Episode:0 ビギニングが迷走 part.2

「言ってもうた……でもって見栄張ってもうたァッー!」

「あぁ〜、そりゃぁやっちまったねぇ〜。んで、何を?」

 いきなり感情を示すだけのワードを吐き出す野郎と、テキトーに返しつつ一応は話を聞こうとする野郎。此処は郊外のショッピングモール内、ゲームセンターの喫茶コーナー。人口と比較して娯楽は然程でもないこの付近の、数少ないアミューズメント施設のひとつ。

 新たなメンバーを見つけてやると息巻いたはいいが、時間経過と共にやっぱダメかもという気持ちが湧き上がった眞北の言葉をうんうんと聞いて聞き流している長身の男子は、MW高校一年一組の喬松慧希(たかまつ としき)。勉強も運動も卒なくこなす器用な男だが、学習態度はお世辞にも良くはない。三組の眞北とは合同の体育の授業で知り合い、その他にも本屋やホビーショップ等でやたらとエンカウントし続けた結果、いつの間にかこうして個人的に遊びに行く仲になった。音楽の趣味も奇跡的に通じる部分がある。


「やっぱアレかタカよぉ? 俺様達って特殊な趣味なんか? 懐メロの一種が好きってだけでよぉ? だいたい地味なんだよ最近の流行りはよぉ! あ、いや最近でも良いモンは良いとは思ってるけど?」

「まーまー、仕方ねぇわなマキちゃんよぉ。此処が真実だ、ってヤツだ」

 この喬松という男が帰宅部であったなら、眞北は真っ先に声をかけていた。しかし彼は、数年前に新設され、現在勢いをつけているという社交ダンス部所属。一見、男女混合の浮かれた青春の見本ともいうべき部活動だが、実態はガチガチの体育部。練習は厳しく、とてもではないが掛け持ちなどできるワケがない。

 眞北もそのことは十分に分かっていたし、喬松は喬松自身の幸せを大事にして欲しいとも、感情レベルで思っていたのだが――――


「......ときにマキちゃん。やらんでもねーぜ、バンド」

「マジかありがとう!」

「反応早ェなおい。断言してねーってのに」

「へっ、興味あるって顔してんぜおめー」

――――アニメであれば二十分以上は時間をかけて行われる勧誘は、リアルタイムにして僅かその四分の一で、一応は成功した。

「ちなみに楽器は何やりてぇのよ?」

「あー、空いてるならドラム」

「マジでかよ!?」

 しかも、希望パートはドラムと、眞北にとっては展開が出来すぎていて喜びよりも恐怖を覚えるレベル。しかして此処が真実だ。喬松曰く、ドラムセットは無理だが、練習台なら貯金していた小遣いで何とかなりそうだというし、リズム感には自信があるから自分はドラム向きだろうとも笑った。あと、好きなミュージシャンはシンヤだとも断言した。LUNA SEAとしてもDIR EN GREYとしても。


 しかして勿論、喬松には現役の体育部員という立場もある。それが分からない眞北ではないし、当然色々と心配もする。

「だがよぉタカ、掛け持ちとか大丈夫か? 結構練習ハードって聞くしよ」

「まー何とかなるっしょ。ヤバくなったらそんときゃそん時だ。そん時が来たら悪く思うなよ。ま、ちゃんと筋は通すからよー」

 そんな眞北のごく普通の心配は、喬松のテキトーな言い回しにより、曖昧にされた。掛け持ちしていないからといって常にバンド活動が出来るとは限らないし、俺もお前もあの娘も突然のっぴきならない個人の事情が出てくるかもしれない、そんな感じのトークに納得させられる結果になった。

 一方で眞北はこうも思っていた。少なくともバンド活動を前向きに考えてくれる以上、この友のことを信用し、メンバーとして認めることは、間違いではなさそうだ、とも。


 ちなみに。男女混合になるかもしれないということで、自分達が所謂……リアルが充実している人間達に当て嵌まることには、やはり浮かれてはしまう。だが。

「んで、マキちゃんが話しかけてきた子ってどんな子たちよ?」

「あー、正義感は強ぇ。しっかりしてる。たぶん京さん並に本質的にマトモ。でもって敵に回したくはねぇ」

「ほーう。で、彼氏とかいんの? あ、別に狙ってるとかじゃぁなくて、周囲の人間関係が良好かな、ってイミで」

「なるほどねぇ。……浮いた話は全ッ然聞かねぇな。アイツら大抵2人でいるし、あんまりヤローと話したりするとこは見たことねぇ、俺様の知る限りでは」

「ははっ、そりゃいいや。まともなひとたちなら安心かも。何つーか、男女問題って深入りしたら色々面倒だって分かったし」

「あー、分かるわそれ。流石は朋友」

 意外にも、女子達についての話はその程度で終わった。この2人、年齢的に所持が認められない、所謂えっちなゲーム等の話はするものの、実際の女性に対する下世話な話は、是としていないのだ。そして、何故そうなったかの理由を互いに知っているくらいには、2人の結束は固かった。

 さて、探し出すべきはあと1人。喬松と共にバンドサウンドの骨格を形成するベースパート。最難関に近いドラムよりは人口は多いとはいえ、次なる奇跡は起こせるというのだろうか。

「ふっふっふ。たった今思いついた作戦だけどよ……私にいい考えがある」

「……大丈夫かそれ?」

 悪役然としたドヤ顔で嗤いながら、今後のプランを朗々と述べる眞北に、喬松は戸惑いの表情を見せる。最初のどうしようといった表情は何だったのか。とりあえずドラムは見つかったからか。或いは有力だと信じてやまない作戦を思い付いて舞い上がっているからか。もしかしてこのマキちゃん、実は結構情緒不安定なのではないか。


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