マンション責任者へのインタビュー
マンション住人への取材を行う中で、次々と新たな事実が判明していった。であるならば、そのマンションの責任者たる人間であるなら我々が追っていることに関してすべての事実を知っているのではないか。そう考えた我々編集部と管理人様は、マンション責任者であるXX真司氏への取材を申し入れることとした。しかし取り上げる内容が内容であるだけに、取材に応じてもらうことは困難を極めるかと思われていたものの、意外にもXX氏は快く我々の取材に応じていただけるこことなり、我々はすぐさま彼の元を訪れ、詳しい話を聞くこととした。
なお取材にあたっては、これまで通り編集部の人間一人と管理人様の合計二人で聞き込みを行う形式をとり、会話により得られた内容をそのまま以下に転記する。
――――――――――
編集部「お忙しいところ取材に応じていただき、本当にありがとうございます」
XX「いえいえ、構いませんよ。むしろここで取材を拒否する方が、うちのマンションになにか悪い秘密でもあるのではないかとあらぬ誤解を持たれてしまいそうで嫌ですし…」
管理人「XXさん、あなたのマンションでは非常に高頻度で飛び降り自殺が起こっていますよね?これは一体どうしてだとお考えですか?あなた自身に何かの要因があるのではないですか?」
XX「ちょ、ちょっと待ってください…。確かに私のマンションは、他の一般的なマンションと比べて自殺率は高いですけれど、だからと言って私が責められるのはおかしいではありませんか…?」
編集部「管理人さん、落ち着いてください。XXさんの言われる通り、それに関してXXさんを責めるのは筋違いです」
管理人「……」
XX「…あなたにはお分かりにならないかもしれませんが、入居されていた方が亡くなってしまうというのは、大家としては非常に悲しい事なんです。だって、つい先日まで元気に挨拶して、他愛もない話をしていた人が、急に死んでしまうんですよ?それも自殺だったとなれば、自分にも何かできたことがあったんじゃないかと考えずにはいられません…。それはもう、本当に心苦しい事なんですよ…」
管理人「…申し訳ないです、なんだか熱くなってしまって…」
編集部「私からもお詫びを…」
XX「まぁ、分かっていただければ…」
編集部「それでは恐れながら、話を戻させていただいて…。XXさん、実は私たちはあなたに取材を行う前に、マンションの住人の方々に対して取材を行っていたのです。するとその結果、このマンションに住むと死んでしまった愛する人に再会することができる、と言われていることを知りました。XXさんはそれについて、何かご存じの事はありませんか?」
XX「…あなたたち、本気でそんなことがあり得ると思っているんですか?」
管理人「私たちだってそんな事が現実に起こるとは、到底受け入れられませんよ。しかし、取材を行ったマンションにお住いの方全員がそう答えたんですよ?そりゃもちろん口裏を合わせてでたらめを言っている可能性だってありますけど、そんなことをするメリットが何もないじゃないですか。ならきっと、彼らはみんな本心からその言葉を言って、本心からそれが本当の事だと考えてる。私にはとても彼らが嘘を言っているとは思えないのですよ」
編集部「XXさん、なにかご存じの事があるのではないですか?」
XX「…なんだか、私がなにか悪いことをしているとでも言いたげな雰囲気ですね…。言いたいことがあるのならはっきりと言ったらいかがですか?」
管理人「では、その通りに。大切な人を亡くされた方というのは、それはそれはその心に言葉では言い表せないほどの深い傷を負っておられることでしょう。それはもう、生きていくことさえ諦めてしまうかもしれないほどに…。そんな時、このマンションに入れば死んだ人と再会できる、なんて話が耳に入ってきたらどう思うでしょう?普通の神経をしている人間なら、そんな話に耳を貸したりはしないことでしょう。しかし、極限まで心に深い傷を負っている人がそれを聞いたなら、藁にもすがる様な思いでその話に乗ってくるのではないでしょうか?そうやって新たな入居者を集めて、あなたは懐を潤わせているのではないですか?自殺率が高いことだって、もともと心に傷を負っている人が多く住みに来ると考えれば辻褄はあいます」
XX「……」
管理人「…普通に考えれば、自殺率が高いと言われている物件に住みたい人間などいないでしょう。にもかかわらず、あなたのマンションは新規入居を希望する声が後を絶たず、需要に対して部屋の供給が追い付いていないらしいじゃないですか。おかしくないですか?」
XX「…そうですか、そのようにお考えになっていたのですか。であるなら、やはり今日の取材は受けて正解だったようです」
編集部「どういう意味ですか?」
XX「もしも私が今日の取材を受けなかったら、そのような内容を記事にされていたわけですよね?それこそありえない話です。名誉棄損で訴えてもいいほどにね」
管理人「ありえない話?」
XX「否定することも疲れるレベルですが…。いいですか、普通に考えてください。私が新規入居者を狙ってそんな話を広めたとして、本当にそれで入居者が集まるとお思いですか?そんな不気味な話が出回ったなら、むしろマンションに対するイメージはがた落ちすることでしょう。入居者が増えるどころか、現在契約してくださっている方々の流出が進み、うちのマンションは瞬く間につぶれてしまう事でしょう。…そんなことも言われないとわからないのですか?」
管理人「……」
XX「確かにうちのマンションは自殺率が高いです。しかしだからといって、それを利用するよな真似を私は絶対にやったりしません。ここまで取材に来られたというのなら、マンションの広告チラシなども見ていただけたのでしょう?いつ私が幽霊やオカルトなどの話をしました?そんな形跡がどこかにかけらでもありましたか?」
管理人「それは……」
XX「さすがに勘弁してほしいです…。私も別に都市伝説とか、幽霊の話とかは嫌いではありませんが、そこまでこじつけをされて私や私のマンションの事をひどく言われるのは、ちょっと受け入れられませんよ…?」
管理人「……」
編集部「XXさん、ご気分を害してしまったのでしたら、本当に申し訳ありません…。しかし、どうか分かっていただきたい。我々は本気で真実を追っているのです。このマンションで現実に起こっていることは、不自然な事ばかりではありませんか。そこにはきっとなにか理由があるはずで…」
XX「…あぁ、きっかけならありますよ」
編集部「き、きっかけといいますと?」
XX「…ここからすぐ近くのアパートで、女の子が落下事故で死んでしまった事件があったの、ご存じですか?」
編集部「え、えぇ…。98年の、矢野咲来ちゃん自殺事件…ですよね?」
XX「…実は事件の時、その子の両親がうちのマンションの屋上にいたんです」
管理人「!?」
編集部「ど、どういうことですか…?」
XX「屋上の監視カメラに写ってたんですよ。二人の姿がくっきりと。…たぶん、二人は咲来ちゃんを連れてうちのマンションに引っ越しに来るつもりだったんじゃないかと思っています。その日は内見にでも来ていて、その過程で屋上も見に行ったのではないかと。まぁ実際に案内を担当したのは不動産屋さんですから、私が実際に見たわけではないですが…。で、それからですよ。このマンションで妙な事が起こり始めたのは…」
編集部「く、詳しくよろしいですか?」
XX「詳しくって言っても、ご存じのとおりですよ。住人の方が飛び降り自殺を始めたり、死んだ子供に会えたってうれしそうに私に語る人が出てきたり…。矢野咲来ちゃんのお父さんがこのマンションの中やこの近くで目撃され始めたのもそのくらいからですね…」
編集部「なるほど…」
管理人「…お母さん」
編集部「え?」
管理人「お母さん!矢野咲来ちゃんのお母さんはどうなったんですか!?」
XX「あぁ…。確か、矢野麻衣さんとか言ったっけな…。咲来ちゃんが飛び降りる瞬間を目撃してしまった時、父親はすぐさまその場から駆け出して咲来ちゃんのもとに向かっていったそうですが、母親の方はしばらくその場に固まってしまっていたようです」
管理人「固まっていた?どういう風に?」
XX「詳しくはなんとも…。ただ、咲来ちゃんが落下したと思われる時間からずーっと同じ方向を向いて固まっている母親の姿が屋上の監視カメラに写っていたようですよ。…たぶん、娘がリアルに落下していく姿を自分の目で見てしまって、ショックで動けなくなっちゃったんじゃないかな、と」
管理人「……」
編集部「…その後、お母さんはどうなったんですか?」
XX「これも聞いた話ですが、その日を境にして精神的におかしくなっちゃったみたいで…。聞いた話じゃ、咲来ちゃんの一件が落ち着いてしばらくした時、「咲来は殺された!真犯人を私の手で殺してやる」と叫びながら無関係の人に切りかかって、そのまま捕まってしまったらしいですよ。今はもう刑期を終えているらしいですが、詳しくはさっぱり……」
編集部「殺された?飛び降り自殺ではなかったと?」
XX「母親曰く、咲来ちゃんが屋上から転落した時、咲来ちゃんのそばにもう一人誰かがいたらしいんです。娘はそのもう一人の人物の身代わりになるような形で転落し、死亡に至ったと言っているらしいのです」
編集部「た、確かに、マンションの屋上からアパートの屋上の様子はよく見えますから、それだけで母親の言っていることが嘘であると言い切ることはできないわけですが…」
XX「しかしとは言っても、そのもう一人の人物を目撃したのは母親だけですし、他になんの証拠も出てこなかったわけですから、警察も最終的に咲来ちゃんの故意的な飛び降りか、あるいは一人で遊んでいている中で不幸にも転落してしまったものと結論を付けました。まぁ正直誰の目にも、精神的に錯乱したような様子の母親が正しいことを言っているようには見えなかったでしょうし、当然と言えば当然ですが…」
管理人「……」
編集部「…管理人さん、大丈夫ですか?」
管理人「えぇ…」
XX「私からお話しできることはこれくらいかと思いますが…。まだ何かお聞きになりたいことがありますか?とは言ってもこの後別の用事がありますので、これ以上の取材は厳しいのですが…」
編集部「管理人さん、いかがでしょう、もうよろしいですか?」
管理人「……」
編集部「そ、そうですねXXさん、分かりました、これにて取材は終わりにさせていただこうと思います。本日はお忙しい所、本当にありがとうございました」
XX「いえいえ、誤解が解けたのなら本当に良かった限りです」
管理人「……」
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