第2話 暗殺者ギルド
俺は肩で風を切って建物内を歩いた。正面にカウンターがあり、綺麗なお姉さんがいるからそこでイベント発生なのだろう。建物内の人間はドラ◯エの武器防具みたいなのをみんな装備していた。彼らは俺を一瞥するだけで何の興味も示さなかった。
カウンターにたどり着いた俺は、意気揚々とお姉さんに挨拶した。
「どうもー、新しい冒険者です!井上っていいます!ギルド登録よろしくお願いいたします!」
お姉さんは愛想笑いの一つも浮かべず、俺を一瞥して事務的に会釈した。
「新しく転生された方ですね。それではこの水晶に手を当ててください。あなたの適正とジョブ、ステータスを自動的に冒険者カードに登録いたします。」
来た来た、お決まりのイベントだな。転生モノの定番だと水晶が爆発して、「なんて魔力量ですか!」って展開になるんだよな。俺は水晶に一礼してうやうやしく手をかざした。俺の期待とは裏腹に水晶は薄く紫色に光るだけであった。「嘘だろ・・」俺は水晶を凝視しながら生唾を飲み込んだ。水晶を見たお姉さんはカウンターの中から一枚のカードを取り出して事務的に話し始めた。
「井上さんの適正は『暗殺者』です。ステータスはこのカードから確認できます。これでギルド登録は終わりです。お疲れ様でした。」
俺はお姉さんの言葉が終わってからも事態が呑み込めなかった。数秒沈黙していた。
「あ、あの。これで終わり?俺はこれから何をすればいいんですか?」
お姉さんは面倒くさそうに口を開いた。
「『暗殺者』ですから、自動的に暗殺者ギルドに登録されています。裏に建物がありますので、そちらに行ってください。」
なるほど、管轄が違うのか。日本の役所と同じだな。たらい回しだ。
「そうですか。裏の建物に行けばいいんですね。ありがとうございました。」
俺は軽く会釈して、ギルド本部の建物を出た。暗殺者ギルドの建物はギルド本部の真裏にあるにもかかわらず、ギルド本部と中からは繋がっていなかった。建物を出て、ギルド本部と隣の建物の間の人一人通れるかどうかの裏路地を抜けて正面に回らなければならなかった。で、その建物自体は築50年?と思わせるボロボロの建物だった。
「俺の職場はブラック職場か・・」
今までの経験上、建物がボロいと人の扱いも雑であることが多かった。明らかにこの職場はブラック職場だ。ブラックとわかりきっているのに飛び込むことはものすごく嫌だが、社畜時代に躾けられた習慣か、足は勝手に建物の中に向かって動き出していた。
暗殺者ギルドの建物の中は薄暗く、「いかにも」といった感じだった。カウンターに座っているのは盗賊みたいなマスクを被った筋肉ムキムキの大男だった。逃げたいが、自動的に足がカウンターに向かった。
頬杖をついて暇そうにしていたその男に話しかけた。
「あの、転生者なんですけど、暗殺者ギルドに登録されたので来ました・・・」
蚊の鳴くような声で俺はつぶやいた。
「またかよ。まあいいや、とりあえずお前、ステータス画面みせてみろや。」
大男はめんどくさそうに言った。
「ステータス画面?」
俺は咄嗟に言葉が出た。
「なんだよ、本部で聞いてないのかよ。ほら、このカードあんだろ。手をかざして念じるとステータスが見えるんだよ。やってみろ。」
めんどくさそうなわりに怒るわけでもなく、案外親切だな。早速俺は手をかざしてステータス画面を出した。
「レベル10、体力30、魔力20、固有スキル サーチング」
「お、あんちゃん、初期値悪くないじゃん。大抵のやつはレベル1スタートだぜ。ほかのステータスはレベル相応の一般人並みだね。」
「え、そうなんですか?じゃあ他の転生者はレベル1スタートだからすぐ死んじゃったりするんですか?」
「いや、そうでもないんだ。レベル1なのに魔力が1000とかあったり、やたら魔法スキルが充実してるぶっ飛んだやつが多いんだよね。」
大男は親切に答えてくれた。続けて大男が口を開いた。
「むしろあんちゃんの方が危ないよ。取り立ててずば抜けてるところがない。このままだと野垂れ死ぬから、うちのギルドでつかえるようにしてやる。こき使ってやるよ。ほら、あの扉だ。ダッシュな。」
「え、え!?」
いきなりの命令口調に戸惑っていると大男の怒声が飛んだ。
「ダッシュっつってんだろ!早く行けや!」
「はいぃ~」
「やっぱりブラックだ。」
俺は自分のカンが当たったことに一種の諦めを感じた。
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