを書き道路に出るとエンジン音が聞こえ遠のいて行った。


「念の為のアレ......?てか、本当に展開がゲームか映画かよ......」

 と朔は呟いた。よく見るゾンビ系作品の世界観だと喜びかけたが事態は最悪な事に変わり無いのでかなり萎えた。そして念の為静かに下に降りて聞いた事全てを伝えたら父が答える。


「隣人は騒ぎが始まるの察知してすぐ車でどっか行ったからなぁ......それよりJ-ウイルス?Tじゃないのか?」

 と禁忌中の禁忌の質問をする父。


「いやJだって言っていたし、どっかの国がばら撒いたとかも本当に言っていたんだよ............しかも、あいつらがもし隣の家ぶち壊して成果があったら俺らも終わっていた......」


「嫌になるよ......私はちょっと横になるよ」

 と神経質で身体の弱い母は寝室に向かった。


「ちょっと母さんの様子を見ておくから3人とも自由にしていて大丈夫だよ」

 と言うと父も出て行った。


「......隣人が居ないなら家の物資を奪うか、それとマーキングとやらも写真撮るなりしよう」


「ダメッ!映画だとドアを開けた瞬間爆音のアラートが鳴り響くか爆発するか、もしくは自衛隊に通知が行くよ!」

 と同じく映画をよく見るブランが忠告する。


「わかっているさ。ただ俺の家の前にも何か置いて行ったかもしれないからさ。それにら隣の家は窓ガラスを割って侵入する」


「音はー?やばくなーい?」


「使い捨てライターをバーナーにする物がある。これで局所的に熱して温度差で割りその穴から鍵を開けて侵入する。この方法はガシャーンとはならずピキッやミシッという音だけで済む、だから泥棒がよくやる手口だね......スーツを着て......あだだだっ......はぁ、そうだ、俺筋肉痛だった......なんだよ、登場人物が筋肉痛に苦しむゾンビ作品なんて知らねぇぞクソッ」


「戦える俺が行くよ」


「いや、この家と隣の家の知識は当然俺が1番だ。取り敢えず、家の前にトラップがないかだけは確かめる......」

 そう言うとバーナーと水入りペットボトルを腰に付けて庭の方に靴を持って行き外に出る。


「3人とも30分くらい経って帰って来なかったら死んだと思ってね。それとこれは1人の方がやりやすいから着いて来ないで。じゃあな、サーシャ愛しているぞ」

 と最後に死亡フラグギャグを言う。


「それ死ぬよ、やめてよね」

 そう朔はつまらないギャグを吐き捨てながら庭から迂回して玄関に向かう。


「............なんだこれ」

 朔にもよくわからない装置が置いてあった。玄関開けるとヤバいと言う定番もまた当たってしまった。


「んん?紐だ!ほ、細すぎて気がつかなかったぞ!......おい、この筒なんだかわからなかったが向き変えて見たら普通に手榴弾じゃねぇか。有名な所だとベトナム戦争などであったドアノブを動かすとピンが抜けてグレネードが落ちてくる奴だっ......ただ、これは落ちるというより開けたら横で起爆する感じか」

 とやたらテンション高く解説口調で呟きながらも冬にも関わらず汗ダラダラでトラップ解除を試みる。


「ベトナム戦争のとは違う......ドアノブが家のノブじやないからな......なんで自衛隊がこんな技術持っているんだ......ここを......紐を辿って............はぁはぁ......取った!取ったぞ!!これは......MK3手榴弾か?偽物を設置する訳ないからな......これはラッキーだ、まさにピンチはチャンスだ!!」

 ハイテンションで達成感に満ち溢れドアを開けようとするが地面の影に違和感を感じた。


「......?」

 無言で上を向く。そこには手榴弾が何個もぶら下がっていた、あまりの自衛隊の殺意に23歳の大人が恐怖で小便を漏らしかけた。


「い、意味がわからない......戦争レベルのブービートラップってな、なんだよ......くどいよ映画なら次の展開に進めってなるよ」

 と声が詰まり震えて言う。そして朔の喜びの声だけを聞いたブランが家の中からドアを開けようとする。


「朔〜大丈夫だったんだ............」


「ぃや、やめろぉおおおっ!!!!」

 その声は届かずドアは開き5個の手榴弾のピンが飛び落ちてくる。ドア自体は即座に朔が無理やり閉めた。


「ひっ!ヒィッ!!!!」

 朔は半分泣きながら落ちてきた手榴弾を3個受け止めて遠くにぶん投げて、1個を恐怖の火事場の馬鹿力で筋肉痛の痛みを無視し思い切り道路の方に蹴り飛ばし、最後の1つも拾い上げて隣の家に投げて爆破に対しての防御をする為に、爆発する反対方向に飛び寝ようとする。手榴弾の爆発までの時間はピンを抜いてからたったの約5秒であり3個受け止めれたのがラッキーであったが処理が終わる寸前にアンラッキーに5つ一斉に起爆する。


「うぐぎゃあああ!!!」

 隣家に投げた物が隣家のトラップをも誘爆させ殺傷力は10メートルほどある爆弾が複数もあるのに約5メートルの位置で朔はギリギリ寝られず空中で爆風の熱波と柵などの破片をくらい思い切り負傷すると同時にブランがドアから出てくる。

 (サーシャの声が聞こえる、何かを言っている、泣いている。俺は......俺はサーシャの為にも......拠り所に......)



 12日昼頃から13日の朝5時頃まで時間が経つ。


「............はっ!!お、俺生きている......威力を考えると奇跡だ......冷たっ!?冷やされているって事は火傷もしたのか......死なない為の幸運なのに、運の使い過ぎで死んじまいそうだな。それとい、今はなっぐぅぅ......い、痛い......顔がっ!」

 そう言いながら顔を触り身体を見ると、負傷していた時のスーツでは無くほぼ全裸の状態で寝させられていた為に自分の状況を理解した。顔に胸、それに脚などが包帯でぐるぐる巻きにされていた上に足はガチガチにされていた。


「あ、足がっ......ああ、良かった欠損はしていないみたいだ......触った感じ痛いが破片が刺さっては無い......?そうかMK3手榴弾は破片手榴弾じゃないからか、それに隣家の鉄筋コンクリートの柵に咄嗟に俺が寝たから生きているんだな......と言っても攻撃用の手榴弾なのだから良く......俺は生きていたな......例え映画の死にそうな立場でも、現実では本当に死んでたまるか、まだまだ死ねない。それにブラン感動物語の名脇役になってやるんだか............ブラン?」

 とオタク分析をする。ただよく周りを見ると寝ているのが自分の部屋ではなくリビングで、薬や器具が置いてあり治療の痕跡があった。更にその横にブランが寝ていたが目がとても腫れていた。


「泣いている?何故......もしや俺の為?いや......んんまあいい。それよりスーツはどうなった......俺の部屋に戻りたい......それに顔も......ッ!うぅ......これは筋肉痛?怪我の痛み?......ああっ!こ、声が出てしまう、俺は痛みに鈍い方なんだが............って腕も変だと思ったら包帯かよ。これ感染症で死なないか?J-ウイルス以前だよー!!!」

 と割と大きい声であたふたしているとブランが起きるやいなや朔の負傷していない部分に身体を寄せて絶叫気味に言う。


「起きた!!............ふぐっ、ご、ごめんなさいっ......本当に............わ、私が私が勝手に喜んでドアを開けさえしなければ......死ぬよって自分んっで......言って............だ、だ、黙ってって......お、大人し......」

 泣きじゃくり18だが子供だった事を思い出させられた一応大人の彼氏。朔はカッコつけず、キザに振る舞おうとも主役を飾ろうともせずブランにただ伝えたい、真っ先に伝えたい一言を言った。


「良かった」

 そう言う顔は笑顔だったが包帯のせいで伝わり難い。


「ふ、ふぇ?」


「あの時......民家によくある薄いドアたった一枚の向こうにいる君が無傷で......本当に良かったっ」

 と身体の痛みを我慢してブランに抱きつくが、いつもとは逆にブランが引き剥がし言う。


「何言ってんの!私は......私は。私......は彼女以前に人として失格っ!なのに、なのになんで数日の付き合いの私なんかを思うの!嘘ならやめて!気を遣わないで私を責めてよッ!!」

 自暴自棄の彼女は声を荒げて言うが朔はゆっくり言う。


「......気を失ってから起きてすぐに気味に会って本心じゃ無い取り繕った気遣いからくる励ましの偽善の言葉なんて話せる程俺は器用じゃ無い。俺はお前、サーシャと紐と紐で、それも赤いヤツで結ばれているんじゃあ無いかと思うほどに惚れちまってんだ。時間、日数は大事だけど今すぐに吐けるこの愛の感情の大きさの方が大事だと俺は思う。俺の愛をナメんな、安心しろ。俺はサーシャより何もかも弱いが、愛情なら拮抗していると思っている......だろ?」

 カッコつけて言うつもりでは無いが洋画などの見過ぎでセリフがアレだが正真正銘の愛、出会ってからの時間だけが大切では無い、そして俺のことを愛しているんだろ?と言いたい事を言い切る。


「あなたを殺しかけた不幸を呼ぶ女よ、名前のアレクサンドラの意味は守る人なのにね」


「なら名前を意訳すると純白の守護者じゃないか。こうやって白い包帯とか俺に巻いてくれたんだろ?なら借りが出来ちまったなぁ」


「何言ってんの!私が原因で私がするべきだからしただけ......逆に今赦してくれた貴方に借りがあるよ......」


「その言葉待っていたよ」


「?」


「俺に借りがあるんだろ?ならさ、憧れていたんだけどさ......」

 と重要そうにブランの耳元に来る。ブランは死ねと言われても、同じ目に遭えと言われても従う意気込みで聞いた。


「俺の事をダーリンって呼んでくれよっ!あれなんか憧れててさぁー」

 と馬鹿な事を言う朔。内容に拍子抜けしフリーズするが意識を取り戻し返事をする。


「ダ、ダーリン......本当にありがとう............本当ほんと馬鹿......一生着いて行きます」

 また涙を流し要望に応えるブラン。


「嬉しい。絶対に手を離さないからね」

 そう言いながら手を掴む。2人は朔が痛く無い程度に暫く抱き合っていたが、朔がやばい事を思い出すが慌てるとブランがまた不安定になるのでゆっくり言う。


「この傷は裂傷?火傷?それと抗生物質を手に入れる予定を立てようか......てか、はぁ......藤原さんの家で起こると思った爆弾トラップがウチで起こるなんてなぁ......」


「藤原さん......?ああ!!そう、その藤原さんだと思うんだけどね、朔の携帯の通知に藤原って名前でメール届いていたから、柵の指で勝手に解除して小谷さんが連絡取ったら実はお医者さんだって言うもので、直ぐにこっちに車かっ飛ばして来たぞっ!って言いながら家に入って来て診てくれたの。裂傷自体は小石とかだったから出血も少なく取り除いたから大丈夫、火傷も深度Iだと思われるから安静にと。薬類はネットで藤原さんや小谷さん達が必死に集めてきたからもう塗ってある............うぅ......私は大したことのない手伝いで包帯巻いて薬塗っただけ......一番悪い部外者なのに......」


「ねぇ?こうやって会話出来ているんだから緩く行こうよ。部外者ってこの家の家主の息子の彼女がか?もし家族が追い出すなら俺も一緒に出て行くさぁ............良い子だから泣かないでくれよ......笑顔の方が似合うんだから」

 と微笑み頭を撫でようとする、いつもなら身長が足りないのだが座っていたため無理やり撫でる、その姿に笑ってしまう。


「うん......」


「やっぱり笑っているのが良いね......そう言えば両親に藤原さんとあいつらは?」


「......薬集めで疲れて寝ているの、それと藤原さんは必要な器具と薬品を置いて帰って行ったよ......近くの外科の診療科から取って来たって......幸い気絶してくれているおかげで局所麻酔で済んで良かったって。麻酔科医になれる程頭は良くないから全身麻酔は出来ない、そもそも機械が大き過ぎて持ってこられないけどねとかなんとか」


「藤原さん............やべっそれより騒ぎ過ぎちゃったな」

 と己の心配より怒られないか心配する。

 

「まあいいか、それより自衛隊の連中が爆発音を聞いて来なくて良かったよ............俺が持っていた爆発していない手榴弾はどうした?」


「自衛隊はもうここの辺りは捨てたのかも......爆弾はここの引き出しに......朔以外は触れないようにと......」


「それは良かった......肩を悪いけど貸して......よっこらせ。......当然本物だろうなぁ。先にサーシャに説明しておくけど......」

 とMK3手榴弾の性質を伝えた。朔が味わった苦痛を深く理解してしまい沈んでしまう。


「ちょい!そんなつもりで伝えたわけじゃないよ!ピン抜いたら5秒以内に逃げるか投げろ、だけを伝えれば良かったかな......ごめんよ......責める気は無いんだ」

 もう2人共情緒不安定のベチャベチャの共依存になりそうな方向に進みそうである。


「だって......本当に生きていてありがとう......ごめん............」


「気にするな......それに俺は精神病で飲んでいる炭酸リチウムの濃度を測るために血液検査をするんだが血小板とか高くて傷の治りが早いんだ、小さい頃から傷の治りだけは並みの人間の1.5〜2倍はあるぜ!......ああ、それと薬飲んだらまた寝るから横にいてくれるかい?」

 罪滅ぼしさせてあげたい、それも簡単な事でと思い、その感情を消化させる作戦に出た。


「うん............ダーリン............これ流石に2人きりの時だけね......」

 ダーリンと言うのは流石に恥ずかしい様だったが、それを見て朔は笑顔になると言う、なんだか悪趣味な感じに。そうして2人は再度眠る。現実という悪夢から目を背ける事ができる睡眠を求めて、だが朔は今使っている睡眠薬の副作用で夢をほぼ覚えていない。彼は空想の世界に逃げる事は許されない、肉体に傷を負い精神が衰弱しようと大切なモノを死んでも守り抜く為、今は眠る。

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