魔法で極める暗殺稼業

マッスルアップだいすきマン

第1話 メタボ中年オヤジの死

 「こ、ここは?」

 壁も天井もない真っ白く光輝く部屋で俺は目を覚ました。朧げながらも俺は自分の運命を悟った。

 「死んだんだ。」

 それもそうだ。パワハラでうつ病になり、子供殴って離婚され、いまは社内ニートをやりながら毎晩浴びるほど酒を飲んでいる。内臓のどっかがイカれちまっておっ死んでも不思議ではない。

 妙に達観した気分で顔を上げると、そこには立派な玉座に鎮座した、今まで見たこともないような絶世の美女がこちらに慈愛の微笑みを投げかけながら座っていた。人生の最後にこんな美女が見られるなんて・・と感激していたら涙が溢れてきた。どれくらい涙を流していただろうか。おもむろにその美女の口が開いた。

 「あなたは死んだのです。そして、異世界に転生して世界を救うのです」

 「!?」よくある転生ものじゃねーか!こんなの、本当にあるんだな。こんなことなら酒なんて飲んでないでラノベやアニメで勉強しておけば良かったよ!でもアレだよな、俺つえー!世界最強!って能力くれるんだよな?

 俺は女神に、「あの、能力って最上位というか・・」と質問をしかけたが、それに被せるように女神が言葉を発した。「これから5秒後にあなたは転生します。転生後は目を開いた先にある冒険者ギルドに向かうと良いでしょう。グッドラック!」

 「え、ちょっと待てよ!」

 言葉を言い切る前に尻の下に穴があいた。俺は絶叫しながらその穴に吸い込まれていった。


 「あ、起き上がったぞ!」

 気がつくと中世風にも西部劇風にも見える建物の前に倒れていた。急に降って沸いたであろう俺の周りには結構な数の人だかりができていた。俺を遠巻きに囲んでいたが、俺が特段なんのアクションもせず、ごくごく普通に立ち上がると興味を失ったのか散り散りに去って行った。ただ、依然俺に興味を持った一人の少女が俺を見つめていた。俺が目線を少女の方に向けると、一瞬目を逸らしたがまた見つめ直した。

 「言葉通じますか?ここはどこか教えてくれますか?」と俺はその少女に尋ねた。少女は無言で頷き、それに続いて「リーセの城下町です」と答えてくれた。冷静に観察すると、その少女も街の人たちも、中世ヨーロッパ風の服を着ていた。ユニクロ一式の俺は明らかに場違いである。「えーと、俺って変じゃない?みんな気にもしてないみたいだけど。」もっと気にすることはあるだろうが、いつもの癖で周囲から自分が浮いていないか他人の目は大丈夫かどうか気にしてしまった。

 「え、あ、だいじょうぶ。そんな多くないけど、たまにあなたみたいな格好の人が空から落ちてくるから。」

 なるほど。先客がいるのか。それならば街の人たちの反応も頷ける。

 「もうちょっと話をしたいんだけど、いいかな?その、空から落ちてきた人はどこ行くの?」

 「えっとね、空の人は不思議な力を持ってるの。だからこの冒険者ギルドの建物に入って冒険者になるんだよ。」少女は微笑みながら答えた。

 剣と魔法のファンタジーキター!もうベッタベタの手垢で汚れまくった展開じゃねーか!何かしら能力貰えてんのかー!ついでにこのメタボ中年オヤジの風貌も変えといてくれよー!女神様のケチー!

 俺は急にやる気と自信が出て、背筋をピンと伸ばし、ヨレヨレのジャケットの襟を正した。

 「おじょうちゃん、世界の平和は私に任せてくれたまえ。それじゃあ行ってくるよ。いろいろとありがとう!」

 そういうと、俺はその西部劇の酒場の入り口みたいな開戸を押して冒険者ギルドとやらの建物に入った。

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