第19話 茶番劇
「おい、無能者。お前、また魔法の単位取れなかったんだってな。いい加減、学園を辞めちまえ!」
「ちょっとあんた達。マサユキ君に何してるの!?」
「やっべ、委員長だ。バーカ、バーカ!」
「マサユキ君大丈夫?あんなやつらのこと、気にしなくていいんだからね。」
彼女はそう言ってハンカチを渡してくれた。彼女の名はルカ。幼馴染のエルフ族だ。昔から魔法に秀でており、俺たちの学年委員長をやっている。小さいときからずっと一緒にいたからか、落ちこぼれの俺にも気をかけてくれる。
「ありがとう、ルカ。いつも悪いね。」
俺は遠慮がちに応えた。
ルカといつも一緒に育ち、大魔法使いの爺ちゃんから修業をつけられたのに、才能を開花させたのはルカだけだった。俺は初級魔法すら使えない。教室の自席に座ってボーっとしていたら、女子たちの声が聞こえた。
「ねえルカ、ルカってマサユキ君と付き合っているの!?」
「バ、バカ!そんなんじゃないんだから!そんなんじゃ・・・」
確かに優等生のルカと劣等生の俺とは釣り合わない。ただの幼馴染以上の関係は高望みしすぎだろう。そんなことを考えていたら教師のダニエルが教室に入ってきた。
「これから魔法実技試験を行う。魔法教練場に向かうように。」
実技か。俺の最も苦手な教科だ。憂鬱な気分で教練場に向かった。
「火の女神よ、その力で万物を焼き尽くせ!ファイアボール!」
「大地の聖霊よ、その豊穣なる大地の力で敵を打ち砕け!アースアタック!」
同級生たちは次々と詠唱を唱え、的に魔法を当てていく。・・次は俺の番だ。
「水の聖霊よ、出でよ。万物の根源を宿し我に力を与えたまえ。ウォータースラッシュ!」
2mほど、細い水しぶきが出た程度であった。
「ププ、鼻水かよ。」
「あいつ魔法が使えないから唾でも飛ばしたんじゃないのか?」
「マサユキ、相変わらずだな。これじゃ単位は認められないぞ。」
俺は下を向きながら教室へ帰らざるを得なかった。
「マサユキ君、知ってる?ダンジョンで魔物討伐すれば魔法の単位がもらえるらしいよ!先生に確認してきた!」
ルカが嬉々として話しかけてきた。
「ダンジョン?俺、魔物なんて倒したことないよ。それに魔法も使えないし。」
「大丈夫だよ!マサユキ君剣術得意でしょ。それに私も援護するし。」
「一緒に来てくれるの!?それは参ったな。。でもありがとう!」
ルカの思いやりに心から感謝した。向かうダンジョンはCランクの初心者向けダンジョンだ。ミッションとしてはゴブリン5体の耳を取ってくる、ということらしい。ここは魔法学園だから、魔法を使っての討伐が前提なのだろうが、特段魔法縛りもない。これだったら俺でも行けるだろう。あと、なんたって大好きなルカと一緒に冒険ができる。まるで子供の頃に戻ったみたいだ。俺は懐かしく思い、とてもワクワクした。
ダンジョン探索日は次の休日になった。これは単位は取得できるが、学園の授業外で行わなければならない。学園前でルカと待ち合わせをしたが、ルカは思いのほか軽装だった。ただ、大魔法使いの爺ちゃんの形見の杖は大事そうに抱えていた。一方俺はできる限りの重装備だ。ゴブリンといえども初めての魔物討伐は怖い。革の防具一式で身を包み、剣はできる限り良いものを取り寄せた。
「準備は万端だね。じゃあレッツゴー!」
俺とルカは乗合馬車を乗り継ぎ、ダンジョン近くまでやってきた。ルカも魔物が出るダンジョンは初めてのはずだ。怖くはないのだろうか。
「ルカは、その、なんかいつもと変わらないね。」
「うん!こんなにいい天気だし。探検もワクワクするよね!」
相変わらず明るく可愛いらしい。彼女の元気にあてられて俺の不安もどこかへ行ってしまい、ルカと一緒に探検できる幸せをかみしめた。
ダンジョンは洞穴型だった。階層も3階層しかなく、まさに初心者向けのものであった。1層はスライムなどの超低級モンスター、2層からゴブリンが登場する。ダンジョンマスターはゴブリンロードで、そこまで強くないという噂だ。とはいえ、俺たちで倒すのは難しいだろう。ルカと楽しみながらゴブリンの耳を持ち帰れればそれで良い。そんなことを考えていたら早速モンスターが現れた。スライムだ。
「ルカ、ここは俺に任せろ!」
俺は剣を振りかざしスライムに突撃した。が、足元にいたもう一匹のスライムを踏みつけてしまい、盛大にコケてしまった。コケた勢いで剣が最初のスライムにクリティカルヒットし、スライムは溶けていった。
「ははは、ダメだな俺は。」
「そんなことないよ!一度に2匹のスライムを倒すなんて!私なんか魔法の詠唱する時間もなかったよ。」
「そんなこと言ってくれるの、ルカだけだよ。」
お互い笑いあった。心の底から楽しかった。そのまま2階層目に進み、協力しながら無事ゴブリン討伐。ノルマの数の耳を回収することができた。
「ルカのおかげでノルマ達成できたよ。これで単位は何とかなった。ありがとう!」
「えへへ。マサユキ君と進級できるね!」
そんな他愛のない会話をしていたら、背後から禍々しい殺気が現れた。
「あ、危ない!」
俺は咄嗟にルカに抱き着き、飛んだ。と、同時に巨大なこん棒が元居た場所に振り下ろされた。
「ズズン。」
巨大な打撃音に加え、周囲に土埃が舞った。土埃の隙間から巨大な体躯が垣間見れる。
「ゴブリンキングだわ!なぜこんな初級洞窟に!」
ルカが叫んだ。
「きっと魔王復活の影響で空気中の魔素濃度が上がって、ダンジョンマスターが進化したんだわ。早く逃げて街へ知らせないと!」
しかし、その瞬間、振り下ろされたこん棒によって出口が瓦礫でふさがれてしまった。
「もうダメ!ここで死ぬんだわ!」
ルカが叫び声をあげた。俺は剣を両手持ちにし、ゴブリンキングと対峙する。刹那、200kgはあるであろうこん棒の薙ぎ払い攻撃で身体にもろに風圧を受けた。ルカは?俺が風圧を耐えたおかげで飛ばされることもなかったが、気を失っているようだ。俺はゴブリンキングに打ち込みを続けつつ、ルカからゴブリンキングを引き離した。次はゴブリンキングの棍棒振り下ろしだ。パリィしたものの、手の痺れがひどい。しかし俺は冷静だった。切り札があるからだ。俺はおもむろに左手の薬指の指輪を外した。その瞬間、力が全身に漲るのを感じた。
「雷鳴の咆哮よ、天を裂き、地を揺るがせ!我が手に宿りし雷神の力、今ここに解き放たれよ!雷撃ギガバースト!」
「ぐええぇぇ」
「・・・ここは?」
「ルカ、気がついた?大丈夫?」
「マサユキが倒したの?」
「ああ、なんとか倒すことができた。」
それを聞いた途端、ルカは安堵の息をつくと、抑えきれない感情が溢れ出し、静かに涙を流し始めた。
「ほんとにマサユキがいてくれてよかった。ほんとうにありがとう。」
彼女は安堵の中、静かに涙を流し続けた。その涙は、俺の胸に寄り添いながら、永遠に続くかのように感じられた。時間が経つにつれ、彼女の涙は次第に収まり、彼女の瞳が俺の目を見つめる。言葉は必要なかった。俺たちの心は一つになり、自然と顔が近づいていく。そして、優しく唇が触れ合い、世界が静寂に包まれた。
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