第14話 謁見〜恐悦至極

 「トマス、今日までのセッティングは終わったのか。終わったよな。できていないとは言わさないよ。」

 「閣下、大変申し訳ございませんが、力及ばずできておりません。」

 「そうか。」

 マサユキは宰相のトマスに向けて手をかざした。 

 「閣下、お待ちください!我々のような愚民ではなく、閣下の意向を十分に理解できるものを代わりに連れてきました!転生者の方です!」

 「転生者?ああ、こないだ魔力アラートに引っかかった新規のやつか。その後ろの2人がそうか。」

 俺と田中はおもむろに立ち上がり、お辞儀をし、再度謁見のポーズを取った。

 「賢者閣下、お目通りいただけ、大変光栄です。私たち日本から転生しました、鈴木と太田です。」

 ここはあえて偽名を使った。マサユキの魔法探知能力が単なる魔力の探知だけか、俺のサーチングの上位互換かどうかを探るためだ。指摘されたら「転生者も多そうなので偽名を使っている」と弁明するつもりだった。が、杞憂に終わったようだ。

 「おう、よろしくな。ところで、お前ら、リーセ王国にいただろ。移動が早かったな。」

 想定内の質問だ。

 「RPGでダンジョン探索は基本ですよね。廃墟を探索してお宝を探していたら、転送魔法陣を見つけまして。カケル王国についたって感じです。そこで同じ転生者の大賢者さまがいらっしゃるとお聞きしまして、ここに来た次第です。」

 「あと、そこのお前、昨晩王城内に忍び込んでいただろ。」

 田中がビクっとなった。こいつが変な嘘をついて疑われたらまずい。ここは俺から正直に言った方が疑われなくて済むだろう。

 「さすが賢者閣下。魔法探知は鉄壁ですね!そうです。やはりここも冒険者の性といいますか、ドラクエみたいに夜のお城を『隠れる』のスキルを使って探索させていただいておりました。おっと、閣下にはお見通しということはわかっておりますので、盗みなどはしていませんよ。どうすれば閣下にお目通りできるか探っていたのです。ただ、失礼があってもいけませんし、こんなみすぼらしい恰好していたら、門番に止められてしまいますからね。そうしましたら、宰相様と巡り合わせできました。そこでぜひ、前世の知識を生かして何かお手伝いできないものかと思いまして・・」

 「お手伝い?お前ら何かできるのか。」

 「宰相様にあまり知識がなさそうでしたので、カケル学園の運営のお手伝いができればと考えています。ここの世界の連中は全然ファンタジーについての理解が無いですよね。その点、この太田は、日本では転生ものアニメはあらかた履修しておりますし、コンカフェやメイド喫茶にも出入りしていました。」

 「お、マジか!『転生したら世界最強の学園の英雄になった件』や『ニート転生』は見ていたか?第三期はもう始まっているのか?」

 マサユキは玉座から乗り出し、食い気味に俺たちに話しかけた。こいつは現世界と異世界との時間の流れの違いについて知らない。アニメの話からそこら辺を悟られたら今後何らかの支障になるかもしれない。

 「実は俺、ガンになっちゃって1年以上入院していたんです。三期は始まったって聞いていましたけど抗がん剤がきつくて見れてないんですよ。ただ、二期まではモニターにかじりついて見ていましたんで、完璧です。『ニー転』だと、暗黒大陸変編が最高でしたよね!」

 ナイスアドリブ!田中も成長しているな。マサユキも満足げだ。

 「確かにお前、ガリガリだな。大変だったな。じゃあ『ニー転』の魔法学園編も見ているよな。あれ、主人公の覚醒イベントじゃん。ああいうのがいいんだよなぁ・・」

 「わかります。わかりますよ!閣下!あの純愛がたまりませんよね。やっぱり愛のために生きたいですよね!」

 俺と宰相のトマスは蚊帳の外だ。

 「お前わかってるな~。せっかく剣と魔法の世界に転生したっていうのに、この世界の連中は何もわかっていない。何の刺激もない。クソゲー掴まされた気分だ。よし、魔法学園編はお前に任せるよ。今日はあれだ。ゆっくりしていけよ。飯でも食って女でも抱いて行けよ。」

 「ご厚意ありがとうございます!でも宰相さんとの打ち合わせもありますので・・」

 「そんな固いこと言うなよ。おい、今日は酒宴だ!ええと、お前、宰相!」

 「わかりました。すぐ手筈を整えます!」

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