第17話 エルフの隠れ里
俺と田中はリーセ王国の北側山岳地帯にあるエルフの隠れ里へ向かうこととした。各エルフの村々はすでにマサユキの手下によって焼き尽くされていたが、リーセ王国の辺境にある隠れ里は手つかずだった。この情報はあくまで俺が一夜を共にしたエルフから聞いた伝承、すなわち噂レベルの話であったが、ほぼエルフの村々が焼き尽くされている以上、その噂にすがるしかなかった。転移魔方陣でリーセ王国に戻った俺たちはマタイを訪ね、噂の裏取りをした。
「お前ら生きて帰れたのか。良かったな。まさか追われているわけじゃないよな。」
「逆だよ。マサユキの信頼を得ることができた。次の作戦のためにエルフの隠れ里に行きたいのだが、マタイリーダーは知っているか?」
「北部山岳地帯にあるって聞いたことはあるが、確証はない。王宮の図書館に地図やガイドがあるかもしれない。」
「あー、転移魔法陣探しの時に本が散乱してたな~。あの中から探すのは骨が折れるな。」
「お前サーチング持ってるじゃろ。それ応用できないのか。」
その発想はなかった。久しぶりにサーチングを起動した。なぜか知らんが俺のレベルが1上がっており、サーチングもレベル2と表示されていた。早速使ってみたら人間だけでなく物体も鑑定できるようだ。対象範囲に吹き出しがポンポンポンと現れ、物質名が表示される。さらに求めているものを念じるとどの方角に目的物があるか表示された。これは便利だ。ただ、「エルフの隠れ里」と念じても方向が示されることはなかった。世の中そんなに甘くはない。
「リーダー、これなら何とか探せそうだよ。ありがとうございます。ついでにリーダーのチンポ見せてもらえないですか?」
「お前何言ってんだよ。気持ち悪いの。嫌じゃよ。」
俺と田中は王城跡地に向かった。「エルフ」「隠れ里」「地図」などのワードで検索し、ピンの立ったところを掘り起こした。掘り起こした10冊の本を二人で手分けして読解した結果、やはり噂は事実に限りなく近いということが分かった。「レムルスの北方探検記」という本によると、山岳地帯の中央部は魔法結界の霧に覆われおり、そこに住むハイエルフは人間の心を読み、邪な心だと霧を通り抜けて隠れ里にたどり着くことができないらしい。それは純真な田中がいるから大丈夫だと思うが、問題は距離だ。山岳地帯まで歩いて行くと1か月は優に超えてしまう。やはり転移魔方陣を使うしかないだろう。
「都合よくエルフの里までの転移魔方陣があるといいんだけどなあ。」
そんなボヤキをしていたら田中が本から目を離し、こちらを向いた。
「それもサーチングで探せばいいじゃん。少なくとも、この中に転移魔方陣関係の本もあると思うよ。」
俺たちはリーセ王国とカケル王国をつなぐ転移魔方陣まで来た。「転移魔方陣取扱説明書」なる本を見つけて、設定をいじれば他の転移魔方陣までつながるそうだ。運がいいことにエルフの隠れ里にほど近い場所にある祠とつなぐ魔法陣もあるようだ。
「で、ここにある魔法石を行きたい場所に対応する穴に移し替える、と。」
時間もない。早速俺たちは転移魔方陣に入った。
転移先の祠は森の奥深くにあった。日も当たらない。少し肌寒い。もう少し厚着をしてくればよかったと後悔した。ここから少し北に向かえばエルフの隠れ里につく。2時間ほどといったところだろうか。最初は肌寒かったが、歩き始めて30分も経つと暑くて死にそうになった。今回の転生では前世の洋服はそのままで行動している。靴がこの世界のものではなく、スニーカーそのままであることに本当に感謝した。
息も絶え絶えになってきたところ、周辺が霧に包まれてきた。ここから先が隠れ里だ。試しに霧の中に入ってみる。しばらく霧の中を歩いていたら霧が晴れた場所にたどり着いた。
「え、元の場所にもどってない?」
田中に指摘された。確かにそうだ。霧がかかりだした場所に戻されていた。無限ループに突入してしまったらしい。
「やばいな。攻略法がわからん。『レムルス記』に何か書いていないか?」
「『心が純真な者』としか書かれていないよ。やっぱり、『ロリババア探し』なんて、純真さのカケラもないよ。」
田中の言うことももっともだ。
「じゃあ、別のことを念じながら通過しよう。心が読まれているんだろうから、何ならすべてのストーリーを思い浮かべよう。なぜロリババアかということを経緯を含めてすべて考えてみたら、先方もわかってくれるんじゃないか?」
「それもそうだ。俺なんて『ロリババア』『ロリババア』と念じながら歩いていたよ。マサユキへの怒りや女の子に聞いた可哀想な話を考えながら歩くようにするよ。」
俺たちはできるだけ煩悩は挟まず、現状の目的、困っていることなどを考えながら霧の中を進んだ。そのまま30分ほど進むと、丸太で作られた砦の門の前にたどり着いた。
「おお、ついたぞ!俺たちの思いが届いたんだ!」
俺と田中は抱き合って歓喜の声を上げた。と同時になんの音も立てずに門扉が開いた。門をくぐり、中に入った。まばらに住居らしきものが見えるが、人の気配が何もしない。本当にここはエルフの隠れ里なのか?街の中心には堂々とした大木が根を張り巡らせていた。大木の枝にも家屋らしきものがあった。
「そのまま直進しなさい。」
脳に直接声が届いた。思念伝達リングと同じだ。魔法道具を使用しなくてもテレパシーが飛ばせるのか。声に導かれ、大木の中央に空いたウロに俺たちは入っていった。中は暗闇だったが、入った瞬間浮遊感を感じた。転移魔方陣だ。暗闇からいきなり明るい部屋に転移されたので、俺たちは目が眩んだ。徐々に目が慣れていき視界に入ったのは円卓だった。円卓の一番奥から声が響いた。
「ロリババアとは一体なんのことでしょう」
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