第11話 賢者マサユキ
ギルドに行く道すがら、先程の怪しい男について田中と話し合った。
「サーチングしたんだけどさ、あいつ、レベル30だったぜ。しかも『殺しの黒炎』のスキルもってやがった。シモンと同じやつだ。絶対勝てっこ無いよ。」
「じゃあ今頃俺たちの身体は黒炎で黒焦げにされてるかもね。」
「いやいや、まだあっちの世界では1分も経ってないよ。経験上一ヶ月≒1時間くらいの感覚だからさ。」
「だったら、2,3ヶ月こっちで新しいスキル身につけてから戻れば、ワンチャン助かる可能性もあるんじゃないか?」
「たしかにそれはあり得るよな〜。3時間くらいの間死体を残しておいてくれればだけど笑」
そうこうしているうちにギルドの建物についた。いや、もはや建物と言っていいレベルのものじゃなかった。例えるなら解体途中の民家だ。中はもっと酷かった。屋根は半分崩れ落ち、かろうじて雨露しのげる場所にカウンターがあった。カウンターにはキレイなお姉さんではなく、汚らしい初老の男が座っていた。その男には見覚えがあった。
「マタイリーダーじゃないですか!」
俺と田中はカウンターに駆け寄った。
「おお、お前らか。生きとったんか。何十年ぶりかの。」
「ええ、下手こいて暗殺者ギルドに殺されそうになったんですけど、なんとか逃げました。それよりこの惨状は何なんですか!?」
「もうリーセの国は滅びたんじゃ。仲間もみんな死んだ。ワシはここに座って、昔の思い出に浸ってるだけだよ。」
「え、魔王軍が攻めて来たんですか?」
「魔王とか魔物の類じゃないよ。人間、それも転生者の仕業じゃ。」
「転生者が?そんな凶悪な奴が俺たちが居なくなったあとに来たんですか。」
「もう10数年前になるかの。変異体が転生してきたんじゃ。そいつが焼き尽くし、殺し尽くし、奪い尽くした。」
「そいつはなんて名前なんですか?」
「賢者マサユキ。ギルド登録もしておる。レベルが1にも関わらず異常なまでの強大な魔力を持っておった。最初はおとなしかったが、自分の力を自覚した途端、本来持っていた凶悪性が剥き出しになったんじゃ。」
「シモンはどうなったんですか!?」
田中がマタイに食い気味に尋ねたが、マタイは無言で首を振った。
「死んだよ。ギルマスと一緒に。実にあっけなかった。」
ここで俺にはある疑問が湧いた。
「レベルが1っていうことはバニシングが効くんじゃないですか?」
「それはみんな考えていた。転生者にかけると元の世界に戻ることも知っていた。だからみんな異常な魔力量にも関わらず軽視していたんだ。しかし、あいつは桁違いだった。バニシングの作用機序も解析し、対策していたんじゃ。しかも様々な魔法をマスターし、オリジナル魔法も編み出していた・・こうなるともうお手上げ」
マタイは両手でお手上げのポーズをした。
「もしお前らがこれから旅を続けるなら、絶対にカケル王国には近づかない方がええ。そこが今の奴の本拠地だ。」
言われなくてもそんな危険な奴のところには行く訳が無い。ギルドで情報を得られて良かった。
「賢者マサユキのギルドカードがあるから一応見ていった方が良いぞ。」
そう言うとマタイはギルド登録証の中から賢者マサユキのものを取り出した。
ギルド登録の際にはやたらと個人情報が要求される。こっちの世界では全く意味が無いにも関わらず、向こうの世界での住所氏名電話番号まで書かされている。賢者マサユキも例に漏れずしっかりと記入している。汚らしい字だ。
「こいつ、高校出てんのかね?」
田中に話を振ったら、田中はその顔写真に釘付けになっていた。
「これ、こないだメイド喫茶で揉めて出禁になってたやつだよ。ちょうど1週間くらい前だ。俺は身を潜めてその場にいたから間違いない。これと同じ汚い字で念書を書かされていた。他の女の子にも危害加えると困るから、出禁で放り出された後につけて調査したんだよ。引きこもり歴30年以上のベテランヒキニートだよ。」
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