青いトマト、赤いトマト
加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】
第一話『十五年戦争』
——ノイズ混じりのラジオからの、やけに早口な男性の声。
「昨晚午後一〇時二〇分ごろ、中華民國東北部、滿州は
家にラジオを持たない庶民たちが、ニュースを聞きに、電気屋の狭い店内にごった返している。
「おいおい、關東軍は中華民國との戰爭を望んでいる、ということか? そうなれば、國際連盟がしゃしゃり出てくるのは避けられない。歐米諸國との關係も
どこかの親父が、もっともらしい憶測を語った。
「先の恐慌で日本はずいぶん疲弊したからなぁ。この流れで大陸を日本のものにできれば……經濟不況から脫出できるやもしれん!」
隣の爺さんが、夢物語を語った。
「ねぇ、おかあさん。にほん、せんそう?」
私は母に、無邪気にそう尋ねた。
「
すると、電気屋のおじさんがいち早く反応した。
「うーん、
電気屋のおじさんは、
「そうですか……ありがとうございます」
母は、少し俯く。
「えっと奧さん……どうかしました? あ、そうか、千志郞のやつが行ったのは……」
「……はい、そうなんです。千志郞さん、大丈夫かしら……」
母の、夫を……私の父を……
私は母の様子と、そこで聞こえてきた様々な声を判断材料に、子供ながらに、父の身に危険が迫っているのかもしれない、と感じ取った。
そして間も無く、我が父千志郎は大陸戦線にて、死亡した。
ちなみに父の遺骨は、青木家に、返ってこなかった。
〈第二話『青い実』に続く〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます