管理人考察⑤

私はこれまで行ってきた取材の結果、とんでもない真実にたどり着いてしまったのかもしれません。今からその内容を詳しく書き上げていきたいと思いますが、残念なことに編集部の方はまだその真実に気付いていないように思われます。そしてその真実がもたらす恐ろしい事への緊張感も全く抱いていないように思われます。今私が彼らに真実を伝えてもきっと信じてはもらえない事と思いますので、まず私一人の考えをここに記載することとし、編集部の方々には後から追って理解していただければと思います。


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我々が追っていたマンションに関して調べた結果、新たな事実が次々に明らかになりました。順を追って確認していきましょう。事の発端は、矢野咲来ちゃんの飛び降り事件が起こった1998年にさかのぼります。この時矢野咲来ちゃんは住んでいたアパートの屋上から落下してしまい、そのまま帰らぬ人となってしまいました。そしてその瞬間を、彼女の両親はXX真司さんの所有するマンションの屋上から目撃してしまった。父親の矢野遥人さんはそのままマンションから飛び出していき、咲来ちゃんのもとめがけて全力で駆けていったものの、現場に着いた彼の前に広がっていたのは無残にも散乱してしまった咲来ちゃんの体だった。彼はその現実離れした光景が受け入れられなかったのか、飛び散った咲来ちゃんの体を必死にかき集め始めたといいます。その後矢野遥人さんは行方不明になりますが、まるで彼の魂が乗り移ったかのように彼と同じ行動をとる男性が、XXという名を持つ人の周辺で目撃されるようになりました。そして、おそらく命を落としてしまっていると思われる矢野遥人さんは、当時娘の落下死を目撃したマンションに立ち入っていく姿を目撃されるようになりました。そのマンションでは、入居すると死んでしまった愛する人に再会することができるという噂がまことしやかにささやかれ続けていて、そのせいなのかどうかは不明ですが高頻度で飛び降り自殺が起こっている、と。


ここまでは、以前までにも我々が突き止めていたところでした。ただ分からなかったのは、咲来ちゃんの母親についてです。父親である遥人さんのとった行動は娘を思う気持ちからくるものだったと理解することができますが、その場に固まっていたという母親は一体何をしていたのか、私はそこに注目しました。

母親は娘の転落した瞬間をその目に目撃した後、何を見ていたのでしょう?監視カメラの映像によれば、咲来ちゃんが落下していく姿を見つめたまま固まってしまっていたとの事。普通に考えるなら大家さんの言った通り、娘がアパート屋上から落下していくという現実離れした光景が受け入れられず、その場で固まってしまったというのが現実的でしょう。そして娘の死を受け入れられないからこそ、もう一人の人物がそこにいたという架空の真犯人を作り出し、自分の心を少しでも残酷な現実から少しでも防衛しようとした、というのがよくある話でしょうか?

周辺の住民たちも、警察も、おそらくはそう考えたのでしょう。母親の証言を裏付けるような証拠も出てこなかったから、きっと母親の方がおかしなことを言っているのだと。彼女は娘を自殺で失った哀れな女なのだと。

ですが、私は騙されません。これまでにXXという名字を持つ連中の間で、不可解な事件が山ほど起こっていることを私は知っているからです。それはただのいたずらで済まされるようなものではなく、人の命が奪われるという決して許されないことまで起こっているのです。咲来ちゃん自身も、咲来ちゃんの両親も、XXという名字を持つ連中のなんらかの奇怪な力によって幸せな時間を奪われてしまったと考える方が、ここではよほど自然なのです。

どういうことかというと、私は咲来ちゃんの死に関してある説を思いついたのです。

咲来ちゃんは不幸にも一人で転落死してしまったと言われていますが、そうではない。彼女は母親の目撃したもう一人の人物の”身代わり”となり、命を落としてしまった、という説です。

皆さんこれまでに私が調べ上げたことを思い出してみてください。交差点の一件にしろ、不審なメールにしろ、何かを集める男にしろ、XXと言う名字の連中の周りで起こっている奇怪な現象には”身代わり”が深くかかわっているとは思いませんか?交通事故で死ぬ運命だったXXさんの身代わりに、友人が二度も死んだとは思えませんか?不審なメールがXXさんにだけ届かなかったのは、言い換えればXXさんの身代わりで他の人はメールを受け取ったのだとは思えませんか?会社の上司と部下が精神的におかしくなってしまったのに、一人だけなんともなかったXXさんの姿は、二人がXXさんの身代わりになったのだとは思われませんか?そしてそれらの事件とつながってるここでも同じことが起こったとは考えられませんか?

私が言いたいのは、あの日咲来ちゃんと一緒にいた人物の名字もまたXXだったのではないかという事です。そして母親は、そんなもう一人の人物の姿かたちをその目に焼き付けるために、しばらく同じ方向を凝視していたのではないかという事です。実際、母親はそれからしばらくして殺人未遂事件を引き起こしています。大家さんは無関係な人間だと言っていますが、果たして本当にそうだったのでしょうか?正直私には、XXと言う名前の奴らの言う事があまり信じられなくなってきています。この点も編集部の方にはくぎを刺されてしまったのですが、思ってしまうものはどうしようもありません。そもそもXXの奴らの方が私たちに何かを隠しているのですから、疑われたって仕方のないことでしょう?今記事をご覧になっている皆さんもそうは思いませんか?本人は何も知らないかもしれませんが、それならむしろ何も知らずに周りに危害を加え続けていることの方が悪だとは思いませんか?


そこで、私はここに一つの決意表明をさせていただきたく思います。XXらの身代わりのような形で無関係な人間が不幸になっていくなど、とても見逃すことはできません。同じことがこれから先も繰り返されていくというのなら、正直私は世の中のためにXX連中を全員殺してしまうことだって間違いではないのではないかと思っています。

ただ、当然私だって人を殺したくなどありません。そんなことをせずともこの奇怪な現象の連鎖を食い止める手立てがあるのなら、その方法をとるに越したことはありません。これ以上被害者を増やさないために、私もできることをやっていきたいと思っています。


私はこれから独自に矢野麻衣さんの後を追うこととしたいと思います。私の直感が、彼女は何か詳しい事情を知っていると言っているからです。大切な一人娘をXXによって殺された彼女なら、私たちの知りえないことまで知っているかもしれません。

しかし向こうは殺人未遂で服役の経験がありますから、危険も伴うことになるでしょう。もしかしたら私自身が、真実を追求する過程で誰かを傷つけてしまう結果になるかもしれません、しかし、XXの連中のきっと編集部の方々も、これをお読みの皆さんも、私の行動が正しいものであったと理解してくれる日が来ると信じています。

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