第10話
ある術師では、その呪いを狙い、わざと肉体に禍いを齎し、呪いを飼う者『
次第に、夕暮れ時であった。
長峡仁衛は、隻眼となって自らの式神を確認する。
先程知った事ではあるが、調伏した畏霊は、顕現前の状態でも強化が可能であった。
長峡仁衛が望む事で式神を他の式神に食わせる…共食いが、式神を顕現させずとも可能であったのだ。
「(取り合えず…使えそうな式神だけを残して、後は強化の材料とするか…『こいつら』は強化に浸かっても旨味が無い低級の畏霊だから、偵察用として使うとするか…)」
全六十七体の内、その半分、三十体程が強化素材にもならない『人魂』と呼ばれる畏霊である。
主に人間が恐怖した…と言うよりも、驚いた事で生まれた畏霊であり、髑髏の様な顔に触れても熱く無い紫色の火が纏う畏霊であった。
これは長峡仁衛の近接戦闘や偵察用に使う事にして、残る三十七体の内、三体のみを長峡仁衛は残して全て強化に当てた。
一体は先程長峡仁衛が強化した『
もう二名は、珍しく古風な畏霊であった為に、そちらを優先して残したらしい。
「さて…帰るか」
長峡仁衛はそう言って、銀鏡小冬と辰喰ロロの方に顔を向ける。
「付き合ってくれてありがとう」
そう言うと、辰喰ロロは首を横に伸ばして、音を鳴らす。
「あぁ…まあ、お嬢様の命令だからな、気にする事は無い」
「母も同じです、しかしじんさん…申し上げにくいのですが」
そう言って銀鏡小冬が重々しい表情を浮かべる。
長峡仁衛は、彼女の表情を見て、喉を鳴らした。
「どうした?」
長峡仁衛が聞くと、彼女は申し訳なさそうな表情で、ゆっくりと口を開いた。
「…母は、じんさんの傍に居るあまり…じんさんのお食事を用意していませんでした…申し訳ありません、じんさん」
極度に落胆している銀鏡小冬。
彼女の生きがいは長峡仁衛のお世話である。
それが出来ない以上、彼女はこの世の全てに絶望するかの様に表情を曇らせるのだ。
車に乗って移動し、長峡仁衛は黄金ヶ丘邸へと戻った。
正門が開かれて乗用車を黄金ヶ丘邸の駐車場エリアに駐車すると、辰喰ロロは即座に車から出ていく。
「急がねぇと、お嬢様が腹を空かせてご機嫌ナナメだ」
そう言って裏口から黄金ヶ丘邸へと向かい、辰喰ロロの傍に、銀鏡小冬も共にする。
「じんさんの料理は母の役目です、厨房をお借りします」
銀鏡小冬は、辰喰ロロと共に裏口へ入り、厨房へと向かっていく。
一人、残された長峡仁衛は正面玄関から屋敷に入ろうとして、階段を登る。
扉のドアに手を掛けた時、彼が開ける前に、扉が開かれる。
「仁衛さん、お疲れ様です」
黄金ヶ丘クインが出迎えていた。
長峡仁衛は、素直に驚いている。
「もしかしてずっと玄関前で待機してたのか?」
「…いえ、違いますが」
黄金ヶ丘クインは否定する。
それならば、何故黄金ヶ丘クインはタイミング良く、扉を開ける事が出来たのか不思議でならない。
この洋館は、とにかく広い。
およそ、黄金ヶ丘クインの部屋から、車の音を聞きつけて降りて来るまでに、最低でも三分は掛かるだろう。
車を駐車場に待機させて、玄関から洋館に入るまで、此方の方が三分よりも早く玄関の扉を開ける事が出来る。
余程、急いで部屋から出なければ、長峡仁衛よりも扉を開ける事は難しいだろう。
それに、急いだとすれば、息切れなど、額に汗など、そう言った生体反応が目に見える筈なのだが、それは無かった。
なんとも不思議な事であり、長峡仁衛は、黄金ヶ丘クインに聞く。
「どうやって知ったんだ?」
その言葉に、黄金ヶ丘クインは言葉を詰まらせる。
答えるべきかどうか、悩んでいるらしい。
長峡仁衛は、黄金ヶ丘クインの迷いの表情を見て、即座に彼女から離れる。
「…まあ、言いたくないのなら、仕方が無いか、其処まで気にする事でも無いしな」
そう言って長峡仁衛は、黄金ヶ丘クインに頭を下げた。
「それよりも、畏霊を提供してくれてありがとう、おかげで、俺は強くなれた」
何とも律儀な事だった。
真正面から頭を下げられた事で、黄金ヶ丘クインは、答えるべきかどうかと言う迷いを一択に絞り込む。
「仁衛さんには、強くなって貰わないと此方が困ります、…それと、仁衛さんが祓ヰ師を黄金ヶ丘の家から目指すと言うのであれば、教えるべき事があります」
そう言って、黄金ヶ丘クインは長峡仁衛についてこいと手招きをする。
「何処に行くんだ?」
「黄金ヶ丘家の土地管理をお見せします、それが、仁衛さんの疑問を解消して下さるでしょう」
そう言われて、黄金ヶ丘クインの後ろを、長峡仁衛はついていった。
長峡仁衛が通されたのは、多くのモニターが壁一面に供えられた部屋だった。
「此処は黄金ヶ丘家が土地の所有管理を行う場所です。屋敷の周辺は無論、街の至る所に監視カメラが設置され、全ての映像が此処で管理されています」
「全て?…あぁ、そうか」
長峡仁衛は先程の黄金ヶ丘クインの言葉を思い出す。
彼女の言葉から察するに、黄金ヶ丘クインは、屋敷の周辺にも監視カメラを設置していると言っていた。
長峡仁衛たちがやって来たのを、監視カメラで確認していたのだろう。
だから、長峡仁衛が屋敷に戻ってく来る事を想定出来たのだ。
「この監視カメラは特別性です。畏霊が監視カメラに反映されると、私の方に情報が来ます」
そう言って、黄金ヶ丘クインは目を細める。
監視カメラの近くに置いてあるリモコンを使って番号を入力すると、割り振られた番号の監視カメラの映像が反映される。
「…なんだ、人魂ですね。墓地近くに漂っています。…まあ、この様に、害の無い畏霊も情報を察知してしまうので、基本的には私は情報共有はOFFにしています」
その様に説明を受ける。
長峡仁衛は黄金ヶ丘クインの方を向いて嬉々とした表情を浮かべていた。
「凄いなこれ…なあ、俺にも情報共有って可能か?出来たら、俺はそれをしたいんだけど」
「言わずとも、今後は、仁衛さんが畏霊の対処をお願いします。と言っても、『赫雨』以外は、滅多に畏霊が出現する事はありませんが」
とそう言った。
「それでも良いさ。俺の仕事、承ったよ、ありがとう」
感謝の言葉を口にして、長峡仁衛は嬉しそうにする。
畏霊を調伏して式神とする。そうすれば、長峡仁衛はより強固な術師として存在する事になるだろう。
「これから忙しくなるな」
長峡仁衛はモニタールームの方を見る。
そして、黄金ヶ丘クインは、長峡仁衛にあるモノを差し出した。
「仁衛さん、一応はこれを」
そう言って、長峡仁衛に手渡して来たものは、携帯端末だった。
それを受け取る長峡仁衛は、黄金ヶ丘クインに聞く。
「俺の携帯電話か?」
「はい、一応は監視カメラに映る畏霊をアラームで教えてくれる機能が備わっています。深夜に一回か二回は鳴ると思いますので、気を付けて下さい」
そう言って、黄金ヶ丘クインがリモコンを押す。
すると、小さなアラーム音が鳴る。
「この音が低級の畏霊の出現音です。こちらは無視しても良い程ですが…」
次に、耳に響く程の音が響く。
長峡仁衛は思わず耳を抑えたくなった。
「此方は中級、一般人に被害が出そうな畏霊が出た音です。これを聞いた場合は、必ず畏霊を祓って下さい」
そして、最後に、ボタンを押そうとして、止める。
「…最後のは、眠気も消え失せる程の音ですので、鳴らしません。こちらは、上位の畏霊の出現です…必ず、複数での討伐が前提となります」
黄金ヶ丘クインの説明は終わる。
「他に何か質問はありますか?」
長峡仁衛は首を左右に振った。
そして、長峡仁衛は、携帯端末を入手した。
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