第8話 異世界同級生との再会

 古田の暗殺より少し前、俺は異世界同期の田中と奇跡的に再会していた。俺は、新宿の東口でサーチングを使用して道行く人の能力を見て遊んでいた。ヨレヨレの汚いスーツを着ているオッサン達はだいたい俺と同じで10レベル前後だった。未成年や明らかに学生っぽいやつは1〜5、若そうなリーマンは5〜10だった。場所を変え、秋葉原の電気街口でサーチングをしていると、オタク風オッサン達は総じて1〜5で明らかにレベルが低かった。一方、呼び込みをしているコンカフェ嬢なんかは15を超えており、ワケが分からなかった。このレベルっていうのは、セックス経験人数かなにかなのか?まあレベルは経験値っていうくらいだからな・・。その他ステータスは異世界転生後の俺よりも皆低かったが、スキル持ちの人間はいなかった。やはり異世界転生後にその人の特性に応じてスキルが付与されるのだろう。

 サーチングで遊んでいると、スキル持ちを発見した。しかも見覚えのあるやつだ。ハイディングとアンロック。これは田中だ。間違いない。ここを逃すと田中に再会できることはないだろう。俺は急いでサーチング画面が出ている吹き出しのある場所に人混みをかき分けて向かった。しかし、その場所にはコンカフェ嬢が呼び込みをしているだけで、田中の姿はなかった。コンカフェ嬢のサーチング画面に重なるような形で田中と思われるサーチング画面が浮かんでいた。

 (なるほどね)

 「あ、お姉さんすみません。このコンカフェって・・」

 俺はコンカフェ嬢に話しかけながら、お姉さんの後ろの虚空に平手打ちをした。

 「痛!」

 手応えあり。しばらくして虚空から人形が現れた。田中だ。

 「あ、お姉さんすみませんでした。チラシだけください!今度いきまーす!」

 「は、はぁ」

 コンカフェ嬢は呆気に取られていたが、田中を引きずってラジオ会館の前まで移動した。

 「田中、久しぶりだな。お前なにやってんだよ。」

 「やあ井上か、、久しぶり。。」

 「積もる話もあるからな。酒でも飲みながら話すか。」

 「俺、今いそがしいからまた今度・・」

 「コンカフェ嬢にストーキングしてて、何が忙しいだよ!いいから来いよ!」

 俺達は近くのHUBに移動してとりあえずビールで乾杯した。

 「田中はこっちに戻ってから社会復帰できてるの?」

 「俺はいいよ。井上はどうなんだよ。」

 田中は少し不貞腐れていた。

 「おれ?俺は無事に職場ニート復帰だよ。追い出し部屋でエクセル作業だよ。でもスキルをあっちから持って帰れただろ?それで面白いことを計画中なんだ。」

 「あ、そうだったね。あのバニシングには助けられたよ。ほんとにありがとう。」

 「命の恩人を前にして、自分のことも喋らないなんてないだろう。帰ってきてからのこと、少しでも教えてよ。」

 少し間を置いて田中が話し始めた。

 「俺は気がついたら病院のベッドだったんだ。仕事の仮眠中に逝っちゃったみたいで、仮眠時間過ぎても起きないから同僚が起こしに来たら息をしていない。脈もない。AED使ったけど復活しない。慌てて救急車で搬送されたけど手遅れってことで。ふっと目が覚めて横をみたら連絡がついて一番に駆けつけたであろう兄貴が医者から『御臨終です』と言われた直後だったみたい。『ちょっと待ってよ、殺さないでよ!』っつったら全員驚いた笑」

 目覚めた瞬間がやたらと面白かったのか、話し始めたら饒舌になった田中。

 「身体はなんともないけど、一応死にかけたってことでみんな心配しちゃったから、当分休めって言われて今は実家でゴロゴロしてる。」

 「で、暇だからコンカフェ嬢のストーキングをしている、と。」

 俺が田中の話に被せるように口を出したら、田中は頭を掻きながら気まずそうにした。

 「やっぱり、能力持ち帰れたんだから使わないと勿体ないじゃん?俺は別にあの子にストーキングしてるわけじゃなくて、街の治安を守ってるんだ。毎日陰ながら色んな女の子を後ろから見守ってあげている。」

 「どうせ女湯に入ったりしてるんだろ。」

 田中はギクリとした顔をした。ただ、ヘタレのこいつには大それた犯罪などできないだろう。ハイディング使ってレイプする度胸もなさそうだ。

 「ところでアンロックは何に使ってるん?空き巣でもやってるのか。」

 俺の問に対して田中は全力で首を振った。

 「いやいや、犯罪なんてするわけないよ!」

 女湯覗きも立派な犯罪だけどな、と思ったが口には出さなかった。

 「でもまあ、ギルド同期の田中に会えて嬉しいよ。異世界での経験は3〜4ヶ月だったけど、現世界は3〜4時間くらいだったね。また異世界に戻りたいと思う?」

 「馬鹿言えよ。殺されかけたんだぞ。今更戻ってもお尋ね者だぜ。」

 「でもよく考えると、すでに戻ってきて10日位経っている。向こうでは240ヶ月だから20年経ってるよ。さすがにほとぼり冷めてるでしょ。そこら辺もまた確かめるための観光に行きたいね。」

 「それもそうだなぁ。向こうは向こうで不便だったけど、それなりに楽しかったしね。こっちではリアルゴブリンに説教されたりして、ゴミみたいな仕事だしなぁ」

 「いずれ機会見て二人でまた行ってみようよ。俺のバニシングも結構上達してるしさ。」

 「わかった。じゃあまた近々。」

 「待てよ、LINEくらい交換しておこう。お互いスキルが必要になったら言い合おう。」

 LINE交換が終わると、田中はそそくさと地下鉄駅の方へ消えていった

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