第20話 舞台演出
「落ちこぼれマサユキの純愛ストーリーって話だけど、あいつ今までも設定投げだして殺したりレイプしたりしてるだろ。苛め役なんて真っ先に殺されちゃうよ。」
「たぶんそれは忖度が過ぎてリアリティがなかったからだと思う。あいつの部屋には相当数の恋愛ゲーやギャルゲーがあった。没入感を求めているのに、キャストが大根役者だったからだ。キャストはエルフの隠れ里の皆様に死を覚悟してやっていただく。演出は俺が叩き込む。」
田中がとても頼もしく見える。レベルも上がったのだろうか?持つべきものはオタ友だね。
「魔法が使えない設定はマサユキ自ら望んだものだけど、やっぱり勇者に憧れているんだな。『魔法世界なのに剣で無双する』っていうベタベタな脚本を頼むよ。しかし、あいつの無限の魔力どうすんの?」
「抗魔石の指輪と首輪をつけまくるよ。これは嘘をつく必要はなくて、そういう設定だからね。あと、指輪を外して能力解放!的な厨二的な演出も入れないとね。」
俺と田中、そしてエルフの長老の協力を得て、ついに脚本が完成した。ほぼ田中がアイデアを出し、書き上げたものだ。俺はこの脚本が完璧なものだと感じたが、長老も宰相のトマスも、内容についてはまるっきり理解できないようであった。やはり俺らの世界とこの世界では感情や感性が微妙にずれているようだ。そのずれが大きな歪みになり、演技に出てしまうとぶち壊しだ。田中の台本はより詳細に、ニュアンスがよりこちらの世界の人間にわかりやすく書かれた。田中の苦労は測り知れない。しかし、脚本を書いている田中の目は輝きに満ちていた。介護職員よりも、物書きやクリエイターの方が向いているのかもしれない。
脚本の次は演技指導だ。これも骨が折れた。リハーサルを何度も繰り返し、自然な演技ができるようアクターへしつこく指導した。
「はい、やりなおしです。ここの『間』が大事なんです。本番だったら間違いなく死刑です。」
何度も「死刑」という言葉を使うことによって、アクターたちに危機意識、当事者意識が短期間で醸成された。その結果、鬼気迫る演技は、田中はもとより俺すら魅了された。全てが完成したとき、田中からアクターたちに訓示があった。
「皆さん、今まで本当にありがとう。これなら必ず行けます。自信を持って演技してください。ただし、私たちは当日には現場に行けません。マサユキの魔力探知網に引っかかってしまうからです。そこから、『気が散った』だの『やる気が無くなった』など些細な難癖をつけられることを避けるためです。また、『真実の愛』を錯覚させるためには、私たちが脅してやらせているなど、詮索させる要素を減らさなければなりません。ですが、私たちはいつもあなた方の心の中にいます。あなた方がやり切った後は、私たちの仕事です。必ず世界を救って見せます。一丸となってやり切りましょう!」
田中の演説は皆の心を打った。俺も自然に涙が頬を伝っていた。やる。やり切らなければならない。俺の意志も確固たるものに変わった。
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