管理人に届いたDMメッセージ

『フォー・トライアングル』上に掲載された『何かを集める男』というエピソードを当サイト上で紹介したところ、管理人宛てにサイト視聴者からDMにてメッセージが送られてきた。送り主からの同意を得たうえで、その内容をここに転記する。


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管理人様、『何かを集める男』というエピソードを見させていただいたのですが、私現実にこの男を見たことがあります。もしもお役に立てるなら、詳しくお話させていただきます。

―――

管理人です。ご連絡いただきありがとうございます。ぜひ詳しいお話をお聞かせくださいませ。

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了解いたしました。私は今年で30歳になる普通のサラリーマンなのですが、この男を見たのは今から多分5年くらい前の事だったと思います。当時私は今の会社に入りたてで、新しい仕事を覚えることに毎日必死でした。残業も毎日当たり前で、休みもほとんど家で寝て過ごしていました。なので、会社と自宅との道を毎日毎日行ったり来たりだけの生活だったわけです。生活に必要な買い物を除けば、それ以外はどこにも出かけていませんでしたし、そんな余裕もありませんでした。そんなある日の事、私は任されていた仕事で大きな失敗をして、盛大に損失を出してしまったんです。ただもちろん、新人の社員が任される仕事なんてたかが知れてますから、会社から見ればその損失は非常に小さなものです。しかし、当時の私は非常に落ち込んでしまい、なかなか立ち直れずにいたんです。そんな時、当時私の上司だったAさんが私と私の部下のB君を誘って、Aさん行きつけの居酒屋さんに飲みに連れて行ってくれたんです。きっと、落ち込んでいた私の事を励まそうとしてくれたんでしょう。特にAさんは私と年齢が10歳近く離れているんですが、それでも私の気持ちを少しでも上げようと気を遣ってくれて…。私にはそんな二人の気持ちが非常にうれしく感じられて、お酒の力もあって瞬く間に頭の中から失敗の記憶は消えていきました。飲み会自体も本当に楽しくて、この2人と同じ職場になった事を、私は本当にうれしく思いましたね。おかげで3人ともべろべろに酔っぱらって、お店を出るときはそれまあふらっふらでした。飲み会が終わった時にはすでに電車もない時間だったので、このまま適当に次の店を見つけてはしごをしようかって話になったんです。B君が付近の店をスマホで適当に調べてくれて、ちょうどいいお店をすぐに見つけてくれました。B君はそのまま私とAさんを店まで案内し始めてくれたんですが、その時です。40歳代くらいの中年男性が、路上にひざまずいてなにかしているんです。他には誰もいないような場所ですので当然私たちの視線はその男の方に向けられるわけですが、でもその時は夜で真っ暗でしたし、詳しくは分からなかったのでいったんはそのままスルーしたんです。ただ、非常に不気味な感覚だったのを今でも覚えています。しかも話はそれで終わらず、私たちは二件目で飲み終えてそのまま三件目に向かったんですが、さっきとは全く違う道だというのにその途中で先ほどと同じような見てくれの男が、路上で全く同じことをしていたんです。そこは街灯が多く設置されている箇所だったので、先ほどとは違って男の様子がよく見えました。その姿はまさに、『何かを集める男』で見たものと全く同じものでした。そこには何も落ちていないのに、男は手の表面が摩擦で血まみれになるくらい必死に何かを集めているんです。私は隣にいたAさん、B君の方に視線を送って、どうしようかと目で合図を送ったんですが、二人とも関わるまいという返事を私に送ってきたので、私たちはそっとその場から退散することとしたんです。…それ以降は今に至るまでその男を見ていませんが、今だに夢に見ることはあります…。

―――

なるほど、貴重なお話を頂きましてありがとうございます。何点か質問をさせていただきたいのですが、よろしいですか?

―――

はい、大丈夫ですよ

―――

まず、その男は雑誌に掲載されたエピソード上の男と同一人物なのかどうかが気になるんですが、どう思われますか?

―――

うーん…。雑誌の投稿者の方と話ができない以上は確定的なことは言えないのですがおそらく別人であると思いますね。というのも、あの雑誌が発刊された日付、そして投稿主さんが子どものころだったという時期から逆算して計算すると、たぶん投稿主さんが男を見た時と私が見た時とでは、10年か20年近く以上空いているような気がするんですよね…。なのでなかなか同じ人物とは考えられないかな、と…。

―――

なるほど、ありがとうございます。では、その時の男の様子で雑誌と違ったところなどはありましたか?

―――

ごめんなさい、昔の事なのであまり詳細には覚えていないんです…。ただ、おそらくほとんど違いなどはなかったように思いますね。

―――

なるほど、ありがとうございます。では、その後皆様の周りで何か変った事などはありませんでしたか?直接関係のないことでも、疑わしいことでも結構です。

―――

…実は、ひとつ心当たりが…。しかしこれはこの一件と関係があるか分からないので、最初はお伝えしなかったのですが…。実はあの後、AさんとB君が立て続けに私の職場から退職していったんです。

――――

二人そろって急に退職を?二人の身になにかあったのでしょうか?

――――

退職直前の二人の様子は非常に不気味なものだったらしいです。二人は例の飲み会の後間もなくして、部署を異動させられてしまったんですが、なんでも、それまで一度もしたことのないようなミスを立て続けにするようになったから、その反省をさせるための部署移動だったそうです。そのような経緯で異動になってしまった二人だったのですが、行った先でなにか精神的に不安定になってしまったらしく、まともに仕事を行える状態ではなくなってしまったのだとか…。

―――

そんなことがあったのですか。お二人の退職直前の様子に関して、なにか詳しいことはご存じありませんか?

―――

人伝いの話でもいいですか?

―――

かまいませんよ、ぜひお願いします。

―――

私は見ていないんですが、なんでも会社の中で妙な行動をするようになったそうなんです。オフィスのフロアにはマットが敷かれていたらしいんですが、そのマットを爪先で何度も何度もひっかいてはがそうとしたり、「さくらを集める」と言い出して床の上をほうきではきはじめたり…。なにもない床をただ黙ってじーっと見つめ始めたりしたかと思えば、床を見て時折不気味な笑みを浮かべてみたり…。さらには、突然に奇声を上げながら床の上にひざまずいて両手を大きく広げ、フロアの上で何かを集め始めるようなそぶりを始めたりした、と…。

―――

それはお二人とも、ですか?

―――

例の男と同じような感じで床の物を集め始めたのはAさんだけだったようです。B君はどちらかというと、その場で固まったり床をただじーっと見つめてたりしたそうですが、私も詳しくは分かりません…。

―――

非常に興味深い話ですね…。確かに直接的な繋がりは分かりませんが、『何かを集める男』を聞いた身としてはどうしても関連付けせざるをえません。

―――

以上がお話しできるすべてです。私の経験が少しでも管理人様のお役に立てば光栄です。

―――

最後に一点だけ。はい、いいえ、答えたくないの3つからお答えいただきたのですが、あなたの名字はXX【※注釈1】ですか?

―――

はい、そうです。







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【※注釈1】

メッセージ上では伏字なしで表記。ここでは編集部の意向により、伏字で表記する。

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