新日本新聞2018年9月18日発刊分掲載記事

今から5か月ほど前の2018年4月16日、○○県○○市北区に位置する北大正交差点において、当時7歳だった山下加奈ちゃんが黒色の自家用車にひき逃げされる事件が起きた。本日未明、○○県警は当事件における容疑者として指名手配されていた山田圭一(43)を、○○市内にて実施していた検問にて発見、そのまま逮捕に成功したと発表した。本田容疑者は事件へのかかわりを認めており、取り調べでは「間違いありません」と供述しているという。


【コラム:山下加奈ちゃんひき逃げ事件】

2018年4月16日、○○県○○市北区に位置する北大正交差点において、当時7歳だった山下加奈ちゃんが黒色の自家用車にひき逃げされる事件が起きた。事故現場近くに設置されていた防犯カメラの映像、及び目撃証言から、犯人が自動車を運転中にスマートフォンを操作していた可能性が疑われたことから、直接の事故原因は当時世間を大変に賑わせていた”ながらスマホ”であろうという事が言われていた。また、運転手の正体もすぐに判明し、同県内に本社を置く大手建設会社に勤める山田圭一(43)であることが各メディアなどを通じて連日大々的に報道されていた。しかし山田容疑者は事件後忽然と姿をくらましてしまい、勤務先にも顔を出すことはなく、自宅に戻る様子も全くなかった。警察による大規模な捜索にも関わらず、容疑者の姿を捕らえることは実現することなく、ただただ時間だけが過ぎていき、だんだんと事件は風化していった。

しかし、しばらくしてこの事件は再び世間の注目を集めることとなる。加奈ちゃんの両親である山下良助さん(35)と山下歩美さん(33)の二名が、当事件を苦にしてとみられる心中を遂げていたことが報道されたのである。第一報が報じられたのは加奈ちゃんの死から1か月ほどが経過していた時の事であり、二人は1台の自家用車の中で練炭を焚いて自殺を図り、通行人によって発見された時にはすでに二人とも死亡している状態であった。そして二人の遺体のそばから発見された遺書がメディアによって公開され、世間から大きな注目を集めた。その内容は大まかに以下の通り。


私たちのかけがえのない大切な娘である加奈が事故に遭ってしまった時、加奈は致命的な怪我は負っておらず、しばらくは意識もあったそうです。しかしその場を横切った通行人たちが誰も手当てや救急への通報などを行わず、病院に運ばれた時にはすでに事故からかなりの時間が経過してしまっていたため、加奈は助かりませんでした。あの時、誰か一人でも心ある行動をとってくれていたなら、加奈は死なずに済んだのです。ひき逃げをした犯人は当然許せませんが、私たちは見て見ぬふりをした通行人たちも犯人と同じほど許せません。絶対に許しません。加奈のいなくなったこの世界に私たちが生きる理由はありません。であれば、私たちの命を使って加奈を殺した人間たちを呪ってやるまでです。さようなら。


この衝撃的な遺書の内容は世間からの関心を大いに集め、大変な注目を集めることとなった。そしてそのたびに山田容疑者の顔写真が繰り返し報道されることとなり、その結果が今回の容疑者逮捕につながったのではないかという声もある。事故で死亡した加奈ちゃんの苦しみ、そして両親の受けた悲しみは想像を絶するものであろうことは明らかであるが、こうして世間の雰囲気が変わっていき、無事に容疑者逮捕に至ったことは、せめてもの手向けと言えるのではないだろうか。

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