第10話 再び異世界へ
「終わった・・」
俺は最大の復讐の完遂の余韻に浸っていた。今井が消えた空間を、ボケっと眺めていた。
「おい、もう終わったのか?」
すぅっと田中が姿を現し、我に返った。
「あ、そうだった。家に帰るまでが暗殺だよな。今度は逆方向から、カメラの死角を突いて帰るぞ。走れ!」
我に返ったと同時に藪蚊に刺されたところが猛烈に痒くなった。
「やはりあなたたちでしたか。」
どこかドラ◯ンボールのフ◯ーザのような声が前方から聞こえた。俺と田中は急に聴こえた声に心臓が止まりそうになった。
「え、誰ですか?何なんですかあなたは。」
俺はかろうじて声を絞り出した。
「ずっとあなたを監視していました。先日、ホームレスを消しましたよね。それからずっとあなたを追っていたんです。」
影は答えた。ふと隣の田中をみる。咄嗟のこと過ぎてハイディングはしていない。それか、すでに魔力切れか?
「だから」
「だから殺人の手伝いなんて嫌だったんだよ!」
田中は下を向きながら叫んだ。
「殺人の告白をしましたね。今、まさに人を消したんです。違いますか?」
もう誤魔化すのは無理だ。こいつも消すか?そう思いサーチングをかけた瞬間、無理だと悟った。レベルもそうだが、なんとこいつはスキルを持っていた。ヤバい。ヤバすぎる。
逃げるのも・・無理だろう。今逃げることができても、当然俺達の家も掴んでいるはずだ。田中はまだしも、俺は確実だ。
「ちょっと質問に答えて頂いていませんね。」
俺達はこれからどうなるのか。謎の組織に人体実験されるのか。嫌だ。絶対に嫌だ。
「じゃあ答えは一つ」
俺はボサッと呟いた。
「は?なんですか?よく聞こえません。」
「田中!全身の力を抜け!地面に横たわれ!」
田中は全てを察し地面に倒れ込んだ。俺も同時に倒れ込み、全力で叫んだ。
「バニシング!」
目を覚ますと、どこか懐かしい匂いがした。起き上がる。寄りかかった壁は見覚えがある壁だ。とは言ってもほぼ半壊していた。
「う、うー」
人影が起き上がった。田中だ。同じ場所に飛ばされていたらしい。少し安堵した。
「ここは?」
まだ状況を飲み込めていない田中から尋ねられた。
「どうやら前にバニシングを使った場所みたいだ。もっとも、あれからこっちの時間ではかなり経過しているみたいだけどね。」
「というと?」
「この壁見ろよ。おそらくリーセの城下町は何かに攻め滅ぼされてるみたいだ。あの時から20〜30年経ってるんじゃないか?ともかく、俺たちはバニシングで異世界と現世界を行き来できることがわかった。」
俺と田中は状況把握のためにその場にしゃがみ込んで話し合った。異世界の方が時間の経過が早いこと、異世界に戻る場合は現世界に戻った場所で再スタートするが異世界の時間が経過していること、現世界に戻った場合は元の肉体に戻るが異世界時間分は経過していること。
「さすがに今すぐは戻れないよねえ。」
「今戻っても全然意味ないよ。てか、もうもどれないんじゃないか?肉体が処分されちゃってたら、多分戻れないんだろうし。いよいよ異世界で暮らして行くことを覚悟しないとな。」
田中は寂しそうな顔をしていた。一度死んだと思われて、実家帰って家族の温かみを改めて感じたのだろう。
「ほんと巻き込んじゃってごめん、悪かった!」
俺は田中に本気で謝罪をした。
「いいよ。俺も前にこっちに来た時には覚悟を決めてたし。元の鞘に戻ったと思えば気も楽だよ。」
「そうか。ただ、現世界に戻りたかったらすぐ言ってくれよ。戻ってすぐハイディング使えばあいつらから逃げられるかもしれないし。」
「こっちの世界は時間の進みが極端に遅いからまあ考える時間はあるよね。ありがとう。」
田中は言葉を続けた。沈黙から逃げるように。
「ま、今何か考えてもしょうがないし、ギルドに行ってみる?ほとぼりもさすがに冷めてるでしょ。」
田中は俺に気を使ってか、明るく振る舞った。それが余計に俺の胸に刺さった。
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