第7話:マホロ、お助けクラブに入る!
「(ど、どど、どうしてマオくんは、キセキのカケラが見えたわけ!?)」
ハルカとマオくんの三人で帰りながら、私の心の中はそんな質問ばかりが飛び交っている。
も、もしかしてマオくんもまほうつかい……とか?
いやいや、そんなことない。
ハルカと幼なじみだって言っていたし、マオくんからまほうの力は感じられない。
今まで一度もまほうに触れたことのない人間界の人には、『まほう』を目で見ることはできないと言われている。
たとえば、まほうの糸でコップを動かしたとき、コップが動く様子は分かっても、コップを引っ張っているまほうの糸は目に映らないんだって、まほうアカデミーで教わった。
だから、人間界でまほうを使うことが禁止されている。
人間界の人を驚かせてしまって、混乱を招いてしまってはいけないから、というのが理由だそうだ。
他にも、まほうがつかえない人にとって、まほうというものは少なからず体に影響を与えてしまうのだとか。
だからもちろん、まほうの結晶であるキセキのカケラが、マオくんに見えるはずがないのに。
それなのに、なんでマオくんには見えちゃってるのよ!
「あぁ!もう、ワケ分かんない!」
「マホロちゃん、どうしたの?大丈夫?」
「あ、な、なんでもない!」
急に大きな声を出してしまったせいで、心配そうにこちらを見るハルカ。
そのとなりで、マオくんはただ前を向いて歩いている。
「(……こうなったら、仕方ない)」
マオくんが何者なのか、どうしてまほうつかいにしか見えないはずのモノが見えるのか、その原因を私が突き止めてやる。
「(まずはマオくんのこと、調べなくちゃ!)」
オレンジ色の空に向かって、私はグッと腕を突き上げた。
「マホロちゃん、わたしとマオの家はこのマンションなの。マホロちゃんのおうちはもっと向こうのほう?」
「うわ、大きな建物!これがマンションっていうのね。私とおばあちゃんの家は、あのスーパーの裏側のほう!意外と近かったんだね!」
「マホロちゃんと家が近いの、嬉しい!そういえば、マホロちゃんのおばあちゃんは花屋さんなんだよね?また今度、その……お花を買いに行ってもいいかな?」
「もちろんよ!ハルカには特別に、私がきれいな包装紙とラッピングでお花を包んであげるわ!」
「わぁ、ありがとう!楽しみにしてるね!」
「じゃあ、また明日!」
そう言って、ハルカとマオくんに手を振ってお別れをする。
ハルカは何度も「また明日ね!」と「明日も遊ぼうね!」を繰り返した。
そして、マオくんは──。
「……マホロ、また明日ね」
こちらをチラリと見て、少しだけ微笑んでマンションというおうちに入って行った。
「(な、なに今の笑顔!怪しすぎる……!)」
マオくんが何者なのか、正体を暴いてみせるんだから!
***
「──ねぇねぇ、今日のお昼休みは何する?」
「そうだ、図書館行ってみない?」
「えー!あたしはパソコンルームに行きたぁい!」
「マホロちゃんは?今日なにして遊びたい?」
四時間目の授業が終わって、給食の時間。
同じクラスのアスカやナズナたちと一緒に、机を向かい合わせにして給食をモリモリ食べていく。
おばあちゃんが人間界の食べ物はおいしいって言っていたけど、それって本当だったみたい。
まっしろでツヤツヤのごはんに、お野菜たっぷりのおみそ汁。サックサクの唐揚げと、マカロニサラダ!
しかも、今日はデザートにフルーツポンチまでついてるの!
私はこの給食の時間が楽しみでたまらない。
「あ、今日は二組のハルカと遊ぶ約束なの!だから私と遊ぶのはまた今度ね!」
「えぇ!?マホロちゃんってば、もう他のクラスの子とも友達になったの!?」
「マホロちゃんはウチらの友達なのに〜」
「でも、二組のハルカちゃんって確か……」
ナズナのその言葉に、アスカやユリがなにかを思い出したかのように顔を合わせて、ハルカのことを言いはじめた。
「マオくんの彼女って言われてる子、だった……よね?」
「そうそう。いつも二人で一緒に帰ってるってウワサになってた!」
「みんなもハルカのこと知ってるの!?」
「まぁ、知ってるっていうか……?」
「いつもマオくんを独り占めしてるとか、友達がいないとか、そんなウワサは聞いたことあるかも」
「実際に会話はしたことないから分かんないなぁ」
「……」
なーんだ。みんな、全然ハルカのことを知らないじゃない。
ハルカとマオくんは、同じマンションに住んでいる幼なじみだし、一緒に帰っているのは、一人で帰るのが危ないから。
それに、ハルカに友達がいないっていうのも間違いだ。
「ハルカは友達いるよ?なんたって、この私がハルカの一番目の友達だからね!」
あーあ、なんだか嫌な空気になっちゃった。
せっかくの給食のおいしさが半減しちゃったじゃない。
『マホロちゃんって、本当イジワルだよね』
『いつも自慢ばっかりしちゃってさぁ?』
『自分が一番って思わなくちゃ嫌なんだよ。かわいそう〜!』
「……っ」
ほら、またまほうアカデミーにいたときの嫌なことを思い出しちゃったじゃない。
蘇ってきた最悪な記憶を、最後にとっておいたデザートを口の中に放りこんで忘れることにした。
あまいシロップとフルーツの味が、口の中いっぱいに広がっていく。
「うん、おいしい!」
お昼休みになったら、一番にハルカの元へ行こう。
そう思いながら、私はさらにスプーンいっぱいにフルーツポンチをすくいあげた。
***
「ハルカー!遊びにきたよ!」
「……マホロちゃん!」
四年二組の教室に行くと、みんなから視線を向けられる。
『あれ、転校生のマホロちゃんじゃない?』
『一組の人気者って聞いたよ?』
『運動も勉強もできちゃう天才なんだって。羨ましい〜』
二組の人たちがヒソヒソ言っている声を聞いて、少し前までのモヤモヤした気分が一気に晴れた。
「(なんでもできる天才、だって!ま、間違ってないけどねぇ〜!)」
「マホロちゃんが本当に来てくれると思わなかったよ!」
「今日も遊ぶって約束したじゃない。私、約束は守る良いまほうつか……じゃない、良い人だもんね」
「でもごめんね、マホロちゃん。わたし、お助けクラブの仕事が入っちゃって……」
「えぇ!?お助けクラブの仕事ってなに!?」
ハルカはシュンと俯きながら、申し訳なさそうに私の顔を見た。
お助けクラブって、確かハルカのほかに部員は六年生の先輩が一人しかいないって言っていたような。
アスカやナズナたちが所属しているお料理クラブや体育クラブは、何十人も部員がいるっていうのに。
「えっとね?お助けクラブは、みんなの困りごとをお助けするクラブでね?職員室の前に『お助けボックス』っていう箱を設置していて、困っている人はこの箱に依頼の内容を書いて入れてくれるの」
「それを見て、ハルカが“お助け”してあげるってこと?」
「うん!今日の依頼は、音楽の先生からの依頼だったよ。一緒に楽器の清掃を手伝ってほしいって」
「やだ、なにそれ!ただの雑用じゃない!」
変なクラブ!だから人気がないのよ!
でも、このままハルカとお別れしても、ナズナやユリたちはみんなでパソコンルームに行っているし、私は特にすることがなくなってしまう。
「仕方ない。私も手伝ってあげるかぁ」
「ほ、本当に!?でも、マホロちゃんはお助けクラブの部員じゃないのに、いいの?」
「特にすることもないしね。ほら、音楽室行くよ!」
「ありがとう、マホロちゃん!」
ピョンッと飛び跳ねながら、ハルカは嬉しそうに私のとなりを歩く。
今日も耳の位置で二つくくりをしているハルカのおしゃれな髪が、ふわっと宙に浮いた。
***
「──よし!これで全部きれいになったわね!」
「ハルカちゃんとマホロちゃん、二人ともありがとう。先生、とっても助かりました」
お昼休み。
今日は月に一度の楽器掃除の日だったらしい。
音楽の石橋先生は、午後から会議があって掃除ができなくなるから、お助けクラブに依頼をして手伝ってもらったのだと言っていた。
──カランッ。
「え?」
きれいにした楽器たちを元の位置に戻していたとき、石橋先生の近くからキセキのカケラの音がした。
ハルカや先生に気付かれないように、そっとあたりを見渡すと、石橋先生が立っているうしろにキセキのカケラが転がっている。
「(もしかして、このお手伝いをしたから……キセキのカケラが?)」
お助けクラブだなんて、ただの雑用クラブだとばかり思っていたけど、こんなふうに感謝されて、キセキのカケラまで出てくるなんて。
……ってことは、私がお助けクラブに入って、みんなの困りごとをお手伝いしてあげれば、今よりもっともっとキセキのカケラが手に入るんじゃない?
「……ハルカ!私、決めた。私もお助けクラブに入る!」
「えぇ!?」
やっぱり私って天才ね!
こんないいことを思いつくなんて!
「でもマホロちゃん。お助けクラブって、お料理クラブや体育クラブみたいに人気じゃないし、楽しいことばかりじゃないかもしれないけど……」
「いいの!私は絶対にお助けクラブの部員になるんだから!」
そうと決まれば、さっそく担任の小林先生に言いに行かなくちゃ。
音楽室を出て、急いで職員室に向かう。
「失礼します!小林先生はいますか!?」
「あら、マホロちゃんどうしたの?」
「小林先生、クラブ活動決めました!……私、お助けクラブに入ります!」
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