第8話 修羅場

 13日の昼頃、朔が起きた。


「うぅ......中途半端な睡眠が一番気持ち悪くなるんだよなぁ......っ......いてぇ......ヒリヒリズキズキ......でも生きているだけであり得ないほどラッキーだからな......」

 そう自分を鼓舞する様に声を出しながら起き上がるとリビングにいた父が反応する。


「起きたか。お前......あまり危険な事はあまりするな。あのようわからない改造されたライダースーツ自体が防火性のちゃんとしたやつだから良かったが、あそこでアレを着ていなかったら全身火傷と破片の裂傷で死んでいたんだぞ。前から無茶な正義感で行動して痛い目見ているだろ......」

 と静かに怒りながら言う。


「でもその正義感の行いが巡り巡って藤原さんという救世主を降誕させ降臨してきたでしょ?」


「......そうだが、そうやっていつも言い訳するんじゃあない。......それと出会ったばかりの外国の女の子と付き合う何て聞いていないぞ!それも高校生とは......まさか......恩で脅したのか?」

 朔と釣り合わない美少女であり高校生な為に強めに息子に質問をすると、降りてきて一部聞いていたブランが部屋に急いで入り言う。


「違います!お義父さん!朔さんは私を助け、私の一目惚れを受け入れてくれたのですっ!寧ろ、私の方が恩があります............本当に私がドアを開けなければ朔さんは......」

 と庇いつつまた情緒不安定になり父は困りながら答える。


「お、お義父さん......お義父さんか............い、いや、そんな息子の怪我は気にしないでください......ブランさんがそうおっしゃるのなら......私の息子をお願いします............そう言えばブランさんのご両親は?」

 と朔が話しをズラして触れさせないようにしていた事を聞かれたブラン。


「..................亡くなりました、全員。1番強い筈の私を......この私なんかを庇って......うぅ......お母さん、お父さん......お兄ちゃんっ......ふっ、ふぐっぅ......んん......」

 朔に出会う前に何があったかほぼ語らなかったブラン。それは思い出したくないという、ただシンプルな感情で忘れようとして、兄を失ったとほぼ同時に運良く出会った優しい人。それに新しい友人や優しい人を彼氏にして気を紛らわしていたが、その彼氏を出会ってすぐに殺しかけた事によって心の混濁した傷心や哀惜の悲しみの汚水を溜めていた心の器は壊れ泣きじゃくり始める。俯きそこそこの声で泣くブランに気づかれない様に朔は父に一旦部屋から出てとジェスチャーで伝えて2人になる。


「......家族が死ぬ。その形容し難い辛さ、俺は考えるだけで涙が出る。だが簡単にブランの悲しみをわかるなんて同情を俺は言えるほど人間出来ていない。だが......何が辛いか言語化する事で、吐き出す事で少しは気持ちがマシになるらしいんだ。良ければ俺に君の悲しみを背負わせてくれないか?辛いならよそう、これは己で整理をある程度出来てからするモノだから」

 と痛みに耐えながら傷だらけの腕で頭を撫で様と手を動かすが上手く動かせない。それでもストレス軽減効果があるとネットで見たモノを必死にする朔。


「本当に優しいんだね、貴方が同級生だったら私にも青春あったかな............えっとね、父、母、兄2人、私の5人家族で............」

 そうイジメられてきた人生、肉親を失った人生。ひたすら話した、止めどなくブランは口を動かし朔に伝えた。自分の人生の辛かった事、それでも家族は優しかった事。嬉しい事、辛い事何でも心から様々な感情が濁流の様に口から言葉に変換して流れ出る。数時間話して泣いて、両親の優しさを思い出し笑って、イジメられて憎く怒って喜怒哀楽がコロコロ変わり話すブランに対して朔は、その話に合った顔と返事を丁寧した。そうして吐き終えたブランは少しスッキリとした顔になった、だが簡単に家族の死の悲しみは拭えない。でも今は少し楽になれたんだ、この人のおかげでと思い笑顔でお礼を言う。


「......色々聞いてくれてありがとねっ......朔の精神の支えになりたいと思ったんだけど逆になっちゃったよ。朔は名前とは逆に満月で、こんな私をギラつく太陽とは違い優しい月光で照らしてくれる......ねぇ?お願い......もっと愛して......ん......」

 

 と言いながらキスを待つブラン。


「他人の愛のあるキスは俺で最初で最後だからな、でも人工呼吸は相手がおっさんでもしてやれよ」

 と変なところに気を遣いながら独占欲全開で頭を引き寄せ撫でながらフレンチキスをする。それを家族と友人2人は見てしまった、あまりにも長い間話していて入り難く様子を伺っていた為の事故である。


「あいつ......あの感じ初めてのキスじゃないな。5歳も下なんだぞ......」


「私貴方より10も歳下だけど?」


「うぐっ......」

 痛いところを突かれ黙る父。


「私にもあんな感じで強......」

 橋本は3Pした時などの事を言おうとするバカなので小谷は口を押さえる。


「まあ、もう収まったみたいですし入りましょう。何も知らないフリをして......」

 と小谷が言い、時差でリビングに入ると午後3時過ぎの遅めの昼食を摂る。


「流石に今の俺に家事手伝えとか言わなくて良かったぁー」


「あんたねぇ......そもそもまともに立てないんだから逆に邪魔よ。大人しく寝てなさい」

 立てたらやらせていたのか。


「意外と水道がまだ生きていますね〜」

 と橋本が言う。


「そう言えば水道にウイルス混入させるとか漫画で見た気がするんだけど............」

 と心配になるブラン。


「それよりもM○DMAXみたいに水道を独占させられたらやばい、他のライフラインもそうだけど賊が結成されて独占されたら、税として何かしらを徴収され続けて本当にやばい」

 とやばいやばい連呼するやばい状態の朔。


「やばいと言えばアメリカでも似た様な症状の人物が暴れているとか何とか......ってもゾンビ薬物とか言われている違法薬物あるからわからないね。大統領もそんな事はないグレートアメリカ。とか言っていたよ」


「あーあ......もう絶対にそれダメじゃん......って事はばら撒いたのはアメリカでは無いんだな。どこだ......隣国か?まあ考えるだけ民間人の俺らには意味ねぇーな」

 と寝ながら全員に聞こえる様に声を張り上げて言う朔。


「声デカッ!ゾンビ来たらどうすんの!もう......朔の薬集める時勝手に朔の武器使ったけどゾンビとは戦いたくないよ......」


「使った?そうか、どうだった?有効的だったか?」

 興奮気味に聞く。


「リボルバーは良かったぞ、10発くらい使って4人倒せた。他に槍とか借りたけどそれだけじゃあ致命打は与えられなかった。やっぱり首から上を破壊するしかないな」

 と小谷が言う。


「へっ!?そ、その10発の薬莢持って帰ってきたよなぁ......?威力は想定よりあるのは嬉しいが持って帰ってきたんだよなぁっ!??」

 薬莢を再利用しないと今後キツくなるので朔はしつこく聞く。


「え、アレって使い捨てじゃないの?今頃病院の中に転がっているよ。未奈の言う通り使い捨てじゃなかったかぁ............すまん」


「馬鹿っ!だから言ったでしょ!私達ツッキーの話よく聞いていたんだから覚えるでしょ!」

 と意外と日頃の雑談をちゃんと聞いて覚えていた橋本。


「わ、悪い......」


「あっ......朔が放心してる......起きてー」

 そう言いながらブランは頬軽くペチペチ叩く。


「......どうしよう、作るのが面倒だ......残弾はまだまだあるけど............」

 と言いかけると小谷が遮って言う。


「......本当に悪い、全弾持って行ってドタバタしていたらどこかで合計約50発全部落とした......」


「はっ!?私も聞いてないんだけど!?」

 驚く橋本に壊れた朔。


「あばばばばばば」


「うちの息子はそこまでの武器作っていたんか............ボウガンは知っていたが......」

 壊れた息子を無視してドン引きする父。


「はい、ご飯作ったから壊れていないで食べなさい」

 そう言うと母達は料理を持ってくる、小谷は箸などを準備する。


「うー......ああ......」


「壊れないで......ほら、あーん」

 とブランは無理矢理飯を食べさせる。


「ぐぼっ!??......はあ、ありがとう。いや、アレね。1発あれば複製出来るんだけどね......あのリボルバーの口径は俺独自だから、どの弾丸とも互換性がない......がシリンダーを新しく作ればバレルとマズルの大きさ的にまた使える様になる............警察官が使っているニューナンブm60とか拾った方が早いよ......」


「ごめん何言っているかわからない」


「俺も」


「お前はもっと申し訳なさそうにしろ」

 と橋本は小谷キレた。


「黙れ、お前には関係無い」


「は?私達の生存の為に朔が力や物を貸してくれてんのに何なの?」


「チッ......悪かったよ。これでいいだろ?」


「一言多い」


「うるせぇよ」

 そう言いながら何故か急に怒り殴ろうとするが少し離れていた筈のブランに片手で受け止められる。


「どうされたのです?それも手をグーにして。疲れているなら休まれては如何ですか?今仲間割れするには早すぎます、3流映画でもあまり見た事無いです。朔も責めていませんし休みましょう」

 と195センチからのパンチを片手で受け止めたブランは言う。本気では無いとは言えブランの体幹が強く全く揺らぐ事無く受け止めた事は朔と橋本からしたら驚きであった。そして小谷は飯を食べ朔の部屋に戻った。


「......お騒がせしてすみません。怒るといつもあんなで......それも何で怒るかわからないので......まあ今は不自由に暮らしているから仕方ないかな......」


「ただの暴力に仕方ないなんて無い」

 と朔は言う。


「うちの息子みたいだな、精神科行ったらどうだい」


「無神経な発言はやめな」

 と母が怒る。


「いえ......その病気と言うより性格と言うか......付き合ってから年々荒々しく暴力的になっていっている様な気がして......」

 それを聞いて、聞いていないんだけど?と朔は困惑する。


「な、なんで......お前らもう結婚するはずだっただろ......俺の前であんな事は一度も無かっただろっ!!」


「......取り敢えずお昼ご飯食べましょう」

 とブランが言う。気まずい雰囲気の中それなりに良い肉が入った炒飯を食べたが味があまりしなかった朔。両親は自分達の部屋に戻り、リビングで3人になる。


「あの......一は所謂DV彼氏って感じに数年くらい前からなっちゃってね......理由を聞いてもお前が俺を怒らせるからだとか言うんだけど、その後強く反省したみたいな事をいって喧嘩と仲直りを繰り返していたの。ツッキーが居たから付き合い続けていたのもあるかも、それと浮気はされていないと思う女の勘ね......って言っておけば当たりそうな気がして......」


「そんな俺がお前らの子供みたいな扱いで......安心しろよ......あいつはそこまで腐って......腐っては......まあ、その浮気は流石にしないよ」

 高校生時代でかなりヤンチャしていた小谷、その後も色々揉め事があった事は聞いてはいるので馬鹿正直な朔は励ましきれない。


「だよね......でも携帯を触らせない様にしている様な......」

 と愚痴を始めたところを遮りブランが言う。


「取り敢えず、上に戻りましょう。3人で居続ける事は不信感を煽ります」

 と負の感情が少し軽減したブランは最適な事を言う。男の朔は女2人に力を借りて全員が部屋に戻ると小谷は咲だとかいう人物と電話していた様だが、すぐに切りこちらに向き橋本の言う通り異常な程謝ってくる。それに橋本は許す、本人がそうした以上部外者のブランと朔は黙るしかないのであった。ヤった事ある朔は部外者でいいのかわからないが。


「ああ......!久しぶりの我が部屋よ!............スーツは?」


「もう使い物にならなそうなのでこの袋に......」

 とブランが申し訳なさそうに差し出してきた物を受け取り中身を見てスーツを広げる。


「うーむ......本当にこれを着てなかったら死んでるな。特にこの鉄板の凹み、ここに仕込んでいなかったら肋骨何本かイっていたな......それにビリビリだし溶けてるし......ただ裁縫も俺は出来るから少し直して使うよ。新品はバイク屋に行って略奪しよう、そして道着の改造も進め......っ痛い......ダメだ、この身体じゃあ数日は外での行動不能だ。これゾンビ作品なのに長い事出て無いぞ......」


「これ?まあ、ゾンビ作品でも人間同士の揉め事パートになると出てこないから......」

 とブランが言う。まさに今揉め事パートであるが流石に言えない。


「そう言えばツッキーのボウガンは威力不足だったな、頭に刺さらなかった」


「いや、その言わなかった俺もアレだけど頭に刺さる程強くないよ。これは矢を肉に刺して動かし難くささたり、矢に何か取り付けて発射させるのが目的だから......あと自作では頭に刺さるレベルは作るの難しい......」


「そういうものなのか」


「そう、だからもう自作じゃなくて本物を探して拾ってメンテが1番、何度も言うけど。ねぇ、サーシャ?そこのCBDのシーシャを取ってくれないか?」


「前はベイプって言っていたのに......ダジャレのつもり?」

 そう言いながら渡すと吸い始めた。


「......さてじゃあ、生き残りの作戦の次は?」

 と橋本が聞く。


「軍人や警官の遺体を漁る。そいつらが腐敗する前にな......って今は冬だから良いけど夏やばいな。漫画や映画だとすぐ慣れている描写だけど、実際は慣れる事はキツくてほぼ無理だぞ。俺は自分の鼻血をゴミ箱に放置して腐敗させた時に嗅いだ例え用のない臭い......アレは無理だ。だから俺らが住むここの周りの死体は集めて遠い場所で燃やすかぁ。その方が衛生的でもあるしな」


「死体を下手に触ると危ないんじゃねぇの?」


「そりゃあもちろん。だから、どうせ自衛隊とかはアウトブレイクやバイオハザードが起きた時の防護服を持っている筈だから奪えたらだな」


「随分と運頼みだな、オタク知識はどうしたよぉ?」


「......この身体がそこそこ治るまで動けないからこう言う提案しか出来ないんだ。すまん......今も顔含め身体に包帯巻いて衣服はパンツしか履いてないし......少し肌寒いな」


「それは朔が謝る事じゃないよ、私が悪くて............そうだ、私がくっつくよ」

 と言うと横にささっと来て寄り添う。


「あぁ......いいよ、大丈夫だからね。言い方が悪かったよ」

 (かなり後悔しているなぁ......治してあげられないかなぁ話しずらいぞ......)


「そんで俺は火傷も傷も浅く約1週間でほぼ治るから飲食物の残りを考えて1週間待機していようか......な......って俺の精神安定剤と睡眠薬が足りないっ!......まあ、これは治りかけの時に援護してもらいながら薬局に行こう、俺がいないと種類とか間違えちゃうか......」

 そう話していると少し遠くから爆発音が聞こえた。


「な、なんだ!??」

 と驚く朔に暗くブランが言う。


「私が朔してしまった様に自衛隊?が仕掛けたトラップに引っかかって、たまにああやって爆発するの」


「は、早く助けに行かなければっ」

 そう朔がマスケットに弾を込め始めようとする。


「馬鹿言うな、一般人が出来る最高レベルの防御力のある装備のお前でアレだぞ?ただの服でまともに食らっていたら確実に死んでいる、無駄だ」


「無駄とまでは言わなけど厳しいよ、それに朔は今まともに身体を動かせないんだから......私のせいで」

 と最後だけ小声で言う。

 

 (こんな時でも赤の他人に優しい、流石騎士様。いや英雄ヒーロー様?)


「ああ......クソっ。漫画みたいに人助けは出来ないか............ただ取り敢えず、トラップは解除さえすればグレネードが数個手に入るからめちゃくちゃ有利になる。相手が銃持っていても吹っ飛ばせば関係無い」


「そんな器用な事を出来るのは朔だけだからね......」


「お前は剣道しか能が無いからなぁ」


「そう言う言い方はやめてやれよ......だって剣道ちゃんと強いし......実績あるし......」

 と庇う朔。そう話していると車が通る音がする、排気量が大きい車なのか閉めた窓越しから聞こえた、それが家の前で音が最高潮になると途端に止まってしまった。


「ま、まさか......これは自衛隊か警察............あ、あれだ近所で爆発したからきたんだ......」


「落ち着いてよ朔。私が爆発させちゃった時は来なかったでしょ」


「それは去り際だから聞こえてないだけだよ......家の前の爆発跡を見て停車したんだよ......」

 そう言いながら弾を込めたマスケットを持ち窓を覗く。最悪な事に自衛隊員が2人だけいた車に1人、家の前に歩いてくるのが1人。耳を澄ませた。


「な、何故トラップが起動しているのにドアが吹き飛んでいないのだ?ここの区域をする奴らしっかりやったのか?......隣の家だけ粉々だな、何かあるな。この家に人がまだいる......?」

 そう言いながらドアに何かをつけようとし始めた。


「しつこいしつこいしつこい!ゾンビ作品で人間と揉めるのがメインになるのは中盤以降だ、クソッタレ!それにあれはドアを爆発させる気だッ」

 そう言うと傷ついた身体に鞭を打ち急いで部屋に戻り1つの手榴弾だけを持って友人たちに言う。


「自衛隊員が無理やり家に入ってくる、交渉するか交戦しかない。俺の親に伝えろっ」

 そう言うとマチェーテを小谷に、電流が流れる木刀を橋本に、マスケットをブランに持たせ、死角に隠れていろと言うなり相手に聞こえる程に音を立てて階段を降りてドアの前に立つ。


「やめてください、こちらから開けるので無理矢理しないで頂きたい」

 もしここでドアを壊されると住めなくなる、だが先こうして話しかけると先制攻撃をされる可能性がある。所謂詰みという状況になってしまった。


「......こちらは自衛隊の者です、避難の......」


「どこの旅団や部隊の何方ですか?............それと私は武器を持っている、それに貴方達の嘘も味わった。本当の事を話して頂けますか?こちらからはただドアを開けるだけです、発砲しないでくださいよ」

 そう返答を待つがない為に続きを言いながらドアを開けるとこちらにハンドガンを構えた自衛官が1人だけ居た。


「手を上げろっ!お前にいう筋合いはない......この爆発で傷を負ったのはお前だな」

 と包帯グルグル男の朔に言う。


「あんたそれじゃあ本物の自衛官かもわからないじゃないですか。だから言ったじゃないですかもう嘘は味わったって......」

 そう言いながら手を上げるが腰に手榴弾を貼り付けている朔。それに死角には友人が録画しながら待機している。


「だから黙れと言っている。抵抗せずこちらに来い」


「ワクチンの被験者ですか?私健康体じゃないんで意味無いですよ。それにさっきの爆発音からしてウチだけじゃないんですね」


「っ......他の隊員の会話を盗み聞きでもしたのか、今はゾンビになる前に処理するか、被験者として連れて帰るのが1番なんだよ」

 自分が優位だと信じて疑わない自衛官は次第に口数が増えていく。


「それでも国民を守る自衛隊員か......」


「これからは優秀な者だけが生き残る、そこから日本を再建するのだ。礎となれる被験者達は名誉な事だ......だが自衛隊員の中でも反乱を起きたり、ゾンビ共にやられて数が減りつつある。だから、今はリクルートもしている。お前は無駄に勇敢だがボロ雑巾の様な姿で身長も低い、被験者にも使えないとなると............」

 雲行きが怪しくなったところで小谷が声を出して飛び出す。


「お、俺はどうですか!身長も筋肉も問題無いでしょう!連れて行ってください!」

 庇うのかと思いきや武器を捨てて仲間になりたいと言い始めた小谷に驚くが撮影したている橋本は黙って信じる事にした、これが何かの作戦だと。ブランも映画ではこれは何かしらの打開策の展開と思い隠れ続けた。


「ほぅ......こんな所に高身長で筋肉質な逸材が............訓練を積めば良い軍人になれる」


「自衛隊は一応軍じゃないんだろ?それより小谷何を考えてんだっ!!」


「黙れっ!役に立つと思ってこの家に来たがお前の治療やらで苦労させやがって......すみません、女を1人一緒に連れて行きたいのですが許して頂けませんか?」


「......そうだな、日本再建には子が必要だ。上官も許すだろう。何処にいる?」

 その声を聞いて橋本は携帯と銃を投げて飛び出す。


「ちょっとあんた!何言ってんのよ、私は行かないわよっ!!戻って来な......」


「チッ......思い上がんなよ。お前じゃない」


「え......?」


「お前の家は裕福だから飽きてきたが付き合い続けていたが、結婚もクソもない世界で一緒にいるのは疲れたんだよ。自衛官さん、本命の和田はちょっとここから離れた所なんですが......」

 そう話しながら小谷は外に出て自衛官の隣に行き話し始める。


「咲......!!?お、お前......ふざけるなよ............ふざけんなよっ!!!!!」

 朔は先程の電話相手だったと理解して涙目で叫ぶ。

 


「安心しろ、2度と会う気は無いがお前とは友人だとはまだ思っているさ、だからこの家は見逃してもらえますか?ダメなら撃っちゃっても良いんで!」


「随分と我儘だな......薄情なのか何なのか......まあ一軒の民間人如きでどうこうならない。行くぞ」

 そう言うと車の方に2人で行く、橋本は震えて涙を流し動けない。ブランは怒りのあまり立ち去る背中に向けてマスケットを撃とうとするが朔が奴らにバレない様に止めた。何故ならそれでも殺したく無い事もあるが車の自衛官が見ているからだ。そして車に乗り立ち去る姿をただ見送る事しか出来なかった。


「そ、そんなぁ......そんなァッッ!!」

 叫びながら壁を殴り拳が傷つく橋本、地面を叩きながら泣く姿にリビングに居た両親も絶句したが気遣って近寄らず朔に任せる事にした。


「......橋本............いてっ」

 そう呟くと朔も絶望しており怪我しているのを忘れて抱き抱えて自分の部屋に移動させようとするが痛みで自滅する。


「橋本さん......一旦朔の部屋に行きましょ......」

 そう言うと軽く持ち上げ連れて行き部屋に3人になる。


「何で......バカだから?私がバカだからダメなの?うぅ......私の人生めちゃくちゃぁ............別れようか少し考えていたけどさあ......」

 そう泣いている橋本に朔は隣に行き励ましている。ブランがトイレで部屋に出た時に甘えた様な声色で話しかけられる。


「ねえ......ツッキー......こっち向いて......」


「どうし......むぐっ!??ちょっ......待っ............落ち着いて......」

 いきなりディープキスをされホールドされて離れられないもがくが引き離せずブランが戻ってくる。


「え......?な、何しているの朔??慰めるって言ったって......それは............」

 ブランは驚きのあまり涙を溢し言うが橋本が言う。


「ツッキーは私が先に唾付けたのよっ!私で童貞捨てたんだから」

 と泣き吠え自慢げな顔をし、月城を抱きしめ己のモノにしようとする。


「何よそれ......私が初めての彼女って言ったじゃないっ!!」

 朔の方を向き泣き怒るブランに朔は言う。


「初彼女は本当だってっ!!だから......」


「そう、だから私と最初にして、その後も何度もセックスしたもんねぇ......?知ってる?ツッキーのブツは私を捨てた身長だけのクズよりすっごく大っきいし、超絶倫なの。でも知る訳無いもんねぇっ!!?出会って数日の穴に膜張った高校生ガキにはさぁっ!!!」


「この......野郎ッ!!朔は私のモンだぁっ!!!オナホアバズレ女は黙っていろッ!!」

 いつもの様な口調とはかけ離れたブランはさっき橋本を守った拳で橋本に襲いかかる。


「かかってこいよッ!イジメられてばかりのデクの棒が!」

 そう言うと改造木刀を手に取る橋本。


「ぶちのめしてやる、ジンガイのクソアマ」


「上等だッ!このジャップのクソチビがッ」

 そう言うが橋本は朔より身長が数センチ高い上に同じジャップなのである。

 

 普段のブランからは絶対に考えられないほど口も表情も悪い。橋本はまあ想像できる。

 

 そう言いながら目がガンギマリの2人は拳と木刀で殴り合いを始めようとする。だが朔はそれを許さず身を挺して間に挟まりブランの拳を腕に受け止め、橋本の電流流れる木刀を掴む。


「あばばばっ............痺れるし骨が軋む............頼む、やめてくれ......本当にやめて......俺が悪いんだ、俺が最低なのはわかるが......だけどもう仲間を失いたくない......」

 言う事が浅いル⚪︎ィみたいな事を言って号泣しながら直立している朔。朔の胸の包帯に血が滲み始める、それを見た2人は一気に冷静になり血の気が引き焦る。


「2人ともご、ごめんなさいっ......朔、ちょっとベッドに寝て動かないで............橋本さん手を貸してくださいっ」

 その手を振り払わず橋本は朔の傷が開いたところの包帯を取り始める。


「そうよね......私達バカね......ツッキー、ここの傷は実は藤原さんが縫合したの......こんなに身体を動かさせるなんて思わなくてパニックになると思って伝えなくて............ごめんなさい......」


「......俺は............俺はいい。クソ野郎のクソの提案を聞いてくれ......2人とも俺の女になってくれないか......ブランが良いなら............橋本を狂わせたのは俺のせいでもあるから......ダメなら何かしらで償わせて......」


「......橋本さんが良いならいいよ。優しいのは知ってる......それより藤原さんに貰った薬を取ってください」


「あ、ああ......ありがとう............最低な女を赦してくれて......」

 そう言いながら薬を渡す。


「ゲームだとこの選択肢恋人複数だとバッドエンドが多いんだけどな............本当に本当にごめんな、平等に愛して守るよ......日本が正常になったら重婚を合法にする為の活動するから............」

 クソバカな事を言う朔。


「良いから口も動かさない。............未奈、正直まだ少し怒っている自分がいるけどよろしくね。でも詳しい説明はしてね」

 そう言いながら朔に何かを傷口に塗り、朔に止血剤を飲ませる。


「......サーシャありがとう............」

 そう言いながら女同士で抱き合っているのを見て朔は思う。


(現実ってこんなに上手くいかないよな............こんなに非日常が続く中生き延びれているとこの世界の主人公の様な気がしてくる......なら約束含め守れると良いな)

 そう思いながら意識を失う。痛みや肉体精神共に疲労が限界であった。2人はそれに気づき声をかけるが目を覚まさなかった。


 翌日の11/14の午前11時に朔は2度目の気絶から目覚める。


「ふっ......ん?」

 目がまだちゃんと開かず起きようとするが動けない。


「んん......ああ、そうか......シングルで3人はキツいって......」

 横には2人がいたが寝ていた。藤原さんのアドバイスの下で応急処置をしていたからである。


「胸は......痛いが大丈夫......?でもこっちの傷膿んでるよな......まずいなぁ。あいつに......あいつは......もう居ない............」

 (あいつ......映画なら終盤に実は味方でしたって出てくるが......橋本の証言からして無理だな、かーらーのみたいな展開も無いだろう。あの目は冷たかった)

 薬を探しに行ってもらおうとした小谷はもう居ない。純粋に裏切られた、だが友人ではあると言われた事を思い出し朔は複雑な心境のあまり睡眠薬を飲み無理やり二度寝をするが1度何時に起きた事をメモに残してはおいた。1人減り食事などは予定より余るが心の傷は増えるばかり、だが薬や物質は減る一方で足りずそろそろゾンビに暴徒、クズ自衛官や警官が蔓延る街に旅立つ時期だ。

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ゾンビ作品の死に役みたいな俺はゾンビ作品の知識で生き残れますか? 月影光貴 @manjusaka

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