【注】これはただの廃墟探索です
編集部です。管理人様は何を思われたのか、突然一人で矢野麻衣氏の住居を特定したと言い始め、そのまま編集部に無言で単身取材を敢行し始めました。その取材が行われたことを編集部が把握したのはすべてが終わった後になっての事であり、後日管理人様より、自身が取材する様子を録音した音声データが送られて来たことで、それが事実であると判明しました。
しかし、送られてきた音声データを編集部で確認したところ、決して好ましいと言える方法で行われた取材ではないことが判明しました。その内容を皆様に公開していいものかどうか、編集部としては非常に難しい決断を迫られることとなりましたが、全ての真実を明らかにしたいとお考えの管理人様の思いを尊重し、あるいはこれらの怪異で亡くなられた方の無念の思いを晴らすべく、ここに公開することといたします。
以下は、管理人様から送られた音声データを文字に起こしたものになります。なお、音声中において管理人様は何度かXXにあたる名前を口にしていますが、ここでは編集部の都合により伏字とさせていただきます。
――――――――――
「はい、管理人です。えー…これまでに発表されてきた報道記事、及びインターネット上に書き込まれた情報などを総合的に精査した結果、私は矢野麻衣さんが住んでいたと思われる一軒家を特定することに成功しました。私は今まさに、その一軒家の前に立っている状況です。表札にも手書きで”長岡麻衣”と記載がありますので、間違いないと思われます。あたり一帯は非常に閑散としていて、人の姿はあまり感じられません。見た目の雰囲気は普通の住宅街といった様子ですが、この家を中心にして空き家が目立つように感じられます。もしかしたらこの家が影響して、周りの人たちはここからいなくなってしまったのかも…。あ、ごめんなさい。映像を撮れていないのには理由があって、私も最初はスマホで動画を取りながら取材を行おうと思ったのですが、今朝からスマホのカメラがずっと真っ暗でなんにも映らず、全く映像が撮れない状態ですので、一応音声だけ録音することにしています。ご了承ください。
さて、説明を続けます。問題の家は見てくれこそ一軒家ですが、かなり荒れ果てています。中にだれも住んでいないことは明らかですが、不気味なオーラはプンプンに感じ取れます。そしてこれは……多分気のせいではないと思うのですが、この家の周りだけなんだか非常に嫌な臭いが感じられます…。うっすらではあるのですが、なにかいやーな臭いです…。生ごみのような、汚れた公衆トイレのような、そういう系の不快なにおいがしています。…オェ…。すみません、マスク2重にしようと思います…。大丈夫です、はい…。他に外観でおかしなところと言うと…ネット掲示板に書かれていた通り、家の周りをぐるりと囲うようになにかが置かれていたようですね…。細い縄みたいなのが家の外のいたるところに括り付けられていて、何かがつるされていたような形跡があります。その下は土なんですが、所どころ妙に変色していて気色が悪いですね…。つるしていた物が落下して、そのまま土の中に埋もれていったのでしょうか…。ここから見る限り窓はすべて締め切られていて、内側からカーテンでおおわれてしまっているので、部屋の中の様子は全く見えません。しかし、そのカーテンもかなりボロボロと言うか、なんだか人間の着る服をつぎはぎにして作ったようなカーテンですね…。あんなのは見たことがないです…。
…では、そろそろ家に突撃して見たく思います。玄関には一応インターホンが設置されていますので、押してみます…。
…
……
………
中からは全く反応はないですね…。インターホンの音はたぶんしてると思うんですが…。もう何度か鳴らしてみます。
…
……
………
やっぱり反応ないですね…。一応ドアは……鍵がかかってるか…。このままじゃ入れなさそうだけど…。だけど、私はここで帰るわけにはいきません。このまま取材を続行したいと思います。私が咲来ちゃんに関する真実を明らかにしたいという気持ちは、母親である麻衣さんもきっと理解してくれるはずです…。だから私は引き下がるわけにはいかないのです…。
ドアには鍵がかかっていますが、正直非常にぼろいです。少し手でガタガタと動かしたら開くと思われます。ちょっとやってみます。
ガタ!ガタガタガタ!!!!ガチャガチャ!!!
…はい、予想通り簡単に開きました。ただ、見たところ私以前に何者かがここを開けた形跡はありません。おそらくここは本当にやばい場所だってことで、心霊スポット特集などでも表になることはなかったのでしょうね。本当に誰も来ていない様子です。
…では、早速中に入っていきましょう…。
…うわぁ!!!!においが…においがすごい……!!これ、これちょっと気持ち悪すぎるな…!!オエエェ…!!オゴッ!!!
う……た、だた…私はここで帰るわけにはいきませんから……このまま行きますよ…。だ、大丈夫です、一応建前は考えてあります…。私は近く、このあたりへの引っ越しを検討していて、このあたり周辺にはどんな人たちが住んでいるのか気になって、あいさつ回りをしていただけ…。そしたら迷惑なほど異臭を放つ家があったので、私は注意をするためにその家を訪れた…。最初はちゃんとインターホンを押して呼びかけたが、それでも私の言葉に応じなかったため、やむなく私は直接話をするために中に突入した、というストーリーでいかがでしょう?少し厳しいかもしれませんが、きっとみんなわかってくれるはずです…。だってどうせここはもう誰も住んでなくって、不動産屋さんさえも話をしたがらないような呪われた物件なのですから…。
…さて、玄関を上がって家の中に入ることに成功しました。ただ中はとにかく……とにかくくさいですねこれ…。麻衣さんはここで一体何をしていたんでしょう…。普通の嗅覚を持つ人間なら、そう長くここに居ることはできない気がしますけどね…。ゥオエ…。
さて、最初の部屋には何が…!?!?ウオエェェッツ!!(吐瀉音あり)
うぉ……え、えっとですね……や、やばいです……動物の内臓の山です……。それも見たこともないような…。全部変色してしまっているようで、鮮やかな色の内臓はありません……。全部完全に干上がっているというか、とにかく腐っています……。これは本当にひどい……。ただ、ここで帰ったらここまで来た意味がありませんから、できる限りこの家の秘密を調べて……。あ、写真!写真がありました!これは……。間違いないです!矢野咲来ちゃんの写真です!左下に…撮影された日付も転記されていますが、間違いなく矢野咲来ちゃんの写真ですよ。場所はおそらくアパートの中で、こちらを向いて一人でピースしてます。非常に可愛らしい一枚です。やっぱり私の推理は間違っていなかったようです、長岡麻衣は矢野麻衣の旧姓だったという事ですよこれは、ええ。
ただ他には……他には、なにかの手がかりになりそうなものは……ないですね。タンスの中には……一般的な生活用品、衣服などが…。これ、子ども用の服だな…。たぶん、咲来ちゃんの遺品をそのままここに持ってきたって事だろうか…。
他には特に何もなさそうだったので、隣の部屋に来ました…。ただこの部屋には、物自体が全くおいていませんね…。畳の部屋だからかな…?寝床として使っていたのかな…?いやそれにしたって、使用感が全くないというか…。さっきの部屋に比べてこの部屋、ちょっときれいすぎるというか……。
…あれ?ちょっとおかしいな…。畳のうちの何枚か、張り替えられてるような気がする…。傷んだから交換したんだろうか…?それとも…?
い、一応こんなこともあろうかと思って、最低限の工具は持ってきたんです。畳を引き上げるのはマイナスドライバーがあれば簡単に行うことができるとテレビでやってたので、試してみることにします…。何もないとは思いますが、この下に何かを隠してるって可能性だってないわけじゃないので…。
せーのっ!!!
っと、開けてはみましたけど何にもなさそ……?いや、床下には墨汁かなにかをぶちまけたみたいな跡がありますね…。ただそれ以外にはなにもありません、何かが隠されてるような様子も、隠せるような場所もありません。…取り越し苦労だったかな…?
…いやまてよ、いや……まさか……。これって……血痕??に、臭いとかは全く感じられないけど……。相当昔につけられた血痕…?出血するような何かがこの部屋で起こって、畳が血まみれになったから、血の付いた畳だけ新しいものに交換した…?見る限り血痕は相当古そうなものだから、かなり昔のものだと思うけど……。昔って言ったら……心中事件の時の……血痕?じゃあ父親が家族を殺したのは……この部屋…?
ぅお、想像したらちょっと寒気がしてきました……。いやでも、たぶんあってると思います。麻衣さんもこの部屋に何かあるって気づいたから、だからこの部屋を使ってなかったんじゃないだろうか?なにかこの部屋に感じるものがあったんじゃないだろうか…?ただ、それ以外には特段変わった様子はないし…。私にわかることはそれくらいしかなさそうです…。
さて、畳は元あった場所に戻しましたので、他の部屋に行ってみようと思います…。とは言っても、一階にはほかにトイレとキッチンしかありませんので、次は二階ですね…。行ってみましょう…。
階段は普通ですね、特に変わったところは何もなさそうです…。段数は…別に何段でもいいですね。13階段がどうたらとか昔都市伝説サイトで聞きましたが、今そんなこと言っていられる状況じゃありませんので…。とにかく前に進んでいきますよ…。この先に何かあるのは間違いないんですから…。
えっと、上の階には部屋が2つあるみたいですが、一つは完全に物置になってるみたいですね…。段ボールに包まれた荷物が山ほど置かれていて、ちょっと中には入れそうにないです…。一応、見られる範囲で中身を見てみますか…。えっと、これは…なんだろう、電話帳かな…?最近はもう見なくなりましたが、昔は個人の名前が細かく記載された分厚い電話帳がありましたよね…?それが1冊2冊3冊……いや、ちょっと待ってください、これって……。ここにある段ボールの山って、全部電話帳入ってるんじゃ…??……ほら、やっぱりそうだ!!こっちも……こっちも…!入ってるの電話帳ばっかり…!!なんでしょう、なにがしたかったんでしょう麻衣さんは…。こんな電話帳ばっかり集めて…。あ、あともう一つ……地図もあります。うわぁ、これもまたたくさんある…。これも昔よくあった、どこに誰が住んでるか書かれてる名前入りの地図ですよ。その束が一つ二つ三つ……。これはちょっと…数えきれないですね…。いったいいくつあるんだろう…。誰かの家を探してたのかな…。名前入りの電話帳や地図があれば、人探しはできるんでしょうか…。ただ、一人でそれをやる理由って一体…。と、とりあえずもう一つの部屋に行ってみようと思います。あっちはきちんと使用されている風の部屋だったように見えたので、なにかヒントがあることと思います…。
さて、どうでしょう…。中は……普通の机と、普通の本棚ですね…。1階に比べると清潔感はまだマシかもしれないですが、それでもかなり汚れていて物が散乱していますね…。踏んでしまわないように細心の注意を払いつつ、机の上に置かれているものを見てみましょうか…。
どれどれ……机の上にはノートが置かれていますね。見た目は普通のA4の大学ノートのようですが……早速中を見てみましょうか…。
なになに……「XXらはアンキュウの呪いにより、何の罪も犯していない娘の事を死に追いやった。あいつらは娘を殺したのだ。娘だけではない、この世において理不尽ともいえる呪いによって多くの罪なき者たちが命を奪われてしまっている。にもかかわらず、XXらは自らの罪を償うこともなく、毎日をのうのうと生きている。自分という存在が周りの人間を殺しているとも知らず、愛する者と話をし、仕事をし、学校に行き、物を食べ、床に伏せて眠りについている。忘れるな、お前たちこそが呪われ殺されるべきなのだ。そうなる日はもう近い。アンキュウの呪いはこの私が殺してやる」…。
…
……
………
ふふ…ふふふふふ……ふふふふ…
…
……
………
あはははははははははははは!!!!!!!
ほら!!私の言った通りじゃないですか皆さん!!!やっぱり悪いのはXXたちなんですよ!!私の考えが正しかったじゃありませんか!!!悪いのは全部XXたちなんですよ!!!だから殺すしかないって言ったじゃないですか!!編集部の皆さん聞いていますか!!私が正しかったという事を理解していただけましたか!!!皆さんは私のことをおかしくなったとか言って煙たがっていましたが、どうです!!これが真実ですよ!!!正しいのは僕の方だったじゃありませんか!!!XXたちなんて生きる価値はないんですよ!!!死んで当然の奴らなんですよ!!!
ははははははははは!!!!!
あははは!!
はは……。
……
っと、ここで冷静さを失ってしまったらすべてが台無しですね。いったん落ち着くこととしましょうか…。
…
……
………
麻衣さん、よかった。あなたも私と同じ真理にたどり着いていたのですね。私にはすべてが理解できました。ここにあるノート、及び大量の資料は、麻衣さんがXXに関して調べたことのすべてなのですね?先ほどあった無数の電話帳や地図は、XXという名を持つものを探すための道具として使われたのですね。以前、あるテレビ番組のネット掲示板で見たことがあります。家の前にじっと立って、ただただ家の扉を凝視する女がいると。それはあなたですよね?あなたは扉を見ていたのでなく、表札を見ていたのですよね?そしてXXの名を見つけるや否や、殺しにかかったのですよね?私が今棚から手に取ったノートには、名字がXXである人たちについて詳細に調べ上げられた内容が記載されています。生年月日から住居、家族関係、その周りで何が起こったかまで非常に詳細に書かれていますね。他のノートには、名字がXXの人間をストーキングして嫌がらせを行い、得られた戦果について記載がされていますね。ざまぁみろとした言いようがありません。私にはすべてが理解できました。本当にありがとうございます。
しかし、ここにはたった一つだけ残念な事があります。私が今本棚から手に取ったこの本、スクラップ帳のようなのですが、この中には麻衣さんが殺害の対象にしたであろうXXらのリストがあります。麻衣さんは調べ上げたこれらの情報をもとにして計画を立てていたのでしょうが、ここに一人だけ、無関係と思われる人物が書かれています。ひき逃げ事件で世間をにぎわせた、山下加奈ちゃんです。北大正交差点で車にはねられて亡くなってしまった可哀そうな事件でしたが、加奈ちゃんの事を車の前に押し出して殺したのは麻衣さんだったのですね。きっと麻衣さんは自分の娘が死んだことをXXに復讐するために、同い年くらいの女の子を狙って犯行に及んだのでしょう。しかし、たぶん、加奈ちゃんも咲来ちゃんと同じく、一緒にいたXXの身代わりか何かになって死んでしまったのでしょうね。XXらはそういうやつらなのです。麻衣さん、あなたは何も気に病む必要はありません。全部悪いのはあいつらの方なのですから。
ただ、ひとつだけ分かりません。この調査において時折登場する、”アンキュウ”なる言葉の意味です。おそらくはそれが呪いの根源なのだと思われますが、どこにもその事に関しての記載がありません。こればかりは自分の力で調べてみるほかないという事でしょうか…。一応今スマホで簡単に調べてはみましたが、それらしいものは全く何もヒットしません…。ただ、十分です。XXらが存在してはならない人間たちだという事が、今日麻衣さんのおかげでばっちり理解することができましたから…。僕はこれから胸を張って、堂々とXXらを殺して回ってやろうと思います。
あぁ、なんでしょう。さっきまで苦痛で仕方なかったこの空間が今はなんだか心地よくてたまらなくなってきました。最初は嫌悪感しかなかったこの臭いも、非常に体に良いにおいであるように感じられます。一階にあった動物の内臓の山も、触れればきっと全身を包むような温かさを生んでくれるものと思います。麻衣さん、だからあなたはこの家を選んだのですね?ここの家にはきっと、呪いの根源たるなにかが存在している。だからあなたは自らここに住み、呪いに身をゆだねたのですね?今の私には、それがよくわかります。あなたはそこまでして、咲来ちゃんの無念を晴らそうとしたのですよね?
…うわぁ、さっきまで綺麗だったのに…。床の上に急にウジ虫が湧いてきました…。おい、ここは神聖な場所なんだから、とっとと出ていけ…。(その場にしゃがみ込むような音、及び床の上に広がるなにかを両手でかき集めているような音)
なんだか、ずっとここにいたいほど居心地がいいですね…。しかし、今の私にはやるべきことがあります。まだまだ名残惜しいですが、このあたりで帰らせていただこうと思います。
…そうだ、麻衣さん。こちらの実名入りの電話帳と地図、ちょっとお借りさせていただきますね…。何に使うかは、あなたならお分かりいただけることと思います。それじゃあ、またどこかで…。
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