第15話
長峡仁衛は学校に行き、銀鏡小冬は勉学に励む。
昼食には長峡仁衛と銀鏡小冬の間に入る様に、贄波瑠璃が一緒に食事をしたりして、学校生活を楽しんだ。
「んっ…ふぁ…もう、放課後か」
授業中不覚にも眠ってしまった長峡仁衛。
即座に放課後となり、長峡仁衛は家に帰宅する際に送迎用の車を呼ぶ。
黒塗りの車が来て、長峡仁衛と銀鏡小冬は乗車する。
「…あ、そうだ。なあ辰喰」
「ん?」
その車中内にて、辰喰ロロに、今回も訓練場へと向かい、訓練がしたいと言う旨を伝える。
「あぁ…良いけど、迎えは無いぞ?」
辰喰ロロの言葉に、長峡仁衛は耳を疑う。
「え?迎えが無いのか?」
長峡仁衛は、そう辰喰ロロに聞いた。
彼女は頷いて、車を留めて続きを口にする。
「あぁ、今日はお嬢様と一緒にな、出掛けるんだ。だから、送りなら出来るんだけどな」
と、辰喰ロロは言って、長峡仁衛は唸る。
「そうか…いや、まあ、それなら仕方が無いか」
「まあ、あの近くにはコテージもあるし、泊まりたいのなら、荷物だけ持っていけば、明日の朝に、お前を回収出来るけど」
そう納得して、長峡仁衛は辰喰ロロに言った。
「分かった。じゃあ、コテージに泊まる事にするよ、朝の回収だけ頼む」
とそう言った。
辰喰ロロは頷いた。
「そうか、それで良いなら…あぁ、、霊庫に寄るか?」
辰喰ロロは、長峡仁衛に古い鍵を見せつける。
「あぁ、頼むよ」
そう言って長峡仁衛は帰宅して、即座に着替えて辰喰ロロと共に訓練場へと向かう。
その際に、銀鏡小冬も心配だからと一緒について来る事になった。
辰喰ロロが訓練場へと長峡仁衛と銀鏡小冬を連れて行った所で、其処で黄金ヶ丘クインは洋館で辰喰ロロを待つ。
「遅くなりました、お嬢様」
と、その様に辰喰ロロが言って黄金ヶ丘クインの元に向かう。
「長峡、訓練場で鍛錬をするみたいで、送っておきました」
「そう、ご苦労様…あの森林郊外の山奥の訓練場なら、安全でしょう」
黄金ヶ丘クインはそう言った。
あの訓練場は、黄金ヶ丘家が特製で作り上げた結界が存在する。
獣は無論、低級の畏霊が来ない様に結界が張られていた。
「出来れば、兄様が戻って来る前にカタがつくと良いのだけれど」
時計を確認する。
既に、夜中の21時頃だ。
長峡仁衛と銀鏡小冬は、コテージに泊まると言っている。
明日の6時か7時頃までに、
「ロロ、二手に別れて、
「了解です…お嬢様」
二人は、黄金ヶ丘邸から、二手に別れる。
そして、
長峡仁衛と銀鏡小冬は訓練場で早速特訓を開始する事にする。
木箱に封じられた畏霊を式神に喰わせようとしていた時だった。
「…?」
この、広い岩石の多い訓練場では、薄暗い場所でも訓練がしやすい様に外灯が設置されている。
なので、其処に立っている人間は、影がくっきり出来る程に、人の姿を認識する事が出来た。
「よう、お前」
長峡仁衛の前には、黒い渦の紋様を浮かべる長筒を握り締める男が一人。
その男を長峡仁衛が認識すると共に、筒から炎を放出させて、長峡仁衛に接近すると共に、彼の顔面を片手で掴んで引き摺ると共に、地面に叩き付ける。
「ちょいと二、三ほど質問してェんだけどよ。聞いても良いか?」
地面が割れる程の力強い一撃。
長峡仁衛は、神胤を放出して肉体を保護していた為に、その攻撃は大したダメージとはならない。
「…答えなかったら?」
「体で聞く」
男は笑う。
長峡仁衛は体を振り起すと共に拳を構える。
「聞く前に体で聞いてんじゃねぇよ!」
長峡仁衛が立ち上がり拳を構える。
「じんさんッ」
男は、その構えを確認すると共に、長筒を銀鏡小冬の方に投げる。
加勢に入ろうとした彼女の前に突き刺さる長筒。
其処から先は来るなと言う事だろうか。
「女が出しゃばんな。野暮だろうが」
「小冬、危ないから離れてろッ!!」
握り拳を固めて、男が長峡仁衛との殴り合いに興じる。
拳を前腕で払い、蹴りを交える。
長峡仁衛は蹴りを横腹で喰らうと足を掴んで引き寄せると共に拳を男の顔面に向ける。
引き寄せる事で体勢を崩す算段だが、男の体幹は地に根を張る樹木の様だ。
男は長峡仁衛の拳を寸での所で掴むと、もう片方の足を上げて神胤を放出。
強化した蹴りを長峡仁衛の首の方に向ける。
長峡仁衛も首筋辺りを神胤で強化して攻撃を受ける。
「がっ」
だが、攻撃を受けると共に長峡仁衛の体は吹き飛んだ。
上手く体勢を直して、長峡仁衛は臨核から術式を発動する。
「『
レザースーツの式神が出現されると共に、男に向けて炎を放出される。
技能『火炎放射』による全身を焼死させる技。
だが男は、悠々した様子で片手を出すと共に自らの神胤を放出する。
「『
炎に神胤が接触。
男は炎に飲み込まれる。
だが、その体は焼き尽くされる事なく、炎を支配して、燃え上がる炎が縮小していき…一振りの穂先が付いた槍と化す。
「(炎が武器になった?!炎を操る能力者か?!)」
「(式神遣いか、にしては体術が上手いな。手が痺れちまったぜ…ありゃあ『発勁』か?)」
長峡仁衛の拳を受け止めた手は震えていた。
発勁を受けたのだと感じた男は握り拳を作って痺れを無くす様に指の開閉を繰り返す。
長峡仁衛は即座に『火之輪車』を解く。
相手は炎を操る能力者である以上、炎の力を持つ『火之輪車』では相性が悪い。
最悪、炎の部分を操り式神の行動の制限、ないしは支配をされると考えた。
「あんた、何者だ?」
長峡仁衛は、突如として襲って来た男に対してそう質問をする。
急に話し掛けられた男は、槍を肩に背負って、指先で顎をなぞった。
「俺の名前か?
この世界の祓ヰ師にとっては重要な概念だった。
長峡仁衛は、答えるかどうか迷ったが、口を開き、彼の言葉に乗った。
「…長峡仁衛」
「そうか、そんでお前」
お前…名前を言ったのに苗字でも名前でも無くお前と言うのか。
長峡仁衛は変な所で引っ掛かりを見せる。
「
贋。
それを聞いた長峡仁衛は、首を傾げた。
「…なんだそれ?」
質問を質問で返す。
枝去木伐は、長峡仁衛の目をじっと見つめていた。
「…知らねぇのか。じゃあ、関係ねぇか」
と。
枝去木伐はそう言って次の質問をする。
「じゃあお前は、この土地の管理者は誰か知ってるか?」
その質問に、長峡仁衛は首を傾げる。
「誰って…クインだろ?黄金ヶ丘家がこの土地の所有者だ」
そう言った所で、男は残念そうな顔をした。
「んだよ。じゃあ、本当に贋を知らねぇんだな…そんで、お前は黄金ヶ丘家の関係者ってワケか」
随分とつまらなさそうに、枝去木伐は溜息を吐く。
「あーぁ…折角の上物だってのに、…こんな事ならやりあった後に聞けば良かったぜ」
そんな事を呟いて頭を掻く枝去木伐に、長峡仁衛は段々と声を荒げる。
「いきなり攻撃してきて…質問の意図も分からねぇ…お前一体何なんだよ!!」
「俺?あー…見りゃ分かるだろ?祓ヰ師だ」
確かに、不思議な術を使う。
であれば、確かに祓ヰ師である事に代わりは無い。
「まあ、黄金ヶ丘家の関係者ならお前に言っても良いか…まず、
それだけ伝えて枝去木伐はその場から離れようとする。
長峡仁衛に背を向けて、片手で手を振って帰ろうとしたが。
「おい待て…
「あぁ?だから、悪さを企んでいる奴が街に潜んでんだよ、俺は黄金ヶ丘家に挨拶しに行こうと思ったが…地殻変動でもしてんのか目的地に到着しねぇ、んで、今はこうして山に迷ってた」
枝去木伐は極度の方向音痴だった。
しかし、今はそんな事はどうでもいい。
「
長峡仁衛は、其処でようやく察するのだった。
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