第13話 二人だけの進撃
「うーん、でもマサユキどうするよ。俺たちがどうこうできる相手じゃないぜ。」
俺は正直この件には関わりたくなかった。俺が嫌そうな顔をしたのを見て、マタイが話し始めた。
「しかし、お主たちがこの世界に舞い戻ったのはとっくにマサユキに感知されてるじゃろう。マサユキは自分と同等の力の異世界人が来ることも想定して魔力探知網を張り巡らせておる。もっとも、能力値からして大した脅威にならないとして見逃されてるんじゃろうが。」
「まじかよ。じゃあ俺たちがレベル上げなんか頑張っちゃったら即殺しに来るのか。参ったな。」
俺とマタイがネガティブ思考に陥っている一方、田中は興奮していた。
「そんなヘタレてる場合じゃ無いでしょう!あの人間のクズが、この世界を蹂躙している。いたいけなエルフさんが、獣人さんが、そして麗しの姫君達が、あいつの毒牙に晒されている。あいつだけは許してはいけない!」
コンカフェ嬢に対する正義感もだが、田中には女性を守りたいという田中なりの正義感があるらしい。田中に熱く語られても、攻略法なんて思い浮かぶ訳が無い。しばらく3人で無言でうつむいていた。
「そういえば、『最終処分場』ってなんだったんですか?どういう仕組みだったんてすか?」
話も煮詰まっているし、俺は前々から気になっていたことを何気なくマタイに聞いてみた。
「首を掻っ切って清掃してもまだ蘇る余地がある。なぜなら肉体に魔法防御が施してあるからだ。ここまでは知ってるよな?」
俺は無言で頷いた。
「だから最終処分場に持っていって『抗魔石』の粉末と一緒に火葬する。そうすると魔法防御も解かれてただの灰になる。あとは埋めるだけだよ。」
「あ、中和剤入れるみたいな単純な話だったのか。その抗魔石っていうのはなんなんですか?」
「抗魔石は暗殺者ギルドが独占的に扱っているマジックアイテムだよ。製法は門外不出だ。もっとも、暗殺者ギルド自体がなくなっちゃったからもう意味ないけどね。」
「マタイリーダーはそれを作れるんですか?」
「俺も出世して最終処分場の所長やってたこともあるから、造作もないよ。ていうか、今ここにある。」
そう言ってカウンターの中から石の塊を出した。ここで俺に一つの考えが浮かんだ。
「これってマサユキに効くと思います?」
「効くには効くと思うが、そもそも近づけないからな。粉末を飲ますのも不可能だろう。」
「身につけさせるのだと効果は出ないんですか?」
「出るよ。ただ、身体の龍門がある首、そして出力先の指の複数箇所につけないとダメだな。それに、魔力がぶっ飛びすぎてるからアクセサリーに加工しても魔力に耐えきれない可能性もある。」
うーん、五分五分ってところかな。俺が思案しているとマタイが話を続けた。
「その他諸々、ギルドの遺品はここにあるよ。ガラクタばかりだけど持ってくとええ。」
田中の熱量が伝播したのか、俺はいつの間にかマサユキを倒す方向に考えがシフトしていた。奴にはすでに転生者として把握され、今後脅威になると思われたらすぐに消されてしまう。だったらなおのこと、すぐにマサユキの懐に飛び込んだ方が良い。しかも殺さないとだめだ。元の世界にはもう戻れない。この世界での安寧を得るためにも、マサユキという障害は取り除かなければならないのだ。
「わかったよ。田中。カケル王国へ向かおう。マタイリーダー、一度は同じ釜の飯を食った仲間、敵をとってやるよ。」
「おおお。それはありがたい。おそらく生きては帰ってこれないだろう。餞別代わりにこの思念伝達リングも渡しておこう。リングを付けたもの同士、声を出さずとも会話できるぞ。」
「リーダー、悪いな!吉報を待ってろよ!」
「密偵お疲れ様。何かわかったか?」
カケル王国はリーセ王国の隣国であるが、王都同士はだいぶ離れており、おまけに山や川があるので普通に行ったら何か月もかかるところだった。ただ、マタイから王城の地下室に転移魔方陣があると聞き、王城跡を捜索したところ発見できた。そこからカケル王国傍の祠に転移したわけである。
「マサユキはやっていることが無茶苦茶だよ。城下町はおろか、国中の女を徴発してハーレムを築いているらしい。それでは飽き足らず『カケル学園』などというものを作って、学園ハーレム物語を再現しているようだ。まったく裏山けしからん話だよ。」
「それは裏山けしからん話だ。それで、付け入る隙はありそう?」
「この世界の住人達は、マサユキが語る概念が理解できないみたいなんだ。そもそもマサユキの言語化能力が低いんだろうけど。現地人がマサユキの理想を具現化できないもんだから、癇癪を起して責任者を殺しまくっている。」
「わけわかんねーな。ニート時代も癇癪起こして母ちゃんに暴力ふるってたんだろうね。」
「で、攻略法はなんか思いついたの?」
「任せておけよ。やっぱ対魔法には精神系攻撃だろ?そこで思念伝達リングだ。これでお前が前の世界で見たあいつの現実を流し込め。あとは、純愛からの失恋だな。童貞にはエグイダメージが入るぞ。そうすれば魔法防御が剥がれてバニシングが入るはずだ。結局は一か八かになるけど、俺らはいつもそれで死線くぐってきたんだ。自信もっていこうぜ!」
俺はこの世界に来てからなんだか頭が冴えわたっているみたいだ。死の覚悟もし、いや、もう何回も死んだことも併せて、本来持っていた自信があふれだしているのかもしれない。
「大枠はわかったけど、細部は詰めないとダメそうだね。抗魔石も使って魔力も下げさせないと。」
「そうだね。これからもっと細部を詰めよう。」
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