第二話『青い実』
——ひぐらしの
あの儚い音を聞いたのは、確か、中学一年生の夏休みだったと思う。私はまだ、世の中の恐ろしさというものをつゆ知らず、虫取りや、川遊びをして遊び
はしゃぎ回って疲れた私は、ひと休みしようと、一人で広い畑にやって来た。
なぜ、畑なのかと言うと……
美味いトマトがあるのだ。
私は、汗をかいて干からびそうな体を潤すために、他人の畑にこっそり忍び込んでトマトを盗み食いするのを、毎日の楽しみにしている悪ガキだった。
農家のおっちゃんが近くにいないのを確認すると、私は、トマト畑に忍び込む。
トマトの木は、大きければ五尺くらいの高さにはなるので、中学一年生の私の体は、ちょうどすっぽり隠れる。
木の陰に身を潜めて、一番甘そうな、真っ赤に熟れたトマトを探す。
この木は青い実が多いな……
だが、こいつはまぁまぁ赤いぞ。
いやでも、やっぱりちょっとヘタの周りが青い。
もっといい個体はないだろうか……
あ、あそこにあるのがいいぞ! 赤一色だ。
私はその赤いやつに手を伸ばし、木の陰からちょろっとはみ出る。
「こぅらぁああああ!!!! お前かぁ! ウチのトマトを盜み食いしにきとるヤツはぁあああ!!!」
農家のおっちゃんの怒鳴り声。
ああ、見つかってしまった。
目当ての真っ赤なトマトには手が届きそうにない。よし、今日はさっきの青っぽいので我慢するか。
私は、目の前のヘタの周りが青いままのトマトを勢いよくもぎり取ると、家の方向へ、駆けた。
「おどれクソガキぃいいい!! 待てぇえええ!!!」
農家のおっちゃんは、威勢よく叫びながら私を追いかけるのだが、あまり走りは速くないので、すぐに距離は開いた。
私は走りながら、盗んだトマトに、むしゃり、と
悪くないが……
まだ青いな。
でも、そこそこ美味いのは確かであるし、何よりこの夏の太陽の下で、溢れんばかりのみずみずしさのトマトに、我を忘れそうになりながらしゃぶりつくのは、最高の贅沢だ。そして最後の一口を飲み込むと、私は、吸血鬼が人の生き血を
私の夏休みは、いつも、こうだった。
〈第三話『赤い紙』に続く〉
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